深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase104:「告白」

(……葉月、少し様子がおかしいけど、どうしたの? 大丈夫?)

 

 ふと、頭の中に響く声に、視線を動かし周囲をうかがえば、心配そうな表情のフェイト達。

 今はあまり心配をかけさせたくはない……かといって、嘘を吐いて誤魔化すつもりもないけれど。

 

(後で、ちゃんと全部話すよ。皆には隠し事はしたくないから)

 

 とりあえずは大丈夫、と頷いてからそう返すと、今はそれで納得してくれたか、解ったよ、と返ってきた。

 その間に、場の話題は目先の問題──すなわち、『第四層・砂漠エリア』をどうするか、に移る。

 

「つーかよぉ、第三層も大概だったけど、第四層になった途端、難易度上がりすぎだろ」

 

 愚痴るように零された玉置の文句に、「あー、それねー……」とガーネットが苦笑交じりに返事をする。

 

「元々『砂漠エリア』って、第八層……あれ、九層だっけ? まーその辺の、深層に当たる部分だったのよねー」

「それがまた、なんで次の第四層に?」

「『アーサリア』が迷宮の構造を造り替えたから。ほら、黒い雷が落ちてくる前に、迷宮が“揺れた”でしょ? アレ。で、本来ならそこに至るまでに在ったハズの階層を塗りつぶしてまで、砂漠エリアを押し上げたのは──気付いたんでしょーね、アタシ達の“切り札”に。だから、これ以上力を付けさせたくないがために、自分が最も信頼の置ける“半身”が居るエリアを押し上げて……本気で、殺しにきた」

 

 凄みを持った一言に、誰かの喉がゴクリと鳴る。

 ワイズマンさんは「なるほどな」と頷くと、しばし考え込んでから、考えを纏めるように、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

 

「現状で執れる手段を考えると、やはり総力戦……と、以前なら考えた所だが……実際に『第四層』で一当たりした上で考えるならば、挑むメンバーは厳選せねばならんだろうな」

「そうですね。少なくとも、あの酸の竜息(アシッド・ブレス)を防げる防御能力を有するか、それが出来る者がメンバーに居ること。もしくはあれを回避できるだけの機動力を持っていること、が前提でしょうか」

「加えて、高威力の攻撃能力も欲しい、か」

 

 ワイズマンさんと長良さんのやり取りに、ガーネットが「そーね」と頷いて同意する。

 

「中途半端な威力で本体を攻撃しても、腐肉が飛び散って眷属が増えるだけ……まーその前に、結界で防がれて届かないでしょーけど。

 眷属を攻撃するならまだいーけど、それでも可能なら、ただ倒すだけじゃ無くて、滅却できる威力か性質の攻撃が欲しーわね」

 

 これは以前の『神速』の報告の時にも出た話だけどね、と溜め息を一つ。

 そんなガーネットへ、稲葉さんが「念のためだけど、その理由は?」と問いかける。

 

「昨日の戦闘でも片鱗があったけど、元がザーランドから分裂したようなものだからか、ただ倒しただけじゃ屍体が迷宮に還らないで、その場に残るみたいなのよねー。で、それをザーランドが取り込んだら回復するし、生きている眷属が取り込んだらパワーアップ、と」

「だが、あまり高威力の攻撃ばかり連発すると、すぐに『体内魔力(オド)』が無くなって動けなくなる」

「……纏めると……理想は、砂漠を気にしない機動力が有って、敵のブレスを回避するか防御できる手段が有って、高威力の攻撃が出来て……昨日の雰囲気だと、眷属の数はかなり多くなりそうですから、範囲攻撃が出来ると尚良し、ですか。そして『空間魔力(マナ)』が乏しいあの空間でも長く戦える継戦能力がある人」

「いねーよそんなヤツ!!」

 

 反射的に飛び出たと思わしき大堂寺(ゆうしゃ)の叫びに、別に悪いことでもないのだけど、つい顔を背けてしまった。

 

「……あの、兄さん。もしかして誰か心当たりがあるのですか?」

 

 どうやら弥生に見られていたらしい。

 心当たりと言うか何と言うか……「あー……」と言葉に詰まりながら、チラリと隣に視線を送る。

 

