深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

71 / 113
Phase71:「狂嵐」

 雷撃と咆哮を撒き散らしながら、クルルカントが空を暴れ狂う。

 落雷によって周囲の草原の各所に火の手は上がり、巻き起こされた風に煽られ火勢は徐々に強くなる。

 その炎に照らされながら、アルトリアは一人、クルルカントを見事にこの場に抑え込んでいた。

 魔力放出による加速を活かして降り注ぐ雷撃をくぐりぬけ、クルルカントが地上に接近した際に強烈な一撃を見舞う。

 ──アルトリアが葉月の念話に返したように、クルルカントに対して背を向けて逃げる余裕は無い。その一方でクルルカントもまた、背を見せればやられる。そう思わせる存在感と力の強さを、目の前の獲物──否、“敵”から感じていた。

 今、この一人と一匹の間には、力と力のぶつかり合いによる場の硬直が生まれていた。

 しかしてそれは、第三者により破られる。

 上空に浮くクルルカントが、細く長い咆哮を上げる。すでに幾度と無く起こされた、クルルカントによる雷撃の嵐の詠唱だ。

 それに伴い、大地の周囲に先行放電が巻き起こった。空から降り注がれる雷撃は、すべてこの先行放電の場所に落ちる。

 既にそれを見抜いていたアルトリアは、それらをすり抜けるように、空に浮くクルルカントの下へと駆け出し──次の瞬間、広場の各所に雷撃が降り注いだ。

 閃光と轟音、それに伴う放電現象と燃える草花。

 アルトリアはそれらを躱し、潜り抜けた先で跳躍する。

 魔力放出を使用した一歩は、ドンッと大地が砕ける音を立てて、アルトリアの姿を空へと舞わす。

 

「──ハァッ!」

 

 だが気合一閃にして振り抜かれた刃は、クルルカントが咄嗟に身を捩ったために、鱗を浅く傷つけるに終わる。

 天を睨みながら重力に引かれて地上に降りるアルトリア。

 しかし彼女は、そこで今までに無かったものを見つけ──ふっと、口元を柔らかく緩めた。

 一瞬緩んだそのアルトリアの気配に、クルルカントは訝しげに唸り声を上げ──そこでようやく、自身の上空(・・)にそれを感じ、顔を上に向けた。

 

「……アルカス・クルタス・エイギアス……煌めきたる天神よ、いま導きのもと降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル……撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス──」

 

 朗々と響くは呼び声たる詠唱。中空に展開された黄金色の魔法陣と、その上に立つは一人の少女。

 恐らく、それに何かを感じ取ったのだろう、クルルカントがその身を大きくくねらせて威嚇の姿勢を取った、その時。

 

《Thunder Fall》

 

 大気が震えた。

 それまで大地に猛威を揮っていた雷雲が、クルルカントの制御を離れて牙を剥く。

 フェイトの魔力を受けて指向性を持たされた、雷雲より振り落ちたる幾状もの雷光は、その矛先をクルルカントへ向け──轟音を響かせて、合計5度、間断なく貫いた。

 

「クルァアアアアーー!!」

「──っ!」

 

 咆哮を上げたクルルカントは大きく仰け反るも、フェイトはそれに嫌な予感を覚えて咄嗟にその場を離脱。

 直後、しなった木の枝が跳ね戻るように、猛烈な勢いでクルルカントの(アギト)が、それまでフェイトが居た場所に喰らいついた。

 だが、そこにあるはずの感触が無いことに気づいたらしいクルルカントは、すぐにその気配を察して下方を向く。

 そこには、アルトリアの隣に降り立ったフェイトの姿。二人は並んで上空を見上げ、対するクルルカントはその二人へ向けて襲い掛からんと、動き──

 

 

◇◆◇

 

 

 眼下に見えるクルルカントの意識が下に向いた。

 それを確認した俺は、クリムゾン・エッジを抜き放って一気に急降下を開始する。

 狙いは、強固な鱗に囲まれていない眼球!

