「『
いつものように召還のためのワードを唱え、いつものように伸ばした手の先に出現した球状魔法陣。それが割れて砕け、中から現れたフェイトは、しかしていつもとは雰囲気の違う格好だった。
白い色のワンピース……と言うだけであれば、さして珍しく無いのだけれど、その服には見覚えがあった。
少し前に、フェイトがわざわざ着て見せてくれたもの。聖祥小学校の制服だ。あの時と違うのは、右手に
「あ、葉月──」
こちらに気付いたフェイトが、俺の視線の向きに気付いたのだろう、右手に持っていたシャープペンへと視線を向けると、ふふっと笑みをこぼす。
「今ね、初めての授業なんだ」
そう言って微笑むフェイトを見ていると、俺も自然と笑みが零れる。
とは言え、そう言う事であれば、こちらにかまけさせるのも忍びない。
「じゃあフェイト、今日は学校の方に集中しなよ。夜にまた喚ぶから、その時に今日の話、聞かせて欲しいな」
初めての学校に、友達。きっと今日は、フェイトにとって忘れられない、掛け替えのない日になるだろうから。
そう伝えると、フェイトは「そんなに気を遣わなくていいのに」と言いつつも微笑みを浮かべて、「けど、ありがとう」と嬉しそうに言った。
「それなら……今日はお言葉に甘えるね」
申し訳なさそうに言うフェイトに、気にしないでと返し「それじゃ、また夜にね」と告げて送還すると、彼女の身体が球状魔法陣に包まれた時に、「一人で無茶したらだめだよ?」と釘を刺されてしまった。まぁ、俺としても元よりそのつもりは無いから「了解」と素直に返しておく。……一層10階の時のような事が有れば話は別だけど、あんな事は早々無いだろうし。
フェイトも「それなら」と言う風に頷いたところで、魔法陣とともに彼女の姿が消える。
……それにしても、学校ってことは『地球』に入ったんだな。と、その時点で『話』の流れを思い出し、疑問を覚える。
じゃあ、なのははもう
……そうなると、一番高い可能性は、守護騎士達の襲撃がまだ行われていないってことなんだろうけど……。
あの日──俺が自分のことをフェイトに打ち明けた日から、数日たった日のこと。彼女は俺が知る“この先”のことを聞かないと決めた。それは2人で話し合って決めたことだし、フェイトの意見を尊重しようとは思う……のだけど、心配なものは心配なわけで。
……夜に喚んだ時に、それとなく注意は促しておこうと思う。
…
……
…
フェイトを見送ってから一時間ほど経ったころだろうか。アルトリアに見て貰い、念話で注意を受けつつ剣の型を習っていると、不意に脳裏に『メッセージ』が来た感覚があった。
アルトリアにそれを告げて手を止め、ステータスウィンドウを開いて確認する。
……差出人は
内容は、『第二層』を回ってみたいと言うもので──どうやら彼らは、第二層に入って割とすぐにオーク達に囚われてしまったらしく、まともに第二層を越えた訳では無いからだとか。……しっかりした子ども達である。
とは言え、二人だけで行くにはやはり怖い。だから着いてきて欲しい、と。……あんな目に遭ったんだし、無理もないか。
ともかく、そう言う事であればと了承の返事を出す……前に、俺一人では荷が重いため、稲葉さん達も誘って良いかと訊いてみると、すぐに「もちろんです」と返ってきた。
それじゃあ早速と、稲葉さんへと豊から誘われた旨を記したメッセージを送付……とは言え返事が直ぐに来ると言うわけでは無いだろうから、今のうちに合流方法でも考えておくか。
『第二層』は入り口が複数有る。そんな中で二人や稲葉さん達と合流するには……俺が空から探して二人を回収して、稲葉さん達の所に行くしかないか。
そう思ったところで、稲葉さんから返事のメッセージが届いた。内容はもちろんオーケー、いつでも行けるよ。とのこと。あと、パーティを組んでいると同じ場所に出られるから、先に豊達とパーティを組んでおくと良いよ、とのアドバイスもあった。
稲葉さんからの返事を踏まえて豊に伝えると、どうやら彼と
送られてきたパーティへの招待に了承をすると、ステータスウィンドウの中にパーティメンバーの名前が表示されていた。
これでようやく準備完了だ。
これから飛ぶ旨を豊と稲葉さんへと送り、アルトリアに「行ってきます」と声を掛けて、行き先を『第二層』へと設定した
転移陣の周囲の光景が、室内から森へと変化したところで、横合いから「にーちゃん」と声を掛けられた。そちらを向けば、フェイトと同じぐらいの年の頃の子供が二人。……豊と泉だ。
