サクラの下校時の様子に焦点を当てた第2話。
お楽しみいただければ幸いです。
結局、『誰がサクラの一番か大会』は放課後になっても決着を見なかった。それはそうだよね、誰も譲らないんだもん!私も疲れ切ってしまい、素直にそのことをみんなに言った。
「それはいけませんね!今日はここまでです。さあ、サクラ、私と一緒に帰りましょう」
海未先輩のその発言でまたもや事件発生となりかける。どうしたものか。うん、こうしよう。
「ねえ、みんな?今日はみんなで一緒に帰らない?ね?」
みんなは顔を見合わせた後、一斉に言った。
「「「「「「サクラ(ちゃん)がそう言うなら、そうしよう!」」」」」」
ホントになんなんだ、この人たちは…。
そんなこんなで無事に(?)みんなで仲良くわたしの家まで帰ることになった。明らかに帰る方向が逆の面々がいたのだが、もう気にしないよ。気にしたら負けだからね。帰りの際には、私の右前にことり先輩、正面に穂乃果先輩、左前に海未先輩、右後ろに凛ちゃん、真後ろに真姫ちゃん、左後ろにかよちんという布陣になった。平等が重要ということで、わたしは全方向を囲まれた状態になっている。退路なし。
「ところで、穂乃果先輩」
「なあに?」
穂乃果先輩がくるっと後ろに振り向く。
「真姫ちゃんから先輩たちがスクールアイドル始めたって聞いたんですけど?ええと、何て言いましたっけ?ミュー…?」
「うん、μ’sだよ」
確か神話に出てくる女神の名前だっけ?まさか石鹸じゃないよね?
「神話の女神からとったんですよね?」
すると、前を歩いている先輩たち3人が怪訝な表情をして顔を見合わせている。3人を代表するようにして、ことり先輩がゆっくりと口を開く。
「ん?サクラちゃん、何言っているのかな?」
流石にそんな当たり前のことを聞いてしまったのは、失礼だったかな?わたしも思わず、ちょっとしゅんとしそうになる。ことり先輩の後に続くようにして、海未先輩が口を開く。
「サクラ?石鹸のことは知りませんか?わたしたちのグループ名はそこからとったんですよ」
「ええ~!」
海未先輩は何を当たり前のことをと言わんばかりに首をかしげている。わたしは空いた口がふさがらない。おいおい、マジで石鹸なの!?普通に考えておかしいでしょ!?
「グループ名を募集する投票箱にね、『わたしはこの石鹸が大好きです』って書いてあったの」
「わたしたち3人も、肌に合う心地よさが最高だよねって結論になって、じゃあそれで良いかなって」
茫然とするわたしをよそに、ことり先輩と穂乃果先輩が笑顔で答える。いや、どう考えても良くないじゃん!どこに納得のいく要素があったの!?
「そうだったのね。それなら納得だわ」
「凛も納得だにゃー」
「スクールアイドルとしては最高のネーミングですよね!」
わたしの後ろを歩く真姫ちゃん、凛ちゃん、かよちんは、非常に納得がいったという様子で頷いている。あれ、わたしがおかしいのか?かよちんに至っては、そのネーミングセンスを大絶賛してるし。わたしには今新たな疑問が生まれたよ。かよちん、君は本当にアイドルファンなのか?
「そ…そうですか。と、ところで、ライブとかどっかでやるんですか?」
わたしは気持ちを必死で切り替えてライブに関する話題を振ることにした。未だに衝撃の事実に頭がクラクラするのだが、そこは気合でカバーした。
「よくぞ、聞いてくれました。じゃーん!」
穂乃果先輩が鞄の中からくしゃくしゃの紙切れを取り出した。何々、本日大売り出し?新鮮なマグロの刺身を安価なお値段で提供します?
「あの、穂乃果先輩?どこにライブの情報が?」
くしゃくしゃになっている広告を広げて隅から隅までライブの記事を探したが、どこにもそれらしい内容は見つからない。
「サクラちゃん、裏を見て」
ことり先輩の指示通り裏を見てみると、そこにはちゃんと学校の講堂でライブをする旨が書かれていた。なんで、わざわざ広告の裏にライブイベントの告知を載せたのだろうか。先輩たち、エコ過ぎです。というか、くしゃくしゃなのはどうでも良いんですね。はい、そうですか。
「ということなので、サクラちゃんも、みんなもぜひとも見に来てね」
「特に、サクラは必ず来て下さいね。わたしたちはサクラのためにスクールアイドルを始めたんですから。ま、仕方がないので、廃校阻止のためにも頑張りますが」
「そうそう、サクラちゃんが居てくれれば、お姉ちゃんたちは百倍頑張れるよ」
穂乃果先輩、海未先輩、ことり先輩の順で会話が続く。ちょっと一言、言わせてほしい。海未先輩、スクールアイドル始めた理由が明らかにおかしいです。それに、ことり先輩、「わたし=モチベーション」って。この人たちはホントにどうなってるんだろうか。わたしって、いったい…。
「真姫ちゃん、曲引き受けてくれてありがとうね。もうできてる?」
「できてるわよ、はい」
わたしが思考の海へとダイビングしている間に、穂乃果先輩と真姫ちゃんが会話を始めていた。真姫ちゃんが鞄の中から何かを取り出す。ん?え、レコード!?なぜに!?