 

「──ハァッ!」

 

 赤き残光を引き、裂帛の気合と共に上空から急降下してくる俺に気づいたか、咄嗟に身を躱すように身体を捻るクルルカント。

 刃を立て、クルルカントの眼に向けて襲い掛かったのだが、クルルカントが身じろぎしたことによって僅かに逸れ、その眼球の傍の鱗に浅い傷を付けるに終わった。

 対するクルルカントは、今度は自分の番だと言わんばかりに、こちらへと首を伸ばしてくる。

 その速度は俺の降下速度を大きく上回っていて、追いすがってくるクルルカントは大きく口を開け、喰らいついてきた。

 咄嗟に手に持つ剣を、迫り来る牙に合わせるように振るう。

 刹那、バギッと嫌な音が響くのに次いで、身体を大きな衝撃が襲い、猛烈な勢いで地面へと吹き飛ばされた。

 どうやら噛み付かれるのは防げたけれど、盛大に体当たりを食らったらしい。

 地面に激突する寸前で何とか体勢を立て直すも、勢い自体を殺すことが出来なくて、あわや激突かと言うところで、後ろから誰かに抱きとめられて事無きを得た。

 後ろを伺ったそこに居たのは、背中から抱きつくようにしたフェイトと、その更に後ろから支えてくれたらしいアルトリアの姿。

 二人に「ありがとう」と告げると、先ほど嫌な音を立てた手元を見る……と、その剣身の半ばに大きな亀裂が入ったクリムゾン・エッジが目に入り、次いで上空を見上げると、上からさらに追撃をかけようとするクルルカントの姿も見える。

 それに対してアルトリアが咄嗟に不可視の剣を構えて突進に備えるのが見えたが、軽く笑いかけてある場所(・・・・)に視線を送ると、一瞬訝しげな表情を浮かべたところで、それ(・・)に気づいたのか「なるほど」と呟き、笑みを浮かべるアルトリア。

 一方でクルルカントは、都合よく固まっている俺達に対して、纏めて片付けてくれるといわんばかりに、大きく口を開いた。

 襲い掛かってくるでもなし、何をする気だろうか。

 

「気をつけて」

 

 同じように疑問に思ったのだろう、フェイトの警告の声が聞こえた矢先、クルルカントの口内に魔力が徐々に集い、バヂリと放電する音が響くに当たって、クルルカントがこれから放とうとする攻撃に思い至る。

 

 ──竜種の代名詞とも言うべき攻撃、ブレス。

 

 徐々に高まる魔力に対し、俺はその視線を、クルルカントの後方(・・)に向けた。そこには──

 

「……行くよ、レイジングハート!」

《All right》

 

 クルルカントより早く、砲身(・・)へ魔力を集めるなのはの姿。

 彼女がこちらに向けて大きく頷いたのが見え、そして、その強い力にクルルカントが気づいたか、顔をなのはが居る方へと向けた、その瞬間──

 

「ディバイーーーンッバスタァーーーーーッ!!」」

《Divine Buster》

 

 極限に高められ、撃ち放たれた砲撃魔法。

 それは今正にブレスを放とうとしていたクルルカントの頭を飲み込み、その口中に溜められた魔力と反応して大爆発を起こした。

 轟音が鼓膜を震わし、身体の芯に響き渡る。

 それが収まらぬうちに、残心を解いたなのはが俺達の下へと合流し、そこで改めてフェイトとなのはが、アルトリアへと声を掛けた。

 

「改めて……初めまして、になるのかな」

「いつも葉月がお世話になっています」

 

 そう言ってクスリと笑うなのはとフェイト。……まぁ、お世話になっているのは確かだから、何も言えないんだけどさ。

 一方でアルトリアも、そんな二人の様子に柔らかな微笑みを浮かべる。

 

「ええ、こうして直接姿を見せるのは初めてですね。突然のことで驚きましたが……ハヅキの新しい力ですか?」

 

 後半は俺に向けて掛けて来た言葉に、掻い摘んで新しいスキルを説明すると、アルトリアは「なるほど」と頷いて……そのタイミングで、爆煙の晴れた空を睨みつける。

 アルトリアに続いて見上げたそこには、流石に今のは堪えたのだろう、主に顔の周辺のいたるところが傷つき、そこから魔力の粒子を垂れ流しながらも、こちらを見据えるクルルカント。