「高機動で高火力……範囲攻撃でも単体に絞っても行けるとなると、うちのフェイトとなのは、はやて。あとは、レミリアもかな?」

 

 名前を挙げると、それぞれ「うん」と頷いて、レミリアは「当然ね」と胸を張る。

 咲夜はどう? と問うと、彼女は「そうですね……」と少し考え、

 

「眷属程度ならある程度纏めて処理できると思いますが、ザーランドとやらの方は何とも」

 

 中々に頼もしいお言葉である。

 続けてアルトリアの方はと水を向けてみると、彼女は微苦笑を浮かべて軽く首を横に振った。

 

「私の方は、砂漠地帯というのが少々ネックでしょうか。戦闘自体は問題有りませんが、広範囲のフィールドを縦横無尽に、というのは難しいでしょう。後ろを気にせずに私一人が斬り込んで翻弄せよ、と言うのであればまた変わってきますが」

 

 彼女の場合、本来なら『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』で薙ぎ払うことも出来るけれど、今回のフィールドだと、俺の方の魔力供給が追い付かなくなる可能性が有るから、おいそれとは使えないって言うのもあるだろう。

 と、一連の流れに皆の顔を見てみれば、稲葉さん達は然もありなんという納得顔。ワイズマンさん達は、最初驚いた表情を浮かべつつも、昨日救援に赴いた時のことを思い浮かべたのだろうか、なるほど、と頷いた。

 

「それと、継戦能力に関してだけど……稲葉さん達とは検証して話したけど、次のエリアの特性……あの『空間魔力』が無いっていうやつ。俺とフェイト、なのは、はやて。この四人はほぼ確実に、影響を無視できる」

 

 俺が名前を呼ぶのに合わせて、はーいと手を上げるなのは達。可愛い。

 それと、咲夜も影響を感じなかったから、恐らく行ける。で、咲夜が大丈夫なら、レミリアも平気だろう。そう確認すると、咲夜が「はい」と頷く。

 

「アルトリアはどうだった?」

「はい、私も問題なさそうです。保有魔力量もそうですが、そも、私には葉月が居ますから」

「……つまり、君の陣営は全員活動に問題無しということか。……詳しい理由が分かっているのなら、聞いても?」

 

 ワイズマンさん問われ、別に隠すようなものでも無いので「保有魔力量と、魔力の運用方法の違いですね」と答える。

 この世界のスキルは僅かな『体内魔力』を媒介にして、『空間魔力』を燃料として発動するのに対し、こちらの……いわゆる『特定異世界』の力は、ほぼほぼ『体内魔力』によって行使されるものであること。

 俺とフェイト、なのは、はやての四人には『リンカーコア』という、魔力を生成、貯蔵する体内器官があること。

 アルトリアは保有魔力量が多いのに加え、基本的に俺から魔力を供給していること。

 これらが主な理由だ。

 ……あー、咲夜とレミリアの理由に関しては、正直よく解らないけれど。多分同じような感じ。保有魔力……彼女達の場合は霊力や妖力だけど、それが多くて、能力行使もそれを使うから。

 と、それらのことを説明。

 すると彼は、「そういうことか」と呟いてやから暫しの間考え込み──「一つ、提案があるのだが」と、切り出した。

 

 

……

 

 

 話し合いが終わり、『マイルーム』へと帰ってきた。

 召喚の残り時間もほぼ無かったために、話をする前に一度皆を戻して一人になり、先程の話会いで決まった事柄を思い出す。

 内容を総括すると以下のようになる。

 まず『第四層・砂漠エリア』での勝利条件は、当然ながら『腐竜・ザーランド』の撃破。敗北条件は、こちらが力及ばずに死ぬこと……もそうなのだけど、ザーランド及びその眷属に、『転移陣(ポータル・ゲート)』へ辿り着かれてもダメらしい。

 ガーネットが言うには、敵に辿り着かれた場合、転移陣を通して、現在封印竜達が掌握している迷宮の支配領域を、ザーランドを媒介にした『アーサリア』の力に汚染され、奪われるだろうとのことだ。

