家族的アパート『セラフ』へようこそ。   作:コンソメパンチップス

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ども。コンソメです。
すいません遅れました。
ほんとは25日にやりたかったんですけど生憎都合が…
なんでかはわかりますよね?
優一郎と入力するのは面倒なんで「優」とさせていただきます。
それではかぞアパセラフ、スタートです。


○二人目-家族構築-

これは、とあるお話。

新しい家族ができるまでの、賑やかで波乱の物語。

 

 

 

 

 

『住人と家族のように過ごすこと』

それがアパート『セラフ』にすむための原則。

一見交流が深まって夢のような生活に思える人ぱかりだが、やはりその中に例外はいる。

優はその希少な例外の一人だった。

シノアの説明が終了した後も優の不満と怒りは収まらない。

「なんでこんな目に…」

自室の椅子にぐったりと座りながら、優は一人呟いた。

そもそも、アパートをミカに任せたのが軽率だった。

優は初歩的なところから過ちに気づいていなかったのだ。

自分ではアパートのことなんてわからない、と知識豊富なミカエラに任せた過ちに。

知力が人一倍あるからこそ、感情が表に出ればずる賢い手が思いつく。

もともとミカエラがそういう性格であるのは優でも十分わかっていた。

かと言って、今更ミカエラを攻める気にもなれない。

ここまでしっかり物事を進めてくれたのは事実だし、お金まで援助して貰えたのだ。

結局自分に甘えてこういう結末になってしまったのだから、仕方ないと言えば仕方ない。

 

 

 

 

とはわかっていながらも、優はなかなか気持ちがすっきりしなかった。

まず何より住人で鍋でも囲うようなアパートなんて優は生まれてから一度も聞いたことはない。

そうシノアに言っても、返された言葉は

「ここは『家族的』アパートなんですよ。今更どうこう言われたって、私は大家さんじゃないですし」

と、結局つばめ返し。

ここに住むためには、やはり共同生活が条件なのだとか。

他人と飯を食い合う関係なんて優にとってはとんでもなかった。

 

 

 

 

 

 

もう解消もできない。

これ以上引っ越しをしていたら身も費用も持たない。

生きるためには多少我慢も必要だ。

優はそう自身に言い聞かせて、もやもやした感情を無理矢理圧し殺した。

飯食ってすぐ帰るだけ。

急いで食べれば30分もたたない。

 

 

 

 

まだ取り出されていない持ち物。

優は今は考えないでおこう、と暗示して片づけに取りかかった。

 

 

 

 

すると。

ピンポーン。

部屋にチャイムの音がした。

 

引っ越し業者か?

 

優は急いで玄関に向かう。

シノア、優曰く『浮かれチビ』が部屋に勝手に入ってこないよう、二つの鍵だけでなくチェーンまで丹念にかけていた。

急いでチェーンをはずし、ロックを解除しドアをあけた。

そこにいたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その『浮かれチビ』だった。

 

 

 

 

「…今度は何」

優は怒りを我慢して一応用件を聞く。

「何って、せっかくだから片づけ手伝いに来たんですよ」

別名浮かれチビはニヤニヤしながら優に応答する。

そのニヤニヤに嫌気と不安を察してか、優は無言で勢いよくドアを閉めた。

 

ガァン!

 

