迸る光に舞い踊る炎。氷が吹き荒び雷が降り注ぐ。剣に槍、斧に拳。様々な武器が振るわれ『腐竜の眷属』を迎え撃つ。
そんな激戦の最中だった。戦場の一角にてずらりと並び、動きを止めた眷属達が居た。
そのどれもが地竜──首が長く四足歩行のドラゴンタイプであり、一斉にその首を上げ、魔力を集中させる動作が行われる。
「───グルァ───ォァァア!!」
「ッ! ブレスが来るぞ! 各員防御か回避せよ!」
それを目にし、その眷属達の行動の意味を察した『軍神』──アルベルト・ワイズマンが警告を上げた。
「『
アルベルトの声に咄嗟に反応した『紅蓮』──『
「
その直後に『福音』──弥生が効果範囲を拡大させた全周防御スキルを発動させると、自身のパーティメンバーだけではなく、近くに居た者達もまとめて防御結界が覆った。
中には戦闘中だった『腐竜の眷属』も取り込まれたが、それらは逆に聖属性の結界に捕らわれた形になり、戦闘力を大幅に減少させてすぐに撃破される。
それとほぼ同時に、地を這うように
弥生のディバイン・フィールドはそれを確りと防ぎ切り、弥生の他にも、例えば
他に、ガンテツのように一時的にでも空中へ上がれるものは飛んで回避したり、地属性スキルによって足元の砂を高く固めて高さを取って回避する、純粋に防御スキルで防ぐ等、事前に通告されていたように、殆どの者が何らかの防御・回避手段にて対処している。
しかし、警告が届かず間に合わなかったもの、予想よりも敵の攻撃の威力が高く防ぎ切れなかったものなど、幾人かに被害が出てしまっていた。
一方で、攻撃を防がれた腐竜の眷属達は、一度防がれたならば何度でもと言わんばかりに、再度攻撃を行おうとする。
ザーランドもそうだが、彼等にとって
再びドラゴンタイプの眷属達がブレスを放とうとし──
「させるかっ!」
「やらせない」
離れた場所で、声は二つ。
葉月が上空から
その直後、上と横からの同時攻撃によって攻撃行動を中断させられた眷属達の身体を、藤色のリングが次々と拘束する。
先程の『
動きを封じたところで、眷属達から離れた場所──ブレスを撃つドラゴンタイプが纏めて射程内に収まる位置に、葉月が降り立った。
魔法の行使に伴う魔力の隆起によって、彼の直下にミッドチルダ式の魔法陣が展開される。それを足場に確りと踏みしめ、『デバイス』代わりでもある剣を、切っ先を敵集団に向けて構えた。
ディバイン・ブレイドの剣身を環状魔法陣が取り巻き、剣身と共に光を発し、
「ディバイン──バスタァァー!!」
以前になのはが言っていた通り、この決戦の日が来るまでの間に確りと教わっておいた、高町なのは直伝の
光と雷の二重属性を持つディバイン・ブレイドを
魔法の構築式と“概念”の影響で、ディバインバスターであれば光が“主”で雷が“副”となり、主軸となる魔力砲撃が強い光属性を帯び、その周囲を雷属性のスパークが取り巻く形状を取る。
それ故に例え直撃を免れたとしても、近くに居たのであれば周囲に迸るスパークによってダメージを受けるのだ。
直撃したものはその身体を滅却させられ、直撃を免れたものも、例えそれが死した身体であったとしても──全身を駆け巡る聖属性を伴った雷撃は、その身体を硬直させて大きな隙を生み出した。
「オオオオッッ!! 『ブレイブ・ブレイド』ォォォ!!」
「おっしゃあああ!! 突っ貫っ!!」
その隙を逃さず、『勇者』──
◇◆◇
「なのは、大丈夫?」
「うん、ありがとうフェイトちゃん」
なのはのエクセリオンバスターが炸裂し、ザーランドの魔法障壁が内側から弾け飛ぶ直前、バリアジャケットをソニックフォームに変えたフェイトがなのはを連れて離脱し、安否を尋ねると笑って頷くなのは。
それにフェイトが良かったと返し、バリアジャケットをブレイズフォームに戻したところで、はやてが合流する。
「二人とも、無事?」
「うん、大丈夫だよ!」
「私も平気だよ、はやて」
互いの状態を確かめ合い三人並んで様子を伺うと、爆煙が晴れたそこには、全身を大きく損傷したザーランドが居た。
致命傷ではない。けれど、ようやく大きなダメージを与えられた。
以前の『闇の書の闇』の積層防御がそうであったように、例えそれが強力な竜種といえど、あれほどの強度と規模を持つ魔法障壁を戦闘中に簡単に張り直すのは難しいだろう。
とは言え攻め手を緩めればその隙を与え兼ねない。故に、ここは一気呵成に攻める時と、フェイト達は再びデバイスを構えた。
