メガミホテル ジントの部屋
[ジント]
ジント「あれは·····気のせいじゃなかった」
ゲームギアとレクイエムゴーレムがいる場所にやって来た時、確かに感じた気配・・・・・・。人の気配だが・・・あれは力を持つ気配だった。微妙ながら失った記憶を思い出しているが、その記憶の一部にその時に感じ取った気配を知っていると訴えてくる。
ジント「まさか、ゲームギアに送られた手紙の送り主か?」
もしそうだとすれば、ゲームギアに仕向けた張本人はターゲットの沈黙を目にしなければならない。となればあの気配はすなわち罠を仕掛けた第三者の者となる。推測を立てて、一通り考えついた可能性を頭に入れた俺は、座っていた椅子から立ち上がろうとした時。
???「だ〜れだ?」
突然誰かが背後から俺の目を両手で塞いできた。だが、その声が誰のものかすぐに分かった。
ジント「ノワール」
ノワール「あら、声を低くしても分かるのね」
《コープスパーティー book of shadows Light》
△
誰なのかを当てられたノワールはそっと手を離す。そして近くにあるソファーに座り込み、中型サイズのぬいぐるみに抱き着く。その時に気づいたのだが、ノワールはパジャマ姿である事に気付く。
ノワール「大事にしてくれてるのね。私からのプレゼント」
ノワールから貰ったプレゼントとは、ノワールが抱いているスライヌのぬいぐるみ。貰い物だが、女神様から貰った可愛らしいぬいぐるみだ。嫌でも大事にする。
ジント「まあな。それで、また不安になってここに?」
ノワール「・・・・うん・・・・・」
俺の話を聞いたノワールは抱いていたぬいぐるみを元に戻して、人差し指と人差し指の先をツンツンとつつく。
ジント「こんなに甘えん坊だったっけ〜?」
ノワール「う、うるさいわね!わ、私だって・・・」
ノワールがこうして俺の部屋に来るようになったのは最近の話。正確に言えば学校に入学以降、今日で二回目だ。
ノワール「怖いのよ・・・・・・自分の部屋に居るのが・・・・・・」
ジント「それはなんでだ?教会に居た方が安全の筈なんだが」
ノワール「そうじゃないの。ユニやケイ、ケーシャやリッド。みんなが付いているのは分かるの。でもそうじゃなくて、私が怖いのは、妹のユニなのよ」
ジント「ユニが・・・怖い?」
実の妹に怯えているノワールは嘘偽りないかのように、顔は青くなっていた。一体何故?その理由を俺は聞きに動く。冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注いで手渡す。
ジント「なんで妹が怖いんだよ?」
ノワール「ユニの新しい力、神獣化が怖いのよ·····。ヘルシスターが、ユニが私の妹とは思えないくらいに側から掛け離れているのよ」
ノワールは誰もが想像出来ないであろう表情、心の底から震え上がった、怖い、と言う表情。それを見た俺はどうにか笑顔にしたいと考えるが、どうすれば良いのか分からない。その時。
クロテューヌ『恋する女の子はね。好きな人に抱かれて、負の感情から逃れようとする物だよ?』
ジント「·····っ!」
頭の中からクロテューヌの声が!?一体どこからこの状況を見ているんだ?
クロテューヌ『まあそれはともかく、早くしないと、負の感情を餌にノワールのトラウマが現れちゃうよ〜?ま、頑張ってね〜』
ジント『なに!?』
脳内に響くクロテューヌから掛けてくる言葉はそれが最後になった。まずいな、何とかしないと、考えるんだ。女性を落ち着かせる為のやるべき事を!と俺の知識全てを探り、方法を探す。そして三つ思い当たる方法を思い付いた。
ジント『これは男友達から無理やり聞かされた、女が喜ぶであろう行動』
一つ目は頭を撫でる。二つ目は手を握る。三つ目は添い寝する。良く知らないが、ノワールはどういう事かパジャマを着てここにいる。なんでだ?まあそれはいいとして、俺は必ず効果がありそうな三つ目を選択する。
ジント「ノワール。今日は俺のベッドで寝ろ。添い寝してやるからそんな怖がるなよ」
ノワール「い、いいの?」
ノワールは俺の提案を聞いて、上目遣いで見つめてくる。ぐぬぬ、やめてくれ!そんな目で俺を見るな!