「!?」

「させませんよ~」

シノアはドアの内側のチェーンを外側に取り出し、ドアと縁とで挟ませた。

当然ドアの動きは封じられる。

「遠慮しないでくださいよー」

「くっそ…!」

ドアを無理矢理開けようとするシノアを妨げるように、優はドアを必死に掴む。

「開けてください!」

「開けるかボケ!」

優とシノアは延々とこの攻防を続ける。

お互い力を込めすぎて、体がプルプル震えている。

「放せよ!」

「今更譲りません!」

ググググ…とドアがきしみ出す。

頭の回転の遅い優でも、このチェーンを内側に戻さない限りこのドアが閉まらないことくらいわかっていた。

これ以上はドアもやばいな、などと優が考えていると。

「えい」

「!?」

ドスッと優のわき腹のあたりで物の感触が伝わった。優はその違和感の感じた方向をよく見てみる。

枝だ。近くに落ちていたのだろうか。対して尖っていない少し長い木の枝である。

するとシノアはその枝を円を描くように動かし始めた。

「あ…あっははははははっ!!」

変にくすぐったいその感覚に、優は我慢できず笑い出す。

「ははははっ!…やっ!…やめっ!はははははっ!!」

「ほらほら、わき腹弱いんですか?」

シノアはニヤニヤしながら枝で優をつつく。

先ほどまでは明らかに力の強い優がなんとか抑えていたが、これにはたまらず力を緩める。

ガチャッとドアが開いた。

「ふふふ…私の作戦勝ちですね」

シノアは勝ち誇ったように高笑いする。

「く…くっそ…このチビが…」

優は息を荒げながら悪態をつく。

「チビなんて言っちゃっていいんですか?もっとやりますよ?」

シノアはニヤーっと笑みを浮かべながら手を構える。

「や…やめろ!」

優は慌てて少し後ろに下がった。

「ふふふ…冗談ですよ」

さっとシノアが手を下ろし、優はほっとため息をつく。

「さっ片づけしましょう」

シノアは靴を脱いで部屋にさっさとあがっていく。

こいつはなんともできない。

優はしぶしぶついていった。

「えー全然やってないじゃないじゃないですか」

部屋に入ったシノアは全然物が取り出されていないバックを見て呆れたように言い放つ。

「うっせーよ。お前が勝手に入ってくるからだろうが」

優はここでキレたら負けだ、と気持ちを抑えようとはするものの、完全には抑制できていなかった。

「あ、もしかして」

シノアは何かを察したようにバッグに近づく。

やれやれ、と優は頭を掻いた。

どうやら注意するのは諦めたようだ。

「ふふふ…もしかしたら…あんな本やこんな本が…」

ガサゴソとバッグ内を漁る。

「んなもん入ってねぇよ」

優が怒りを必死に抑えながら応える。

「むぅー…どうやらホントですね。悔しい」

シノアが悔しそうに眉間に皺を寄せる。

「あのさ、いい加減出てってくんない?」

優が早くいなくなれとばかりに強い口調で話す。

「えー、でも片づけしないとですし」

シノアが露骨な嘘をつく。

優はそのことに怒りを覚えてか、優はシノアの首の後ろの服のえりを掴んで持ち上げた。

「わっ!」

「うざいんだよ。早く消えろ」

優はそのまま運び、玄関から外へシノアを投げ捨てる。

「あうっ」

「二度と入ってくんなよ」

シノアの靴も放り投げ、ドアを強く閉めた。

「もー…ケチですね…」

シノアは仕方なさそうに自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片づけもほとんど終わり、優はカレンダーを貼りながらふとあることに気づく。

「今日、クリスマスかよ…」

どうりで道中の駅がうるさいと感じたわけだ。

優ははぁ、と息を漏らして12/25の日にちを見る。

 

あいつらがいたら今ごろパーティの準備でもしてたのかな。

 

なんて考えながら。

優は貼り終えたカレンダーを見てしみじみと記憶を振り返っていた。

すると。

コンコン、と屋内の通路に続く扉からノックする音が聞こえた。

優はまたあいつか!?などと警戒するが、妙なことに、入ってくる気配がない。

「…なんだよ」

優は仕方なく返事をする。

「あ…いるんだ!」

明るい声がした。声質や口調からして、明らかにシノアではなかった。

優は安心と不安を募らせながらもう一度返事した。

「用があるなら早く言えよ」

明るい声はそれに反応する。

「あ、えと、もう昼食の時間だから、君を呼んでこいってシノアさんが…」

優はふと時計を見た。

12:00。いつの間に。

片づけに没頭していたとは言え、あまりに死刑宣告は早かった。

 

