『
色々確認してみると、どうやら軒並み一時間ほどの延長と『召喚士の極意』のレベルアップ、新しい派生スキル『
そも『召喚士の極意』が前のレベルになったのも、『
……これに関してはあの、自らを封印竜の長『グライスフィード』と名乗った白い少女に訊いたら、何か解るのだろうか。
まぁ彼女とコンタクトを取る方法が解らないんだけど──と考えたところでふと思う。
彼女は、俺の中に身を寄せて俺のことを見ていた、と言っていた。
そしてあの時は、俺の心に直接届けるように語りかけてきた。つまり──
(……グライスフィード)
──!
反応は顕著だった。
意を決して、自分の中に向かって念話をするような感覚で語りかけてみれば、明らかに自分とは違う、ビクリとするような感覚が伝わってきて。
──驚きました。まさか貴方の方から話しかけてくださるとは思わずに……失礼致しました。
続けてそんな言葉が聞こえて……じゃないな、伝わってきた直後、ゆらりと俺の正面──座っているソファの向かいに、白い少女の姿が浮かび上がる。
一連のやり取りで改めて、本当に俺の中に居るんだなとも思う。まぁそれに関してはいいや。
ともあれ折角反応が有ったので、今し方考えたスキルの成長と習得速度に関して訊いてみると──「なるほど、お話は解りました」と返答。それから僅かな間を置いてから、ですがと続けられる。
──少なくとも私達は干渉していません……と言うよりも、今回の件に関しては普通は干渉出来ない類いのものです。
その言い回しに何となく引っかかるものがあったので詳しく聞いてみると、どうやらこういうことらしい。
まず『召喚士の極意』だが、これは召喚系の技能を扱う者が身につける可能性の有るスキルで、成長の条件に主として「召喚対象との絆の深さ」が関与しているとのこと。そのため、短期間に急速に召喚対象と絆を深めれば、比例して短期間でスキルが成長する可能性はある。そこに外部的に手を入れるとなると、召喚対象との絆……つまりは、人の心の動きに外部から無理矢理干渉することになるため、必ず不自然な部分が出てくる。そしてそういう「不自然さ」がスキルの成長に関しては障害になるため、このスキルを外部干渉によって無理矢理成長させるというのは、普通に考えれば無理なのだとか。
そして『多重召喚・限界突破』だけど、これは扱いとしては【ユニークスキル】である『キャラクター召喚』の派生スキルだが、恐らく本来の扱いとしては、派生スキルである『多重召喚』からさらに派生したスキル、となるのだと思われる。
つまりは『多重召喚』をもっと使い込んだ果てに使えるようになるスキルのはず、とのこと。
「思われる」とか「はず」とかが多いのは、これが【ユニークスキル】……即ち、多くの人が使えるようになる普通のスキルではなく、俺の魂の有り様から産まれたスキルであるから、あくまで推測的にしか話せないということ。
こちらに関しても、今し方述べたように【ユニークスキル】は、記憶や精神といったものよりも更に深い『魂』に起因するものであるため、外部から干渉することは出来ないのだとか。
俺がこちらの世界に喚ばれた際に、身につける【ユニークスキル】に影響を及ぼされたというのはどうなのかとも訊いてみたが、それも「召喚直後の不安定な状態」であり「身につけて欲しいスキルの方向性を示す」程度という、限定的な条件が前提の干渉が精一杯だったとのことで……追い詰められての手段とはいえ、綱渡りすぎるだろと思ったのは言うまでもないことだろう。
ともあれ、グライスフィードが言うには、どちらのスキルも外部からの干渉は“普通に考えれば”考えられない。特に俺の場合、二度の『
……それを聞いた時、脳裏に“ある人物”が浮かんだのだけど……
◇◆◇
ディレイが終わり再びフェイト達を喚んだ後は、迷宮へと向かった。
最終的な必要数が分からない最優先事項とはいえ、流石に最後までずっと『蓄魔石』作りだけというのは、気分も滅入るし身体も鈍る。そのため、一日一度は迷宮へ行き、戦闘勘を鈍らせないようにするのだ。
と言う訳で、フェイトとなのは、リインフォースとユニゾンしたはやてとともに、第二層へと行った。
「森歩きは辛くないか?」と訊いた俺に、「今は歩くことが楽しいんよ」と笑って答えたはやてが印象的だった。
そして翌日。サブパートナーはアルトリアを喚ぶ日だ。
彼女の場合『蓄魔石』を造っている間は完全に暇にさせてしまうのが申し訳ないところ。
召喚した彼女にそれを告げると「こればかりは仕方有りません」と苦笑しつつも言ってくれるのだけれど……いっそのこと『蓄魔石』はディレイの間にやろうかとも思ったが「気を遣っていただけるのは有り難いですが、それで本来の目的を蔑ろにしては本末転倒ですよ」と窘められた。ごもっともです。
