深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

96 / 113
if.
特にヤマもオチもなく、甘々する話。


Another Phase05:もしもの話。いつかの話。

 「バレンタインのプレゼント。誰かにあげる予定は?」

 とある場所(・・・・・)で、幾人かの子に問われた質問である。

 

 

・A:アリサ・バニングスの場合。

 

「ん~……まぁ、パパかなぁ。あとはなのはやすずか、フェイトにはやて……友チョコかなあ。え、男子……? 無い無い」

 

 バッサリですか。

 

 

・A:月村すずかの場合。

 

「男のひとであげるのは、お父さんかな。あとはアリサちゃんと同じで……なのはちゃんとアリサちゃん、はやてちゃんにフェイトちゃん……」

 

 クラスの男子とか、好きな人には? と言う追加の問いに、苦笑を浮かべるすずか。

 

「男子にあげる予定はない、かなあ。好きな人……って言えるような人もいないし……」

 

 だよね、と同意するアリサと顔を見合わせ、うんうんと頷くすずか。

 アリサと比べると幾分やんわりと。けれどもこちらもバッサリと。

 

 

・A:八神はやての場合。

 

「バレンタインなぁ……そうやねえ。まずは家族やろ。あとはなのはちゃんにフェイトちゃん、すずかちゃんにアリサちゃん……」

 

 その辺はやっぱり同じなのね、と言う言葉に、「そらそうやねえ」と笑うはやて。

 

「あとはクロノ君とユーノ君に」

 

 おや、新しい名前。と耳聡く聞き留めた様子に苦笑を浮かべて、「お世話になっとる人達なんよ」と答えるはやて。

 終わりかな? と思ったところで、「それに……」と続けた後、一瞬言いよどんで。

 

「……葉月さんかなぁ」

 

 ポツリと一言。

 その前までに上がった人達とは違う雰囲気で出された名前に、「なになに?」と勢いよくアリサが問いかけ。

 

「ん~……以前に、大きな迷惑かけてしもうた人なんやけどな。その上、返しきれへんぐらいの恩をくれた人で……何て言えばええんかなあ……」

 

 若干しんみりとした感じで言ったはやて。

 直ぐに気を取り直したように「とにかく」と言葉を続け、

 

「感謝だけやのうて、いろんな想いを籠めて贈りたい相手、やね」

 

 そう言って朗らかに笑った。

 

 

・A:高町なのはの場合。

 

「バレンタイン? えーっと……お父さんとお兄ちゃん、ユーノくんにクロノくん……」

 

 先程聞いた名前がまた出てきましたね、との言葉に、まあ共通の知り合いやしなとはやて。

 

「フェイトちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん……」

 

 指折り数えていくなのは。

 その様子に、ふふっと微笑み合うアリサとすずか。

 

「あとは……葉月さん」

 

 と、また同じ名前が。

 アリサとすずかも知らない名前のようで、なのはもなの? とお互い疑問に思っているよう。

 

「私にとっての葉月さん? えっと……始めは、助けを求める声に応えたいって思った。もちろん今もその気持ちは変わらないけど……今は、それだけじゃなくて。……ん~……なんて言えばいいのかなあ……」

 

 と、考え込んでしまったなのは。

 はやては、言い表せない感覚は何となく分かるよと、同意と言うか理解と言うか。

 一方でアリサとすずかは、うーんうーんと考え込むなのはの様子に顔を見合わせ、何となく雰囲気は解ったから今はいいわと、その場を収めに掛かった模様。

 

 

・A:フェイト・テスタロッサの場合。

 

「バレンタインにプレゼントをあげる人? ……えっと、葉月と……クロノ、ユーノ……あとはなのはとはやてと、アリサとすずかにももちろん。あ、アルフも欲しがるよね」

 

 つらつらと名前を挙げていくフェイトだけど、最初に上った名前は件の人。それを聞いたすずかが、フェイトちゃんもなんだ? と声を上げる。……クロノくんとユーノくんも、共通の人物なのだけど。

