深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase98:「救援」

 フェイトが葉月達に先行するため、バリアジャケットをソニックフォームに変え、さらに高速移動魔法である[ソニックドライブ]を使用し加速する。

 猛烈な勢いで流れ行く景色の中、フェイトは先程よりも思考がクリアに──ハッキリとしていることに気付く。

 それと共に生じる疑問。

 元の世界に帰って会えた訳ではない。けれど、葉月がずっと会いたがっていた「家族」。

 その家族の一人とようやく会えたというのに、なぜ引き留めるでも、自分達が一緒に行くと言うでもなく、ただ見送ってしまったのか。それも、自分一人では無く、その場にいた全員が、だ。

 少なくとも、あの時はそれが“当然”だと思って居た。……これが、葉月が前に言っていた「認識が弄られる」っていうやつなのかな、と、フェイトは薄ら寒いものを感じていた。

 そこで更に浮かぶ小さな疑問。

 それが何故、今このタイミングで気付くことができたのか。

 この考えに至る直前の行動を思い浮かべれば、行ったのはソニックドライブを使用して──自身の周囲に意識を向け、もしかして、魔力(コレ)だろうかと思うフェイト。

 確証はないけれど、そんな気がする。

 そう思ったフェイトは、物は試しと、葉月達に「自分の周囲に纏う魔力を強くしてみて」と念話を送り──すぐに葉月より「状況を把握できた。気付いてくれてありがとう」と返ってきた。どうやら予想が当たったようだ。よかったと息を吐く。

 そうしている内にようやく前方に人影と、恐らく敵であろう異形の影が見えてきた。

 人影は五つ。異形の影は、薄らと再び取り巻き始めている砂嵐の奥に、大きなモノが一つ。ソレと人影の間の地上に五つ。そのうちの一つは他よりも先行し、アルベルト達と思わしき人達へ辿り付きそうであった。そして、空に二つ。

 ……おかしい。

 フェイトの中に、別の疑問が沸き上がる。

 アルベルト達が出立し、“砂嵐”が消えたのは約三十分後である。それは、葉月が召喚の残時間で確認してるので確かであった。だが、今彼女が飛んできた速度と時間を考えると、とてもではないが砂漠を三十分歩いた程度の距離ではきかないのだ。

 思い浮かぶのは、初めて『第二層』に入った時に、葉月と一緒にひたすらに“上”を目指してみた時のこと。あの時は、一定の高さより上には「飛んでいる感覚はあるのに昇れなかった」。今はちゃんと追いつけたところを見ると、その場に停滞していた訳では無いだろう。けど──。

 もしかしてと思いながら、前に進みながら高度を下げるフェイト。すると、前方に見えていた人影が見る見ると大きくなる。

 次いで再び上昇。そうすると人影は小さくなり──それで確信を持ったフェイトは、空を飛ぶ異形の更に上空へ到達。その時点で先行していた敵と思わしき一体が、アルベルト達に追い付いたのが見えた。

 フェイトはその場で足を止め、足元に展開した魔法陣の上に立って、ザンバーフォームへ変えたバルディッシュを構える。空中の敵がアルベルト達に襲い掛かろうとしているのが見て取れたからだ。

 

「バルディッシュ、今の上下移動に伴う距離の変化から、角度を算出しての偏差砲撃。行けるよね?」

《Yes sir.》

「お願いね。……スパーク……スマッシャー!!」

 

 一閃。

 バルディッシュが算出した角度補正による誘導を受けながら放たれた長距離砲撃魔法は、今正に空中からアルベルト達へと襲いかからんとしていた二体の飛行型に見事に命中し、纏めて大きく吹き飛ばした。

 

(葉月、上空は距離が歪められてるみたい。出来るだけ地上近くを飛んで)

 

 すぐに葉月達に念話を送り、バリアジャケットをブレイズフォームに変えながら高度を下げ、自身もまた地上スレスレを飛んでアルベルト達の元へと向かうフェイト。

 

「皆さん、ご無事ですか?」

「君は……確か、テスタロッサだったか。今のは君が?」

 

 アルベルトの問いに「はい」と頷いたフェイトは、続けて自分がここに来た経緯を説明していく。

 葉月のスキルで、葉月と弥生が『念話』が出来るようなっているらしいこと。それで弥生からの、恐らくは無意識に送られたであろう『念話』が届いたことで、異変を察したこと。葉月達の中で速度に秀でている自分が、先行して飛んできたこと。

 フェイトは取り急ぎそれらを説明した──途中で二足歩行の陸上型眷属を倒した勇吾が合流した──ところで、先程纏めて吹っ飛ばした飛行型の様子が可笑しいことに気付き、そちらに視線を向け──そこに展開されていた光景に、言葉が止まった。

 もつれるように吹き飛んだ、飛竜(ワイバーン)の形状をした腐竜の眷属。

 それらは互いの身体に噛み付き合い、互いの身体はグシャリと重なり、腐肉は絡み、骨は絡まり、蠢く二つの獣は一つへと混ざりゆく。

 その融合速度は速く、フェイトがさせじと対処しようとした時にはすでに、二体の飛竜は、一体の竜へと姿を変えていた。

 それからすぐに──葉月となのは、咲夜が追い付き到着し、遅れてきていた四体の陸上型眷属が辿り付き、こちらへと今にも襲い掛からんと猛る頃。

 その体躯は一回り以上大きくなり、長い首と頭部がある場所には、同じ物がもう一つ。身体には後足と同じ形状、大きさの前足が生え、翼と一体化した前腕であったモノの後ろ、背中の中程からは、同じ形状の翼が生えた、二対四枚の翼を持つ、四足二頭の異形の竜。