ジント「ほら、寝かしてやるから」
俺はさっさとノワールを寝かせるべく、私室のベッドに案内する。そして部屋に入ったノワールはそわそわしながら、深呼吸してからベッドに入り、俺はそっと毛布をかける。
ノワール「あなたは·····寝ないの?」
ジント「後で寝る。だからお前は安心して寝た方がいいぜ。明日も学校だからさ」
ノワール「う、うん」
ノワールは何か残念そうな表情を見せたが、すぐに寝るように目をつぶった。そして俺は鼻歌をしながらノワールの頭を優しく撫でる。
ジント『こうして見ると、ノワールはどう見ても普通の女性だよな』
ノワールの事は素直に可愛いと思えるが、今回のノワールはなんか普通よりも可愛く見える。見ているこっちが癒されるくらいにだ。
ジント『今思えば、ノワールの秘書になった理由はトラウマから守る事だったな。でも俺なんかで良かったのか?』
ノワールの秘書になる事を本人に言った時、ノワールも俺を秘書として誘いたかったらしい。その理由が知らない事が今も分からずにいる。
ノワール「ねぇ、ジント」
目をつぶったままノワールは俺に話し掛けてきた。なんだ、と答えると、ノワールからこう聞かれた。
ノワール「ジントはどうして、私の秘書になろうと決めてたの?」
独り言を内心で呟いていたら、今本当にピンポイントに聞いてきた。この際、言うべきなのでは?正直ずっと理由を隠し続けていくのは荷が重い。俺はノワール、ちょっと悩む仕草を見せ、内心では理由を考える。
ノワール「私がなんでジントを秘書として雇いたかったのか、特別に教えてあげるわ。ずばり、あなただからなのよ」
ジント「俺?」
ノワール「貴方に会った時、よく分からないけれど不思議と伝わったのよ。もしかしたら貴方ならって」
ジント「なんだそれ?よく分からないぜ」
ノワール「仕方ないでしょ?私でもそれが何だったのかわからないし」
何を言っているのか俺には分からない。そんな表情を見せたらノワールは「やっぱりいい」って言ってソッポ向いた。
ノワール「分かるのは、貴方がいいってだけ。次、ジントはどうして私の秘書になろうとしたの?」
俺が良いのか。まあ親しい人を雇いたいって奴なのか?まあそう考えると俺しかいないっぽい。そしてついにそれを聞いて来たか。禍空間から守るって言ったらどうなるのか?そう思うと、ノワールのトラウマで厄介になる。ならこう言いすまそう。
ジント「守る為だ」
ノワール「え?」
考え無しに言ってしまった!何とかして納得いくような言葉を探して、自然に話さないと!
ジント「お前を見ていると、正直放っておけないんだよ」
ノワール「は、はぁ?どういう意味よ」
ジント「ノワールは確かに色々と天才的だ。だがよ、他の女神には持っていてお前にはない物がある」
ノワール「ネプテューヌ達には持ってて私には無い物?」
ジント「お前、あまり人を頼らないだろ?」
ノワール「···············」
あ〜も〜。俺は一体何を言ってるのか、全然分からない!ノワールは俺を見ながら目を見開いてるし、絶対変な話に··········
ノワール「そう··········かも··········」
変な話にはならなかった。ノワールは図星を付かれたかのようにちょっと気が沈む仕草を見せた。
ノワール「この際、明かすわ··········」
そう言ってノワールは上半身を起こし、座る体勢になって話し始めた。
ノワール「私ね、自分のプライドが高い故、友達を頼ろうという思考が簡単に生まれないのよ。あの時、私1人で突っ込まないさえすれば、こんなトラウマを持つ事は無かったかも知らないというのに」
ジント「ノワール、お前、平気なのか?トラウマの話を····· 【扉】の話をしても」
俺はノワールが禍空間の話を自らの口で話している事に驚いた。そもそもあの時、ノワールが気を乱し、呼吸困難に落ちた時から最近、危険な状態になる事は少々あったが、学校に入学してからその様子は見ていない。
ノワール「あのね、私はこれでも誇り高きラスティションの女神よ?今なんて【扉】に対する恐怖心より、ユニの神獣化がの怖いわ」
ジント「そうなのか」
ノワール「うん。私は昔から人を頼る事が大の苦手だった。何もかも大事な場面は一人で成し遂げようと変に気を貼っていた。犯罪神マジェコンヌの戦いで、ネプテューヌから仲間の大切さ、頼る事がどれだけ為になるのかを習ってから、少しは頼るようになれた。でも、あの時、私はまた昔に戻ってしまった」
ジント「あの時?」
ノワール「ダークホワイトに敗れてから、物理だけじゃなく、私の精神や心も攻め込み、粉々に踏みにじり、恐怖心を覚えた、その時から」
ノワールがあの時、頭を流血させたあの時の出来事か。やっぱり原因はあいつだったのか。
ジント「そうだったのか、でも俺がいるからもう大丈夫だ」
ノワール「え?」
ジント「俺がノワールの秘書になろうとした理由は、ノワールを【扉】から、禍空間から守る為なんだ」
ノワール「私を·····守る?」
ジント「俺は女神様の笑顔が好きだからな。ノワールのプライドの高さの事もあって、秘書になる事にしたんだ。俺が一生懸命ノワールの背中を押せば、きっと友達を頼れるような自分になれるだろうと思って·····うぉ!?」
突然、ノワールが俺に抱き着いてきた。俺の語り途中に起きた事もあって俺は驚いたが、ノワールは苦しくなるくらいに俺をギュッと抱き着く。
ノワール「····くっ····」
ジント「ちょ、ノワール?」
ノワールは嗚咽をしながら顔を隠すようにして俺の胸にぴったりくっ付く。その様子は泣いているように見える。ノワールは言葉を話さず、ただ泣き声を我慢して嗚咽を続ける。
ジント「よしよし」
俺はノワールの頭を満足させるまで撫で続けた。俺の目の前にいるのは、いつの間にかトラウマを乗り越えたノワール自身と暖かい女神様の温もり。この状況が、俺が決めていた存在意義が成り立った瞬間だと俺は自分に言い聞かせる。その時だった。
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???【素晴らしい光景。やはり我が認めた者だ】
ジント「·····っ!?」
ノワール「えっ?」
突然、天井の何も無いとこから緋色の光が輝き放つ。その光が広まり、俺とノワールを飲み込む。そして気付くと、場の景色は宇宙の銀河、渦巻く星の世界が見える場所に変化した。その状況に俺とノワールは宙を浮遊している。
《FinalFantasy12 Abandoning Power》
△
ノワール「ここは?」
???【ここは我が見せる銀河空間】
ジント「こ、この声は··········あの時の!?」
俺にはどこからか聞こえるこの声に聞き覚えがある。忘れはしない。声の正体を思い出した時、緋色の光が見出され、その姿が目の前に現れた。
ジント「あの時の光は·····お前なのか?」
???【久しぶりだな。時空王、いやジントと呼ぶべきか】
ノワール「ど、ドラゴン?」
???【四女神の一人か。ヴィーナスの子、ノワール】
姿を現したその姿は、俺のスカーレットフォトンの姿によく似ている。いや、スカーレットフォトンの元の姿なのか?