すぐに駆け寄ってきた二人に「元気だったか?」と声を掛けると、「うんっ」とその言葉通り、元気な返事が返ってくる。
……と、豊はキョロキョロと周囲を見回し、「あれ?」と首を傾げた。
「どうした?」
「あのときのお姉ちゃんは……?」
恐る恐ると言った風に問いかけてくる豊。あの時の……と言うと、アルトリアのことかな。
「ごめんな。お姉ちゃんは今日は居ないんだよ」と言うと、「そっかぁ」と酷くがっかりした様子を見せた。喚んであげたいところだけれど、朝にフェイトを召還しているため、スキルの仕様上喚べないのだ。
……と、そんな豊に泉が近づいていくと、「ほら、ゆたか」と項垂れる豊をつついて何事かを促した。
豊は直ぐにハッと顔を上げると、泉と目配せをしてから、二人揃ってぺこりと頭を下げてきた。
「今日はよろしくおねがいします」
フェイト達は別にしても、この年頃の子供にしては確りしているな。……まぁ、こんな状況に追い込まれたら、そうならざるを得ないか。
そんな感心とも同情ともつかない想いを抱きつつ、任せておけと言葉を返す。
「よし、それじゃあ稲葉さん達を探しに行こうか。そろそろ来ているだろうし」
あっちがどのタイミングで来るか解らないけど、俺達とそう変わらないだろう。そう思いながら掛けた言葉に、豊が「うん」と頷いた後「でも、どうやって?」と首を傾げた。
泉も同じく気になったらしく「歩いてさがすんですか?」と訊いてくる。……流石にソレは無理かな、と言うことで、事前に考えていた案──空から捜して、見つけたら二人を運ぶ──を伝えようとした、ちょうどその時だった。
「あれ?」
そんな聞き覚えのある声がして振り向くと、たった今話題に出ていたその稲葉さんが、転移陣の上に立っていた。恐らく彼と同じようなタイミングで転移したのだろう、続いて彼の周囲に、パーティメンバーも現れる。
……噂をすればってやつか。「偶然だね」という稲葉さんに「まったくです」と返しつつも、「本当に偶然だろうか?」なんて疑問が頭を過ぎる。……別に彼らが何かをしている、なんて疑っている訳じゃなく、むしろ、脳裏に浮かぶのは詳細不明な自分のユニークスキルだ。
『絆を結ぶ程度の能力』
もしかしたら、こういった“偶然”を引き寄せるような力でもあるのかも……なんてことを思った。
「ま、お互い捜す手間が省けたって言うことで」
そう言って笑う稲葉さんに「そうですね」と返したところで、豊と泉が稲葉さんの所へ来て、俺の時と同じように「今日はよろしくおねがいします」と頭を下げた。
そんな2人に「おう、よろしくな」と笑いかける稲葉さん。
次いで豊達が他の皆にも挨拶を終えたところで、「じゃあ、そろそろ行こうか」と皆を促し、森へ足を向けた。
…
……
…
今回は豊達の希望に添っての行動のため、特に目的は無い。言うなれば観光のようなものだ。……モンスターが出る物騒な観光だけれど。
……とは言え、流石にそれだと締まりが悪い。ということで、歩きながら話し合い、木の上や少し開けた所からならよく見える、例の巨木──霊樹ファビア──を目的地として進むことにした。
一度上に上がって見てみたところ、幸いにも俺達が出てきた転移陣は、比較的『霊樹ファビア』に近い位置に有ったからっていうのもある。
そんなわけで森の中の探索行。
道中では泉が、幻覚作用のある鱗粉を撒き散らす『ウィスプ・バタフライ』の綺麗さに目を奪われたり──近づかなければ綺麗なのだ。近づかなければ──、豊が巨大なカマキリ『ジャイアント・マンティス』に目を輝かせたり──怖いけどカッコイイ! だそうだ──。
加えて、猛毒を持つ『ヴェノムスネーク』。木の上から忍び寄って荷物を奪っていくらしい、手癖の悪い猿『フェヴァルエイプ』。名前の通りこの森の固有種だとか。年輪を経た樹木が意思を持った『トレント』。体長が1メートル以上になろうかという巨大な蜘蛛『グァマンテ』。エルフ語で“悪食”って意味らしい。……これらの、前は遭遇しなかったモンスターにも出遭った。
……とまぁ、豊達と第二層を回り、無事に『霊樹ファビア』の根元付近まで辿り付いたところで、もう大分空も暗くなった帰りの道中。もう少しで転移陣に着く、というところで、不意に頭痛が襲ってきた。
耐え難い……とまでは行かずとも不快なその感覚に頭を抑え──
(──葉月!)
