フェイトと別れてから約5分後、『マイルーム』へと帰り着いた俺は、一息入れた後、忘れないうちに『合成』のことを試しておこうと端末の前に立った。
展開されたウィンドウの中から『アイテムボックス』、『合成』と選ぶ。
……ふむ。
どうやら最初に主体となるアイテムを選び、それに合成したいアイテムを追加していく、と言った感じのようだ。
じゃあ早速、と言うことで、メインとなるアイテムに『
多分、1個じゃダメだろうから……10個ぐらいいってみるか。
数を決めて決定したところ、左手にあるアイテムボックスからヴンッと言う音が聞こえたので、視線をそちらにむければ、蓋の閉じたアイテムボックスの上に魔法陣が浮かび上がっていた。
その上、魔法陣の中心には『核の水晶』が、そしてそれを取り囲むように10個の地の魔結石が並べられている。
やがて魔法陣が光を発し、それと共に地の魔結石が魔力の粒子へと変わって、中心に置かれた『核の水晶』へと溶けるように流れ込んでいく。そしてそれらの一連の現象が終わったところで、魔法陣と共に『核の水晶』が消えていった。
再び視線を端末に浮かぶウィンドウへと向ける。と、そこには「合成に成功しました」との文字が。
……どれどれ、とその下に表示されたアイテム情報を確認し、思わずガクリと肩を落とした。
『
:特定魔造生物、魔法道具の核となるアイテムの素。地の魔力を微量に宿しているが、実際に核として使用するには魔力が足りない。
……どうやら10個じゃだめだったらしい。そんなわけで、更に10個ずつ合成していくと、合計で50個目で変化した。
『
:特定魔造生物、魔法道具の核となるアイテム。地系下級。
魔結石の低級(小)の魔力含有量だと、50個でやっととは。いやまぁ、40個から1個ずつやったわけじゃないから、もしかしたら41個とか45個とかかもしれないけれど。
……何にせよ、これで持っていた『地の魔結石・低級(小)』は残り2個になってしまった。現状、モンスターからのドロップがほぼ魔結石しかなく、魔力の確保をそれに頼っていることから鑑みるに、おいそれと合成に魔結石を使うわけにもいかないなぁと言うのが正直なところか。
……まあいいや。気を取り直して次に行ってみよう。
次にメインに選ぶのは『アイアンショートソード』。それにフェイトに創ってもらった『
狙いとしては、これで雷属性を秘めた魔法剣とか出来ないかな、と言うところである。
では早速、ということで、アイテムを選んで決定を選択。
先程と同じように、アイテムボックスの上に浮かんだ魔法陣の中央に『アイアンショートソード』が置かれ、その横に『核の水晶・轟雷』が置かれている。
そして魔法陣が光を発し、『核の水晶・轟雷』が金の粒子となって『アイアンショートソード』に溶けるように吸い込まれ──ビシリ、と言う音とともにショートソードにヒビが入り、その直後砕けて魔力の粒子へ変わった。
「……へ?」
思わずそんな間の抜けた声が出てしまったが、仕方ないだろう。誰がメインとなるアイテムが砕けて消えるなんて予想できると言うのか。
我に返って端末のウィンドウを見る。そこに表示されているのは「合成に失敗しました。主体となる素材のランクが低すぎます」との文字。
……つまりはあれか。『核の水晶・轟雷』に篭められた力に、『アイアンショートソード』が耐えられなかったってことか。……なんてこったい。
この分だと今使っている『シルバーソード』もダメだろうなぁとか、かといって『核の水晶・地』ではやる気にならないなぁとか思いつつ、仕方が無いのでこの辺にしておくか、と端末から離れる。
ま、当初の目的だった、本来の『核の水晶』の作り方と、素材同士の組み合わせも大事だってことが解っただけ良しとしよう。
…
……
…
明けて翌日。フェイトに昨夜行った『合成』の結果を伝えると、「そっか、残念だったね」と返って来た。全く持ってその通り過ぎて、苦笑いも出やしない。
「そんなに簡単にパワーアップはさせてもらえないってさ」
そう答えた俺に、フェイトはクスリと笑みを浮かべる。
「じゃあ、残りの2つはどうする? 昨日と同じように魔力を入れちゃおうか?」
「ん~……」
フェイトの提案にしばし考える。
仮に『核の水晶』がこの先手に入らないのであれば、迷うことなく昨日と同じようにしてもらうところだけれど……アイテムの機能や説明を見る限りじゃ、ドロップ率は低くとも手に入らないわけじゃなさそうなんだよな。
「……そうだな。じゃあ、昨日よりも入れる魔力の量を減らしてやってみてもらえる?」
そう言いながら取り出した『核の水晶』を手渡すと、一瞬考えたそぶりを見せたあと、直ぐに「そっか」と頷くフェイト。
どうやら詳しく説明する前に察してくれたようだ。
「もちろんいいよ。……バルディッシュ」
《Yes sir.》
フェイトの言葉にバルディッシュが短く答え、その直後、昨日と同じようにバルディッシュのコアから金色の魔力が、『核の水晶』の一つへと流れ込んでいく。
そしてその流れが終わったのと同時に、『核の水晶』が一瞬キンッと光を発し、そのまま淡く金色に色づいた。