「…」

優は無言でドアを開き、通路に出た。

そこには、少し弱気そうな男が立っていた。

「君が…百夜優一郎くん?」

少年は優の近づくなオーラに重圧を受けて、弱々しく名前を確認する。

「…そうだよ。お前は」

感情の隠っていない口調で優は少年に質問した。

「僕?僕は早乙女与一。君の部屋から二つ目のところに部屋があるよ」

自らの部屋まで詳しく説明する。

「君は…」

与一が何かを言いかける。

「いや、なんでもないや」

不自然なタイミングで話を区切った。

しかし、優にはそんなことなどどうでもよかった。

とにかく早く食べ終わり、すぐにでもリビングを退出する。

その一心だけを胸に優は気張っていた。

何も言わないまま例の部屋に到着。

慎重にかつ自然な形で部屋のドアを開ける。

中には、合わせて三人の男女がいた。

一人の少女が優に寄ってくる。

「お前が百夜優一郎か…私は三宮三葉。このアバートの一号室に住んでる。宜しく」

少女、三葉は優に簡潔に自己紹介した。

優は少し戸惑いながらも、「はいはい」

と受け流した。

すると、一人の少年が近づいてくる。

「ずいぶんと冷めた野郎だな…友達がいないぼっちだったろ、お前」

悪態をつきながら優に話しかけた。

しかし優はやはり交流する気分にはとてもなれず、

「そうだねー」

と優自身も適当に返した。

「君月さん本日の昼食は何ですか?」

優の天敵、シノアが眼鏡の少年にメニューを聞いた。

「あ?ただのスパゲッティ」

少年、君月が荒々しく返事する。

「えーまたですか?もういい加減飽きました」

「文句言うなら自分で作れよ」

「僕が今度作ってみるよ」

シノアたちが楽天的に会話する中、優はイライラしながら話の終わりを待っていた。

決して話に入りたかったわけではない。

 

早く食わせろよ。

 

ただ早く食べてすぐさま逃げることしか考えていなかった。

君月がお皿を配り始める。

 

優の目の前にもスパゲッティが置かれた。

キュピーン、と優の眼が光る。

近くのフォークを取り出し、逆さまに持ち変える。

急角度の皿に穴が空きそうなものすごい速度と威力で麺に刺した。

さらに、まるでドリルのような回転で麺とフォークを絡み合わせる。

全ての麺をゲットし、一気に口に運んだ。

口内に含んだ食材を食べ、よく噛みながら飲み込む。

ガシャンとその場に皿を置き、即座にリビングを退室した。

 

その秒数。

わずか0.3秒。

何も言わずいなくなった優に、残りの四人は呆然としていた。

ありえない速度の食事。

もはやギネスも夢じゃない。

「早っ」

君月がポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

優はミカエラに向かって愚痴をこぼしていた。

【ホントふざけんなよ…何が家族だってんだ】

 

〈優ちゃん…別にそのくらい許してあげてもいいじゃないか〉

 

ミカエラが宥めるように優にメッセージを送る。

 

【第一家族も失ったこともない奴に家族だ何だ言ってほしくねえよ…こっちは勉強すら集中できねえよ】

 

〈…優ちゃん、そんなこと言って勉強から逃れようとしてないよね〉

 

優の脳内に無意識に今のミカエラの顔が浮かんできた。

 

【んなことしねーよ。俺なりに集中するときはするよ】

 

〈ホントだね?〉

 

【ホントだって】

 

優が呆れたようにため息をつく。

 

〈茜ちゃんたちの分も、しっかり勉強して、幸せにいきるって約束したんだから、守ってよ?〉

 

ミカエラは今頃真面目な顔をしているのだろう。

文体からも手に取るようにわかる。

 

【…わかってるよ】

 

優はいかにも念頭にすでに入れているような態度を取る。

 

 

 

 

 

あんな出来事、いくら俺でも忘れない。

 

 

 

 

 

 

優は心の中で静かに呟き、携帯を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

そう、それはあの日。

一生忘れることの無いだろう、悲劇の一日。

 