──そんなわけで、作業を始めてからしばし。
「ハヅキ、貴方に聞いていただきたいことがあるのですが」
俺達の作業を静かに見ていたアルトリアが、不意にそんなことを言ってきた。
雑談などではない雰囲気に、手を止めて居住まいを正して向き直り、先を促す。
「ハヅキは、初めに話した“今の私の状態”について覚えていますか?」
「えっと……アルトリアの存在自体が、複数の平行世界の『アルトリア』が世界に残した、想いや意志のような要素を集めて形作られたことと、世界ではなく“俺”に括られていること、かな?」
俺の返答に「概ね合っています」と頷いたアルトリアは「それでですね」と続け、
「先日、フェイト達の世界に喚ばれた際、“黒い私”が居たのは覚えていますね?」
「うん」
「ついこの前のことだし……そうじゃなくても、流石にあれは忘れられないよね」
問い……と言うよりは、確認するようなアルトリアの言葉に、フェイトとなのはが首肯して。
「あの存在ですが、どうやら“この私”から負の想念と言いますか……例えるならば、かつて聖杯を手に入れられなかったり、志半ばで戦い敗れた際の無念、結末への後悔……そういったマイナスに類する要素を吸い出し、集めて写し取り、喚び出したもののようでして……」
「俺から蒐集した能力で喚び出したものだから、そんな感じじゃないかとは思ったけど……ってか、そういうのって解るんだ?」
「解ると言いますか……終わってから解った、と言った方がいいですね」
どう言うこと? と疑問を呈した俺に、アルトリアは考えを纏めるように言葉を続けて行く。
「……ええとですね……そう言った存在であるアレを自らの手で倒す……言うなれば、自らの“弱さ”を超克したことによって、“私”という存在が深化……いえ、昇華、でしょうか……申し訳有りません、表現が難しいのですが……結論を言いますと、ハヅキ。貴方との“繋がり”がより深くなったようでして」
その感覚を覚えたことにより、アレの正体というか、存在の有り様が理解できたと言うことらしい。
「その“繋がりが深くなった”ことによって、行動に何か影響は?」
「行動に関しては特に。他の影響としては二点でしょうか。一つは……先に言いましたが、今の私は、以前よりも深く貴方に括られ、繋がっています。そのため、貴方とあの白い少女……『グライスフィード』と名乗った者の姿や言葉も全て認識していました。そしてもう一つ、私という存在は、貴方が居るからこそ此処に在ります。故に、貴方がその命を落とした時、私もまた共に消え去ることになるでしょう」
それは、と言葉を詰まらせた俺に、アルトリアは静かに頭を振って言う。
「……正直、これは言うか迷ったのですが、貴方は我々に、自らのことについて隠すことなく話してくれました。だからこそ、私も伝えておこうと思ったのです」
「ねえ葉月。これからは、今まで以上に気を付けて行かないとだね」
「ああ。“死ぬ気で”とか“命に代えても”なんてことは言わないよ。何が何でも生きてやるって気持ちでやるさ」
「……はい。期待していますよ、ハヅキ」
もちろん、彼女が「自分が消えたくないから言った」なんてことは思わない。俺を心配して言ってくれているってことは、重々に承知している。
「貴方に何か有ったら、悲しむ人が大勢いる」か。……前にも言われたな。心に刻んでおかないと、な。
「そういえば、アルトリアはグライスフィードのことも見たりしたんだよな? 俺からの伝聞じゃなく、実際に見てどう思った?」
「そう、ですね……信頼はまだ出来ずとも、信用はしても良い……とは思いますが、彼女達が“かつての私に似ている”から、そう思うのかもしれません」
「似ている?」
「……かつて私は、
そう言って苦笑を浮かべたアルトリアは、しばし瞑目してから、言葉を続けた。
「そしてきっと、彼女達もまた。『ザーランド』という存在自体は致し方無いにしても、それと融合し、世界を終わりへ導いた者……『ファルファタ』でしたか。それは間違いなく彼女達の世界で生まれたもので……それにより、自分達のみならず、他の世界にまで“悪意”を広げてしまうことになってしまったこと。そして、それを封じるために、自らの手で世界を終わりへと導いたことによる責任感と罪悪感。その果てに彼女達が掴んだ“救い”こそが……言うなればハヅキ、貴方は彼女達にとっての『聖杯』なのかもしれません」
そう静かに語ったアルトリアは、ああと静かに嘆息すると──そっと、俺の手を取って。
「──だとしたら、私は──あれほど求めた『聖杯』を、いつの間にか手にしていたのですね」
見惚れる程に柔らかで、静かな微笑みを浮かべていた。
戦闘までもう一回とか言いましたけどここで一回切ったほうが良さそうな。
なのでもう一回ワンクッション挟んでザーランド戦です。ごめんなさい。