 その身体からは雷が迸るように発せられ、バチリバチリと音を立てている。

 ……そう言えば、今ならいけるだろうか。

 物は試しにと、もう一度クルルカントへ『アナライズ』を使用してみると──

 

 

---

 

名前:『轟く狂嵐(テンペスト)』蛇竜・クルルカント

カテゴリ:魔造生物(モンスター)(ドラゴン)/ネームド

属性:風・水・雷

耐性:解析不能

弱点:解析不能

「かつてフェヴァル大森林に君臨した竜種。悪意に呑まれ、理性を失った竜種の一体で、『風』と『水』の封印竜によって封じられた。その翼は天を翔け、その吐息は天を裂き、その怒りは天を焼く、天雷の化身」

 

---

 

 

 ……思った通り──とは言えまだ全てではないけれど──先ほどよりも情報を取得できた。

 今の情報を皆に伝えると、フェイトが「そっか……」と呟く。

 

「さっきの私の魔法、余り効いてないみたいだったし……属性から言って、多分雷撃に耐性あるよね?」

 

 フェイトの推測に「多分そうだろうね」と答えると、残念そうに眉根を下げるフェイト。

 まぁ、雷撃の効果は薄くても、魔力ダメージ自体は有効だろうからと言うと、気を取り直したように「うん」と頷いた。

 

「──ァァァアアアア!!」

 

 そのタイミングで、クルルカントが大きく鳴いた。

 それに呼応して俺達の周囲の地面に、バチリと放電現象が起きる。

 

「落雷攻撃です!」

 

 アルトリアの警告の声が上がり、俺は咄嗟に上空へ右手を掲げて『ラウンドシールド』を創り出す。

 次の瞬間、天から雷光が降り注ぎ──

 

《Defenser》

《Protection》

 

 ほぼ同時にバルディッシュとレイジングハートの声が聞こえ、俺達をまとめて包み込むように防御魔法が展開されたのに続き、雷撃が着弾。

 凄まじい轟音と閃光が撒き散らされるも、多重に展開された防御魔法のお蔭で、特に誰にも被害が無さそうだった。

 安堵するのも束の間、クルルカントが動き出す。

 一度大きく上昇し、次いでその身体に纏った雷が、目に見えて一層大きくなった。

 背筋に感じる、嫌な予感(・・・・)

 

「……ハヅキ、それにフェイトとナノハも、私が合図をしたら空に回避して下さい」

 

 恐らくアルトリアも何かを感じたのだろう、そう言ってきた。

 それに対してなのはが「アルトリアさんは?」と問うと、「私は大丈夫です」と返すアルトリア。

 彼女の顔へ視線を向けると、力強く頷いてくる。

 ……アルトリアなら大丈夫だ。そう思い、「解った」と返したところで、クルルカントが動いた。

 

「今ですっ!」

 

 俺達はアルトリアの合図と共に空へと舞い上がり──それと同時に、猛烈な勢いで上空から突進してくるクルルカント。

 相対するアルトリアは、クルルカントが突っ込んできたのと同じくして、魔力放出によるものだろう、こちらもまた凄い勢いで前方──クルルカントに向かって駆けたのが見えた。

 交差する二つの影。次いで轟く、クルルカントが巨体を大地に叩きつける轟音。

 

(アルトリアさん!?)

(問題ありません)

 

 その光景になのはが念話で呼びかけ、応える声は、すぐに聞こえてきた。

 眼下を注視すれば、クルルカントの巨体の後方に抜けたアルトリアの姿。

 そして彼女は、その両手を高々と振りかぶっていて。

 

(ハヅキ)

 

 名を呼ばれ、彼女が何を求めているのかを察する。

 だから俺は、“右手”へ意識を向け──

 

「ッ!」

 

 咄嗟に構えを解いてアルトリアが飛び退ったことによって、中断される。

 直後、クルルカントが、その身に纏っていた雷を周囲に撒き散らした。その範囲は広く、先ほどまでアルトリアが居た辺りも巻き込んでいる。

 そしてそれを、恐らく気配や直感だろうとは思うが、事前に察して回避するアルトリアが凄い。

 クルルカントはやはりアルトリアを脅威と感じたのか、その場で長い身体を回してアルトリアへと頭を向けると、そのまま大きく持ち上げて鎌首をもたげる。

 

「シュートッ!!」

 

 その瞬間を狙い、なのはが放った4発のディバインシューターが地面を滑るように、下方、それも前後左右から挟みこむようにクルルカントへと襲い掛かった。

 接触、そして炸裂。

 避ける間もなく直撃したディバインシューターの衝撃に、クルルカントが苦悶の声を上げ、上空に退避しようとしたか、その身体を僅かに宙へと押し上げた……ここっ!

