Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
イゼルローン回廊での遭遇戦は、開始後、9時間が経過していた。ユリアンが四度目の出撃をしたとき、母艦のアムルタートが二つに折れて爆発四散した。ユリアンがすんでのところで眼前のワルキューレを撃墜したとき、エネルギーが底をつこうとしていた。ユリアンは、息をつめてモニターをにらみ、神経質な笑い声をあげる。そのときだった。
「援軍だ。援軍が来たぞ。」
各艦の通信士官が叫び、それはスパルタ二アンにも流される。漆黒の宇宙空間に、イゼルローン要塞のある方角に光点がちらほら現れ、それはやがて無数に増えていく。
一方帝国軍のオペレーターは蒼白になる。悲鳴交じりの報告が各艦の指揮官たちに伝えられる。
「一万五千隻以上だと!?それでは勝負にならん。」
「退却だ。」
アイヘンドルフの命令が帝国艦隊に伝えられ、半ば逃げるように退却を始めた。
「敵は戦意を喪失して逃走にうつっております。追撃しますか。」
ヘイゼルの瞳と金褐色の髪を持つ副官の新たな指示を求める問いに黒髪の司令官は応える。
「放っておいていいさ。逃がしてやろう。」
「では、乗艦を破壊された味方を収容し、修復を早急に済ませ次第全艦隊帰投ということでよろしいでしょうか?閣下?」
「けっこう。ああ、それと今後のためだ。監視衛星と電波中継衛星をいくつか打ち上げておいてほしい。」
「はい。すぐに手配いたします。」
きびきびと司令官の指示を実行するフレデリカに、メルカッツがおだやかな賞賛の視線を向ける。これほど有能な副官は、彼の長い軍歴でもそう記憶には多くなかった。
第14艦隊旗艦ロフィフォルメの艦橋である。
「全艦隊帰投だって。みぽりん。」
「うん。」
沙織に返事をすると
「エリコさん。」
「監視衛星と電波中継衛星をいくつか打ち上げる?」
「そうだね。そうしてね。それからもう敵はいないのでできるだけたくさんの皆さんが収容できるように捜索してください。」
「みぽりん、ユリアンさんが生還したって。」
「敵単座式戦闘艇ワルキューレ3機撃墜、巡航艦1隻を完全破壊だそうであります。」
沙織と優花里が嬉しそうに言う。
「よかった...。」
みほは安堵の胸をなでおろした。
アイヘンドルフの上官であるケンプはこの紛争についてラインハルトに報告し、陳謝したが、
「ケンプ大将、この紛争の戦略的意味はどう思う?」
「わたしから申し上げるものもなんですが、局地的なもので戦略的意味は薄いかと。」
「そのとおりだ。まずは正確で客観的な事実を報告すればよい。百戦して百勝というわけにもいくまい。報告に際してあらかじめ意見や陳謝が必要なのは戦略的意味が重要になりそうな場合のみだ。今回は不問にする。さがってよろしい。」
「はつ。」
ケンプをさがらせた後、金髪の若者はほおづえをつき、苦笑して、
「ふん。ヤン・ウェンリーめ。」
とつぶやいた。
ラインハルトが元帥府で昼食をとっているときだった。
「閣下。」
「なんだ。」
「科学技術総監シャフト技術大将がお話があるとのことですが...。」
金髪の若者は不機嫌そうな表情になる。
(えせ技術屋め。何の用だ。)
「同盟、イゼルローンの攻略についての提案をしたいとのことです。」
「わかった。あってやる。ただし15分だけだ。」
シャフトが説明を始める。
「つまり、イゼルローンの前面に攻略拠点となるわが軍の要塞を構築するということか?」
「さようです。閣下。」
ビアホールの亭主の様な顔の科学技術総監はうなずくが、金髪の若者の顔には、損したという失望の色がうかぶ。
「構想としては悪くないが、成功させるには重大な条件をクリアしないといけないな。わかるか。シャフト総監?」
「それは?」
「知れたことだ。同盟のやつらがそれをだまって見物して、決して妨害しないということだ。即答できないようなら充分に見直しをして後日いずれあらためて提案を聞くことにしよう。申し訳ないが次があるので、しつれ「閣下、お待ちください。」...」
「その条件は不要です。私の提案はすでに構築された要塞をイゼルローン回廊へ移動させるというものです。」
金髪の若者の蒼氷色の瞳に、興味の色が浮かぶ。浮かしかけた腰をふたたびソファにもどした。
「詳しく聞かせてもらおうか。」
シャフトの話を聞いた後、ラインハルトは、白髪で義眼の参謀長を呼ぶ。
「どう思う。オーベルシュタイン。」
「やって損はないでしょう。」
「人選は?」
「もう閣下はお決めになられているでしょう。」
「うむ。一応考えてはいるがな。」
「リップシュタットと先日の紛争の名誉回復を願っているケンプ大将、大将のなかでは席次も年齢も下のミュラー大将というところだと小官は考えます。」
「そんなところだろう。わたしもケンプに機会を与えたいと考えていた。先だっての敗戦とリップシュタット戦役での武勲を挙げる機会が少なかったからなんとかしたいと願っているだろうからな。」