フェイトを見送った後、そう言えば今日の戦いで手に入れた物の確認をしてなかったと思い至る。……フェイトが居る時にやっておくんだった。何をやっているんだか、俺は。
まぁ、過ぎてしまったことは仕方ない。
気を取り直して端末の前に移動し、アイテムボックス内の一覧を表示する。
流石に『闇の魔結石・低級(小)』の元の数までは覚えていないので、これがどれぐらい増えたのかは解らないけど、新規に取得したアイテムだけでも結構増えたのは簡単に見て取れる。
例えば『グレートソード』、『ハルバード』、『バトルアックス』が各1本。『ブロードソード』、『ロングスピア』が各2本。それに『ラウンドシールド』が1つ。これらはスカーレット・ボーン・ナイトが落としたものだろう。
それに『
あとはスカーレット・ボーン・ナイトから出たであろう『闇の魔結石・中級(小)』が10個と『赤骨片』とか言う素材アイテムが4つ。それとエルヘイトから出た『闇の魔結石・中級(大)』が1つ。
そして最後に……『クリムゾン・エッジ』。あの戦いの最後の最後に、結果的に奪い取るような形になって俺が手にしたこの剣も、結果的に残ってくれた。
シルバーソードが無残にも半ばから断ち折れて『折れたシルバーソード』なんて言うガラクタアイテムに変わってしまっただけに、代わりの武器を確保できた事は僥倖である。
スカーレット・ボーン・ナイトから手に入れた武器群は、どうやら普通の武器のようなので、この先はクリムゾン・エッジをメインウェポンにしていくことになるだろうか。
……アンデッドモンスターが使っていたからって、呪われた武器ってことはないよな?
何とも無しに不安になったので、取り出して『アナライズ』を掛けてみる。
名前:クリムゾン・エッジ
カテゴリ:武器/剣/片手
入手方法:『
「ルディエント王国第二騎士団副団長『血染めの剣鬼』エルヘイトが愛用した、魔力の篭められた長剣。刃から柄に至るまで赤色をしている。製作者は
……うん、どうやら大丈夫なようだ。いや、『アナライズ』で呪いの有無が判るのかどうかは不明なんだけど。
まあいいや。とりあえずアイテムの確認はこんなものか。あと確認しておくべきものは……あったな。大事なものが。
【称号】と【スキル】の事を思いついて、そのまま端末を操作し、『アイテムボックス』から『ステータス』へと画面を切り替える。
個有名持ちの特殊っぽいモンスターを倒したとは言え、必ずしもそれらが更新されているとは限らないけれど……と思いつつ見たウィンドウには、もう幾度か目にしたことのある文字が躍っていた。
すなわち、新たな【称号】である『討伐者・血染めの赤骨』の獲得と、【称号】『魔法剣士』と【スキル】『戦場の心得』のレベルアップだ。
『魔法剣士』と『戦場の心得』は良いとして、もう一つ……この『討伐者』ってのは、何か副次効果はあるんだろうか。
恐らく、今回戦ったエルヘイトのような、ユニークモンスターとでも言えばいいのか……固有名を持つ敵を倒せば得られるのだろう。ああいったネームドモンスターが他にも居るのかは不明だけど。……居るんだろうなぁ。
……とは言え、『第三次召喚者』は1,000人も居るのだし、この先そう何回も俺がそういった特殊な敵と戦う事になるとは思わないけど……って言うか、戦いたくない。今回のエルヘイトだって物凄く強かった。間違いなくフェイトが居なかったら勝てなかっただろうし。
それにしても、『第三次召喚者』と言えば、この世界に来てから既に10日以上が経つというのに、相変わらず俺以外の人に会ったことがないってのはどうなんだろうか。相変わらず端末内の『コミュニティ』は選択不可だし。
こうまで会わないと、実はこの世界に召喚されたのは俺だけなんじゃないか……なんて考えが浮かんでくる。
……そう考えたところで、どうにも1人になるとダメだな、と頭を振る。
どちらにしろ、俺は俺のやれることを──この迷宮を進んでいくしかないんだ。
……やることはやった。とりあえず今日は休もう。
そう気を取り直し、俺は端末の前を離れた。
…
……
…
明けて翌日。恒例のフェイトとの訓練。
ここ数日は、俺が躱すだけじゃなく、こちらからも攻撃するようになっている。つまりは、普通の模擬戦だな。フェイトが言うには、【称号】の影響もあってか俺の成長速度が速いようで、彼女としても良い訓練になるとのことだ。
……俺としても、多少なりとも彼女の役に立てるのならば重畳である。まぁ、フェイトが本気を出したらあっさり負けるのは相変わらずなんだけど。
その後は魔法の練習。
『ラウンドシールド』も実戦で使うのに支障がないことが判っているので、新しい魔法を教えてもらうことになった。
候補は昨日の戦いで使ってくれた『フィジカルヒール』と、攻撃魔法のどちらか。
最初は「折角覚えてきてくれたんだし」と言うことで『フィジカルヒール』にしようかとも思ったんだが、結局は攻撃魔法に決めた。
昨日の戦いにおいて、バリアジャケットの防御力の高さも解ったってのもあるけれど、やはり遠距離攻撃の手段を1つでも持っておけば、戦い方に大きく幅が出ると思ったからだ。いざとなったら
……まぁ、バリアジャケットに関しては、この先迷宮を進んだらどうなるかは解らないけど。
教えてもらう攻撃魔法は、直射型の射撃魔法。今までフェイトが使ったもので言うなら『フォトンランサー』がそれに当たる。
……って言うか、攻撃魔法に関しては他に選択肢はないのだけど。