まるで殴られたかのように、ガンッと脳裏に声が響いた。
「くっ……フェイ……ト?」
思わずその場に蹲り、漏れ出た自分の言葉に確信する。……そうだ、聞き間違えようはずがない。今の“念話”は、フェイトからのものだった。
けど、なぜ。
今は彼女を召還していない、それは確かだ。……それじゃあまさか、“世界”を超えて届いたとでも言うのか。
──嫌な感じがする。漠然としたものだけれど、凄く。
「大丈夫か?」と声を掛けてくれる稲葉さんには悪いけれど「先に戻ります」と断りを入れ、豊と泉のことを頼むと──快く頷いてくれたので助かった──、転移陣まで行くのももどかしく、その場で『
「あ、待っ……」
恐らく俺が具合悪そうに突如蹲ったからだろう、自分の背中を摩っていてくれた人が居たことに気付いたのは、足下に巻物による転移陣が広がり、至近から慌てた様子のそんな声が聞こえた後だった。
瞬転。
目に映る景色が、森の中から、もうすっかりと見慣れてしまった『マイルーム』のものへと変わった。
確か俺のすぐ後ろを歩いて居たのは瑞希だったはずと思いながら、慌てて振り向いたそこには、案の定困ったような表情を浮かべた彼女が居て。
「ごめん、周りを確認するのを忘れてた」
不注意だったと謝ると、彼女は小さく頭を振って「気にしなくて良い」と返してきて、次いで、「何か有った……の?」と疑問を投げかけてくる。
当然か、もう転移陣も近いのに探索行を無理矢理切り上げ、先に『帰還の巻物』で帰ってきたのだから。しかも瑞希はそれに巻き込まれてここに居るわけだし。
とは言え悠長に説明しているのももどかしく、「今は召還していないフェイトの声が聞こえたんだ。けど朝は一度喚んだから、もしかしてって思って……」と簡潔に説明しつつ、部屋の中を見回す。……やはりと言うか、フェイトとなのはの姿は無い。
……となるとやはり、“彼女たちの世界”からの念話が届いたのか。有り得ないとは思うことだけど、状況から考えればそれしかない。
(ハヅキ、落ち着いてください。フェイトを召還してみてはどうですか?)
と、今の瑞希への説明で大体察してくれたのだろうか、アルトリアからの念話が届く。
そうか、そうだよなと思い……落ち着けと、一度大きく深呼吸をする。
「ちょっと今からフェイトを喚んでみるから」
「解った。ここで待たせてもらうね」
帰るなら『帰還の巻物』を渡すから、少し待って欲しい……と最後まで言うまでもなく、瑞希は頷いてソファに腰掛けた。
「悪い」ともう一度謝ってから、少し離れて右手を伸ばし、フェイトを喚ぶためのキーワードを唱え──
「『
その瞬間、再びズキリと頭痛に襲われる。
けど、これは先程の念話の時にあった物とは違う。どちらかというならば、あの『
そして気付いた。今、俺の身体を、金色の球状魔法陣が包んでいることに。
こちらの様子を見ていた瑞希が、慌てて駆け寄ってきて、何かを叫んでいることに。
けれどその声は聞こえず、視界はそのまま色合いを濃くした魔法陣の色に覆われて──
◇◆◇
──一瞬の暗転の先に、視界は切り替わる。
風が吹いた。“外”の気配。
「……ぅ……ぁ……はづ……き?」
小さな、消えそうな声。
振り向いたそこには、小さなクレーターのようになった地面と、そこから這い出したのだろうか、欄干に──その時点で、自分が今居るのが陸橋のような場所であることに気付いて──もたれるように立っている、傷ついたフェイトと……眼下に見える、破壊された噴水らしきものの側に倒れ伏す、なのはの姿が──
「──何者だ?」
不意に聞こえた声に再び振り向くと……恐らくは俺が動揺して気付いていなかっただけで、最初からそこに居たのだろう、赤い髪をポニーテールに纏めた、赤と白の『騎士服』に身を包んだ
その右手には抜き身の剣……否、アームドデバイス。そして左手には、黒い表紙に金色の十字の装飾が施された、一冊の本が──
知っている。彼女が何者か。
知っている。彼女の持つその本が何か。
「……その格好、魔導師か。その娘の仲間か?」
──
この瞬間、俺は、自分が今『地球』に──それも、フェイト達の世界に居るのだと言うことを、未だ呆然とする頭で理解した。
※※【ユニークスキル】の情報が更新されました!※※
『キャラクター召喚・Lv3』
:術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3時間。送還後、召喚していた時間と同時間の
派生スキルの効果を除き、1日に於いて召喚できるのは1キャラクターのみである。
派生スキルの効果を除き、連日で同じキャラクターを召喚することはできない。1日の基準は午前0時であり、それを基準にしてスキル使用不能時間もリセットされる。
召喚可能キャラクター
『フェイト・テスタロッサ』
『アルトリア』
『十六夜咲夜』
派生スキル
『
【召喚可能キャラクター】
フェイト・テスタロッサ:『高町なのは』
アルトリア:召喚不能
十六夜咲夜:unknown
・該当する特定異世界との接続が拒絶されました。『アルトリア』の状態により、『アルトリア』の連鎖召喚が無効化されます。
・『アルトリア』の連鎖召喚無効化に伴い、『アルトリア』のスキル使用不能時間に減少補正が掛かります。
『
二重召喚において召喚したキャラクターに係る連鎖召喚は、召喚時間半減等、使用に対する条件が存在しない代わりに、莫大な魔力を必要とする。前提スキル『キャラクター召喚・Lv3』『召喚師の極意・Lv3』
『