愛されキャラも楽じゃない   作:LiveAddiction

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お待たせいたしました。ご愛読下さる皆さまのおかげで、とうとう第5話を投稿できました。本当に嬉しく思います。本年もよろしくお願い申し上げます。

さて今回は、前半が我らが主人公綺羅サクラの視点。後半は絢瀬絵里の視点です。少しでもお楽しみいただけることを願いつつ...。


第5話 ライブを見るのも楽じゃない

「よっしゃ!ようやく放課後だ!」

 

退屈な授業が終わり、待ちに待った放課後を迎えてホッと一息つくわたし、綺羅サクラです。ホント、今日に至るまで色々あって大変だったよ。英玲奈さんにワンピースを盗まれたり、あんじゅさんにお気に入りのクマさんパジャマと枕を奪い去られたりさ…。さらにはその数日後に真姫ちゃんたちがうちに来たんだけど、作曲に関することなんてそっちのけで『第一回サクラのここが可愛い』トーク大会を開催する始末。余談だけど、優勝者はお姉ちゃんだった。いったい何が基準で優勝が決まったのかは本当に謎だ。まあ、そんなこんながありながらも、わたしはようやく今日という日を迎えたわけだ。

 

「あ、かよちん、そういえばμ’sの初ライブって今日だっけ?」

 

「そうだよ、サクラちゃん。わたしは行こうと思ってるんだけど、一緒に行く?」

 

「行く…というよりも、行かないと後で何が起こるかわからないから」

 

海未先輩たちがわたしには絶対に来るようにって言ってたよね。もし、行かなかったらどうなるか…。なんだろう、とてつもなく恐ろしいことが起こりそうな気がするよ。ぶっちゃけて言うと、これ以上トラブルに巻き込まれたくない。え、何?もう手遅れだって?いや、そんなことはない…と信じたい。というわけでμ’sの初ライブには行く予定だ。まあ、今日は特に用事もないし良いんだけどね。

 

「じゃあ、凛も行くにゃー!」

 

「サクラが行くならわたしも行くわ」

 

「オッケー!みんなで一緒に行こうか」

 

かよちん、凛ちゃん、真姫ちゃん、わたしの4人は講堂へと向かう。

 

「もう時間過ぎてるね。席空いてるかな」

 

「最悪立ち見でも仕方ないわね」

 

かよちんと真姫ちゃんの会話を聞きながら、今ステージ上で華々しく活躍しているであろう先輩たちに思いをはせる。先輩たちが必死でビラを配っていたから、きっと多くの人が見に行っていることだろう。たださ、あのビラってスーパーの特売広告の裏に印刷されてるんだよね。そこだけが気がかりだ。間違ってみんなスーパーに行ってなければ良いんだけど。

 

講堂に到着したわたしたちは開いた口が塞がらなかった。わたしたち以外のお客さんが誰一人見当たらなかったからだ。ビラをもらった人たちがみんなスーパーに行ったなんてことは流石にないよね…。わたしたち4人は顔を見合わせながら、とりあえず講堂の真ん中辺りに座ることにした。

 

空席ばかりにもかかわらず、可愛らしい衣装を身に纏って全力で歌う先輩たち。その姿はいつもの破天荒でお茶目な先輩たちとはどこか違っていた。A-RISEを身近に知っているわたしからすれば、確かに先輩たちにはまだまだ粗削りな面が目立つ。でも…それでも、わたしを、わたしたちを惹きつける何かがあるんだ。自他共に認めるアイドルファンのかよちんは勿論のこと、凛ちゃんや真姫ちゃんでさえも食い入るようにして先輩たちの姿を見つめている。

 

曲が終わったところで、わたしたち4人は拍手をする。立派ですよ、穂乃果先輩、ことり先輩、海未先輩。わたしは後輩として誇りに思います。どうか、この思いが少しでも伝わりますように。そんな思いを拍手に込めて…。

 

「やっほー!ありがとう、サクラちゃん!愛が伝わったよ!」

 

「サクラちゃん、わたしこそ最高の後輩がいてくれて嬉しいよ!ホントにありがとう!」

 

「サクラ。あなたの思い、確かに受け取りました!だから抱きしめて良いですよね?」

 

ステージの上から穂乃果先輩、ことり先輩、海未先輩が大声で叫んできた。おい、そこは一礼してステージを去って行くところでしょ!てか、なんで口に出してないのに伝わってるんだよ!そりゃ、この思いが少しでも伝わるようにって願ったけどさ。いくらなんでもこんな展開ないでしょ…。特に海未先輩!何をどう解釈したら、わたしを抱きしめて良いという結論に達するんだよ!わたしの感動を返せよ、こらぁ!めずらしくシリアスで良い感じだったのに…ん?誰だろう?ステージの方へと向かっていく人がいる。

 

「あなたたち、これからどうするつもり?ライブにやって来たのは、あの4人以外にはいなかったようだけど」

 

あ!うちの生徒会長さんだ。名前は…絢瀬絵里さんだっけ?