 アルトリアとなのはが攻撃している間にクルルカントの上空へ移動した俺は、損傷してしまったクリムゾン・エッジを仕舞う代わりに、黒の大剣──ヘビーブレイカーを取り出した。

 そしてそのまま、クルルカントの頭へと振り下ろす!

 

 

◇◆◇

 

 

 葉月達の戦いを、稲葉孝太達は森の中から固唾を呑んで見ていた。

 そのうちの一人……先に葉月達に助けられた二人の子供のうちの、男の子の方がぽつりと呟く。

 

「……すごい」

 

 あの時、それほど至近距離と言う程でもなかったにも関わらず、咆哮一つ聞いた瞬間に襲ってきた凄まじい“恐怖”によって失神してしまった。その“恐怖”を齎した、こうして遠目に見るだけでも身体が震えてくるような敵。

 それと互角に戦う彼等の姿を見て、自然と少年の口をついた言葉。それは、この場にいる全ての者達の心を代弁する言葉だった。

 ……加勢に行かないと。

 そう思いつつも、孝太達はその場から動くことが出来なかった。

 正確に言うならば、稲葉孝太、玉置仁の二人は、クルルカントから受けた『恐怖(テラー)』のバッドステータスからは既に脱しているし、稲葉雪、佐々木哲也の両名に関しても、影響は大分収まってはいる。

 しかしながら、彼らはあの戦いに参戦する……否、現状ほぼ安全地帯とも言える森から出ることを躊躇ってしまっていた。

 とは言えそれは、彼等が特別に臆病だと言うわけではない。“この世界”の基準であれば、“唯の人間”が竜種に真正面から挑めることの方が異常なのだから。

 そんな中、彼等が居る森の中より、高塚瑞希が一人、広場へ向けて歩み出した。

 瑞希の行動に、雪が「瑞希さん?」と声を掛けると、彼女は一度振り返って他の者達の様子を見てから「……みんな、もう大丈夫そうだから」と一度頷いて、再び広場へ足を向ける。

 もともと彼女は、クルルカントの咆哮の影響を受けてはいなかった。その上で戦わずにこの場に留まっていたのは、偏にパーティメンバーである孝太達が立ち直るのを待っていたからに他ならない。

 その左手には弓。右手には、アイテムボックスに繋がるポーチから取り出した、金属のような光沢を持つ、赤色の一本の矢。

 この矢は、第一層と第二層においては滅多に入手することが出来ない『火の魔結石』と『炎鉱石』と言う素材を、矢と合成することによって創ることが出来るもの。

 瑞希にとっての“とっておき”の一本だった。

 

「私は、守られるだけ、見ているだけなんて、嫌」

 

 その言葉を残し、瑞希は広場へと踏み出すとある程度まで進んだところで弓に矢を番え、構える。

 彼女の持つ弓は然程強力なものではないため、本来であればまだ届く距離ではない。だから瑞希は、その体勢のまま精神を集中し、【スキル】を発動させる。

 

「『スナイプ・ショット』……『ロングレンジ』……『ブラスト・アロー』……」

 

 少し無茶かな。でもやってみせる。そんな風に思いながら行った、スキルの連続多重起動。しかしてそれは不思議なことに、彼女の予想に反してすんなりと成功した。

 いつもよりも力が湧いて来るような気がするから、そのせいだろうか。そんな疑問が浮かぶ中、一つ一つ彼女がスキルを発動する度に、番えた矢が、彼女の身体が、魔力の輝きに包まれる。

 

「……『アローレイン』……行け」

 

 

◇◆◇

 

 