 

 

 

優の幸せがまた消え去った、遠いいつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優兄、おままごとしようよ」

一人の少女が優に向かってそう提案した。

「はぁ!?この年でおままごとかよ!?」

優はイヤだイヤだと首を振る。

「えー…」

少女が落胆した。

それを見た優は少し後ろめたくなる。

「違うよ、優ちゃんホントはやりたいんだよ」

ミカエラが少しからかい気味に少女に話しかけた。

「はぁ!?」

「うわぁツンデレだ」

茜もクスクスと笑いながら優をいじる。

「つんでれだー!」

「つんでれ!」

「つんつんでれーん!」

子供たちが一斉に笑い出す。

「お、お前等なあ…」

優が顔を赤くする。

幸せな時間。

 

いつまでもこんな生活をできたら…なんて幸福なのだろう。

優がそんなことを思っていた瞬間だった。

 

ガチャリ。とドアの開く音が聞こえた。

「先生お帰り!」

一人の少年がその方向に向かっていった。他の者は無言だったが、突然妙なことに気づく。

戻ってこない。

声すらも出さない。

ミカエラと優が心配になり走っていった時。

ヌッと包丁を持ったフードを被っている男が出てきた。

ナイフからは…

大量の血液が。

優は驚き一歩退く。

ミカエラも釣られて下がった。

それと同時に。

「ああぁあぁぁぁああぁ!!」

男がナイフを振り回しながら走ってきた。

優とミカエラは危険を察し、遊び場に逃げる。

当然男も追ってきた。

中にいた子供たちが一斉に悲鳴をあげる。

「きゃああ!」

「わああぁ!」

それぞれが違う方向に逃げまどい、必死に走る。

「うあぁぁあぁ!」

男の振り回すナイフが一人の子供を叩ききった。

ずさっ、とその子はその場に倒れる。

「逃げろ!」

優が他の子供たちに逃げるよう指示した。

しかし。

「うわぁ!」

「きゃああ!」

男は強引に振り回し、子供たちに致命傷を負わせていく。

「みんな!」

ミカエラが叫んだ。

残されたのは優とミカエラと茜と一人の少女だけ。

男が茜たちに近づいていく。

「お願いします…見逃してください…」

茜が必死に少女をかばいながら説得しようとする。

「や、やだ…殺さないで…」

目は泣き目で、声は震えていた。

しかし男に容赦はない。

包丁を逆持ちにして振りかぶった。

優は危険を察し、助けにいこうと血相を変え、走り出した。

だが。

 