「ありがとう、真姫ちゃん。家に帰ってから3人でゆっくり聞かせてもらうね」
ああ、穂乃果先輩はレコードの再生環境あるんですね。なら、良いか?いや、良くないよね!どう考えても時代錯誤な気が。しかも、真姫ちゃんはどうやってあんなに大きなものを鞄の中に入れて持ち歩いていたんだろう。
「サクラ、また声に出てるわよ。そうね、一つだけ言っておくわ。世の中に不可能はないのよ」
「おお、真姫ちゃん、カッコイイにゃー」
決めポーズと共に、カッコイイ言葉をのたまう真姫ちゃん。凛ちゃんは大喜び。なんだろう。言ってることはカッコイイのに、言葉の遣いどころが明らかに違うと思う。
そんなこんなで、楽しいガールズトーク(?)をしながら、わたしたちは綺羅家の前までやって来た。真姫ちゃんが綺羅家の方を横目で見ながら口を開く。
「ホント、いつ見てもサクラの家は大きいわね」
「わたし自身が言うのもなんだけど、我が家はホント無駄に大きいと思う」
綺羅家は大邸宅という括りで捉えるのも躊躇うぐらい、とにかく馬鹿でかい。広大な敷地と、あたかも西洋の王宮を思わせるような壮麗な洋風屋敷を前にすると、初めて来た人はみんな言葉失うようだ。現に、真姫ちゃん以外は、みんなポカーンと口を開けている。
「そうそう、サクラ?ツバサさんに伝えてもらえるかしら?今度作曲のアドバイスがほしいの。近々お邪魔させてもらって良いかしら?」
「うん、勿論良いよ」
久々に真姫ちゃんがうちに来てくれるであろうことを嬉しく思って、思わずわたしは笑顔になる。ん?なんかみんなが顔を見合わせてるけど、どうしたんだろう?
「「「「「「サクラ(ちゃん)!」」」」」」
「ぐぇ!」
何を思ったのかみんなが唐突にわたしに抱き付いてきた。あまりの衝撃にわたしは女子にあるまじき奇声をあげてしまう。ちょ、マジで苦しい。
「く、くるしぃ…」
わたしの声を聞いた途端に、みんなが一斉に離れる。
「ゴホゴホ、みんな、いきなりどうしたの?」
かよちんがみんなを代表するようにして、一歩前に進み出る。
「ええとね、実は6人の間で淑女協定が結ばれたの。もし、サクラちゃんが可愛すぎて抱き締めたくなった時には、抜け駆けせずにみんなで抱き締めるって」
「そんな協定滅んでしまえ!」
ぜえぜえと荒い息遣いをするわたし。なんとか呼吸を整えようとしてみる。きっと今のわたしはさぞかし間抜けな表情をしているだろう。
「でも、その表情が良いんだよね!」
「穂乃果先輩、勝手に心を読まないでください…」
またしても脅威の読心術を目の当たりにすることになろうとは。
「それでね、サクラちゃん。お姉ちゃんたちからのお願いなんだけど、その時にはわたしたちも一緒に行っても良いかな?」
ことり先輩が上目遣いでわたしに尋ねる。う、なんて卑怯な。Noなんて言えないじゃないか。ま、親しい先輩たちだから全然良いんだけどね。
「構いませんよ。凛ちゃんとかよちんも一緒に来る?」
「勿論だにゃー!」
「わ、わたしもよろしくお願いします」
こうして、近々みんなの綺羅家訪問が決定した。それにしても穂乃果先輩、ことり先輩、海未先輩、凛ちゃん、かよちん、真姫ちゃんの6人だけでも、わたしの被害(?)は凄まじい。ま、流石にこれ以上はこの手の人が増えることはないよね?
…?あれ?もしかして、わたしフラグ建てた?わたしが一級フラグ建築士だったと気づくのは、それからさほど遠くない未来だった。