 なのはのディバインシューターにクルルカントの注意が引かれた瞬間を狙い、頭へとヘビーブレイカーを叩き込む。

 その強固な鱗と“不壊”のエンチャントがなされた魔剣の刃がぶつかり合い、轟音を立ててクルルカントの頭が地面へと叩き付けられた。

 次いでアルトリアが、反動によって弾むように僅かに浮いた頭へ肉薄すると、掬い上げるように剣を振るう。

 再びの轟音と共に跳ね上がる、クルルカントの頭。

 

《Divine》

「バスターー!」

 

 そこを狙って放たれたなのはの魔法が直撃。爆発と共にクルルカントの頭を後方へと大きく仰け反らせた。

 自然と「よしっ」と喝采が漏れ──けれど次の瞬間、クルルカントの身体が、アルトリアとなのはの攻撃の勢いに乗るように急加速した。

 後方に一人離れていた、フェイトに向けて。

 

「ルルアァァァアアーーーーーーー!!」

 

 お前達の狙いは解っているぞと言うように、大きく啼いたクルルカントの、その顔の部分に後ろからでも判る強い力が集っていく。

 ──ブレスか!

 咄嗟になのは、アルトリアと同時に追いかけるも、クルルカントの攻撃の方が早いか。

 フェイトの足元には魔法陣。彼女はクルルカントが迫って来ていることに怯むことなく、眼をそらさずに魔力を練り上げ──側面より飛来した光弾のような攻撃が、クルルカントの顔面に叩き込まれた。

 その数は少なくとも5発。一瞬見えたのは、赤色の矢(・・・・)。直後、それは大爆発を起こし、火炎を撒き散らしてクルルカントの顔を焼く。

 攻撃が飛んできた方向は、稲葉さん達が避難していた方。そちらを確認すると、残心を解く弓を持つ人影。俺達の中で弓矢を扱うのは瑞希しか居ないし、間違いなく彼女だろう。

 正に値千金と言えるだろう一撃は、フェイトが準備を整えるには充分な時間を作り出してくれたようだ。

 直ぐになのは達と共に射線(・・)から脱した直後、

 

《Photon Lancer Phalanx Shift》

「撃ち砕けぇーー!!」

 

 フェイトを中心に展開された、無数のフォトンスフィア。そこから放たれた膨大な量のフォトンランサーが、クルルカントへと襲い掛かった。

 ──決めるなら、ここしかない。

 

「アルトリア」

 

 俺は右手に意識を集中させながら、隣に来ていたアルトリアへと呼びかけるも、流石と言うべきか、既に彼女は準備を整えていた。

 両手を──否、その手に持つ剣を振り上げるアルトリア。

 その動作に合わせ、『風王結界(インビジブル・エア)』が解かれ、隠されていた姿を現す一振りの剣。

 

「令呪よ──」

 

 俺の右手にある令呪の一角から光が失われると同時にフォトンランサーの雨が止み、フェイトが掲げた右手にフォトンスフィアが集い、長大な槍と化す。

 

「──ァァァアア!」

《Restrict Lock》

 

 野生の感とでも言うべきか、クルルカントがフォトンランサーが止んだ瞬間にその場を離脱しようと動いた瞬間、その胴体を桜色のリングが拘束し、動きを止めた。

 フェイトのファランクスシフトの間に仕掛けておいたようだ。流石なのはだな。

 

「スパーク、エンド……!」

 

 そしてその時を狙い、フェイトが雷槍を投擲すると、続けてアルトリアが、その手の中の、黄金色の魔力の輝きを放つ聖剣を、振り下ろす──!

 

約束された(エクス)────勝利の剣(カリバー)ーーーーーッ!!」

 

 黄金に染められた視界。

 それが晴れた時、そこに在ったのは、胴体を半ばから両断され、残った部分も度重なる攻撃で激しく損傷した満身創痍のクルルカント。

 それでもなお未だ空を飛び、存在していること事態が驚愕だった。

 けれど、その全身から多量の魔力を霧のように霧散させている姿からは、既に事切れる寸前であることが窺い知れる。

 

「────ァァ」

 

