Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第89話 軟禁状態です。

さてフェザーンの自治領主府である。禿頭の自治領主に若き補佐官がいくつかの報告を行っていた。

「帝国は、ガイエスブルグ要塞のワープ実験に成功し、ガイエスブルグはヴァルハラ星系外縁部に移動し、イゼルローン方面への出撃準備をととのえつつあります。それから自由惑星同盟ですが、同盟政府がイゼルローン要塞司令官ヤン・ウェンリー提督および副司令官西住みほ提督を一時ハイネセンに召還し、査問会にかけることに決定したそうです。」

「ふん。査問会か。軍法会議ではないのだな。」

「軍法会議なら、開くのに正式な告発を必要とします。被告には弁護人をつけねばなりませんし、公式記録も残さねばなりません。しかし、査問会とやらは法的根拠を有さない恣意的なものです。記録も弁護人もいりませんから、不都合であれば黙殺可能なしろものです。疑惑と憶測に基づいて精神的私刑を加えるには正式な軍法会議よりはるかに有効でしょう。」

「現在の同盟の政治屋どもにふさわしいやり方だな。口先では民主主義を唱えながら、事実上法律や規則を無視し、空洞化させていく。姑息で、しかも危険なやり方だ。権力者自らが法を尊重しないのだから社会全体の規範が緩む。末期症状だ。」

「としても彼らの解決すべき問題です。われわれが心配してやる必要はないでしょう。力量なくして遺産を受け継いだ者は、相応の試練を受けるべきです。耐えられなければ滅びるまでのこと。なにもゴールデンバウム王朝やそこに巣食っていた貴族どもに限りますまい。」

 

「大尉、キャゼルヌ少将を呼んでくれ。」

「はい。」

「首都からの召還命令だって?」

「はい。先輩、こういったことで...。」

キャゼルヌは眉をしかめた。

「しかもミス・ニシズミまでもか。」

「もう、何を考えているのか...。」

「軍閥化を単純に恐れているから脅しておこうという腹だろう。まさか行くなとはいえんが、やつらは火薬のそばで火遊びしていることに気付けないらしいな。あきれた話だ。」

「まあ、それはそれとして万事慎重にやってくれ。とにかくやつらに口実を与えないようにすることだ。」

「ええ、わかっていますよ。今回は戦艦ヒューベリオンではなく、巡航艦単艦で行きますから。」

「おお、気を使っているな。」

キャゼルヌは苦笑する。

「そうでしょう。また留守を頼みます。」

要塞防御指揮官シェーンコップ少将も、首都にやるとろくなことがないことを悟って渋い顔だ。

「警護隊をお連れになりますか。わたしが指揮をとりますが...。」

「大げさにする必要はないだろう。敵地にのりこむわけじゃない。誰かひとり信用できる人間を推薦してくれ。」

「知勇兼備のわたしでいかがです?」

「防御指揮官まで前線をはなれたらあとが困るだろう。今回は西住中将まで召還されている。実戦部隊の指揮官がいないことになる。キャゼルヌを補佐してくれ。今度はユリアンも連れて行かない。最低限の人数で行くことにする。」

シェーンコップが選んだ警護兵はルイ・マシュンゴ准尉といった。チョコレート色の皮膚、幅と厚みのある巨大な体躯、全体として心優しい雄牛という印象があるが、ひとたび怒れば、膨大な筋肉が圧倒的な力を生み出すだろう。

「首都のやわな連中なら片手で一個小隊は片づけるでしょう。」

「君より強いか?」

「わたしなら一個中隊ですな。」

「ところでグリーンヒル大尉はつれておいでになるのですか?」

「副官をつれていかなくてどうするんだ?」

「ごもっともですが、大尉をつれていってユリアンを残すならぼうやが妬くでしょうな。」

自宅に戻るとヤンは亜麻色の髪の少年から質問を受けた。

「ヤン提督、召還命令があったんですか。」

「ああ。申し訳ないが随行員は最低限だ。グリーンヒル大尉とマシュンゴ准尉しかつれていかない。」

「そうですか...。」

少年はキャゼルヌ家での毒見役の話も合った矢先、残念であった。

「二か月ばかり家事から解放されるんだ。悪いことばかりじゃないさ。」

「...。じゃあせめて荷造りを手伝います。」

「ありがとう...。ユリアン、ところで身長どのくらいになった?」

「え?173センチですけど...。」

「ふうん...来年までには抜かれるな...はじめて会ったときにはわたしの肩ほどもなかったのにな...。」

たったそれだけの会話であったが、少年は、温かい空気を感じていた。

三週間後、巡航艦レダⅡ号は、ハイネセンの軍用宇宙港にひっそりと着陸した。

レダⅡ号から降りて、国防委員長からの出迎え役が来ていた。ヤン用とみほ用の地上車二台があり、フレデリカ、マシュンゴ、沙織が乗りこもうとすると銃をもった兵士たちに制止された。

「ここからは、ヤン閣下、西住閣下おひとりづつで行っていただきます。」

ヤンの地上車は、二十分ほど走って、軍施設のものと思われる建物の前で止まり、一人の壮年の士官が出迎えた。

「ベイ少将です。最高評議会議長トリューニヒト閣下の警護室長を務めております。今回ヤン提督の身辺警護をおおせつかりました。微力ながら誠心誠意努めさせていただきます。」

「ご苦労様。」

(警護という名の監視か...)

ヤンはしらじらしく応じざるを得ない。ベイは、宿舎での世話係という人物を紹介する。巨漢の下士官だった。

ヤンは案内された宿舎の窓から外を見た。狭い中庭の反対側に窓の少ない無機質な印象の青灰色の建物が見えるだけであった。中庭には、肩に荷電粒子ライフルをかけた一個分隊ほどの兵士がいた。窓ガラスを指で軽くたたいたが、なにやら透明な分厚い石をたたいているような感覚だった。断面をみると6cmほどありそうだ。特殊硬質ガラスであり、壮年期の灰色熊が体当たりしてようやくひびが入るかもしれないという代物だった。外界との接触が困難であり、威圧と逃亡阻止を目的とした施設である。ソファー、ベッド、デスクはよいものであろうと推測はできたが、温かみのない無機質な印象だ。さしずめ高級士官用の座敷牢といったところだった。

「軟禁だな。これは..。」

さて...どうしたものか...ヤンはベッドに腰をおろして考え込んだ。

ベッドのクッションは、適度のものなのは、せめてもの救いだったもののヤンの気分は晴れようがなかった。


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