その魔力爆発は、遠く離れたもう一つの戦場でもはっきりと──まるですぐ近くで起こったかのような“圧”をもって確認された。
爆発の規模に反して爆風や衝撃波が少なかったのは、それが物理的なものではななかったためであり、それによって巻き上げられた砂が殆ど無かったのは、この砂漠の砂もまた魔力によって構成されており、爆発によって“吹き飛ぶ”のではなく、魔力ダメージによって“消滅”しているためであった。
実は彼女達がもたらすこの“消滅”という現象。実は『アーサリア』にとっては、非常に
本来であれば、魔力によって構成された物質──
また例えばかつてであれば迷宮浅層にて回収された魔力は、最深部に封印されている『アーサリア』の元へ届くまでにかなりの量が迷宮へ吸収され、目減りしている状態になっていた。
しかし以前に『
そのため未だ機能している“封印”というフィルターを通しているとはいえ、初期の頃のように『アーサリア』から奪った魔力の全てを迷宮の維持管理などに転用できているわけではなく、逆に『アーサリア』のもとへ回収されてしまっている割合のほうが多くなってしまっている状態であった。
これは第二次召喚を終え、今回の第三次召喚に至ったことで、『アーサリア』が掌握する迷宮の範囲が拡大、その箇所を通る魔力は殆ど減衰することがなくなった、というのがひとつ。
加えて迷宮に対する『アーサリア』の侵蝕が進んだことで、迷宮それ自体やその迷宮から産まれる
『アーサリア』は世界の半分──嘆き、哀しみ、怒り、憎しみ、恐怖などの負の側面……“悪意”を司るモノだ。そのため、『アーサリア』が取り込むための魔力には、それらの負の要素が必要であった。
とはいえそれを用意するのは難しいことではない。
『プレイヤー』達がモンスターを倒そうとすれば“殺意”が乗る。逆に殺されそうになれば“恐怖”を覚える。仲間が殺されれば“嘆き”が、殺された仲間の仇を討とうとすれば“憎しみ”が。
それらの負の感情は魔力へ宿り、いずれ『アーサリア』の元へとたどりつく。
倒されたモンスターも同じこと。多少は“悪意”が剥がれ、正常な魔力へ戻る。それらは『プレイヤー』達の成長などに使われるが、“悪意”に汚染されたままの魔力の殆どは『アーサリア』の元へと回帰するのだ。
一方でフェイト達がもたらす魔力ダメージによる“消滅”。これは単純に物質として構成されていたものが、“損壊”のプロセスを飛ばして直接只の魔力に戻っているという
魔素にまで分解された魔力からは、余計なモノは剥がれ落ちる。故にその魔素が再び結びついて魔力になった時、その魔力は“悪意”に染まらず“善意”も乗らぬ、純粋な無色の魔力となる。
◇◆◇
──ザーランドが倒された。
無論、その可能性も考慮していなかった訳ではない。それならばそれでかまわぬと思ってもいた。
戦った者共は確実に消耗するであろうし、こちらはその戦いで仕留めた
だが──ザーランドが生み出した眷属からの還元はあれど、ザーランドそのものからの魔力の回帰が皆無であった。
それだけではない。同時に迷宮そのものも大きく損壊したのを感じたが、それを構成していた魔力が戻ってくることも無かったのだ。
──前々から、違和感はあった。
それが今回、自身との繋がりが深いザーランドが倒されたことで、確信に至ったのだ。
よもや、魔力──
そのような技術……否、概念は、己の内にはない。間違いなく、己の
『アーサリア』にとって、それはとうてい認められるものではなかった。
“世界”そのものともいえる存在となり、半ば“不滅”となってから久しく覚えなかったもの。忘れ去っていた感情──“滅びへの恐怖”。
かつて『ファルファタ』であったころに常に覚えていたソレを認められるはずがなかったのだ。