 細く長く、天に向かって声を上げるクルルカント。

 それは断末魔か、それとも──

 クルルカントの身体から出る魔力が量を増し、やがてその全身が魔力そのものとなって大気へ消えゆく、その刹那。

 天空を覆う雷雲が禍々しい気配を発すると共に、一条の黒い(・・)稲妻が、今正に消え去らんとしていたクルルカントを貫いた。

 

「ァァアアアアアア!!!!」

 

 ボコリと、クルルカントの身体が脈打ち、断末魔は絶叫に。絶対強者の気配は不吉なソレへと変わり行く。

 例え、グレイを殺した敵と言えど、最早決着も付き、後は消え去るのみであった物を強制的に変異させる。あの時、ズィーレビアを変化させた力と同質の存在の仕業だろう。

 ──見ていられなかった。こんな所業、納得出来るわけが無かった。

 剣を握る手に力が篭る……けど、きっと俺の力では、アレを楽にしてやることなど出来ないだろう。

 

「……なのは、頼めるか?」

 

 俺の言葉の意図を察した彼女が、「うん」と頷いた。

 空中で変化を続けるクルルカントであったものに対して、レイジングハートを構えるなのは。

 それを基点に収束する魔力は、強く輝く“星”を生み出す。

 

「──スターライト……ブレイカァーーー!!」

 

 解き放たれた膨大な魔力の奔流は、絶叫すら飲み込んで空を穿ち、暗雲を払う。

 

 

 

 

※※新たな【称号】を獲得しました!※※

 

『討伐者・轟く狂嵐』:ネームドモンスター『轟く狂嵐(テンペスト)』蛇竜・クルルカントを討伐した。

 

竜殺し(ドラゴン・キラー)』:竜種のネームドモンスターを討伐した者。ドラゴン系モンスターに対する攻撃にボーナス。




【プレイヤー名】
 長月 葉月 [Hazuki Nagatsuki]

【称号】
『第三次召喚者』:異世界から召喚された『深遠なる迷宮』第三次攻略者。出身世界は『地球』。
『召喚師』:召喚術を使用して戦う者。
『空戦魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。前提条件:スキル『リンカーコア』。魔法使用全般にボーナス。スキル『リンカーコア』を前提条件に持つ魔法の使用・習得にボーナス。スキル『リンカーコア』を前提条件に持つ『飛翔魔法』の使用にボーナス。
『魔法剣士・Lv4』:剣と魔法を駆使して戦う者。『ソード』の扱いに中程度のボーナス。魔法使用全般にボーナス。
不死者殺し(アンデッド・キラー)』:特定数以上のアンデッドを討伐し、かつ2体以上のアンデッドのネームドモンスターを討伐した者。アンデッドに対する攻撃にボーナス。
竜殺し(ドラゴン・キラー)』:竜種のネームドモンスターを討伐した者。ドラゴン系モンスターに対する攻撃にボーナス。
『繋ぐもの』:一定範囲内に“繋がり”を持つ者が存在する場合、能力値にボーナス。──それは、決して切れぬ鋼の絆。
『討伐者・血染めの赤骨』:ネームドモンスター『血染めの赤骨(スカーレット・ボーン)』エルヘイトを討伐した。
『討伐者・狂おしき水禍』:ネームドモンスター『狂おしき水禍(メイルシュトロム)』クェールベイグを討伐した。
『討伐者・不動の鉄壁』:ネームドモンスター『不動の鉄壁(ルーク)』ベイルガンドを討伐した。
『討伐者・終わり無き絶叫』:ネームドモンスター『終わり無き絶叫(エンドレス・スクリーム)』マリス・ズィーレビアを討伐した。
『討伐者・轟く狂嵐』:ネームドモンスター『轟く狂嵐(テンペスト)』蛇竜・クルルカントを討伐した。