 三人とも……特にフェイトは、名前を挙げた時の雰囲気が違うのが引っかかったのか。

 次いでアリサが、はやてとなのはに訊いたように、フェイトにとっての『葉月さん』がどんな人なのかを訊いてみると……。

 

「え、ええ? 私にとっての葉月、って……えっと、その……ええっと……」

 

 動揺。

 次いで赤面。

 フェイトちゃん落ち着いて、となのはに宥められて、大きく深呼吸。

 

「は、はぢゅきは……」

 

 噛みました。

 

「……葉月、は……“私”を必要としてくれて……私が弱さを見せちゃった時も、受け止めて、受け入れてくれて。……うん、私にとって葉月は、とても、大切なひと、だよ。前にね、葉月が言ってくれた。私が喜ぶと、自分も嬉しいって。私が悲しむと、自分も悲しいって。……私も同じ。だから私は、葉月の力になりたい。葉月を助けて、葉月に助けられて……支え合って行きたいって……」

 

 内心を吐露し出したら止まらなくなってしまったのか、頬を朱に染めながらもそこまで言ったフェイトは、ようやく言葉を止める……というか、そこで我に返ったといえばいいか。

 周りの様子を見れば、うわーうわーって表現がピッタリか。

 その瞬間、フェイトは耳まで真っ赤になって。

 

「──~~……!」

 

 思わず逃げ出した。

 

 

◇◆◇

 

 

 その日、フェイトを召喚したところ、手に持っていた何かを即座に後ろに隠された。

 ……何だ? と一瞬疑問に思ったけれど、フェイトだって見られたくないものは当然あるだろうし、喚ぶタイミングが悪かったかと反省する。……とは言え、事前に連絡出来ない以上、どうしてもこういうことはあるのだけど。

 ……と、考えていることが顔に出たのか、フェイトが慌てたように「あ……ち、違うの!」と声を上げた。

 違うって、何が? と言う疑問の声を上げる間もなく、「とりあえずなのはとはやても喚んでほしい」と言うフェイト。なのははいつも通りだけど、はやても?

 まぁ、元々今日はサブパートナーははやてを喚ぶ予定だったし、と言うことで、なのはとはやてを連続で喚ぶ。

 ──カシャン、と球状魔法陣が砕けて消えて、ほぼ同時に現れた二人。そしてほぼ同時に、先程のフェイトのように何かを後ろ手に隠す二人。……えぇ。

 するとフェイトがすぐに、はやてを挟んでなのはの反対側に並び……顔を見合わせて一度頷き合った三人が、同時に手に持った何かを差し出してきて──

 

「いつも頑張っている葉月さんに」

「私達からの、バレンタインのプレゼントや」

 

 なのはとはやての言葉から、差し出された物の正体が判明して。

 ……そうか、今日は二月十四日、か。

 月日の感覚が曖昧になるこの場所で、こうしたことをしてくれるのは、助かるし、何より嬉しい。

 ……と思ったところで、「……あの、なのは、はやて……言わないとダメ?」と、フェイトが何かを躊躇っていた。

 

「だめー!」

「だめや~」

 

 あっさりとだめ出しをされ、「うう」と唸りながらも、フェイトも手に持ったそれを差し出してきて。

 

「た、たくさん愛情を込めた、から……」

 

 何と言うか、こう、流石に俺も顔が熱い。




※なのは:一辺が十センチちょいの正方形の箱に、一口サイズのハート型のホワイトチョコレートが沢山入っている。
※フェイト:なのはと同じ程度の箱に、丁度収まるぐらいの大きさの、ハート型のミルクチョコレートが入っている。
※はやて:横十センチちょい、縦五センチ程の長方形の箱。中は五×二で区分けされて、直径二センチ程の、丸いチョコレートが十個並んでいる。味はスイートからビターまでのアソート。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。