深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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感想いろいろありがとうございます。
有り難く読ませていただいております。


Phase109:「流星」

 空に蔓延っていた腐竜の眷属達は粗方倒せた。後ろに逸らしてしまったものもそれなりには居るが、それに関しては葉月達を信じるしかない。

 そうしてフェイト達は、いよいよザーランド本体へと向かう。

 天高く聳え立つ砂嵐へと近づくにつれ、それは鳴りを潜めて消えていき、とうとうおぞましき腐敗の竜が姿を現した。

 『徘徊する悪夢(ナイトメア)』腐竜・ザーランド。一つの世界を滅ぼした、悪意の化身『アーサリア』の半身とも言えるモノ。例えそれがそのものではなく只の残滓と言えども、強大にして強力な敵で有ることは間違いない。

 体高は十メートル半ば程か。現代の建物で言えば、四階建ての建物ぐらいだろうか、と見て取れた。しかして、そこから感じるプレッシャーは遥かに強く、その身体を何倍にも大きく錯覚させる。

 対するフェイト、なのは、はやての三人はザーランドよりも高空を取って滞空しながら向かい合った。

 

「──■■■■■■■──!!」

 

 そんな彼女達に対し、最早音にもならぬ咆哮を上げ、自らに近づき、あまつさえ“上”を取る不遜な者達へと“悪意”を向けるザーランド。

 一方で、常人であれば身動きすら取ることが出来なくなるであろう圧を向けられたフェイト達は──

 

「行こう、なのは、はやて!」

「うん、フェイトちゃん!」

「了解や!」

 

 その程度(・・・・)のものに怯むことも、ましてや呑まれることもなく、直後に放たれた広域に広がる酸の竜息(アシッドブレス)を回避。激しい攻撃の応酬が始まった。

 フェイト達はプラズマランサーやディバインシューター、剣状の魔法弾(クラウ・ソラス)のような射撃魔法で牽制や様子見を行いながら、砲撃魔法を交えて攻撃していく。

 加えてフェイトは斧形態(ブローヴァフォーム)の実体刃、あるいは大鎌形態(クレッセントフォーム)の魔力刃による近接攻撃も交えて行く。

 一方でザーランドは、先に放った広域に放射する形の他に、魔力で弾丸のように押し固めたものや、レーザーのように細くも速く、そして連続照射する形状で放つなど、酸の竜息(アシッドブレス)だけでも複数の攻撃形態を使い分け、加えて近づけば尾の振り回しや噛み付き、体当たりなど巨体と質量を用いた攻撃や、顔の前に発生させた魔法陣から魔力を直接砲撃として放つ魔力砲など、多彩な攻撃を繰り出してくる。

 特に厄介なのは、その身を包む魔法障壁であろう。

 物理、魔法を問わずこちらの攻撃を防ぎ、相手の攻撃は素通りさせる、言うなれば絶対防御の守護結界。

 だからとて攻め手を緩めれば、その身体から地上型、飛行型を問わず何体もの腐竜の眷属が産まれ続け、物量で圧殺せんと蠢き出すのだ。

 それでもフェイト達は、勝機を捜し、チャンスを掴む為に果敢に攻め続ける。

 

 

◇◆◇

 

 

「──ォォ──ガァッ─!」

 

 歪な咆哮を上げながら、大きく発達した後肢で二足で駆け、長い尾を持つ恐竜のような姿の『腐竜の眷属』が、『プレイヤー』の一人へと襲い掛かる。

 大きく口を開けて食らい付いてくるのを左腕に着けた大盾(ラージシールド)で防いだ男は、右手に持った長剣へ炎を纏わせて、眷属の首へと叩き込んだ。

 炎剣は首を焼きながら半ばまで埋まるも、切断までには至らない。

 

「燃えろぉ!」

 

