『
佐々木君と瑞希の遠距離援護が入った後、それが切っ掛けになったか、幾人かが我もとダンガ・ルヘイアとの戦いに参戦してきた。そのうちの一人に至っては、俺の側を通り過ぎ様に「手前ぇ等で独占してんじゃねえぞ!」なんて言い放って行ったんだが……独占って、この後に及んで彼はゲーム感覚なんだろうか。
けれど──こちらの攻撃がまるで通じていないように感じられる、強靱な鱗と巨体に攻めあぐね、その中で無謀にも単身突撃した一人が、ダンガ・ルヘイアが振り回した鼻で大地に叩き付けられたところを踏みつぶされたことで、相手の危険さを再認識したらしく、尻込みしだした。
「なんだコイツ、ヤベェぞ!」なんて言っていたから、もしかしたらダンガ・ルヘイアが現れた時に、ここから離れたところで戦っていた人なのかもしれないが。
無論俺達もそれを黙って見ていた訳では無いけれど、助けることが出来なかったのは残念でならない。……とは言え、今はそれに拘泥するわけにもいかない。悩めば動きや判断が鈍り、今度はこちらが危なくなるのだから。
そうして再びアルトリアと共に前線に立ち、ダンガ・ルヘイアと相対する。
アルトリアがメインを張ってくれているため、こちらに来る攻撃は少ない。そこにガンテツや、瑞希や佐々木君を初めとした遠距離攻撃組のお蔭もあり、趨勢はこちらの有利に傾いてきた。
チラリと、意識を【スキル】へ向ける。
……残りの召喚時間、三十分強。そろそろ勝負を決めないと不味いか。
アルトリアに念話を送ってギアを上げてもらい、次いで咲夜から状況を聞くと、こちらに向かっていたリザードマンの一団を倒したところだとか。
どうやら本隊はまだ動いていないようなので、引き続きリザードマンの牽制をしてもらいつつ、こちらの援護をお願いすると、「まったく、メイド使いが荒いですね」と言いながらも引き受けてくれた。
咲夜に「ありがとう」と伝え、先程よりもアルトリアへの魔力供給の負荷が増えたことを感じつつ、再度ダンガ・ルヘイアへと肉薄する。
正面からアルトリアが敵の目を引くように立ち回る間、踏みつけや体当たりに注意して躱しつつ、側面ややや後方から、脚や横腹を狙ってヘビーブレイカーを叩き付け、数撃与えたら速やかに離脱。
入れ替わるようにガンテツが殴打を加えて爆発を起こし、それに気を取られて出来た隙を突いて、アルトリアが頭部へ攻撃を仕掛ける。そうしてまた生まれた隙を突き、今度は遠距離からの支援が入った後、再び剣による攻撃を掛ける。
刃は鱗に阻まれるとしても、打撃による衝撃は伝わるはず。攻撃を加えることは決して無駄ではないだろうと、即興ながらもなんとか上手く回っている連携を駆使し、可能な限り多くの攻撃を当てて行く。
そしてその時は訪れた。
「オラアアアアアアアアアッ!!」
気合の声と共にガンテツの拳がダンガ・ルヘイアの横腹に叩き込まれ、爆発が巻き起こった瞬間、「グルォオオァァアアア!!」と、それまでとは違う苦痛に満ちた声を上げ──爆煙が晴れたそこに見えたのは、横腹から背中近くまでの範囲が大きく鱗が禿げた姿で。
そしてそのダンガ・ルヘイアは、苦痛にもがくようにその場で身体を大きく揺らして暴れ回り、目の前で気を引いていたアルトリアに向けて、頭突きをするかのように大きく口を開けて噛み付き掛かった。
アルトリアがそれを躱すのは見えたので、地面に叩き付けたことで一瞬動きの止まったダンガ・ルヘイアの頭──その口の端から伸びた牙を狙ってバインドを掛ける。
先程鼻を狙ったときは余り保たずにすぐ破られたが、あの凄まじく硬い鱗の無い部分ならば。あの鱗の硬さはただ物理的に硬いだけではなく、魔力的な保護もあるのではないかと思ったのだけど……その狙いはどうやら悪くなかったようで、ダンガ・ルヘイアが頭を動かせず呻く。