 そのため、こちらも「ザーランドへの攻撃役」と「眷属を食い止める役」に別れる必要がある。

 そこで、ワイズマンさんが上げた“提案”になる。すなわちザーランドと戦う──倒す役割は、俺達が担うことになった。

 これは『砂漠エリア』の特性や、無視できる眷属は無視して、ザーランドに攻撃をしなければいけないということを考えると、飛行能力……それも戦闘機動で行える俺達が適任、というか、他に選択肢が無いとも言える。

 そして他の人達が、主に地上を進軍してくるであろう眷属を処理していく。先に述べたように、これも重要な役割だ。

 まぁ「自分もザーランドと戦いたい」とか、言い方はわるいけれど「あいつ等の露払いみたいに感じるのが嫌だ」って言う人達も出るかもしれないが……その辺への説明と説得は、ワイズマンさんの方で引き受けてくれるとのことだった。

 その代わりというわけではないけれど、決戦の日までに出来るだけ多くの『蓄魔石(マナ・クリスタル)』を作っておいて欲しいと頼まれたが。

 とは言えそれは、弥生の生存率にも直結するので、俺に否はない。

 そして、肝心の決戦の日は、今日から七日後だ。

 

 周囲に人の気配も無く、考え事が一段落し、頭の中に空白が産まれると、途端に様々な感情が襲い掛かってくる。

 不安、やるせなさ、理不尽への怒りが、憤りが渦を巻き、口から叫びとなって溢れ出しそうになる。

 ──ダメだ、抑えなければ。この感情に支配されてはいけない。だって、聞いたばかりじゃないか。敵は、こういった感情……想いを糧にするって。

 そんな風に自分に言い聞かせても、そう簡単に激情を静めることなどできなくて、ただひたすらに、歯を食いしばり、無理矢理に飲み込むことが精一杯で。

 このまま黙って座っていたら、気が狂うんじゃないか……なんて考えと、いっそその方が楽になるんじゃないか、なんて考えが浮かんで──馬鹿なことをと、思わず笑いそうになる。

 ダメだな、こんなんじゃ。今はきっと、考え込まない方が良い。身体でも動かして、無心になろう。そう思って、ディレイが終わるまでの間、素振りなどの基礎鍛錬に時間を費やした。

 ──無心になんてなることは出来なくて、ずっと、今までの日々が浮かんでは消えていったのだけれど。

 

 ──気がつけば、ディレイの時間が終わっていた。

 汗を流してから、再度皆を召喚しようとして──アルトリアに念話で、先に自分を喚んで欲しいと言われた。

 今日のサブパートナーはアルトリアがベースなので、良いよと要望通りに召喚すると、彼女は真剣な表情で目の前に近づいて来て──おもむろに、抱き締められる。

 鎧を纏っていないドレス姿だから、彼女の体温が直に感じられて、“人の存在”を、強制的に実感させられて……何を──と言おうとした矢先、俺の言葉を制するように、「ハヅキ」と耳元で名前を呼ばれる。

 

「──忘れないでください。貴方は、独りではないのですよ」

 

 掛けられた言葉は、ただそれだけで──けれどなぜか、深く心に刺さった。

 そこでようやく、アルトリアはこの部屋にずっと居たことを思い出す。

 ……いや、違う。そんな、当たり前のことに気がつく余裕すら無かったのか、俺は。

 「ありがとう」と言った俺に、アルトリアは少しだけ身体を離すと、真正面から見つめてきて、何を確認したのかは解らないが、「はい」と頷いて、俺から離れた。

 

「では、フェイト達を喚びましょうか」

 

 アルトリアに促されて、皆を喚ぶ……と、その前に、今回は皆の顔を見て話がしたいため、追加でソファを購入し、テーブルを囲む形で置いた。

 そして、皆を喚んでから座るように促して──「聞いてもらいたい話があるんだ」と切り出した。

 話すのは、あのときガーネットが話す裏で語られた、グライスフィードの話。俺が召喚された、本当の理由。

 

 

……

 

 

「……そん、な……そんなのって……だって葉月は、ずっと、家族の所に帰りたいって……そのために頑張ってきたのに」

 

