フェイトとなのはの魔力を含めた体調が戻り、葉月が現在行っている日々の鍛錬も、順調に続けられている。
彼に関して言えば、事態は特に動いてはいない。現在『リンカーコア』の活動が減衰している状態であり、それが戻るまでは、攻略は控えて鍛錬に集中すると決めているからだ。
単純に考えれば『リンカーコア』からの魔力の供給が停まった状態に陥ったとはいえ、本来であれば、その他の『プレイヤー』と同じ状態であるのだから、特に問題は無い……と思われるかもしれない。
だが、彼にとって『リンカーコア』は既に身体の一部となっている。……否、『リンカーコア』の説明文に「先天性」とあるように、彼の中にはもともと非活性であったとはいえ、『リンカーコア』、ないしはそれに類する機能をもった器官が存在していた。そしてそれが一度活性化してしまった以上、最早“有る”ことが当たり前であり、“無い”状態が異常なのだ。
であるが故に、今は積極的に動かないという判断は、決して大げさではなく、最適解とも言えよう。
その一方で、他の『プレイヤー』達の状況は、大きく動いていた。
その一つが、『廃都ルディエント』に出現し、同所の解放を計る『プレイヤー』達を悩ませていたネームドモンスター、『
それを成し遂げたのは一つのパーティであり、その構成メンバーはそれぞれのユニークスキルからこう呼ばれる。
物理アタッカーの『
魔法アタッカーの『紅蓮』。
防御と回復を一手に担う『福音』。
ある意味、このパーティの要ともいうべき存在『
そして、彼等を纏めるリーダーである『軍神』。
それぞれが他の『プレイヤー』から見ても頭一つどころか、遥かに実力が抜きんでた存在達である。
その彼等は、他の『プレイヤー』達の前でゴールヴァールを倒し、その隔絶した強さを見せつけたことによって、一気に他の者達からの注目を集め、『プレイヤー』達の中心となっていった。
そして二つ目。
これは一つ目の状況が有った上での出来事であるのだが──第三層の攻略条件が判明したことだ。
『軍神』率いるパーティに所属する『神眼』は、その名の通り凄まじいまでの解析能力を有する。それは、最低限の条件さえ満たせば、入場したフロアの攻略情報を知ることができる程である。
例を挙げれば、第一層の洞窟エリアであれば、『フィールドアナライズ』を行えば、行ったことの無い場所であっても地図情報が取得でき、階段の位置も、現在迷宮内を徘徊しているモンスターの位置すらも取得することができたり、道を開けるために何かギミックを解除しなければいけないのであれば、その解除方法を知ることができる等だ。
その『神眼』によって、『第三層・草原エリア』の突破方法が解析され、『軍神』より他の『プレイヤー』達へと通達された。……とは言え、『廃都ルディエント』を主な活動の場とし、『軍神』達と繋がりの深い者達を中心に、ではあるが。
第三層の突破条件。それは、定められた数以上の『プレイヤー』が第三層へと入場した瞬間にカウントダウンが開始され、それの終了と同時に『大侵攻』が行われる。そしてその『大侵攻』時に出現する六体のネームドモンスターを撃破すること、である。
『大侵攻』とはその言葉が示すとおり、第三層に出現するモンスターである『アグリア・オーク』の部族と『グラス・リザードマン』の部族。普段は縄張り争いを行っているこの二部族が、一丸となって神殿──『プレイヤー』達が第三層に入った際に現れる転移陣がある場所──を目がけて攻め寄せてくる現象だ。
このカウントダウンは既に開始されており、全ての『プレイヤー』達の端末で見られる『インフォメーション』に表示されている。
そしてこの『大侵攻』を放置した場合──神殿を占拠したモンスターは、転移陣を利用してこの迷宮の至る所に現れるようになる。それは、「第三層のモンスターが第一層や第二層に現れる」という意味だけではない。各『プレイヤー』達の『マイルーム』にも、モンスターが押し寄せる可能性がある、ということだ。
すなわち、この『大侵攻』を乗り切らねば、この迷宮内において安全地帯と呼べる場所はなくなる、ということである。
そして『神眼』がそれらの情報を取得して、『軍神』から情報が通達された時点で、表示されていたカウント数は約『14,000』。すなわち、およそ十日後に『大侵攻』は行われる。