「ダメだ優ちゃん!」

ミカエラが止めた。

「はぁ!?」

優がミカエラに視線を向けた。

「僕らが助けにいけば、僕らの命も危ない!」

ガシッと優の腕をつかんで離さない。

「あいつらを見捨てろっていうのかよ!?」

優が無理矢理腕を取り解こうとする。

「お前は家族を見殺しにするような奴なのかよ!?」

「そうじゃない!」

優は怒りで顔が強ばった。

「もういい!死にたくないなら逃げてろよ!そんなに自分がかわ…」

「違う!!!」

ミカエラが珍しく声を張り上げた。

「今の…今の僕たちに何ができるんだよ!?」

「…!」

優は目を見開く。

ミカエラは、泣いていた。

「今の僕たちには…勝てるわけがない…」

ミカエラからは一回も聞いたことのない弱音を、優は初めて聞いた。

「そ、そんなのわか…」

「わかるよ!!!」

再びミカエラが大声を出す。

「僕らは…非力なんだ…」

優はハッと茜の方を見た。

茜もこちらを向き、震えた声で話し出した。

「ふ…二人とも…い、今のうちに逃げて…」

体はガクガクと震え、まともに立つことすらできていなかった。

「何言ってんだ!!お前も逃げるんだよ!!」

優はこの上無いくらいの声を出した。

「お願い…逃げて…」

それでも茜は逃げるように言い聞かせる。

「…逃げよう、優ちゃん」

ミカエラが静かに言った。

「お前!いい加減に…」

「僕だって!!」

ミカエラの目は赤くなり、涙がダラダラと流れていた。

「僕だって逃げたくないよ!!…でもっ…僕らが行ったところで…何も変わらないんだ!!」

ミカエラは弱音を叫ぶ。

「僕らが助けに行っても…みんなの命も、僕ら自身も、無駄に終わってしまうだけなんだよ!!」

ミカエラの言っていることは間違っていない。

しかしそれでも優は納得が出来なかった。

「で、でも!」

「早く逃げてよ!バカ!」

茜が渾身の声で叫ぶ。

優は驚いて喋らなくなった。

「私たちの分も…生きてよ」

優は茜が言った言葉に、何も返せなかった。

否、何も言葉が見つからなかった。

「今まで…ありがとう」

茜がニコッと笑った。

優の目に、無意識に涙が伝る。

その瞬間。

ドスッ、と茜にナイフが刺さる。

それと同時に、ミカエラが力の抜けた優を引っ張った。

優は、何も抵抗せず、茜の方向を向きながらミカエラに引かれていく。

 

 

 

 

 

 

 

それが百夜孤児院の、終焉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【…そろそろ勉強する。またあとでな】

 

〈うん。バイバイ〉

 

ミカエラに別れを告げた優は、勉強道具を取り出した。

中学校の参考書。

優は高校生でありながら、未だに中学の単元を攻略できていない。

「えっと…昨日は因数分解までやったな」

しかし、それでも優なりにはがんばっていた。

茜たちの分、みんなの分、と自分に言い聞かせて、学習に熱を入れる。

そんな中、ふと優は筆箱をみて何かを思い出した。

「そうだ、文房具買ってこなきゃ」

筆箱には壊れたシャーペンや小さい消しゴム、芯の少ないシャー芯ケースなどが入ってある。

優は鍵と財布を持ち、道中無駄の無いように参考書を持って、玄関を出た。

優はコートを着ているが、冷たい風があたり、少し肌寒く感じる。

階段を降り、参考書を開いたその時。

「買い物ですか?」

階段の近くに、シノアがいた。

優はまたもやもやと怒りがこみ上げてくる。

「今度は何だよ」

「いいじゃないですかー買い物につきあうくらい」

シノアはとても調子がよい様子だが、優はストレスがたまり怒りを抑えるのがギリギリだった。

「おや、参考書ですか。いいですねー勉強熱心ですね…て、あれ?」

シノアは気づいた。

参考書の内容が中学単元であることに。

「あはぁ、もしかして、高校生にもなってこんな簡単な中学生の問題も解けないんですか?」

その言葉に、優の怒りはさらにこみ上げた。

「しょうがないですね。この天才シノアちゃんが特別に教えてあげましょう」

妙に上から目線の言葉に、ついに優の怒りは爆発した。

「いい加減にしろよ!!」

「!」

突然怒った優に、シノアは不意に驚いた。

「人が黙ってたら勝手なこと言いやがって!!それも人の気も知らずに!!」

「あ…え…」

シノアは唐突な優の態度に戸惑う。

「…お前みたいに簡単に勉強の内容が理解できる奴もいれば、俺みたいにいくらがんばってもなかなか理解できない奴もいるんだよ!」

優はもう怒りを制御できなかった。

「人の努力も侮辱して…何が楽しいんだよ!…大体なんなんだよ!家族家族って!家族を失ったこともない奴が気安く家族を語るな!」

ハァ…ハァ…と優の息は怒りで荒れていた。

そして優はそのまま売店まで歩きだす。

 

 

 

シノアは、追ってくる様子がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだよ畜生…」

優はショッピングモールに着いても怒りが収まらなかった。

イライラしながら必要な文房具をそろえていく。

ついでに、と新しい参考書も手にしてレジに向かう。

未だに怒りも抑えられず。

ただ、優は怒りの裏に別の感情もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

きつく言い過ぎたかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

女子に対しての態度としてはやりすぎたか、と内心不安もあった。

 