一方でザーランドの中では、ザーランドをこの迷宮に蘇らせた『アーサリア』にも及びもつかぬイレギュラーが起こっていた。
以前『
故に迷宮に蘇らされた『腐竜ザーランド』の中にもまた、『夢魔ファルファタ』の劣化複製体が眠っていたのだ。
そしてファルファタは、かつて死への恐怖と忌避感から、遥かに格上であるザーランドに取り憑いた上で生き延び、腐竜としての滅びを迎えた際にもその執念から世界に溶け込み『アーサリア』と成り果てた程に、“死”と“滅び”を恐れていた。
その『ファルファタ』の意識が、ザーランドの中で目覚めたのだ。
なのはのエクセリオンバスターが直撃した際に、ザーランド=ファルファタは悟ってしまったのだ。この者達は、己の天敵である、と。
『特定異世界』の攻撃だから、と言うだけではない。
彼女達の攻撃は基本的に非殺傷設定──物理ダメージを抑えるために魔力へとダメージを与えるものだ。対してこの迷宮そのものやここに生み出されるモンスター達は、魔造生物──魔力によって肉体を構築している。
つまり彼女達の攻撃は、この迷宮の
加えて葉月によって召喚されている彼女達は、彼のスキル『召喚師の極意・Lv5』とユニークスキル『絆を結ぶ程度の能力』の複合効果により、彼の【スキル】と【称号】の効果の恩恵を受けている。
すなわち──『
他にも大小様々な能力強化を受けているが、特にこの二つの称号効果は、ザーランド及びそれが生み出す『腐竜の眷属』にとっては致命的であった。
何故ならば『腐竜ザーランド』は、
「──■■■■■■■……──!」
ザーランドが呻くような咆哮を上げると、ザーランドの周囲や背後の砂地がボコリと蠢いた。
先程のエクセリオンバスターによって
だが、その規模が今までと違う。
まるで細胞が増殖するように。一つの肉片から二体、三体と『腐竜の眷属』が産まれ出ずる。
ザーランドの中のファルファタが抱いた死と滅びへの恐怖。己の前に現れた天敵共への憎悪。その内に生じるあらゆる“悪意”を魔力に乗せ、眷属の異常増殖とも言える現象を引き起こしていた。
大地に蠢き、空を覆う眷属の群。
それは一斉に──フェイト達ではなく、ある方向へと動き出した。
「あっちは……!」
「葉月さんたちの方!」
この迷宮に生み出された存在で有る以上、逃げることは叶わない。ならば、確実なる勝利を──。
“天敵”共があちらに対処するのならば、その後背を自身が突く。こちらに向かってくるのであれば、その間に眷属共が目的を達し、迷宮を蹂躙するのだ。
──ザーランド=ファルファタの失策があったならば、ここであろう。
異常増殖させた眷属達を再び取り込み、己のダメージを癒して戦っていれば。
あるいはその眷属達と共に戦っていれば。
『ファルファタ』の意識が強く出てしまったがために、取らなかった手段。
ザーランド=ファルファタにとって、先の一撃を喰らうまでは、全ての攻撃を魔法障壁によって防いでいたことも、その判断の切っ掛けの一つではあったのだが。
つまりは──知らなかったのだ。彼女達の、本当の力を。
「“アレ”は私達が抑えとくよ! ええな、リイン!」
「はい、我が主」
「お願いね、はやてちゃん、リインフォースさん!」
「行くよ、なのは!」
「うん!」
はやての宣言になのはが言葉を返してすぐ、さらに上空に上がったなのはとフェイトが並び立つ。
二人の足元に展開される魔法陣。
それぞれの魔力光が重なり合い、金色と桜色の二重光となって迸った。
その上で、フェイトがザンバーフォームのバルディッシュを、なのはがエクセリオンモードのレイジングハートを大きく振りかぶると、彼女達の周囲にいくつもの補助攻撃用のスフィアが生成される。
「N&F、中距離殲滅コンビネーション!」
「ブラストカラミティ!」
はやてがザーランドへと牽制を行い動きを抑えるなか、練り上げられた魔力が臨界に達した。
二人のデバイスが振り下ろされ──
『ファイアーー!!』
唱和する声とともに、凄まじい規模の砲撃が撃ち放たれた。
周囲の補助攻撃用スフィアからも追撃が放たれ、主砲と合流して絶大な威力となって『腐竜の眷属』達の只中へと着弾──魔力の反応爆発を起こし、そのことごとくを消滅させていく。
そして爆発の余波が晴れた時──大量に居た『腐竜の眷属』達は、文字通り“殲滅”させられていた。
ここで、『アーサリア』にとってもうひとつの“誤算”が表出する。