 男が吼えた瞬間、彼の持つ炎剣の炎が大きく燃えさかり、眷属の躯を包み込むように燃やす。

 普通の生物であれば致命傷。されど腐竜の眷属は、その元となるザーランドと同じように“アンデッド”でもある。

 首に刃を埋まれ、躯を燃やされたまま、躯を大きく回した腐竜の眷属は、その長い尾で男の足を払う。

 

「まだ動けんのかよっ!?」

 

 砂の上に背中から倒れ、無防備に曝された頭。そこに食らい付かんと腐竜の眷属の顎が迫り──

 

「しまっ……!」

「──シッ!」

 

 ──白百合が舞い踊る。

 白いドレスアーマーを翻したアルトリアが、最速に、最小限の動きで風の鞘に包まれた不可視の剣を差し込み、敵の頭をかち上げる。

 そのまま流れるような動きで振り抜かれた追撃が、跳ね上げられた敵の横っ面へと叩き込まれると、ズドンッと剣戟とは思えぬ音と威力を発し、頭部を爆散させた。

 続けて頭部を失った腐竜の眷属の躯を蹴り飛ばし、それが動かないのを確認すると、男へと顔と向ける。

 

「無事ですか?」

「は、はい!」

「敵は不死者(アンデッド)です。最後まで油断しないように」

 

 男が立ち上がったのを見てそう言い残し、アルトリアは次の敵へと駆けて行く。

 その背中をぼうっと見送った男は、「……やべぇ、惚れるわ」と呟いた。

 なお、この後駆け寄って来たパーティメンバーに「突出すんな」「油断すんな」「ボウッとすんな」とドツキ回されたようだが。

 

 

……

 

 

 一方で空中においては、葉月など空を飛べる能力を持つ者と、飛行型の腐竜の眷属が戦いを繰り広げていた。

 翼竜──恐竜でいうプテラノドンのような腐竜の眷属が、鋭い爪と嘴で襲い掛かり、前肢が翼と一体となった飛竜──ワイバーンタイプの眷属が、ザーランドに劣るとも強力なアシッドブレスを吐き掛ける。

 翼の生えたリザードマン──竜人(ドラゴニュート)のような眷属が骨のスピアで格闘戦を仕掛け、翼の生えた蛇のような眷属が、毒のしたたる牙を以て噛み殺さんと飛び掛かる。

 そんな敵の最中を、すり抜けるように飛び回る少女が居た。葉月とも幾度か交流のあるハルナだ。

 ユニークスキル『空転の翼』によって背中から生やした翼を羽ばたかせながら、敵を引き付けるように動いている。

 

「このっ!」

 

 翼竜型眷属とすれ違い様に手に持った杖から風の魔法を放つと、敵の動きを阻害。直後に翼から羽を弾丸の様に放ち、三体の眷属にきっちり一発ずつ突き刺した。

 とはいえ羽の弾丸はそれほど威力はないのか、眷属達に怯む様子はなく、ハルナを追いかける。

 彼女は後ろの様子を伺いながら、次いで別の竜人型眷属二体へ同様に羽の弾丸を放ち、引き連れて行く。

 そのまま指定されたポイントに辿り着いたところで──

 

「『空転』!」

 

 派生スキルを発動。

 敵に突き刺さった彼女の羽が光を放った直後、敵の天地が空回った(・・・・・・・・・)

 その敵の主観でしかないが、天が地に、地が天に。次の瞬間には右が天に、左が地に。ぐるりぐるりと世界が回る。

 

「──ッ─グガッ!?」

 

 突如訪れた異常な感覚にまともに飛べなくなった腐竜の眷属達は、その場で動きを乱す。

 ほぼ同時に五体全てが進路を互いへと(・・・・)向け──激突。一塊となった。

 その瞬間、眷属達の周囲に展開される“力”。

 

「お見事です」

「まぁ、褒めてあげましょ」

 

 そんな言葉と共に放たれた、咲夜の霊力弾とレミリアの妖力弾。

 合わせて数十に及ぶ『弾幕』が腐竜の眷属達へと叩き込まれ──数瞬後には、肉片一つ残らず消滅した。

 