 

 

 

 

 

 

もし俺のせいで自殺とかしたら…

 

 

 

 

いやいや。悪いのはあいつだ。

俺は当然のことをしたまで。

人を侮辱する奴を叱って何が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

優はそう自分に言い聞かせて不安をかき消そうとする。

 

しかしそれでも完全に消えることはなかった。

「あー…なんかモヤモヤすんなあ…」

そんなことを呟きながらレジに着くと。

 

「お」

「!」

グレンがレジに並んでいた。

「よう。まさか一日のうちに二回も会うとはな」

「なんでいんだよ…」

優は勘弁してくれと言うようにため息をつく。

「いや、単にクリスマスだしお前等に予定記入用ホワイトボード買ってやろうと思ってたとこだ」

余計なお世話だ、何がクリスマスだよ、と優は文句を心の中で言い放った。

「それと、これをシノアにな」

グレンはそう言って一つのマフラーを優に見せる。

「さっき洋服店で買ってな。結構いいヤツなんだ」

「どうでもいいんだよそんなの…」

何で喧嘩した奴の話なんてしてくんだ、と優はイライラしながら話を聞く。

「いや、あいつ家族いないからよ、俺と他の住居人とでこうやって色々プレゼントし合うんだよ」

優はピクッと耳を動かした。

「家族が…いない?」

グレンがそれを聞いて何かに気づいたような顔をする。

「あ、もしかしてお前知らない?」

「はあ?何をだよ」

優が聞き返した。

「あそこの住居人、みんな家族を失ってるってこと」

「!」

優が目を見開いた。

「みんなそれぞれ家族を失っててな。全員少なくとも両親は失ってる」

「え…」

優が絶句する。

それにかまわずグレンは話を続けた。

「三葉と君月は両親だけ、あ、でも君月には病気の妹がいたな。与一は両親含めて姉も…だったかな。おっと順番だ」

グレンは一度話を止めて会計をした。

その後に続き優もレジを済ます。

優はレジを終えた後、自らグレンに話しかけた。

「…で、あのチビは?」

「あいつか?あいつは姉が亡くなったな。ただあいつそれだけじゃなくてよ。実の兄とかに捨てられた捨て子だったんだよ」

「捨て子?」

優が聞き返す。

「ああ。色々利用されるだけされて捨てられたらしい。境遇でいえば一番あいつがひどいな」

優は何も言葉が出なかった。

「…待てよ。もしかしてお前今日が何の日か知らねえだろ」

グレンが何かを察したように優に聞く。

「は?クリスマスだろ?」

優が何を当然なことを、と呆れながら言った。

しかしグレンは首を振った。

「違う違う。実はな…」

グレンが何かを言いかけたその瞬間。

ピリリリリリ、とグレンの携帯がなった。

「あ、やべ。あのこと忘れてた。…わりぃ、俺これから忙しいからこれシノアに渡しといてくれ」

携帯を取り出しながら優にさっきのマフラーの入った紙袋を渡す。

「は!?なんで!?」

優がグレンに問いかけるも、グレンはそそくさとどこかに行ってしまった。

「はあ…」

ポツンと取り残された優はため息を漏らして、仕方なさそうにショッピングモールを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノアの部屋の玄関の前に着いた優は、例のマフラーを持ってポケットから手を出した。