◇◆◇
日々鍛錬を続け、徐々に『リンカーコア』が回復していくにつれて、感じることがあった。
少しずつではあるが、『リンカーコア』から魔力が供給されるにあたり、その魔力が以前よりも身体に馴染んでいる、ということだ。
フェイト達は、回復するに当たって以前よりも魔力量が増えたりしたらしいのだけど、俺の場合はそれとは違うというか、その表現だとしっくりこないというか。何て言えばいいかな……ズレていたものがしっかりと填まった、というような感じだろうか。
そして、俺が今使っている剣である『ライトニング・エッジ』。これにも変化を感じられていた。
……この剣は、知性を持ついわゆる『インテリジェンス・ウェポン』ではない。けれど、これを持って戦っている時に、何となく“剣の意志”とでも言えばいいだろうか? そんなようなものを感じることがあるのだ。
それに気付いてから注意してみると、それを感じる時は、決まって俺が魔法のリハビリを兼ねて、『ミッドチルダ魔法』を使ってみた時であることが解った。
それらの事実から、一つの仮説を立ててみた。
すなわち俺の中にある『リンカーコア』。これは説明文に「先天性」とあるように、もともと俺が持っていたもののようだ。とは言え、元の世界で俺は魔法なんてものは使えなかったし、この世界に召喚されてからステータスを見た際も、フェイトの念話を受けるまで『リンカーコア』は表示されていなかった。
そもそも『リンカーコア』という名称は、フェイト達の世界に由来するもので、機能にも『ミッドチルダ魔法』を使う際に補正が掛かるようになっている。
つまり、俺の中にあったのは、活動していない「魔力を取り込み、行使するための器官」であり、それがフェイトと接したことにより『リンカーコア』へと変化して活性化した、ということだろうか。
けれど、あくまで俺が召喚したフェイトに接したため……という、いうなればクッションをいくつも挟んだ状態だったため、擬似的な状態だったのではないか。
そして俺が『
そして『ライトニング・エッジ』。これの元になった『クリムゾン・エッジ』は、もともと
『核の水晶』という名前のとおり、アレがこの剣の“核”となっていて、もともとこの剣の存在比率がフェイト達の世界に傾いていたとしたら?
そして俺と共にあの世界に行き、あの世界に触れ、
その考えに至ったとき、剣が一瞬トクリと脈動したような気がして──まるで、この世界で知識を書き込まれる時のように、何となく、理解する。
この剣は、もう
無論、確証がある訳じゃない。誰かに聞けば教えて貰えるようなものでもない。最終的には自分で検証していく必要があるのだけれど、なんとなく、この感覚は信じても良いような気がした。
…
……
…
そして幾日か経ったころ、稲葉さんが『大侵攻』についての情報を教えてくれた。
言われて『インフォメーション』の項目を見てみれば、確かに謎のカウントダウンが行われていた。……事情を知らなければ「何のカウントダウンか解らない」あたり、何とも底意地が悪い。
『大侵攻』までの残り時間は、あと二日──明後日に迫っている。元々の情報がもたらされたのが『大侵攻』の十日前という話らしいのだが、稲葉さんもその情報を得たのは昨日なんだとか。
どうやらしばらくの間、情報を取得した人の周辺で止まっていたらしい。稲葉さん自身も『軍神』に会ったことがあるらしく、そういった不特定多数に影響を及ぼす情報を、無為に秘匿する人では無いとのことで……俺が言えたことではないれど、思ったよりも『プレイヤー』間の繋がりが薄いのか。それとも“周辺”とやらがきな臭いのかなんなのか。
……というか、その『神眼』とやらが居なかったらこの『大侵攻』に関する具体的な情報も解らなかったわけで……恐ろしい話だと思うところもあるが、果たして『
可能性としては、『神眼』の存在があるから、こういった情報の出し方をしたというのが一つ。こういった突破条件があるから『神眼』というユニークスキルが与えられたというのが一つ。そして、本来はここで『プレイヤー』達を全滅させる予定だったというのが一つ、か。