 

◇◆◇

 

 

 先に述べたように、ザーランドもそうであるが、そもこの迷宮世界の元となった世界において、『竜種』という存在は常にその身の周りに、強固な魔法障壁を張り巡らせている。それは『竜種』の中の位が高くなればなるほどに強度を増す。

 『腐竜ザーランド』の元となった『次元竜ザーランド』は、亜種……否、この世ならざる竜(・・・・・・・・)であり、この世界において最上位の竜種である『封印竜』をも凌ぐモノ。頂点の一角であった。それはすなわち、張り巡らせている魔法障壁もまた絶大であると言うことであり、元来の強度の障壁であれば、決して破ることの適わぬものであっただろう。

 しかし不幸中の幸い、とでも言おうか。今ここにフェイト達が相対している『腐竜ザーランド』は、『次元竜ザーランド』として一度滅びて『腐竜』と成り果て、そしてその『腐竜』としてもまた一度滅ぼされた後に、力の残滓を集め、『アーサリア』が己の力とこの迷宮の機能を用いて再現した劣化品(・・・)である。故に、その魔法障壁もまた、元来のものとは比べるべくも無く弱体化したものになっていた。

 ……とは言え、それでもなお強大な強度を有しており、今までフェイト達が撃ち込んだ攻撃も全て、碌なダメージを与えることなくその障壁に散らされてきていたのだが。

 荒い息を上げる少女達。対して『腐竜』は既に先陣として、多数の眷属達を他の『プレイヤー』の元へと向かわせているにも関わらず、その足元に、周囲に、新たに生み出した眷属達を蔓延らせながら、泰然と立ち塞がる。

 

 まるで無限かと思わせる眷属たち。加えて本体にこちらの攻撃は通らず、対して相手の攻撃が当たれば、こちらの防御を紙のように引き裂いて致命打を与えてくるだろう。

 一見すれば、絶望的な状況。外から観測するものが有れば、彼女達に為す術はないと判断するかもしれない。そんな状況であった。

 ──けれど。

 

「バルディッシュ……ザンバーフォーム!」

《Get set》

 

 フェイト・テスタロッサは。

 

「行くよ、リイン!」

「はい、我が主」

 

 八神はやては。

 

「レイジングハート! エクセリオンモード……ドライブ!!」

《Ignition》

 

 高町なのはは。

 ──少女達は、決して諦めたりはしていない。

 確かに、今まで行われた彼女達の攻撃は、悉くが魔法障壁に防がれた。

 しかしてその一撃一撃は、確実に障壁へと負荷を掛け、同時に彼女達は、ザーランドの障壁への“手応え”を確実に捉えていたのだから。

 勝負を賭けるのは──今。

 

「なのは。私が守るから、安心して」

「周囲の取り巻きは、私達が蹴散らすよ」

「うん、フェイトちゃん、はやてちゃん」

 

 頷きあった三人の足元に、それぞれの魔力光を発する魔法陣が現れる。

 そして三人が発する不屈の気配を感じ取ったかのように腐竜もまた、いつまでも己に刃向かうことを止めない者達へ向け、その全てを呑み込まんと動き出す。

 先陣を切って大地を這う者達が、周囲を飛び交う者達が──腐竜の眷属達が、大挙して進み出した。

 おぞましき津波の如きその者達へと相対するは八神はやて。

 彼女は迫り来る敵に怯むこと無く迎え撃ち、その手を高々と掲げる。

 

「リイン、効果範囲と味方識別設定ええか?」

「問題ありません、我が主」

 

 夜天の主従の短いやり取りの後に、掲げた手の先に魔力の塊が生成される。

 次いではやては、その魔力塊へと更に魔力を注ぎ込み──流し込まれた魔力によって一気に膨張したそれは、限界まで膨らんだ直後、一瞬、極限まで収縮し──

 

『デアボリック・エミッション!!』

 