 全てを話し終えたあと、暫しの静寂の後に、フェイトの愕然とした声が漏れる。

 うつむいたフェイトは肩を奮わせて──ぽたりと、雫が落ちるのが見えて。

 なのはも、はやても、今にも泣きそうな顔で。

 アルトリアも、咲夜も、リインフォースも、沈痛な表情で。

 普通の“人間”にはきっと冷淡であろうレミリアも、酷く真剣な眼差しでこちらを見つめていて。

 俺のためにそんな想いをさせてしまったことが、申し訳なくて──そんな風に思ってくれていることが、有り難くて。

 「ありがとう」と、自然と口を吐いてでた。

 

「けど、良いんだ。……いや、違う。俺は、これが俺の役目で良かったって思っている」

「どうして……!」

 

 伏せていた顔を上げて、涙に濡れた瞳でこちらをみるフェイトを、じっと見つめる。

 視線を、なのはに、アルトリアに、咲夜に──はやて、リインフォース、レミリア。みんなの顔をしっかりと見て。

 「簡単なことなんだよ」と、想いを告げる。

 

「皆と出逢って、話をして、触れ合って……今までの日々を思い返してみたらさ、解ったんだ」

「……解ったって、何を……?」

「ん……俺は、皆のことが大好きだって。突然こんなところに喚び出して、見返りも渡せないのに、力を貸してくれて……そんな優しくて、大好きな皆の世界が……暮らす場所が、このままだと危険に曝されることになる。けれど、俺ならそれを止められる、守れるかもしれないんだ。だったら、やってやるって思った。俺が、守りたいって思ったんだ。……例え他の誰かが代われるんだとしても……誰でも無い、俺の手で、大好きな皆が住む場所を守りたいって」

 

 そう言い切った瞬間、フェイトと、なのは、はやてがうつむいて、涙を流して──アルトリアとリインフォースは優しげに、微笑んでいて、咲夜は、ふい、と顔を逸らした。

 そしてレミリアは……愉しげに、満足げに、笑っていた。

 

「──そうね──私達に黙って、こんな大事なことをあの場で決めてしまったのは減点。けれど、こうして包み隠さず話したことは褒めてあげる。トータルで……うん、仕方無いからプラスにしてあげましょう」

 

 そう言って、クスクスと、楽しそうに笑うレミリアは言う。「改めて、約束してあげる」と。

 

「長月葉月……この私を、召喚する者。世界を守ると豪語した者。……良いでしょう。貴方がこの世界で辿る道行きを、最後まで見守ってあげる。大丈夫、ちゃんと力も貸してあげる。だから──最後まで、その心のままに進んでみせなさい」

「ああ、必ず」

「ん、宜しい。……それで、貴女達はどうする? 彼が一世一代の決意を告白してくれたのに、水を差す? それとも、応えるのかしら?」

 

 まるで挑発するように言うけれど、その実それは激励なのだろう。

 不器用な人だ、なんて思った矢先、フェイトが顔を上げて涙を拭う。

 

「私は──最初から、変わらない。今までも、これからも、ずっと。葉月……前に言ったよね? 私達が、必ず帰してみせるって。その想いは、今も変わらない。例え葉月と元の世界との繋がりが切れてしまうんだとしても……それでも、私は葉月を帰したいって思う。だけど……だけど、それでも、それが適わないんだとしたら……その時は、私が……私達が、葉月の帰る場所になる」

 

 そう言って、「ね、なのは、はやて」と声を掛けると、二人もまた顔を上げて、頷いて。

 

「そうだね。……わたしたちの世界との繋がりが切れないんなら、葉月さんをこっちに呼ぶことだって出来るはずだよね」

「そうやね……うん、その通りや。私達が落ち込んでも仕方あらへん。だったら、やれることをやるべきやね」

 

 ……ああ、本当に。

 

「咲夜咲夜、ほら、いいの? このままじゃ彼をあっちに取られちゃうけど。ここは「ぜひ我々の紅魔館に」って誘うべきじゃなくて?」

「……おや、お嬢様の許可がでましたか。では葉月さん、ぜひ我々の紅魔館にいらしてください。たっぷりとお持てなししますよ?」

「……開き直ったわね……つまらないわ」

 

 ……本当に、優しくて──俺は、人に恵まれたと、心から思う。

 