不意に頭の動きを止められたからか、身体の動きも連動するように一瞬止まった時、事態は一瞬で動き出した。
アルトリアがダンガ・ルヘイアの顔の横へと一足で駆け寄り、対してダンガ・ルヘイアは顔を動かせないまでも、その長い鼻をアルトリアに向けて大きく振り──そこを狙い、バインドを掛ける。
一瞬動きが止まった鼻に、咲夜が放った付喪神の小剣が殺到し、突き刺さらないまでも、ぶつかった瞬間に妖力の爆発を起こして衝撃で鼻を弾き飛ばした。
ダンガ・ルヘイアが大きく吼えて身じろぎし、それによって牙のバインドが弾かれ解ける。けれど、その時には既にアルトリアは肉薄していて、その眼窩へと不可視の剣を突き入れ──
「──弾けろ!」
「ゴオオオオガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ドンッという音と共に、ダンガ・ルヘイアの頭が大きく震え、凄まじい絶叫が響き渡った。
うわ、エグい。
詳しくは聞いていないが、何をやったかは大体解る。何しろ、アルトリアの手の中にはハッキリと剣の柄と、そこから伸びる剣身が見えるのだから。
突き刺した瞬間に、
流石に耐えかねたか、ダンガ・ルヘイアはその六本の脚を大地に折り曲げて膝を付き、その顔中──眼や鼻、口から、血液の代わりだろう大量の魔力の霧を立ち上らせながら、大きく頭を振り回す。
けれどその時には、アルトリアは既に場所を移し──先程ガンテツによって大きく鱗をはがされた胴体の横で、その手に持つ
(決めます。私の
(何人か居ましたけど退かしましたよ)
アルトリアの問いに答える咲夜の声。
警告して回ったのか、物理的に避けたのかは解らないけど、咲夜の能力が有ればこその早さだな。
(──ハヅキッ!)
「令呪よ──!」
続いてアルトリアに呼ばれるのと、俺が令呪に籠められた魔力を解放したのはほぼ同時だった。
咲夜にアルトリアの後ろに回るように念話を送りつつ、溢れだした莫大な量の魔力を、少しでも無駄にならないように流れを制御し、アルトリアへ送り込む。
それにつれ、アルトリアが持つ剣が、黄金の輝きを放ち、強め、世界を光に染め上げ──
「
アルトリアが振り上げた剣を、今正に振り下ろそうとした、その時だった。
(もう少し左へ)
脳裏に響いた咲夜の声。
手早く伝えるためか、端的に発せられたその言葉に一瞬だけ動きを止めたアルトリアが、言われた言葉に従って僅かに射線をズラしたのが見て取れた。
感じた気配に上空を見上げれば、空に浮きながらアルトリアが向いた方向を見ている咲夜の姿。
何が有るのかと思い、彼女の側に行ってみれば……。
「
そして解き放たれた極光の斬撃は、鱗が禿げてむき出しになった箇所からダンガ・ルヘイアの身体を食い荒らし、放出される光の余波によって内部から消し飛ばす。
しかして魔力が多分に籠められたその一撃は、ダンガ・ルヘイアを討ち滅ぼしてなお収まることはなく突き進み──
その時だった。
ズグリ、と、胸の内が疼きを上げる。
ズキリとした頭痛が走り──
「これは……?」
「あの、葉月さん、これ……」
アルトリアと咲夜の、戸惑ったような声が聞こえて二人の様子を見れば、二人の身体を球状魔法陣が取り巻いていて。
まだ、時間には早い。あと10分以上はあるはず。そう思って【スキル】に意識を向けようとしたところで、キンッと、二人の姿が魔法陣と共に掻き消えて、
──ごめんなさい。早すぎるかも知れない。けれど、この機会を逃すわけには──
声が、聞こえた気がした。
どこから? 解らない。耳元からのような、遠くのような。自分の、中からのような……。
気がつけば、自分の周りを球状魔法陣が覆っていて──それと同時に──再びの、頭痛と──身体の中から、無理矢理、魔力、を、絞り出されるよう、な──
※※新たな称号を獲得しました!※※
『討伐者・暴食剛獣』:ネームドモンスター『
