今回はA-RISE全員の登場回です。
A-RISEの活動拠点がなぜかわたしの部屋になっていた綺羅サクラです。
「お姉ちゃん、もう一回言ってくれる?わたしの聞き間違えだよね?」
「あんじゅはサクラのベッド、布団の中よ。英玲奈はクローゼットの中よ」
嘘だぁ!なんで、そんな所に二人とも居るの!?どう考えてもおかしいでしょ!?わたしは、あまりの混乱ぶりに両手で頭を押さえながらうずくまる。
「ああ、サクラ!大丈夫!?」
お姉ちゃんがわたしのあまりの困惑ぶりに駆け寄って来て、右手をわたしの肩に置く。どうやら心配してくれているらしい。
「ああ!最愛の妹を慰める姉って最高!これだから姉はやめられないわ!」
訂正。全然心配してくれてないらしい。誰か、この姉をどうにかしてよ。ホント、妹も楽じゃない。
「…。お姉ちゃん、あんじゅさんと英玲奈さん呼んでもらっていい?」
「はっ!妹からのお願い!勿論よ、全力で呼ぶわ!」
いったい何に全力を尽くすというのか。わたしの心情を知らずして、お姉ちゃんはまずあんじゅさんを呼ぶ。
「あんじゅ、サクラが帰って来たわよ」
「あらぁ、サクラちゃん、おかえりぃ」
お姉ちゃんの声に応えるようにして、わたしのベッドからあんじゅさんが出てくる。え!?クマさん柄のパジャマ姿!?しかも、わたしの枕を抱えてる。うん、やっぱりあんじゅさんは可愛いな。って、おい!あのパジャマ、わたしのお気に入りのやつじゃん!なんで、あんじゅさんが着てるの!?
「…。あんじゅさん、なんでわたしのパジャマ着て、わたしの枕抱いてるんですか。しかもなんで今まで布団の中に?」
あんじゅさんは頭上に「?」マークを浮かべるような、きょとんとした表情をしている。しばらく右の人差し指を顎に当てながら、沈思黙考していた様子だが、何か思い当たったらしい。『パン!』と両手をたたいて、ようやくわたしの質問に答えてくれる。
「あのねぇ、サクラちゃん。わたしは次のA-RISEの衣装を考えてたのよ。どうしてもなかなか良い考えが浮かばなかったから、三人でどうしたら良いか相談したの。そしたら、サクラちゃん成分が足りないせいだって気付いたの。それで、サクラちゃんのお気に入りのクマさんパジャマを着て、サクラちゃんのベッドにもぐり込んだところ、未だかつてないほどのインスピレーションが湧いたのよ。どう?すごいでしょ?」
ものすごく良い笑顔で超弩級の問題発言をぶちかますあんじゅさん。すごいとかそういう問題じゃないし!もはや怖ろしいよ!天下のA-RISEがこれで良いのかぁ!?
「良いのよ!」
う~ん、う~んとわたしがうなっていると、あんじゅさんが心を読んできた。またこのパターンかい!
「ああ、やっぱり生のサクラちゃんが一番ねぇ!英玲奈~、サクラちゃん帰って来たわよ~」
生って何?わたしはビールか何かかよ!もうどうでも良いや。あんじゅさんの呼びかけで残る一人、英玲奈さんがクローゼットから登場する。あ、わたしのお気に入りのワンピース着てる…。
「おお~、サクラくん、帰って来たか。待ってたぞ、クローゼットの中で。いやぁ~、君の大好きなワンピースを着てクローゼットに籠っていたおかげで、なんと新しい詞が思いついたんだ!君には本当に感謝するよ」
…。もはや何も言うまい。どいつもこいつもどうしてこんなのばっかなんだよぉ!
