特にヤマもオチもなく、甘々する話。
「バレンタインのプレゼント。誰かにあげる予定は?」
◇
・A:アリサ・バニングスの場合。
「ん~……まぁ、パパかなぁ。あとはなのはやすずか、フェイトにはやて……友チョコかなあ。え、男子……? 無い無い」
バッサリですか。
◇
・A:月村すずかの場合。
「男のひとであげるのは、お父さんかな。あとはアリサちゃんと同じで……なのはちゃんとアリサちゃん、はやてちゃんにフェイトちゃん……」
クラスの男子とか、好きな人には? と言う追加の問いに、苦笑を浮かべるすずか。
「男子にあげる予定はない、かなあ。好きな人……って言えるような人もいないし……」
だよね、と同意するアリサと顔を見合わせ、うんうんと頷くすずか。
アリサと比べると幾分やんわりと。けれどもこちらもバッサリと。
◇
・A:八神はやての場合。
「バレンタインなぁ……そうやねえ。まずは家族やろ。あとはなのはちゃんにフェイトちゃん、すずかちゃんにアリサちゃん……」
その辺はやっぱり同じなのね、と言う言葉に、「そらそうやねえ」と笑うはやて。
「あとはクロノ君とユーノ君に」
おや、新しい名前。と耳聡く聞き留めた様子に苦笑を浮かべて、「お世話になっとる人達なんよ」と答えるはやて。
終わりかな? と思ったところで、「それに……」と続けた後、一瞬言いよどんで。
「……葉月さんかなぁ」
ポツリと一言。
その前までに上がった人達とは違う雰囲気で出された名前に、「なになに?」と勢いよくアリサが問いかけ。
「ん~……以前に、大きな迷惑かけてしもうた人なんやけどな。その上、返しきれへんぐらいの恩をくれた人で……何て言えばええんかなあ……」
若干しんみりとした感じで言ったはやて。
直ぐに気を取り直したように「とにかく」と言葉を続け、
「感謝だけやのうて、いろんな想いを籠めて贈りたい相手、やね」
そう言って朗らかに笑った。
◇
・A:高町なのはの場合。
「バレンタイン? えーっと……お父さんとお兄ちゃん、ユーノくんにクロノくん……」
先程聞いた名前がまた出てきましたね、との言葉に、まあ共通の知り合いやしなとはやて。
「フェイトちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん……」
指折り数えていくなのは。
その様子に、ふふっと微笑み合うアリサとすずか。
「あとは……葉月さん」
と、また同じ名前が。
アリサとすずかも知らない名前のようで、なのはもなの? とお互い疑問に思っているよう。
「私にとっての葉月さん? えっと……始めは、助けを求める声に応えたいって思った。もちろん今もその気持ちは変わらないけど……今は、それだけじゃなくて。……ん~……なんて言えばいいのかなあ……」
と、考え込んでしまったなのは。
はやては、言い表せない感覚は何となく分かるよと、同意と言うか理解と言うか。
一方でアリサとすずかは、うーんうーんと考え込むなのはの様子に顔を見合わせ、何となく雰囲気は解ったから今はいいわと、その場を収めに掛かった模様。
◇
・A:フェイト・テスタロッサの場合。
「バレンタインにプレゼントをあげる人? ……えっと、葉月と……クロノ、ユーノ……あとはなのはとはやてと、アリサとすずかにももちろん。あ、アルフも欲しがるよね」
つらつらと名前を挙げていくフェイトだけど、最初に上った名前は件の人。それを聞いたすずかが、フェイトちゃんもなんだ? と声を上げる。……クロノくんとユーノくんも、共通の人物なのだけど。
三人とも……特にフェイトは、名前を挙げた時の雰囲気が違うのが引っかかったのか。
次いでアリサが、はやてとなのはに訊いたように、フェイトにとっての『葉月さん』がどんな人なのかを訊いてみると……。
「え、ええ? 私にとっての葉月、って……えっと、その……ええっと……」
動揺。
次いで赤面。
フェイトちゃん落ち着いて、となのはに宥められて、大きく深呼吸。
「は、はぢゅきは……」
噛みました。
「……葉月、は……“私”を必要としてくれて……私が弱さを見せちゃった時も、受け止めて、受け入れてくれて。……うん、私にとって葉月は、とても、大切なひと、だよ。前にね、葉月が言ってくれた。私が喜ぶと、自分も嬉しいって。私が悲しむと、自分も悲しいって。……私も同じ。だから私は、葉月の力になりたい。葉月を助けて、葉月に助けられて……支え合って行きたいって……」
内心を吐露し出したら止まらなくなってしまったのか、頬を朱に染めながらもそこまで言ったフェイトは、ようやく言葉を止める……というか、そこで我に返ったといえばいいか。
周りの様子を見れば、うわーうわーって表現がピッタリか。
その瞬間、フェイトは耳まで真っ赤になって。
「──~~……!」
思わず逃げ出した。
◇◆◇
その日、フェイトを召喚したところ、手に持っていた何かを即座に後ろに隠された。
……何だ? と一瞬疑問に思ったけれど、フェイトだって見られたくないものは当然あるだろうし、喚ぶタイミングが悪かったかと反省する。……とは言え、事前に連絡出来ない以上、どうしてもこういうことはあるのだけど。
……と、考えていることが顔に出たのか、フェイトが慌てたように「あ……ち、違うの!」と声を上げた。
違うって、何が? と言う疑問の声を上げる間もなく、「とりあえずなのはとはやても喚んでほしい」と言うフェイト。なのははいつも通りだけど、はやても?
まぁ、元々今日はサブパートナーははやてを喚ぶ予定だったし、と言うことで、なのはとはやてを連続で喚ぶ。
──カシャン、と球状魔法陣が砕けて消えて、ほぼ同時に現れた二人。そしてほぼ同時に、先程のフェイトのように何かを後ろ手に隠す二人。……えぇ。
するとフェイトがすぐに、はやてを挟んでなのはの反対側に並び……顔を見合わせて一度頷き合った三人が、同時に手に持った何かを差し出してきて──
「いつも頑張っている葉月さんに」
「私達からの、バレンタインのプレゼントや」
なのはとはやての言葉から、差し出された物の正体が判明して。
……そうか、今日は二月十四日、か。
月日の感覚が曖昧になるこの場所で、こうしたことをしてくれるのは、助かるし、何より嬉しい。
……と思ったところで、「……あの、なのは、はやて……言わないとダメ?」と、フェイトが何かを躊躇っていた。
「だめー!」
「だめや~」
あっさりとだめ出しをされ、「うう」と唸りながらも、フェイトも手に持ったそれを差し出してきて。
「た、たくさん愛情を込めた、から……」
何と言うか、こう、流石に俺も顔が熱い。
※なのは:一辺が十センチちょいの正方形の箱に、一口サイズのハート型のホワイトチョコレートが沢山入っている。
※フェイト:なのはと同じ程度の箱に、丁度収まるぐらいの大きさの、ハート型のミルクチョコレートが入っている。
※はやて:横十センチちょい、縦五センチ程の長方形の箱。中は五×二で区分けされて、直径二センチ程の、丸いチョコレートが十個並んでいる。味はスイートからビターまでのアソート。