インターフォンを押す手に力をいれ、グッとボタンを押した。

ピンポーン、と軽快な音がなる。

しかし、反応は一向になかった。

「なんなんだよ…」

そう言って優ははぁ、とため息を漏らす。

今度はコンコン、とドアをたたいた。

「おい。おいっつってんだろ」

やはり反応はない。

優は腹がたって、無意識にドアの取っ手に手をかけ、無造作に引いた。

すると、なぜかドアがグンッと開く。

「!?」

なぜか開いたドアに、優は不意に驚く。

どうやら鍵がされていなかったらしい。

「なんだよ不用心だな…」

そんなことを言いながら、優はふと足元に目をやった。

そして、あることに気づく。

「靴がない…」

靴箱は見あたらない。

明らかにこの部屋にはいないことを知った。

「…!」

優はもう一つとある場所に視線を向ける。

それを見たと同時に、自分でも知らず知らずのうちに走り出していた。

自分が買った文房具やグレンに渡されたマフラーを置いて。

優が最後に見た場所。

玄関にかけられたカレンダー。

12/25のところに、とある文字が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…くそ…どこだ…」

優は行き先のわからない人を探して走っていた。

ぜいぜいと息を切らしながらとにかく走り続ける。

周りがクリスマスで鮮やかに彩られ、人々は笑顔に包まれている中、優だけは一人違った。

ただ一人、たった一人の人間のために走っていた。

どこに行ったかなんてわからない相手を、とにかく探し回っていた。

「くそ…どこだよ…!」

怒りを向ける相手は同じでも、先程とは違う怒り。

その憤りのあまり、優は思わず叫んでいた。

「おい、どこだよ!!返事しろよ!シノア!!」

その、探し人の名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒い…。

 

辺りが暗くなり、電灯が点き始めた公園。

そこにある小さなベンチに、一人の少女が座っていた。

上着を着ているとはいえ、冬の肌寒い気候は、少女の体に冷たくまとわりついた。

体が小刻みにブルブル震え、白い息が呼吸する度に出てくる。

寒い、そう少女が感じる反面、別の感情も湧き出ていた。

 

人を傷つけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が正しい接し方をしてあげられなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分勝手な態度で相手に迷惑をかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分はただ仲良くなりたかっただけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

どうしていつもこうして相手を傷つけてしまうんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素直になれない自分が嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ろくなコミュニケーションもできない自分が憎い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は、なんて卑劣なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々と自責の感情が生まれ、そして少女自身を卑下した。

自分には帰る資格もない。

そんなことを思いながらベンチにうずくまった。

自然と涙が頬を伝る。

どうしてこうなってしまったんだろう。

どうしてこんなことになったんだろう。

数々の疑問が浮かぶが、それはすべて自分に降り懸かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、やだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に対する嫌みが、世界に対する弱音に変わった。

自分にはこの世界でいきる価値はない。

少女の目からさらに涙が流れ出す。

必死に声だけは我慢しながら、ベンチの上で静かに泣いた。

静かな公園に、一人ポツンと少女は座りこむ。

顔をうずめ、もうどうでもいい、と思い始めた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してんだよ」

一人の少年の声がした。

少女はハッと顔をあげる。

目の前に、嫌われたはずの相手がいた。

「え…」

少女は涙を流した顔で呆然とする。

「ほら…早く帰るぞ」

少年、百夜優一郎が手を差し伸べる。

「え…な…なん、で…」

震えた声で少女、柊シノアは聞き返した。

「別に…心配して来た訳じゃない。単に渡し物があったから探してただけだ。それに…」

優が少し間を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「家族がいないとき探すのは…当然だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…」

シノアは声が出ず、思考すらも働かない。

「…あのさ、」

優が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

シノアが涙の止まらない目を大きく開く。

あの優が、自分に謝ってきた。

「家族を失ったのは…お前等もだったんだな。それなのに俺だけ知った振りしてさ…本当に知らないのは俺の方だった。ごめん」

優が頭を下げたのを見て、シノアはあたふたと慌て始める。

「いや…その…」

「…お前への態度も少し厳しすぎたかもしれない。そこも謝る」

優は心のモヤモヤする何かをすべて祓おうと、気にかけていることを次々と話した。

すると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、違うんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私からも…ごめんなさいなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