前にフェイトが使った『サンダースマッシャー』のような砲撃魔法や、昨日の戦いで使った『サンダーレイジ』のような範囲攻撃魔法を俺が使うのならば、やはりデバイスが欲しいところだからだ。
その点射撃魔法であれば、デバイス無しでも充分に実用に耐えられるレベルで使用することができる。
実際、彼女の使い魔であるアルフは『フォトンランサー』を使えると教えてくれた。
……そんなわけでと言うか、教えてくれるのがフェイトだから当然というか、俺が教わるのは『フォトンランサー』である。……とは言え、俺には雷属性の魔力変換資質は無いので、純粋な魔力弾を飛ばすだけになるが。
あと、それと一緒に魔力を刃に変換する『スプラッシュエッジ』も教えてくれるそうだ。
どうやら昨日の戦いの最後、俺が剣を失ったのを見て、かなり肝を冷やしたようで……あの時は幸いにも、フェイトのお蔭でエルヘイトの剣を奪うことが出来たから良かったものの、仮にまた武器を失うことになった場合、同じように直ぐに武器を入手できるとは限らない。そのため、武器を持っていなくても魔力自体を武器に出来る魔法も教えてくれるそうだ。
『スプラッシュエッジ』もフェイト自身、バルディッシュが待機状態であるスタンバイモードでも使用することができるらしく、俺が使う分にも問題はないだろうとのこと。本当に、色々と配慮してくれるフェイトには頭が上がらない。
……さて、肝心の『フォトンランサー』であるけど、これは自分の周囲に『フォトンスフィア』っていう発射体を生成し、そこから魔力弾を撃ち出す魔法だ。応用として、身体から離れた位置にスフィアを設置しておき、遠隔で撃ち出すということも出来るそうだが、とりあえずまずは基本から。
なので、俺がまず取り掛かるのは、この
その後はスフィアを制御し、実際に魔力弾を撃ち出してみること、そして一連の動作をいかに速く行えるか、となっていく。
さて、このスフィアであるけれど、生成時に使う魔力量によって、発射できる魔力弾の数が変わってくる。つまり、1発分の魔力で創ったスフィアからは、1発の弾しか撃ち出せないってことだ。当然だな。
また、例えば魔力弾を2発撃つにしても、1つのスフィアから2回撃ち出す方法の他にも、スフィアを2つ用意してそれぞれから1発ずつ撃ち出す方法もある。無論後者の方は、それぞれのスフィアを同時に制御しなければいけない分難度は高くなる。
ちなみに名前も『フォトンランサー・マルチショット』となり、『フォトンランサー』と言うより、そこから派生したバリエーションの1つと言った方がいいだろうか。
メリットとしては、速射性だろうか。つまり、2連射ではなく2発同時発射になる、と言うことだな。あとは先に上げた遠隔操作を組み合わせて、遠隔設置しておいたスフィアと、自分の側に生成したスフィアで挟み込んでしまうことも出来る。これらは制御できるスフィアの数が増えれば増える程に有効な手段となるだろう。その分難度も跳ね上がるけど。
とまれ、その辺の応用技術は俺にとってはまだまだ先の話。まずは基本的なスフィアの生成から、しっかりとだ。
…
……
…
午後になって、再び召喚したフェイトと共に、『マイルーム』の外へと通じる扉の前に立つ。
既に慣れた感のあるバリアジャケット。武器はクリムゾン・エッジ。道具は今まで特に使ってもいないので、補充の必要は無い。……とは言え、6階の様子によっては今後『
それはともかく。
昨日この部屋に帰るために使った、エルヘイトを倒した後に出現した『
となると、考えられるとすればこの外に通じる扉なんだけど……。
そう思いながら扉の前に立った俺達の前に、1つのウィンドウが現れる。
そこには“移動したい場所を選択してください”の文の下に、“第1層・洞窟エリア”、その更に下に“1階”、“5階”と出ている。
「葉月、それが?」
フェイトに問われ、頷いてから表示されている内容を読み上げる。そして“5階”の文字に触れると、ヴンッと小さな音を立ててウィンドウが閉じた。
……あれ?
てっきり5階にあった『転移陣』のようなものが出てくるのかと思ったが何もなく、もしかしてと思いながら、少しばかり慎重にドアを開く。
本来であれば1階の通路があるはずのそこには見慣れた光景はなく、代わりに5メートル四方程度の小さな部屋があった。
そして部屋の中心には、昨日も見た『転移陣』。
……なるほど、これが5階の『転移陣』に繋がっているのか。
「行ってみよう」
『転移陣』の前に立ってフェイトと顔を見合わせ、頷き合ってから2人並んで陣へと足を踏み入れ、そのまま陣の中央へと進んで立ち止まったところで、足元の『転移陣』が光を発しだした。
そしてその光が部屋の中を満たし──次の瞬間、俺達の姿は5階と思われる『転移陣』の上にあった。
念のため『フィールドアナライズ』で地図を表示するが、現れたのは確かに昨日見た5階の地図と一致する。
「……無事に着いたみたい。毎回ここまで歩いて来る必要がないのは助かるな」
「だね。私も、葉月を待つ時間が減るのは嬉しいかな」
そう言ってクスリと笑うフェイト。……いつもご心配をおかけしています。
何となく気まずくなったので、ゴホンと1つ咳払いをし「行こうか」と下に続く階段を示すと、フェイトは「そうだね」と答えつつもやっぱりクスクスと笑う。
……あーもう、適わないなぁ。
何となく負けた気分になりつつも、フェイトと共に階段を下りる。
さて、新しい未知の階だ。気を引き締めないとな。