深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase65:「巨兵」

 一通り反省や確認を終えて、時間を確認すると二人の残召喚時間はあと1時間程度。

 それを告げて「どうしようか?」と問うと、二人は一度顔を見合わせた後、口を揃えてもう一つのフィールド──『廃都ルディエント』──へ行ってみたいと言った。

 それを受けて、以前に行ったあそこの状況を思い出して考える。

 敵に関しては問題ないだろう。俺の魔法でも複数撃ち込めば倒すことが出来た。二人ならば言うまでも無い。

 帰路に関しては……一度行った場所だし、恐らく『フィールド・アナライズ』で転移陣(ポータル・ゲート)の場所は解るだろうから、いざとなったら空飛んでショートカットすれば平気か。

 そう考えると、問題は特に──せいぜい人間関係ぐらいか──無いようである。

 

「……ん、じゃあ……様子見程度しか出来ないと思うけど、行ってみる?」

 

 そう訊いてみると、二人は揃って「うんっ」と頷いた。

 じゃあ早速と、アイテム類をチェックしてから扉をくぐり、転移陣の前に立つ。

 そしてアルトリアに──姿は見えないけれど──「行ってきます」と声を掛けたところで、

 

(はい、気をつけて)

 

 不意に脳裏に響く声。

 それは確かにアルトリアの声で、フェイトとなのはを見てみると、二人も俺の顔を見上げて来ていて……どうやら二人にも聞こえたらしい。

 

「葉月、今のって……」

「うん、アルトリアの声だな」

 

 もしかして、と声を掛けて来たフェイトに頷くと、「やっぱり」となのはと顔を見合わせて笑うフェイト。

 そんな俺達に再び「聞こえたのですか?」と念話が届き、やはり空耳や気のせいじゃないことが解って……これは落ち着いて話した方がいいかと、部屋に戻ってソファへ座った。

 

「一応確認するけど……二人とも、さっきのアルトリアの念話が聞こえたんだよね?」

 

 とりあえず大前提となる部分を問いかけると、二人は揃って「うん」と頷く。

 広域念話か俺を介して届いてるのかは解らないけど、どうやら二人にも聞こえたことは間違いないようだ。

 と、そこで再び頭に届くアルトリアの声。

 

(少なくとも、朝の時点では聞こえていなかったようですが……)

「そうなると、やっぱり聞こえるようになった理由って……」

「うん、多分レベルアップした『召喚師の極意』のスキルだと思う」

 

 アルトリアの言葉に、なのはとフェイトがそう言って俺の顔を見る。

 改めて『ステータス』からの【スキル】一覧を眺め……うん、間違いなくそうだろうな。他に『召喚』に関係する要素で変化のあったものってないし。

 

「とは言え、流石に念話以上のことは無理か」

 

 姿も見えないどころか、気配もしないしと続けた俺に、アルトリアが「そうですね」と幾許か残念そうな声音で返してきた。

 まあ、本来であれば召喚できないタイミングの時に声だけでも聞けるのだし、そこは良しとするべきか。

 とりあえずこの話はここで切り上げ、改めて『廃都ルディエント』へと向かうことにする。あまりのんびりしてると二人の召喚時間がなくなっちゃうしな。

 そんな訳で、再び扉の奥の転移陣の下へ向かい、アルトリアの声に送られながら、『廃都ルディエント』へと飛んだ。

 

 

……

 

 

 転移を終えて現れた場所は、以前と同じ……だと思う、どこかの廃墟の中。間取りは記憶にある通りなので、恐らく同じ場所だと思うんだが。

 とりあえず『フィールド・アナライズ』を使用してみると、現在いる南西エリアと思わしき全体図の中に、前回来た時に通ったと思わしき道筋が記されていた。それの出発点は、現在居る場所のようである。

 マップを見ながらそれを二人に説明した後、前回は出た直後の場所で、稲葉さんが戦闘してたんだよな、なんて思いながら近くにあるドアから外の様子を窺うも、今回は特に何の物音もしないようだ。

 念のためドアを少しだけ開けて外を見てみるが、どうやら何もない様子。二人に「大丈夫そうだから、行こうか」と声を掛け、ドアを開けて外に出る。

 ──いやにシンとした空気。

 

「……静かだね」

 

 ぽつりと呟くようななのはの声。次いでフェイトが「前もこんな感じだったの?」と問いかけてくる。

 俺はそれに、前回──三日前の事を思い出しつつ、首を横に振る。

 

「前の時は初っ端から戦闘に出くわしたからな……あまり参考にならないと思う。それに、なんて言えばいいかな……この静けさには、嫌な予感がする」

 