「ねえ、葉月……私も、葉月のことが大好きだよ。だから、最後まで葉月と一緒に戦う。葉月の力になるよ」

 

 ──だから、最後まで帰ることを諦めないで。そう言って、フェイトは綺麗な微笑みを浮かべた。

 

 

 

※※【スキル】がレベルアップしました!※※

 

『召喚師の極意・Lv5』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長され、スキル使用不能時間(ディレイ)が減少する。被召喚者に能力補正++。召喚者が持つ【スキル】及び【称号】による効果を、被召喚者にも若干適用する。

──絆を結び、縁を紡げ。それはやがて、明日へと繋がる希望とならん──。

  ・『絆を結ぶ程度の能力』との複合効果:【スキル】及び【称号】の適用効果を強化する。

 

 

※※新たな【派生スキル】を獲得しました!※※

 

多重召喚(マルチ・サモン)限界突破(オーバードライブ)』:『召喚可能サブパートナー』にあるサブパートナー及びその連鎖召喚対象全員を、あらゆる召喚制限を無視して各々の最大時間分召喚する。全員の召喚を終えた直後より72時間、ユニークスキルが使用不能になる。

前提スキル『キャラクター召喚・Lv4』『召喚師の極意・Lv5』

 

 

 

◇◆◇

 

 

 ──八神邸、リビングにて。

 ソファに座ってシグナムと談笑していたはやてが、不意にビクリと身体を震わせた。

 丁度話も一段落していたところだったからか「ちょっとごめんなー」と断って、「シャマルー、シャマル-!」と席を外していたシャマルを呼ぶ。

 主はやては、大分明るくなった、とシグナムは思う。

 なんでも、異世界とやらに精神が召喚されて、そこで、消えてしまったもう一人の家族──主に『リインフォース』と名付けられた友と、再び逢うことが出来ているのだとか。

 そこで、あの時言えなかったこと、言いたかったこと、これから話したいこと……色々なことを話すことが出来ているから、こちらではもう逢えないのだとしても、哀しみに暮れることはなくなったのだろう。

 良いことだ、とは思う。けれど、すこし悔しいとも思う。

 ──いつか、主はやてをここまで元気づけてくれた青年──どうやらあの時、自分が蒐集した彼らしい──と、もう一度会ってみたいものだ。

 今はシャマルに、何やら物へ魔力を籠めるやり方を教えてもらおうとしている主を見ながら、そんなことを思った。

 

 

◇◆◇

 

 

 ──幻想郷・紅魔館。

 

「フ……フフッ……アハハ! アハハハハハ!!」

 

 その時、レミリアは不意に頭の中に流れ込んで来た“記憶”に、一瞬目を見開いて、すぐにその表情を楽しげに染め、笑い声を上げた。

 愉快であった。この上もなく。

 自らを犠牲に世界を救う決意をし、仲間達は、そんな彼を決して諦めないと、彼が世界を救うのならば、自分達が彼を救ってみせるとあがき続ける──なんて王道(ベタ)な、月並みな英雄譚(ヒロイック・サーガ)

 だが、それが良い(・・・・・)と、レミリアは笑みを深くする。

 きっと咲夜に話を聞くだけであったならば、軽く聞き流して終わったであろう。

 それが、自らが当事者になった途端、これほどまでに心を揺さぶられるのか。

 ああ本当に、あの時運命を弄る決心をした自分を褒めてやりたい。……ただ惜しむらくは、もっと早くに喚ばれるようにならなかったことだろうか。

 恐らく彼の『冒険』は、じきに最終局面(クライマックス)を迎えるだろう。それが今の階層を終えた後か、それとも次の階層を終えた後かは定かでは無いが、そう遠くないうちに。そんな予感がする。

 

「ああ、勿体ない」

 

 キラキラと輝く宝物のように煌めく様を、出来ることならば何時までも見ていたいものだと、ほぅ、とレミリアは息を吐き──

 

「……大変よ、咲夜。レミィが壊れたわ」

「……わたし、“壊して”ないよ? さすがにそういう壊し方は出来ないし」

 

 この場に自分以外が居たことを思い出し、「うるさい、黙りなさい」と顔を赤くした。


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