ここで終わらせなければならぬ。
例え今この時、大きく力を減損させたとしても……それは脅威を取り除いてから、改めて
そう判断した『アーサリア』は、己の復活のために貯め込んでいた力を大きく減らしながらも、『脅威』たり得るものを倒すための一手を講じた。
…
……
…
トリプルブレイカーの余波が晴れ、そこにザーランドの姿が無い事を確認したフェイト達は、ひとしきり喜び合ったところで、葉月の元へ戻ろうと飛び出した。
しかして、ある程度進んだところで、不意に三人ともが“悪寒”を覚えて咄嗟に振り返る。
「フェイトちゃん! はやてちゃん!」
「うん、気を付けて!」
なのはが注意を促して、フェイトが答えた次の瞬間、トリプルブレイカーの着弾点……巨大なクレーターとなり、周囲の砂が流砂のように流れ込んでいく“爆心地”の中心に、『黒い雷』が轟音を立てて降り注いだ。
ある程度距離があってもなお耳が痛くなるほどのそれに、咄嗟に身構えるフェイト達。
僅かな間を置いて、クレーターの底から飛び出してきたモノがあった。
「Priririririri────!」
甲高く唄うような
距離からの目算で、羽を広げれば二十メートル以上はあるだろうか。
その身体の全てが燃えさかる炎により彩られた、大いなる巨鳥──。
それはしばし上空を旋回したあと、進路をフェイト達がいる方へ向けて加速。凄まじいスピードで飛翔し、デバイスを構える彼女達の上空を追い越して行く。
「っ! いけない、あっちは!」
「追うよ!」
はやての呼びかけに我に返り、巨鳥が飛び去った方へと追い掛ける。
コンディションは悪い。今の今まで激戦を繰り広げて居たのだ。けれど、そんなものは足を止める理由にはならないと、フェイト達も力を振り絞って加速していく。
◇◆◇
戦いの最中にそれまで幾度も見えていた中でも、最も凄まじい爆発が起こってから僅かな間を置いて、『プレイヤー』達と戦っていた『腐竜の眷属』が、次々と崩れ落ち、魔力へと還っていった。
それを目の当たりにしたことで、全員がようやく、自分達が「勝った」ことを知った。
まさに満身創痍といえよう。
大怪我をした者も、死亡した者も居る。事前に配られた
それでも彼等は生き残り、勝ったのだ。
「う……おおおおおぉぉお!!」
誰かが喜びの……勝利の声を上げ、皆がそれに続こうとした、その時──先程巨大が爆発が起きた方で、遠くからでも腹に響くほどの音を立て、『黒い雷』が落ちた。
それは、その場にいる『プレイヤー』のほとんどにとって、トラウマともいうべき忌まわしいもの。
第三層において、ボスを全て倒して勝利した瞬間に降り注いだ『黒い雷』により狂暴化したモンスター達。
それによって多くの物が殺されたのを、目の当たりにしたのだ。
──まさか今回も。
誰もがそう思った瞬間、『黒い雷』が落ちたと思われる所の地面から、
「……鳥?」
誰かが呟いた。
だがその直後、気付く。
この距離から鳥と判別できるアレは、一体。
その時、旋回していた鳥と思わしきものが、『プレイヤー』達の方へと進路を変え──。
「P────!」
甲高い声を上げながら、あっと言う間に『プレイヤー』達の元へと現れたソレは、燃えさかる身体を持つ炎の鳥。
ソレはへたり込んで動けない誰かへ向けて、急降下するように襲い掛かると、鉤爪で攫うように掴んで再び舞い上がる。
「ぎゃあああああああ!! 熱い! ああ! たす……!」
人の身体を焼く、忌まわしい臭いが満ちる。
不運にも最初の犠牲者に選ばれた者の断末魔を背景に、困難を乗り越えたハズの者達の前に、新たな脅威が立ち塞がる。
---
名前:『
カテゴリ:
属性:火
耐性:火
弱点:水
「鳥系モンスターにおいて最も脆弱で、最も愛らしいと言われる
---