Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

97 / 181
第96話 わたし、ビュコックさんのよう(なおばあちゃん)になりたいです。

「別に困ってはおらんよ。いまいましいだけだ。屋根裏にはいまわるネズミがごぞごぞうるさくてな。」

「さっきも言ったがこの部屋にもおそらく盗聴器がしかけられている。それを知っていてこんな話をするのは、いまさら旗色をごまかすこともできんし、犯罪の相談をしているわけではないから検挙するわけにもいかないからさ。逆にこちらが盗聴器の録音記録を証拠にできる。」

ビュコックは録音用マイクロチップを見せた。盗聴器の記録まで改ざんされた場合の備えだった。

「あきれたものさ。民主主義が回復したと喧伝しているが、救国会議が制定した市民に固有番号をつけて、ネットの書き込み、購入履歴、その行動まで監視する法は便利になるからと吹聴して名前だけ変えて再度制定、盗聴まで法律上の証拠にするための法はだんまりでそのままじゃからな。大尉は、検察官が実績をあげるために反トリューニヒト派のある官僚を陥れるために電子記録を改ざんした事件を知ってるかね。」

「はい。」

「それが明らかになってその検事がつかまった。それがいい方向に転化されて盗聴器の記録まで改ざんされないことを期待したいと思っているのじゃが。政府に同盟憲章を尊重する気が多少でもあればだがね。」

「政府は、帝国との違いを喧伝するためにも民主主義の建前を公然とふみじるのに躊躇するでしょう。いざというとき武器に使えると思います。」

「聡明をもってなる大尉にそういってもらえるとうれしいな。ところでヤン提督と西住中将の件は事情が分かった以上できるだけのことをする。大尉とミス・タケベに協力させてもらおう。」

「でも...ご迷惑ではないのですか?」

老提督はほがらかに笑う。

「訪ねてきておいて、今更そんなことはきにせんでもいい。わしもあの若い者とあの娘は好きだしな。ああ、このことを本人たちに言ってはいかんよ。あの若い者とあの娘はわからんが、たいてい若い者はいい気になる傾向があるからな。」

「本当に感謝いたします。お人柄に甘えて申し上げますとわたしくしもビュコック閣下が好きですわ。」

「わたしもです。」

「おお、おお、ぜひ家内に聞かせてやりたいな。ところで...。」

老提督は表情を引き締めると

「ここに来るまでに尾行してくる者がいなかったかね。」

フレデリカと沙織は瞳に衝撃の色を走らせた。フレデリカは、マシュンゴをみやり、巨漢の黒人は豊かなバスで答える。

「確証はないのですが、怪しげな地上車が一台ならず見ました。尾行であれば途中で交代したのだと思います。」

「ふん、やはりそうか。ベイのネズミ野郎がやりそうなことだ。」

老提督は舌打ちすると、わざと大声をたてた。

「大尉。これがかっては民主主義の総本山であった同盟の現状じゃ。救国会議退陣後瞬く間に雲が再び厚くなって、加速度的に悪化している。もしかして雨やひょうが降り始めていると言っていいかもしれない。これを回復させるのは容易なことじゃないぞ。」

「はい、承知しております。」

「よろしい。わしらは仲間というわけじゃ。世代は違ってもな。」

 

フレデリカと沙織にとって、ビュコックを頼った選択は、大正解と言えた。ビュコックの協力の意思もその地位と声望もさることながら、市民や兵士たちは、多数を占めるトリューニヒト派の士官、将校たちが無能で、出世ばかり考えている連中であることをうすうす感づくか、熟知していたから、ビュコックに何かあれば、普段はだまっていても、疑念を抱くに違いなく、そうなると士気に重大な影響をおよぼす。それを軍部の「圧倒的多数派」も感じ取っており、直属の警備兵に守らせている宇宙艦隊司令長官の家に無法の手を伸ばすには、相当の準備と名目が必要であり、そういったコストを払うことまではさけたのである。フレデリカと沙織は、ビュコックの家に滞在することにした。それまでの官舎は、盗聴や監視のみならず、政権にとって都合の悪いことを隠すために殺されるまではなくても、病院送りにされる可能性すらあったからだった。

ビュコック夫人も二人を温かく迎えてくれた。

「いつまでもいてくださいな。あ、そうもいかないわね。早くヤンさんとミス・ニシズミを助けて帰らないとね。まあ、気兼ねなくくつろいでちょうだい。」

「「ご迷惑をおかけして沁みません。」」

「気にしなくていいんですよ。ミス・グリーンヒルに、ミス・タケベ。若い人が来てくれると家の中が明るくなるし、うちの人もね、元気になるのよ。政府を相手にケンカできると喜んでいるんだから、こちらがお礼をいいたいくらい。」

ビュコック夫人の温かい穏やかな笑顔は、フレデリカを羨望させ、沙織の心に温かくひびいた。

「あの、わたし...。」

「どうしたの?ミス・タケベ?」

「沙織って呼んでください。」

「沙織...。どうしたの。」

「わたし、ビュコックさんのようなおばあちゃんに、いえ、ビュコックさんのようになりたいです。」

「あなたもすてきな人をみつけたらそうなれるわ。」

「はい。」

フレデリカと沙織は、ビュコック家をベースに活動していた時にひとつの事件が起こった。

ふたりがたまたま、立体テレビをみていたときだった。

「次のニュースです。テルヌーゼンでエドワーズ委員会なる団体がデモ行進を行いましたが、興奮のあまり、会員同士の騒動で死者150人、重軽傷450人に及び、騒乱罪で首謀者100名を逮捕しました。」

「あのような団体は、特殊なイデオロギーにかぶれた工作員が裏で糸をひいて扇動しているのです。」

「愛国心に欠けた人たちにも困ったものですねえ。」

「このように警官隊に暴力をふるっているのですよ。」

全く関係のない暴動風景の動画を流す。

「そうですね。権利と義務をはき違えて、戦争に行きたくないなどと自分勝手なことを主張するから、少しの不満でいさかいが起こるのです。国家への忠誠がなりよりも必要です。それこそ敵である帝国軍をしりぞける唯一の手段なのですから。」

「軍内部でも、現政権に不満を持つ輩が多いようですが。」

「宇宙艦隊司令長官は、それをどうお考えなんでしょうかね。」

「ひどい、なにこれ。」

沙織は怒りのあまり叫んでしまった。

「うむ。政府の常套手段じゃな。これを見てくれ。」

ビュコックは、フレデリカと沙織にネットの画面を見せる。

「エドワーズ委員会のブログですね。」

「政界、財界、官界の重要人物のリスト、そしてこれらの人物の徴兵適齢期の子息24万6千人のリストじゃ。」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。