『討伐者・竜殻の碧王』:ネームドモンスター『
◇◆◇
その姿を現した、闇の書の自動防衛システムの浸食暴走体──闇の書の闇。
鳥のような黒き雄大なる翼を持ち、三対六本の強靱な脚でその巨躯を支える、巨大な顎を持つ竜のような外見。
首筋から翼までの間の背からは、砲撃を行うための大小一対ずつの触腕が伸びている。
そして首元から迫り上がったパーツには、八神はやてによってリインフォースと名付けられた、闇の書の管理人格に面影が似たヒトガタが埋め込まれていた。
そのヒトガタの後ろ、両翼の間には、まるで後光か
それから世界を、大切な者を護るために相対するは、高町なのはとフェイト・テスタロッサ。フェイトの使い魔のアルフ、二人の友であり仲間である、ユーノ・スクライアとクロノ・ハラオウン。
そして、なのはとフェイトとこれまで幾度も激闘を重ねてきた、
なのはやフェイトにとっては、もとより戦わなくて良いのならばそうしたい者達であり、守護騎士達にしても、その行動原理は「はやてのため」であったがゆえに、事ここに至って協力しない理由は無い。
これまでの敵、味方の垣根を越えた、錚々たるメンバーであった。
作戦の概要は、まずはユーノとアルフ、ザフィーラが、捕縛術式によって闇の書の闇の行動を制限し、なのはとヴィータ、フェイトとシグナムがそれぞれ多重に張られた積層防御を破壊した後、本体を叩くというもの。
そして立てられた作戦に従いユーノが、触れると衝撃を与えるリングで囲って移動を制限する『ケイジングサークル』を使用し、それに続いてアルフが鎖のように編まれた魔力で敵を縛る『チェーンバインド』を、ザフィーラが魔力を集束させた杭を打ち込んで、攻撃と足止めを行う『鋼の
「オォァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
闇の書の闇の竜体から生えたヒトガタが高い叫び声を上げると、その前方──竜体の頭の上に
ドクリ、と、まるで脈動するように明滅したその球状魔法陣は、次いでカシャンと硝子のように割れて砕け──
中から現れたのは、黒いヒトガタだった。
夜の闇を更に濃縮したような、黒よりもなお深いドレスアーマーが、海風に吹かれてはためき、揺れる。
その手に赤く脈打つ黒き聖剣を携え、その身より吹き荒れる膨大な魔力もまた黒く、闇を濃縮したほどに深く、強く。
顔にはバイザーが掛けられ、その表情をうかがい知ることは出来ないが、それでも──
「……え?」
「……アルトリア、さん?」
呆然と呟いたフェイトとなのはの声に応えるように、黒き者──かの世界に於いて
「■■■■■■■■──!!!」
「ダメっ!!」
「みんな、避けて!」
獣の如き咆哮を上げると共に黒き聖剣を振り上げ、漆黒に染まった極光の斬撃を振り下ろした。
◇◆◇
世界の最奥にたゆたうモノは、ついにソレを感じ取った。
一瞬繋がった、
それを扱う存在。
己の脅威となるべき存在。
それをなし得た原因になる者。
己をココに封じ籠めた者。
憎き者。
決して、放置しては為らぬ者。
──グライスフィイイイイドオオオオオオオ──!!!!
ココからでは手出しは出来ぬ。
かの存在が住まうのは、己が未だ掌握出来ぬ領域を使い、憎き封印竜達が造り上げた場所。
ならば──
ソレは、封印を破る為に貯めていた力の多くを使い、掌握している迷宮のシステム領域を操作して、迷宮の構造を造り替える。
自らが直接手出しできぬならば、己が尤も信を置く者に。
かつてよりも力が衰えていようとも、未だ強大なる力を持つ、己が半身に──
迷宮が、蠢動する。
◇◆◇
※※特定異世界との繋がりが強化されました。スキルの偽装が解除されます※※
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