 

「生徒会長!わたしたちはスクールアイドルを続けます!」

 

絢瀬会長の言葉に対して穂乃果先輩が答える。先輩の眼差しには確固たる決意が見てとれる。

 

「なぜ、かしら?」

 

しばらく間をおいてから、先輩たち3人がゆっくりと同時に口を開いた。

 

「「「そこにサクラちゃんがいるからです!」」」

 

…なんだその理由。そんな意味不明な理由で絢瀬会長が納得するわけないじゃん!

 

「あ…そう…なのね」

 

ほら、返答に困ってるじゃん!ああ、絢瀬会長も大変だな~。なんか同情を禁じ得ないよ。きっともう何も言うことができないであろう絢瀬会長はわたしたちの座っている所へとやって来た。

 

「あなたがサクラさん?」

 

「は、はい!わたし、綺羅サクラです。よろしくお願いします、絢瀬会長!」

 

急に話しかけられたことに戸惑いながらも、なんとかわたしは言葉を紡いだ。わたしを見つめる綾瀬会長の目つきが優しいものに変わる。

 

「絢瀬絵里よ。絵里でいいわ」

 

「わかりました。絵里先輩」

 

「あなたも色々大変ね。何かあったらいつでもわたしの所にいらっしゃい。後輩の相談にのるのも生徒会長の務めよ」

 

それだけ言うと、絵里先輩は講堂をゆっくりと出て行った。

 

「カッコイイ!ようやくわたしの周りにまともな人が現われた!」

 

わたしは絵里先輩の言葉を反芻しながら、良き理解者を得たという感動を味わっていた。ああ、なんか涙出てきそう。ん、みんなどうしたの?何か言いたげだね?

 

「サクラ、それってどういうことかしら?」

 

「そうだよ、凛たちだってまともだよ!」

 

「サクラちゃん、少なくともわたしはまともだよね?」

 

真姫ちゃん、凛ちゃん、かよちんが異議ありといった様子で話しかけてきた。かよちん、「少なくともわたしは」ってことは、他はもうすでにアウトだって思ってるんだね。さり気ない毒舌っぷりが恐ろしい。ともかく、はっきりと言えることはただ一つ。君らがまともだったことが一度でもあっただろうか…。うん、ないね!断言できるよ。

 

「マジでやべぇ!わたしのサクラちゃんが会長にとられちゃう!」

 

「まずいよ~!不動のお姉ちゃん的存在ポジションがぁ~!」

 

「さあ、サクラ抱きしめさせなさい!今すぐに!早く!」

 

「いい加減にしろ~!あんたらもホントにブレないな~!」

 

ステージからわたしたちの所へとやって来た先輩たちも、もう色々とアウトだ。てか、穂乃果先輩、いつの間にそんな言葉遣いになってるの?ことり先輩、不動のお姉ちゃん的存在ポジションって何?そして海未先輩…どんだけわたしを抱きしめたいんだよ!させねーよ!やれやれ…。

 

μ’s初ライブを鑑賞し終えたわたしたちは、一人一人様々な思いを抱きながら家路に就くのだった。

 

 

 

 

 

私は絢瀬絵里。通称「かしこい、かわいい、エリーチカ」とは私のことよ。

 

最近スクールアイドルとしての活動を始めたという2年生たちのことが少し気になったので、今日は彼女たちの初ライブの様子を見に行くことにした…というのは建前だ。実を言うと、誰かがスクールアイドルを始めようが、学校が廃校になろうが、私にとって大した問題ではない。私にとっての最重要事項は、新入生の『あの子』のことなのだから。その子の名前は、綺羅サクラ。ああ、なんて良い響き!ハラショー!はっ、しまった!興奮したらまた鼻血が~!

 

ああ、何を話そうとしていたかしら?そういえば、サクラとの出会いだったかしら。あれはこの間の入学式の日のこと。私が講壇から生徒会長として祝辞を述べていたとき、一瞬だけ彼女と目があったの。思えばそれが全ての始まりだったわ。入学式が終わった後に生徒会室に戻った私は、新入生の写真付き名簿に目を通して彼女の名前を知った。しばらく彼女の名前を繰り返し呟きながら写真を眺めていた私は…見事に鼻血を出した。生徒会室は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、希がやって来て後始末を手伝ってくれるまでは、それはもう大変なことになっていた。正直言ってあまり思い出したくないわ。

 