 それは自らの新生を祝うかのように、大きく羽ばたき舞い上がり──

 

「なのは!」

「うん、フェイトちゃん!」

 

 それを迎え撃つため、フェイトと、到着したばかりのなのははすぐに再び空へと上がった。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺達が着いた時、丁度フェイトがワイズマンさん達へこちらの事情を説明している所だった……のだが、何か様子が可笑しい。

 皆の視線を追ってみれば、そこには恐らく元は二体であった敵が、今正に一体に融合しようとしている姿が。

 他の様子を伺えば、四体の陸上型の敵ももう少しで辿り付きそうになっている。不味いな。

 すぐにワイズマンさんへ声をかけ、瑞希から渡された蓄魔石を渡す。

 

「有り難い……が、君達の分は?」

「大丈夫です。『体内魔力(オド)』が多いので、そちらで何とかできます」

「しかし……解った。恩に着る」

 

 議論している時間は無いと解っているのだろう、礼を言いつつ受け取った蓄魔石を、パーティメンバーに配るワイズマンさん。

 その時、とうとう融合を終えた双頭の腐竜の眷属が空へと舞い上がり、フェイトとなのはが迎撃に動いた。

 「ごめん、頼んだ」と送った念話に、二人から「任せて!」と返ってきた。流石、頼もしい。ならば俺は、俺に出来ることをしなければ。

 空に触発されたか、こちらへ突撃しようと猛る四体の陸上型眷属。四足歩行の、翼の無い腐ったドラゴンのような姿。体高はそれぞれ、目算で三メートル弱ってところか。

 流石に、今はやてを喚んで、連鎖召喚をして……と言うような余裕はないか。

 

「ワイズマンさん! 少なくとも二体は引き受けます」

「解った、ならば残り二体はこちらで受けよう。だが、基本は前に出ず下がるぞ。奥の様子が怪しい」

 

 その言葉に砂塵の奥を見やれば、確かに何か動きがあるようだ……と思った直後、同じく奥を見ていた長良さんが声を上げた。

 

「ブレスが来ます! それに敵に増援、陸上型三体。形状二足歩行、最初に接敵したタイプと同等かと」

「やらせません! 『聖なる祝福(ブレッシング・ホーリー)』、『ディバイン・フィールド』!!」

 

 随分正確に把握できるな……と思ったが、彼が何て呼ばれているか思い出して納得もする。っていうか、このうえ追加かよ。聞けば、後足が発達して前足が小さい、恐竜のような形状の敵らしい。

 それと同時に、弥生がスキルを使って、俺達の周囲をドーム状の結界が取り巻き──ゴゥッと、奥から吹き付けてきたブレスに覆われた。

 加えて敵も向かって来ているはず。恐らくこれに紛れてか。

 

「弥生、これは物理攻撃は?」

「ある程度なら防げます!」

「了解。なら少し耐えてくれ。スキルで仲間を喚ぶ」

(葉月、咲夜さん!?)

(大丈夫! 弥生が防いだ)

(良かった……って、葉月! 敵!)

 

 弥生にこのスキルの強度を確認した直後にフェイトから念話が来たので、すぐに無事である旨を返すと、安堵の声に続いて警告が。ブレスで目眩ましされているとはいえ、上から見れば解る程度だったか。

 フェイトの言葉通り、ブレスの中から現れ、後足で立ち上がってからのし掛かるように振りおろされる腐竜の眷属の前足の鉤爪を、弥生の使った『ディバイン・フィールド』が受け止める。

 それと同時に、俺もスキルを行使する。

 

「くぅっ……! けど、まだ!」

「『多重召喚(マルチ・サモン):アルトリア』!」

 

 大量の魔力が一気に抜かれる感覚──ちょい、不味い!

 咄嗟に令呪を使ってフォロー。余剰分は体内(リンカーコア)にプール……オーケー。

 出現した球状魔法陣が砕け、中からアルトリアが現れたのと同じくしてブレスが止み、それによって周囲の状況が見えた。

 最初の一体に続き、間近に迫った残りの三体。それが正に『ディバイン・フィールド』へ激突し──ズドンッという音と共に突進は止まり、しかして防護は破られる。

 動いたのは、ほぼ全員が同時だった。

 

「突き穿て、『重装歩兵(ファランクス)』!!」

「オオオオッ! 『ブレイブ・ブレード』ォッ!!」

「吹っ飛べ! 『イグニッション・バースト』!」

 

 ワイズマンさんと大堂寺、ガーネットの声が聞こえた。彼等は、先に攻撃を仕掛けてきた一体と、左から来た一体に攻撃を仕掛けていた。アルトリアの召喚に気を割かずに行動に移してくれたのは重畳。

 俺は右から来た二体の足をバインド。次いでそのうちの一体に向かいつつ、ディバイン・ブレイドを抜剣。同時に咲夜とアルトリアに指示を飛ばす。それとともに、アルトリアには現状の説明も行っておかねば……とはいえ、こういう時に咄嗟の判断で動いてくれる……動けるのが、彼女の頼もしいところだ。

 ……まずはここの四体を先に一度退けて、ザーランドから距離を取る。それが最優先だ。その後は追加の三体。場合によってはそれ以上か。……厳しいが、やるしかない。

 

「咲夜はこっちに! アルトリアはもう一体の方を!」

 

 二人から異口同音に「はい!」と返ってきたのを皮切りに、俺達もまた戦いに突入した。




・12/1 合流前にバリアジャケットをブレイズフォームに変える描写を追加。忘れてました。

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