フェイトが「はい」と差し出してきたそれに『アナライズ』を使用し、情報を確認する。
『
:特定魔造生物、魔法道具の核となるアイテム。風系亜種下級。
現れたウィンドウに表示された情報を読み上げると、フェイトは眉根を少し寄せて「ん~……」と小さく唸る。
「……ちょっと少なかった?」
「かな?」
「ん……じゃあもう一回、今度はもうちょっとだね」
フェイトがそう言ってすぐに、再びバルディッシュから金色の魔力が『核の水晶』へと流れ込み、終わると共に『核の水晶』はその色合いを金色へと染める。
「今度はどうかな?」と差し出されたその手に乗った『核の水晶』は、先ほどのものよりも濃い金色に色づき、ほんのりと同じ色の光を放っている。俺はそれに『アナライズ』を掛けると、表示された情報を読み上げた。
『
:特定魔造生物、魔法道具の核となるアイテム。風系亜種中級。
「……成功、かな?」
俺が読み上げた情報を聞いたフェイトがぽつりと呟くように口にする。
俺がそれに頷いて「ありがとう」と告げると、彼女は小さく首を横に振った。
「気にしないで。それより、すぐに『合成』してみるの?」
「……いや、今は止めとく。一度しっかり『合成』に使う剣の種類も吟味してみたいから」
フェイトの問いにそう答えると、彼女は「そっか」と一度頷き、出入り口の辺りに立てかけてある木剣に視線を送る。
「それじゃ、今日も?」
「うん、よろしくお願いします」
そしてそう声を掛け合って、少し遅れてしまったけれど、今日の午前中の訓練へと移った。
ちなみに今日の午前中の魔法の訓練は、昨日使えるようになった『ラウンドシールド』の出来をフェイトに見てもらい、それの習熟に時間を割こうと思う。
…
……
…
午後、今日も3階への階段前まで一人で行った後フェイトを召喚し、移動を経て4階の探索へ移る。
今日は階段を下りた直後の広間にある3つの通路のうち、正面に見える通路だ。
フェイトと頷き合ってから歩を進め、歩く事しばし。別れ道も無くある程度進んだところで、道が左右に分かれた。T字路だ。
念のため、と『フィールドアナライズ』を使いそこに表示された地図を見ると、どうやら左へ折れる道を進むと、最初の広間で左の通路を選んだ先のエリア──昨日まで探索していたエリアだ──に繋がっているようだ。
一応少しそちらへ進み、地図上の道が完全に繋がるのを確認したところで踵を返し、右に折れる道へ進む。
「この分だと、こっちは右側のエリアに繋がってそうだね」
フェイトの言葉に「多分そうだろうな」と答えつつ歩を進める。
5階への階段は右側のエリアにあるため、最初の広間から階段までの範囲は、多少ながら地図が出来ている。とは言え恐らく、この通路の先に通じているのはその階段より先の場所だろうが。
フェイトとそんな予想を話しつつ進んでいると、通路の前方からスケルトンが現れた。
最初に4階に来て、右側のエリアを進んだ時もスケルトン。次以降の左のエリアの時はゾンビ……ってことは、4階は左がゾンビエリアで右がスケルトンエリアってことか。
ガシャガシャと骨を鳴らしつつ、俺達に向かって突っ込んでくるスケルトン。
「一応周囲は私が警戒しておくね」
掛けられたフェイトの声に「よろしく」と返しながら、腰に刷いたシルバーソードを抜き放って振り下ろされる錆びた剣を受け止める。その際に視界の端に、フェイトが「あれ?」と小首を傾げたのが映った。……何かあったんだろうか。
(フェイト、何かあった?)
横薙ぎにされた剣を、左手の先に生み出した『ラウンドシールド』で受け止めつつ念話を送る。
次いで唐竹に振り下ろそうとでも言うのか、思い切り振り上げられたスケルトンの剣を持った右手をバインドで拘束したところで、フェイトから「やっぱり」と念話が届いた。
(フェイト?)
(えっと……とりあえず、敵を倒してからね)
そりゃそうか、と思いながらフェイトに「了解」と返し、腕を拘束されて動きが阻害されたスケルトンの頭へ剣を突き刺して砕く。
ザラリと魔力へと還っていくスケルトン。しばし周囲の様子を探り、他に敵が居ない事を確認してからフェイトに向き直った。
「で、フェイト? どうしたんだ?」
「えっと……葉月、気付いてる? 今の戦闘中、交戦と念話の両方を同時にこなしてたの」
「……おお?」
言われて確かに、と気付く。
「それね、『マルチタスク』って言うんだよ」とフェイトが教えてくれた。彼女が言うには、念話に答えてる間の動きは多少鈍っていたから、完璧に使いこなしてるってわけじゃないけど、とのことだが。
「昨日の乱戦が良かったんじゃないかな。あとは、多分だけど、葉月の【称号】辺りも関係してると思う」
そう言うフェイトに「なるほど」と頷くと、彼女から次の戦闘からは『マルチタスク』を鍛えてみようか、と提案があった。
つまり、戦闘中にフェイトと念話で会話をして、戦闘と会話の両方を完璧にこなせるようにするのである。もちろん敵の種類や数等、状況を見て、だが。
無論俺としても異議などあるはずもない。よろしくお願いします、とフェイトに頼んで、地図を埋めるために再び歩を進めた。