【ユニークスキル】
『キャラクター召喚・Lv3』(長月葉月)
 :術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3時間。送還後、召喚していた時間と同時間のスキル使用不能時間(ディレイ)が発生する。
  派生スキルの効果を除き、1日に於いて召喚できるのは1キャラクターのみである。
  派生スキルの効果を除き、連日で同じキャラクターを召喚することはできない。1日の基準は午前0時であり、それを基準にしてスキル使用不能時間もリセットされる。
  召喚可能キャラクター
  『フェイト・テスタロッサ』
  『アルトリア』
  『十六夜咲夜』
  派生スキル
  『連鎖召喚(チェイン・サモン)』:残召喚時間を半分にし、召喚中のキャラクターに関係する人物を追加召喚する。連鎖召喚中の時間に応じて加算されるスキル使用不能時間は2倍になる。前提スキル『キャラクター召喚・Lv2』『召喚師の極意・Lv2』。
   【召喚可能キャラクター】
     フェイト・テスタロッサ:『高町なのは』
     アルトリア:召喚不能
     十六夜咲夜:
   ・該当する特定異世界との接続が拒絶されました。『アルトリア』の状態により、『アルトリア』の連鎖召喚が無効化されます。
   ・『アルトリア』の連鎖召喚無効化に伴い、『アルトリア』のスキル使用不能時間に減少補正が掛かります。

  『二重召喚(デュアル・サモン)』:残召喚時間を半分にし、現在召喚中のキャラクターの他に、召喚可能キャラクターの内から一人を召喚することができる。二重召喚中の時間に応じて加算されるスキル使用不能時間は2倍になる。
  二重召喚において召喚したキャラクターに係る連鎖召喚は、召喚時間半減等、使用に対する条件が存在しない代わりに、莫大な魔力を必要とする。前提スキル『キャラクター召喚・Lv3』『召喚師の極意・Lv3』


『絆を結ぶ程度の能力』
 :unknown


【スキル】
『アーサリア言語』:パッシブ。迷宮の王より付与された初期スキル。この世界の言語を使用することができる。
『戦場の心得・Lv4』:パッシブ。圧倒的不利な状況から生還した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。各種精神系バッドステータスにかかる確率が大きく減少する。格上及び対複数との戦闘時に能力補正+。
『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。保持魔力量にボーナス。魔法使用全般にボーナス。魔力回復にボーナス。
『召喚師の極意・Lv3』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長され、スキル使用不能時間(ディレイ)が減少する。被召喚者に能力補正+。
   ──深き心、強き想い、そして固き絆は世界をも超える力となる。それはやがて、願いを叶える光とならん──。
  【延長時間】フェイト・テスタロッサ:3時間05分
        アルトリア:1時間00分
  【減少時間】フェイト・テスタロッサ:1時間30分
        アルトリア:1時間00分
『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。
  [念話] [バリアジャケット] [リングバインド] [ラウンドシールド] [飛翔魔法] [フォトンランサー] [スプラッシュエッジ] [フィジカルヒール] [ディバイドエナジー]
『令呪』:アクティブ。三画からなり、一画それぞれに膨大な魔力を内包する、特定異世界に由来する魔術刻印。その性質は本来のものとは大きく変質している。
  ・召喚者と被召喚者との間に強いパスを構築する。
  ・篭められた魔力を開放することにより、召喚者とのパスを通して被召喚者へ魔力を送ることができる。
    ・魔力の回復及び全能力を強化させる。
    ・『令呪』が由来する特定異世界と同じ世界から召喚された被召喚者に対しては、効果が増幅、および強化に寄らない特殊な現象を起こすこともできる。
  ・使用した令呪は72時間に一つのペースで魔力が充填される。
    ・『リンカーコア』との複合効果:充填時間が24時間に短縮。
『アナライズ』:アクティブ。解析魔法。アイテムやモンスター等の情報を取得する事ができる魔法。術者の能力と、対象の性能や能力によっては、情報を取得できない場合がある。
『フィールド・アナライズ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。術者が居る階層の地図を表示する。但し、術者が移動したことのあるエリアに限る。前提条件:スキル『アナライズ』
『アーカイブ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。『アナライズ』を使用した時に自動取得される。『アナライズ』によって得た情報を閲覧する事が出来る。前提条件:スキル『アナライズ』。
『直感』:パッシブ。所謂第六感。気配の察知等に鋭敏になる。前提条件:スキル『戦場の心得・Lv3』。
『不屈の心』:パッシブ。身体能力補正+。魔法使用全般にボーナス。
願い(ウィッシュ)』:Unknown。──希望は、願いの先に──。
祈り(プライヤー)』:Unknown。──願いは、祈りの果てに──。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。