優は少し戸惑う。

「私…ただ仲良くなりたかったんです…優一郎さんと。それなのに…自分に素直になれなくて…変に悪態ばっかりついちゃって…優一郎さんが怒るのも当然なんです」

シノアは泣き止んではいるものの、顔は今にも泣きそうだった。

「私…人と仲良くしようとするといつもこうなんです。相手を困らせることしかできなくて…自分で自覚はしてるんです。なのに直せない自分が憎いです」

「ホントにすみませんでした。行動が何もかも軽率すぎました。…もし許されないと言うのなら私はここに…」

「ダメだ」

「!」

優が急に口を割った。

「別に気にしてねえよ。もう。俺だって悪いところはあったんだし。俺は許せる立場じゃない。それに…」

優が少し間を空けた。

「お前が無事なら今はそれでいいよ」

シノアは予想外の答えに少し戸惑った。

「いいん…ですか?」

「ああ」

自分を許してくれた。

シノアはそのことに素直に喜びを感じた。

「帰るぞ。他の連中も待ってんだろ。それにクリスマスなんだから…今日くらい楽しまないと」

優が再び手を差し伸べる。

シノアはその手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。

そして、ハッと何かを思い出す。

「あの…優一郎さん…さっき『家族』って…」

優もそれを思い出し、少し顔を赤くしたが、

「俺がいた孤児院と、同じ感じがしただけだ」

笑顔で言葉を返す。

初めて笑顔を見せた優に、シノアは少し安心した。

「その…これから、よろしくな。シノア」

珍しく優が自ら挨拶をする。

シノアも少し微笑みながら、

「はい。よろしくお願いします、『優さん』」

明るい声で返した。

「なんだよ『優さん』って…」

「ふふ…優一郎さんだと呼びにくいので」

暖かな会話が続く中、優がふと何かを思い出した。

「あ、そうだシノア」

「?」

突然の切り換えにシノアがきょとんと首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日、おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

シノアが少し赤面して驚く。

「知ってたんですか?」

シノアの質問されたが、優はどこで気づいたか覚えていなかった。

「えっと…確かどっかで何かを見たんだよ。それで知った」

何を言っているのかわからないな、と優は自分の言動に反省する。

シノアはまだ驚きは続きながらも、

「あ、ありがとうございます」

と返すことができた。

「えっと…それで一応買ってきたんだけど…」

そう言って優は何かを取り出した。

「!」

シノアが驚愕する。

「なんか…クマのキーホルダー。ごめん、こんな安っぽいものしか買えなくて。それとも気に入らなかったか?」

優の問いにシノアはブンブンブンと首を振った。

「これ…この冬限定の特別版ですよ!いつも人気で売り切れの店ばっかりだったのに…よく買ってこられましたね」

「そういえば…これラスト一個だったな」

優が買ったときの状況を思い出す。

「これ…ホントに貰って大丈夫でしょうか…優さんが買ったんですし優さんが貰った方が…」

「いや、俺はいいよ。シノアのためって思って店に行ったおかげで買えたんだと思うし。第一男がこれ持つのは恥ずかしいよ」

シノアの気遣いを、優は拒否した。

「男って損な生き物ですね…ホントに貰ってもいいんですか?」

「ああ。全く問題ない」

優は笑顔でそう言って見せる。

「じゃあ…ここは素直に受け取らせていただきます。ありがとうございました」

シノアが丁寧にキーホルダーを優から受け取る。

「さ、帰ろうぜ」

優がシノアの手を握った。

「あっ…」

シノアは不意に赤面する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今この瞬間、優の家族生活が再稼働し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時に、小さくながらも二人の一つの物語が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、一つの物語。

 

 

 

家族と、もう一つの関係が構築されていく、暖かく平和な物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈優ちゃん、そっちでの生活、大丈夫?〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【…わからない。でも…】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【なんか、うまくやっていける気がする】

 




お疲れさまでした。
ちょっと長かったですねwすいません
次回はもう少し短くします。
また、今回で一時シリアスは終了します。
次回からはほぼコメディってことで。
まあ、たまーにシリアスも入ってくるかな?
ちなみに幻想行進曲をメインとして投稿してるんでこちらは更新は遅いです。
それでも投稿はやめないんで安心してください。履いてますよ。
それじゃあ次回もお楽しみに!
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