 まるで……そう、嵐の前の静けさ、と言うのが一番しっくり来るだろうか。そんな不穏な静けさ。

 そう告げた俺に返って来た言葉は、フェイトの「葉月もそう思う?」と言うものと、なのはの「……できるだけ早く戻ろっか」と言う意見。それに否があるはずも無く、再度『フィールド・アナライズ』でマップを表示し、帰還するための転移陣を目指す事にした。

 「行こう」と声を掛けて歩き出すも、それ以降、誰も声を出さずに──自然と、なるべく音を立てないように──進んでいく。

 それ故に、だろうか。20分ほど経ったところで、それ(・・)に気付くことが出来たのは。

 一向に敵にも『プレイヤー』にも会わないことに違和感と疑問を感じつつ、狭い路地を歩いている途中、ふと地面が揺れたような気がして足を止める。

 俺が立ち止まったからだろう、フェイトとなのはも立ち止まり、念話で「どうしたの?」と問い掛けて来た。

 

(今、地面が揺れなかった?)

 

 地震……と呼べるような揺れではない。例えるなら、近くを大型車が通った時のような感じとでも言えば良いだろうか。

 何てことを考えていると、再びズズン……と振動が。

 

(……揺れたね)

(うん。地震……じゃないみたいだけど……)

 

 そんな二人の台詞に応えるかのように、もう一度。

 三人で顔を見合わせ、誰かが何かを言う前に更にもう一度。先程よりも大きく。

 ズズン……ズズン……と、一定のリズムを刻んで、徐々に大きくなる振動。そしてそれに伴い、聞こえてくる、瓦礫が砕けるかのような音。

 これは、まるで──

 

(……足音?)

(多分そうなんだろうけど……できれば外れて欲しいね)

 

 だってこれが足音なんだとしたら、こんな足音を立てる相手は一体どんな奴なんだっていうんだ。そうぼやいた俺に、二人は同意するように苦笑を浮かべた。

 そして、そうしている間にも音と振動は近付いてきて──それを発する原因が、姿を現した。

 俺達が今居る路地の先にある大通りを、ゆっくりと進むソレ。

 咄嗟に近くにあった廃屋の陰に隠れた俺達の目の前を歩む、鋼鉄のフルプレートアーマーそのもの。

 3日前、この辺りに数多く出没していた敵……リビングアーマーと同じ姿。

 けれど……圧倒的に、その大きさが違っていた。

 

(……でかいな)

(……うん……多分、15メートルぐらい……あるんじゃないかな?)

(あれって、葉月さんが言ってた『リビングアーマー』……じゃない、よね?)

 

 なのはの問いに、流石にあんなにでかくなかったと答えると、だよね、と応えつつ、困ったように笑うなのは。

 とりあえず仮称巨兵が目の前を通過した際に、『アナライズ』を使用し──その瞬間、まるでそれを感じ取ったかの様に、ピタリと足を止める巨兵。

 息を呑み、動きを止める俺達。

 しばしして──巨兵は再び歩き始め、その姿が充分離れたところで、三人揃って大きく息を吐いた。

 

 

--

 

名前:『聳え立つもの(ギガンテス)』ゴールヴァール

カテゴリ:魔造生物(モンスター)/ゴーレム/ネームド

属性:無

耐性:物理

弱点:雷/核

「太古の昔に栄えた巨人族の伝説に登場する、巨神の名を与えられたゴーレム。稀代のゴーレムマイスターと謳われた『人形遣い』が、『真紅の魔女』の協力を得て造り上げた傑作。砂塵の王国の首都に炎の巨人(フレイム・ジャイアント)が襲来した際、これただ一体にて打ち倒したほどの力を持つ」

 

--

 

 表示されていた情報は、やはりと言うか何と言うか、ネームドモンスターで。

 全ての情報が表示されている以上、今の俺より遥かに格上って訳でもないんだろうが……

 

「……ビックリしたね」

「ああ。……流石にズィーレビアに続いてあんなのと連戦はしたくないしな」

 

 俺の言葉に、二人は「だね」と頷き、次いでなのはが「……空から攻撃って言うのは?」と、もしかしてこれなら……と言うように意見を述べるも、フェイトは少し考えてから首を横に振った。

 

「何となく、だけど……今までのパターンから言って、そう簡単には行かない気がする……かな」

 

 「絶対に何がしかの対抗手段を持ってる気がする」と続けたフェイト。俺も同意見だ。

 何はともあれ、無事にやり過ごしたんだし、今のうちに帰還の転移陣に行こう。

 そう告げると二人も同意を返してきたので、念のため、それまで以上に警戒しながら帰還の途についた。


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