「よし、三人揃ったところで、恒例のアレやるわよ!準備は良いかしら、あんじゅ、英玲奈」
「勿論よ、ツバサ」
「まかせておいてくれ!」
どうやらA-RISE全員集合ということで、何かを見せてくれるらしい。どうせ、くだらない何かなんだろうけど。
「せーの!」
「「「A-RISEです!」」」」
お姉ちゃんの合図に続けて、三人が声を揃える。そして、可愛い決めポーズである。ファンなら涙ものの光景だろう。三人の理解不能な行動と服装がすべてを台無しにしているが。ああ、わたしこそ悲しみの涙を流したいよ。どうしてこうなった…。わたしはあんじゅさんと英玲奈さんに出会ったあの日を思い返す。
「サクラちゃん、お姉ちゃんがお弁当忘れたみたいなの。届けに行ってもらって良いかしら?」
中学校を卒業してノンビリだらだらライフを満喫していたわたし。自室のベッドに寝転がって流行りの漫画を読んでいたところに、お母様がやって来た。ちなみに読んでいたのは、9人の女子高校生たちがスクールアイドルになって廃校の危機を救うという青春ものだ。これで250回ほど読み返したが、とても面白いため全然飽きない。とりあえずわたしは漫画を読んでいた手を止めて、お母様のお願いを詳しく聞いてみることにした。
「お姉ちゃん、今日もA-RISEの練習に行ってるんだっけ?」
「そうなのよ。あの子、学食とか外食はあまり好きじゃないでしょ?ちゃんとお弁当用意したんだけど、寝坊して大急ぎで出て行った結果、見事に忘れていったのよ。メイドに届けさせても良いんだけど、あの子はサクラちゃんが持って行けばとっても喜ぶと思うわ」
お姉ちゃんはお母様の作るお弁当がとにかく大好きだ。お母様が出張でいない時には、不在になる日数分のお弁当が冷凍庫に保存されているくらいに。お姉ちゃんは特にタコさんウインナーが大好きらしく、以前お母様がそれを入れ忘れた際には帰宅した瞬間にマジギレしていた。あの勢いには、わたしもお母様も本気でひいた。そして怒りに身を任せたお姉ちゃんは綺羅家のエントランスホールに飾られている調度品を幾つも破壊していった。その総額およそ4500万円。あっけに取られて物を言うこともできないわたしをよそにして、「あらまぁ。仕方ない子ね」という一言で全てを片付けてしまったお母様はホントにただ者ではないと思う。というわけで、お姉ちゃんがお弁当を忘れるということは家庭の危機(?)につながる一大事なのだ。
「わかった。ちょうど暇だから行ってくるね」
「サクラお嬢様、お車をご用意いたしますか?」
レイチェルが気を利かせてくれるが、たまには歩いて行くのも良いだろう。
「ううん、歩いて行くわ」
「それはダメです!外は危険がいっぱいです!私が責任をもって送迎いたします!」
え?じゃあ、なんで聞いたの?レイチェルの必死の様子にドンびきするわたし。
「あ…あ、そう。じゃあ、お願いする、わ…」
「はい、かしこまりました。それでは、少々お待ちください」
笑顔で車を用意しに行くレイチェルを唖然としながら見送った。
「あらあら、サクラちゃんも大変ね。はい、これがお弁当」
「ホントよ。とりあえず、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
お母様のニコニコ笑顔に見送ってもらったわたしは、玄関を出てレイチェルの用意してくれたリムジンに乗り込んだ。目指すはUTX学院。
UTX学院に到着したわたしは、電車の有人改札のようなお客様窓口で手続きを終えて校内へと入って行く。事務員さんから聞いた話では、お姉ちゃんは屋上にいるとのことらしい。エレベーターに乗って屋上へと向かう。エレベーターを待っている時に生徒たちがちらちらとわたしを見ていたけど、まあ来客者がめずらしいのかな。『ピンポーン』『屋上です』という機械音声と同時に扉が開く。お姉ちゃんは…。あ、いたいた。
「お~い、お姉ちゃ…」
ダンスの練習をしていたらしいお姉ちゃんが私の呼びかけを聞き終わる前に全速力で駆けて来る。は、はやっ!