ジント「あの時は本当に助かったぜ。お陰で人を守れるくらいにはなれた」
4年ぶりに姿を現した光り輝く竜に俺は礼を述べる。
ノワール「貴方が、ジントの時空進化の?」
???【その通りだ。我はジントの守護龍。守り抜く義務がある】
ジント「それで、久しぶりに姿を見せたけど、どうしたんだ?」
俺はノワールと共に銀河空間に連れてこられた理由を聞くと、緋色の龍は答えた。
???【気が向いたのだ。お前達が乗り越えてきた修羅場を何度も目にした。そして意が決した。ヴィーナスの子よ。我の力を少し分け与える為に呼ばせてもらった】
ノワールに力を与える為、それを聞いたノワールは「え?」とちょっと動揺していた。
ノワール「私に、貴方の力を?」
???【我はお人好しでな。先ほどの様子を見た時、我も後押しをしたくなった】
ノワール「え··········えぇぇ!?」
ジント「な、なに!?」
ノワールは顔がリンゴのように真っ赤になり、顔を隠そうとする。ってさっきの様子を見られていたのか!?
???【すまんな。我はこう見えて、遊び心を持っているからな。そのお詫びと言ってもいい】
緋色の龍は1つの緋色の光の塊を作り、それをノワールの目の前までゆっくり渡す。その綺麗な光にノワールはそっと手を差し伸ばし、触れた瞬間、ノワールに吸収されるようにして体内に入り込む。
ノワール「何これ、凄く暖かくて、気が安らいでくるような気持ちに」
???【これから現れるであろう禍々しい扉に挑む時、必ず力になるであろう】
ノワール「あ、ありがとう·····えっと」
ノワールはお礼を言おうとしているが、緋色の龍の名前がわからずに居る為、ちょっと戸惑っている。そういえば名前を聞いていなかった。
タキオン【我が名はタキオン。自己紹介を忘れていてすまない】
ジント「それ、俺に対して本当に今更だぜ?タキオン」
タキオン【ふふふん。確かにそうだな】
緋色の龍、タキオンに対してくすっと俺とノワールは笑う。
タキオン【さあ、用は住んだ。明日は例の学校であろう。身を休めるといい】
ジント「あぁ、ありがとな!」
ノワール「おやすみなさい!タキオン」
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話を終えた途端、スカーレットの全身が光だし、俺達を飲み込む。そして気が付くと元の俺の部屋に戻ってきた。
ノワール「なんか、びっくりしちゃった。まさか、ジントにあんな神々しい味方が居たなんて」
ジント「神々しい割にはちょっと面白いやつだったけどな、ははは」
ノワール「そうね。それじゃあ、私はそろそろ寝るわ。貴方もちゃんと寝なさいよね」
ジント「あぁ、おやすみ。ノワール」
ノワール「おやすみ」
「おやすみ」その一言を口にした時のノワールは、さっきまでの曇った表情は微塵もなく、満面の笑顔を見せてくれた。その笑顔は俺にとって好きな笑顔でもあった。そんな表情を守りたいと改めて決意した。
ジント『もう·····あの時のような姿にはさせねぇからな。ノワール』
俺はそう心の中で呟く。ラステイションの秘書として、お前を守ってみせる。何があってもな·····
4年ぶりに現れた秘書の龍、タキオン。気まぐれによって芽生えたその意思はノワールの背中を押すように特別な光を与えた。その光を受け取ったノワールは特別な気持ちに囲まれた。そのお陰で禍空間に対する恐怖心が薄まる事となった。しかし突然明かした新たな悩み、ユニの力である地獄の力に怯えている事知ったジントだが、それはどうするかを考え、一つの方法を思い付いた。それは··········
一方
プラネテューヌでは一つの不可解現象が起きていた。
次回
Episode08 謎の影
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