 はやてとリインフォースの声が唱和する。

 彼女を中心に球状に膨れ上がった魔力は、迫り来る腐竜の軍勢をその内に飲み込むと同時に、魔力攻撃を叩き付けていく。

 はやてが放ったそれは、術者を中心とした球状の一定範囲の空間全体を攻撃する、広域空間攻撃魔法である。

 腐竜の眷属達のほぼ全てを飲み込むほどの広範囲に展開されたデアボリック・エミッションは、腐竜の眷属達へと少なくない打撃を与え、空を飛ぶものを叩き落とし、大地を這う者達の足を止める。

 そしてその攻撃の余波が晴れる直前──絶妙なタイミングで、なのはが動いた。

 

《A.C.S. standby》

 

 レイジングハートの発したキーワードと共に、ザーランドへ向けられたデバイスの先端ユニットの後部に、魔力によって形作られた薄紅色の四対の翼が広がる。

 

《Strike Frame》

 

 そしてさらに先端ユニットの前後に、赤く輝く半ば物質化した魔力の刃……ストライクフレームが形成される。

 ユニット最先端から伸びる前方の刃は、立ちふさがる障害を穿ち貫く槍となって。

 ユニット後方に広がる刃は、未来を覆う暗雲を切り開く翼となって──

 

「エクセリオンバスターACS……ドライブ!!」

 

 ACS──Acceleration-Charge-Strike──の名称が表すそのままに、彼女の魔力光である桜色の尾を引いて、高町なのはは、一筋の流星となる!

 はやてが放ったデアボリック・エミッションの余波が残る中を斬り裂くように高速でザーランドへと突貫したなのはであったが、しかしてそのストライクフレームの先端は、ザーランドの周囲に張られた魔法障壁とぶつかり、押しとどめられた。

 

 ──カートリッジロード!

 

 ガンッガンッガンッと三度連続で落とされた撃鉄により供給された膨大な魔力は、そのまま推進力へと回されて、ザーランドの魔法障壁が歪み、うねる。

 けれど、それでも。

 強固に張られた魔法障壁はなおも刃を防ぎ──がばりと、魔法障壁を隔ててなのはの正面にある腐竜の顎が開かれた。

 その口腔にて渦巻く魔力は集まる側から腐臭を発し、酸の竜息(アシッドブレス)へと変換生成され──

 

「疾風迅雷──!」

 

 金色が閃いた。

 

「──スプライトザンバー!」

 

 空色(・・)のスパーク光を纏う閃光の刃が、なのはのストライクフレームとザーランドの魔法障壁の衝突点に、寸分違わず振り下ろされた。

 結界破壊に特化したその一閃は、ザーランドが構築する魔法障壁に甚大な負荷を掛ける。

 そして、その前に放たれていたはやての『デアボリック・エミッション』。これは、バリア型防御魔法──術者を中心に、周囲を覆うように展開される防御魔法──を発生阻害する効果が付随されている。

 ザーランドが張る魔法障壁はその身体を覆うように展開される、フェイト達の世界を基準にするならばバリア型(・・・・)の防御スキルであった。

 厳密には同じものではない。けれど、概念を同じくするザーランドの障壁(ソレ)に対し、はやての攻撃は確かに影響を及ぼしていた。故に──

 

「──やああああああああ!!」

 

 なのはが吼え、それと同時に彼女の懐の中で、戦いの前に託されていた蓄魔石(マナ・クリスタル)が一つ、二つと砕けた。それによってもたらされた追加の魔力が最後の一押しとなり、その瞬間、限界まで負荷を掛けられたザーランドの魔法障壁を、ストライクフレームの先端が突き抜けたのだ。

 魔法障壁の向こう側。ストライクフレームの先端の先に凝縮される、濃密な魔力。

 ザーランドが酸の竜息を放つよりも一瞬早く、ザーランドの身体を覆う半円状の障壁内という、広くとも密閉された空間の内部にて、

 

「ブレイク、シューートッ!!!」

 

 なのはのエクセリオンバスターが炸裂した。

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