その日以来、私は彼女と仲良くなりたいと思うようになった。とはいえ、これといった用事もないのに彼女のクラスに行く、というのはばつが悪い。せっかく苦労して築き上げた「かしこい、かわいい、エリーチカ」というキャラが台無しになってしまう。私はサクラに対して「頼れる生徒会長の先輩」というキャラを演じて接近しなければならないのだ。だから私は虎視眈々と彼女とコンタクトをとるチャンスを窺っていた。そして、このチャンスが今日のライブの日だった。彼女がライブに行くという話を友人たちとしている時に『偶然廊下で聞いてしまった』私は、念願のファーストコンタクトをとることにしたのよ (※「えりちーは完全に盗み聞きしてました」と親友のN・Tさんは証言している)。でも、流石に堂々と講堂の中で接触するのは決まりが悪い。そこで私はとりあえず音響室に足を運ぶことにした。

 

「あ、生徒会長」

 

「お疲れさまです」

 

「ちょっとここから見させてもらうわ」

 

音響室に入った私は、音響と照明を担当している子たちに声を掛けられたので、仕方なく一言返す。全くこんな大切な時に話しかけてくるなんて、この子たちは今までどういう教育を受けてきたのかしら。私の目は、ミュー…なんとかのライブはそっちのけで、講堂の真ん中辺りに座る一人の女の子に釘付けになった。勿論、綺羅サクラのことよ。あまりの可愛さに私は思わず倒れそうになる。ああ、写真で見ていたよりも遥かに可愛いわ。どうしたらもっと接近できるかしら?そうだわ、ライブに対するコメントをミュー…なんとかの3人に言いに行くということにしたらどうかしら。あとは場の空気を読みながらサクラに接近するだけ!ハラショー!ナイス、エリーチカ!そうと決まれば、Let’s go!

 

私はステージに向かってゆっくりと歩を進める。

 

「あなたたち、これからどうするつもり?ライブにやって来たのは、あの4人以外にはいなかったようだけど」

 

私はあたかも苦言を呈するかのようにステージ上の3人に話しかける。そして、「あの4人」と言った瞬間にすかさず目でサクラを見る。ああ、可愛いわ!

 

「生徒会長!わたしたちはスクールアイドルを続けます!」

 

リーダーの子が返答してきた。良い眼差しをしている。だけどそんなことより…サ・ク・ラ、サ・ク・ラ!私の脳内にサクラコールが響き渡る。ああ、感無量だわ。あ、しまった!リーダーの子なんて答えたのかしら…。

 

「なぜ、かしら?」

 

わたしはとりあえず無難そうな言葉を選んで会話を続けることにした。「なぜ」の後にちょっと間が空いてしまったが、そこは大丈夫だと思いたい。するとしばらく間をおいてから、ステージ上の3人がゆっくりと同時に口を開いた。

 

「「「そこにサクラちゃんがいるからです!」」」

 

『くっ!ブルータス、お前もかぁ!』古代ローマの英雄カエサルと私の思いが一つになった。え?言葉の遣いどころが違う?気にしちゃダメよ。それにしても、やっぱりこの子たちもサクラのことを狙っていたのね!だけど…だけど、私は負けないわよ!何か言い返さないと!

 

「あ…そう…なのね」

 

悔しいことに私は何か言わなければと思いながらも、上手く言葉を紡ぎ出すことができなかった。仕方がない、ここは退こう。勇将はいつでも退き際を知っているものだ。だが、この無念はいつか晴らしてみせるわ!心の内に激しい闘志を燃やす私はサクラのもとへと向かう。

 

「あなたがサクラさん?」

 

「は、はい!わたし、綺羅サクラです。よろしくお願いします、絢瀬会長!」

 

やったわ!とうとう接触に成功よ!はっ、今の闘志あふれる目つきではサクラに怖がられてしまう。私は急いで愛情あふれる目でサクラを見つめる。サクラの可愛さパーフェクト!完璧!ハラショー!ひゃっほー!

 

「絢瀬絵里よ。絵里でいいわ」

 

「わかりました。絵里先輩」

 

「あなたも色々大変ね。何かあったらいつでもわたしの所にいらっしゃい。後輩の相談にのるのも生徒会長の務めよ」

 

予め用意していたシナリオ通りの台詞を言うことに成功した私は、ゆっくりと講堂を出て行く。なぜ「ゆっくりと」なのかというと、今の私は鼻血が出そうになっているのを必死でこらえているのだ。マジでヤバい!せっかくの「エリーチカ=頼れる生徒会長の先輩」という印象付けが早くも壊れてしまう。それを避けたいがために、もっとサクラの側にいたいという思いを無理矢理振り切って講堂を後にしたのだ。

 

なんとか御手洗いに到着した私は水道の蛇口をひねって水を全開にし、思う存分鼻血を流した。幸いなことに、私の他には生徒は誰もいなかった。ああ、これから最高の人生が始まるわ!鼻血が治まった私は仕方なく生徒会の仕事を片付けに行くのだった。

 

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