……何にせよ俺達にできるのは、何としても事態を乗り切ることで、俺は取り敢えず体調を万全にすることが急務だな。体感的には、完調まであと少しって感じなんだけどな。
とりあえず『大侵攻』に関する情報は、フェイト達にも共有し、皆で相談する。昨日にフェイト達をメインで召喚してしまっているため、咲夜を召喚してから『
とはいえ話すことはそう多くもない。『大侵攻』に参加するのは当然なので、「誰をメインで連れて行くか」に焦点は絞られるのだけど──
「私なら、乱戦であれ対軍であれ、ある程度柔軟に対処できます。あとは戦況を見て『二重召喚』を行えば良いのではないでしょうか」
というアルトリアの意見を採用した。
ブリテンの王であり、サーヴァントである彼女ならば、対軍の経験も対個人の経験も豊富。個人戦闘能力は折り紙付きな上に、宝具を使えば多数を一気に薙ぎ払うこともできるし、確かに打って付けだろう。
フェイトとなのは、咲夜もそれで了承してくれたので、今日の残りと明日一日は『ショップ』でアイテム類の補充など準備に当てることにした。
後はフェイトに、自分の『リンカーコア』と『ライトニング・エッジ』のことを相談し──恐らく、『核の水晶』にフェイトの魔力を使ったところから、この剣に親和性のある魔法はフェイトに由来するものになるだろうということで、彼女の魔法についてレクチャーを受ける。
……と言っても一度に複数のことを教わったところで無理が出る。なので、今回はある一つの魔法に絞って、だけど。
その際になのはが「それじゃあ私の魔力も籠めたら、私の魔法にも適応するのかな?」と零したので、空の『核の水晶』はまだまだ沢山あるので、実際に『ディバイドエナジー』で魔力を籠めてもらった。
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名前:
カテゴリ:道具/魔法道具・素材
「特定魔造生物、魔法道具の核となるアイテムの素。光系上級」
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出来たなのはの『核の水晶』を『アナライズ』で鑑定してみると、表示された情報はこのようなもので。
属性に関しては、恐らくはなのはの性格やら魔力の性質やらを、この世界の属性に当てはめたらこうなった……ってところだろうけど。
とはいえ現状ではこれを合成しはしない。それによって万が一剣が使えなくなってしまっては本末転倒だからだ。なので、折角協力してくれたなのはには申し訳ないけれど、この『核の水晶・烈光』を剣に合成するのは、今回の事態を無事に乗り切ってからということにさせてもらう。
そう言ったところ、なのは「解りました」と頷いたあと「それじゃあ、乗り切ってからの楽しみが追加ですね」と続け──「楽しみ?」と訊いた俺に、「あっ」という顔をして。
「もう、なのはってば……えっとね、葉月。明後日って、『地球』だと何日か解る?」
フェイトにそう問われ、考える。……
そこまで考えて、「ああそうか」と頭を抱えた。
自分がこの世界に呼び込まれた時期と、過ごした期間。そしてフェイト達が今
さて、
「もしかして、クリスマスか?」と答えると、フェイトから「ちょっと惜しいかな」と返ってくる。
「明後日は12月24日、クリスマスイブだから……」
「フェイトちゃんと、ケーキを用意しておこうねって話をしてたんです」
はにかみながらそう言ったフェイトとなのはは、「楽しみにしていてね」と楽しそうに笑った。
その様子が本当に楽しそうで……そこに水を差すことになってしまいそうで少し迷ったけれど、言葉を続ける。
「……二人は今関わっている事件のこともある。向こうも大詰めだろうから、余りこっちに気を割かなくていいからな」
「解った。けど、大丈夫だよ」
「この世界のことも、私達の世界のことも。どっちも頑張ろうって、フェイトちゃんと決めてるから」
二人は一度顔を見合わせ、真剣な面持ちで頷いてからそう言ってきて……二人の気持ちは凄く嬉しく思う。だから、しっかりと「ありがとう」と伝えた。
……俺も、自分にできる限りのことを頑張らないとな。
──そして、『大侵攻』の日が訪れる。
4DXの2ndA'sが本日より絶賛上映中です。フェイトちゃん可愛い。(ダイマ)