「サクラ、来てくれてありがとう!」
わたしに頬ずりしながら、喜びを体いっぱい表現するお姉ちゃん。まるでワンコのようだ。
「はい、お姉ちゃん、お弁当。勿論、タコさんウインナー入りね」
「おぉ~、サンキュー。やっぱこれがないとね!そうだ、良い機会だからグループのメンバー紹介するね。あんじゅ、英玲奈!」
お姉ちゃんの声を聞いて、二人の女性が近づいて来る。一人は優しげな瞳が印象的で、もう一人はとてもクールでカッコイイ。
「あんじゅ、英玲奈。この子が私の最愛の妹のサクラよ」
「よろしくね、サクラちゃん。優木あんじゅよ」
「サクラ君、統堂英玲奈だ。よろしく」
二人の挨拶に合わせるようにわたしも「よろしくお願いします」と言って、頭を下げる。
「それにしても、この子がツバサの妹さんね。ホント可愛いわね」
「ああ、ツバサが溺愛するのも無理ないな」
二人の言葉にわたしは顔を紅く染める。
「そ、そんなことないですよ」
「いや、そんなことあるぞ。ほめ言葉は素直に受け取ってくれ」
「そうよ、サクラちゃん」
「あ、ありがとうございます」
英玲奈さんとあんじゅさんの言葉にわたしはなんとか御礼の言葉を紡ぎ出す。ホントにステキな人たちだ。
「いやぁ~、それにしても、ホントに生は良いわ」
「うん、リアルサクラ君。良い。最高だな」
ふたりがわたしを見つめながら、じゅるりとよだれを拭っている。今、あんじゅさんと英玲奈さんに対するわたしの評価が急下降した。それはもうジェットコースターのごとく。
「お姉ちゃん、いったいどうなってるの?」
「どうもこうも、この二人にはあなたの写真を数百枚あげたのよ」
「ツバサのおかげで、わたしは人生の目的を初めて知ったわ。わたしはサクラちゃんを愛でるためにこの世に生を受けたの!」
「ああ、人生とはかくも素晴らしかったんだな!ほら、これを見てくれ」
急に意味不明な哲学に目覚めてしまったあんじゅさんと英玲奈さんに返す言葉が見当たらない…。英玲奈さんが名刺入れを取り出してくれたので促されるままに、それを開けてみる。目に飛び込んできたのはわたしの写真。というか、名刺が一枚も入っていない。すべてがわたしの写真ってどういうことなのさ…。しかも中には、わたしの寝ている姿まである。お姉ちゃん…あんたって人は…。
「ふふふ、驚いた?もう一つサプライズよ!サクラ、アレを見てご覧なさい」
お姉ちゃんの指さす方向を目で追ってみる。そこには、女の子を象った銅像が立っていた。
「お姉ちゃん。なに、アレ?」
「サクラの姿を象った銅像よ。どう、すごいでしょ!サクラの写真を見たあんじゅと英玲奈のテンションが上がりまくった結果、二人が私財を費やしてサクラ像を建ててくれたの」
「なに、どうってことはない」
「そうよ、わたしたちがしたかっただけだから」
なんで、三人ともそんなに誇らしげなんだよ!よく学校の許可が下りたな!てか、本人の許可もとれ!どうりでエレベーターホールに居た時に生徒たちに注目されてたわけだよ…。
「大人気スクールアイドルグループのA-RISEがそんなことしてて良いんですか」
わたしは少し皮肉を込めて三人に聞いてみる。
「良いに決まってるじゃない、サクラ。だってA-RISEは、『愛してるサクラちゃん大好きなこの思いはどこまでも』(A)『上昇する』(RISE)の略なんだから」
お姉ちゃんから明かされる衝撃の真実。A-RISEってそういうことやったんかい!しかもAはローマ字!?やたら長ったらしいし!
「…。ファンが知ったらショック受けるよ」
「それは問題ないわぁ。ブログにそのことを載せたらファンのみんなから、『納得です』『良いネーミングですね』『掲載されてるサクラちゃんの写真最高!いつ見ても可愛いね』って大量の返事が寄せられたの」
あんじゅさんが甘ったるい独特の声でトンデモ発言。
「あんたらがあんたらなら、ファンもファンだよ!」
「「そんなわけで、よろしくね、サクラちゃん(君)!」」
あんじゅさん、英玲奈さんの言葉に対して、彼女たちが目上の存在であることも忘れて「どんなわけだよ!こらぁ!」と叫んだわたしは悪くない。
ああ、わたしは走馬灯のように鮮明にあんじゅさんと英玲奈さんと出会ったあの日を思い出していた。ホントにショッキングな一日だった。そしてまさかこんなに堂々とわたしの部屋にやってくる日が来るなんて思いもしなかったよ。
「よし、今日の活動はここまでよ。また明日もここでやるわよ!」
「勿論よ。ここはインスピレーションの源だもんねぇ」
「ああ、明日も頑張ろう!」
「いや、あんたら自分の学校で活動しろ…」
わたしの必死の呟きは三人がドタドタと部屋を出て行く音に虚しくかき消された。そして、わたしだけが一人部屋に残された。どれくらい時間が経っただろうか、はっと我に返ったわたしは全力であんじゅさんと英玲奈さんを追いかける。
「おい!こらぁ!わたしのパジャマと枕、それにワンピースを返せ~!この泥棒~!」
玄関に到着した時にはすでに彼女たちの姿はなかった。わたしは意気消沈しながら、我が家を離れ去っていくリムジンのテールランプをただ茫然と眺めるのだった。