直前の『ファルファタ』の行動もそうだが、この『腐竜ザーランド』及びその中に居た『夢魔ファルファタ』は、如何な劣化品とはいえ『アーサリア』の元となったもの。言うなれば半身とも言うべき存在である。
故にその思考力等……“存在”の確かさは、他の
そのため、たった今行われたなのはとフェイトによる文字通りの“殲滅”に、ザーランド……特にその中で現状主導権を大きく取っているファルファタの思考に、空白が生まれてしまった。
人間でいうならば、予想外の結果に呆然とする、といったところだろうか。
当然、そのような隙を逃すものは、ここには居なかった。
なのは達と同じ高さまで上昇していたはやての足元に、ベルカ式の魔法陣が展開されている。
彼女はその中で夜天の書を開き、己の膨大な魔力を励起させる。
「彼方より来たれ、ヤドリギの枝!」
「銀月の槍となりて、打ち貫け!」
はやてと、彼女と融合しているリインフォースの詠唱が唱和するとともに、魔法陣の周囲に八つの光球が生成された。
「石化の槍──」
『──ミストルティン!』
それに気付いたザーランドが動くよりも、早く。
光球が撃ち出され、ザーランドへと突き刺さった。
四肢に翼、胴体、首筋。計八箇所に光弾が命中した直後、その着弾点を中心にザーランドの身体が石化していく。
そのものの威力や速度などはそう高くは無い。しかしその分状態異常へ特化した魔法だ。それがはやてが持つ膨大な魔力にあかせて撃ち込まれるのである。
それに加えてはやては魔法を行使する直前、
ザーランドも元々本体が持つ魔法耐性にて抵抗するが、それでも体表からやや深くを石化されることで動きを大きく制限され、暫しの間封じられるのは避けられなかった。
──多少身体が崩壊しようとも、無理矢理動くべし。
だがその時──ザーランドは、己の頭上に“星”を見た。
ザーランドを囲む様に、三方に位置したなのは達。
それぞれが足元に展開した魔法陣にてデバイスを構え、最後の魔法を行使する。
なのはの前に、魔力の星が現出する。
これまでの激しい戦いの中で空間にばらまかれた、使用されなかった彼女の魔力。
それに加えてフェイトとはやての魔力を、
「全力全開──スターライト……」
“星”を取り巻く大きな環状魔法陣が、大きく脈動し──
ザンバーフォームのバルディッシュを天へと掲げたフェイトは、カートリッジと共に
地球などの自然環境が存在する世界であれば、雷雲を喚んでその雷の力を魔力へと変換するのだが、この『静寂の砂漠』を再現した階層はそもそもそう言った“精霊力”に由来する力がない。
故に彼女は使える魔力を全て使用し、フォトンスフィアへと変換──雷撃属性の魔力となったそれをザンバーの剣身へと叩き込む。
「雷光一閃、プラズマザンバー!」
掲げた雷神の剣が、空白の世界に雷鳴を轟かせ──
夜天の書を広げ、己のデバイスである騎士杖シュベルトクロイツを掲げたはやての周囲を渦巻く魔力が、彼女の左右と直上に集束していく。
己の中に居る大切な家族──リインフォースの存在を強く感じながら、はやては想う。
彼女にとって『魔法』とは未だ非日常の存在だ。あの決戦からまだ二週間も経っていないのだから、それも仕方ないのだが。
そんな自分がここまで自在に魔法を扱えるのは、夜天の書と、リインフォースが居るからに他ならない。
だからこそ余計に、思うのだ。お別れした家族……リインフォースと共にある事が出来るこの瞬間が──それを強く感じることができる今が、どれほど貴重なものかと。
ならばこそ──その貴重な機会をくれている葉月を……自分自身も今大変な運命に翻弄されていながらも、それでも進んで行こうとする彼を助けるために。
「響け終焉の笛──ラグナロク!」
音すら失った静寂の砂漠に、終焉を告げる笛が鳴り響き──
『──ブレイカァァーーーー!!!』
重なる三つの声と共に撃ち放たれた、極大を超える三重の砲撃が──悪意を消し飛ばし、世界を揺さぶる鉄槌となり振り降ろされた。
※※新たな【称号】を獲得しました!※※
『討伐者・徘徊する悪夢』:ネームドモンスター『
BRAVE PHOENIX:アニメ版の『闇の書の闇』戦で流れた曲。映画版でいうSacred Force。勝ち確演出。
デアボリック・エミッション→エクセリオンバスターACS→スプライトザンバー→ブラストカラミティ→ミストルティン→トリプルブレイカー
ザーランド(本体)戦は闇の書戦のオマージュですね。
相手が悪かったね……。