深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase93:「聖剣」

 急いだ方が良いのであれば、今日の場合なら……と稲葉さんへと返事を送ると、三十分後ぐらいに再び『メッセージ』が届いた。

 それによると、一時間後ぐらいに『第三層』の入り口で、とのこと。

 どうやらケイやハルカ、泉と豊──『第二層』の時に一緒になった人達にも同時に伝えてしまいたいから、とのことだ。

 それに再度了承の返事を返して一時間弱ほど経った頃、約束した場所に行く前にディレイの終わったはやてを再度召喚する。

 

「……あれ、葉月さん? まだ三時間経ってへんよね?」

 

 現れて案の定困惑するはやてに事情を説明して、「一緒に来ても良いし、ここでリインフォースと待っていても、どちらでも良いよ」と言うと、彼女は少しだけ考えた後、「それじゃあ一緒に行ってもええですか?」と答えた。

 もちろん、と了承を返して、フェイト達を伴って第三層へと移動し、入り口である神殿を抜けて外へ出ると、稲葉さん達は既に到着していたようだ。

 俺に続いて出てきたはやてに、これまた案の定佐々木少年が大騒ぎする一幕を経て、『第四層』について何が解ったのか、その詳細を教えて貰った。

 

「『砂漠エリア』にすぐに枯渇する魔力、そして『腐竜ザーランド』、か」

 

 今し方聞いたばかりの事柄を声に出して繰り返すと、そのどれもに既視感を覚える。

 「砂漠エリア」や「すぐに枯渇する魔力」と言った文言であれば、それこそゲームや漫画で見た、で済むのだろうけど、『腐竜ザーランド』という固有名称となると話が違ってくる。当然元の世界で聞いた訳もなく、こちらに来てからだろう。けど、どこで……と考え込んでいると、「ねえ、葉月」とフェイトに袖口を引かれた。

 

「私、覚えてるよ。“この世界の魔法”について調べた時に、葉月が読んでくれた説明文にあった名前だと思う」

 

 フェイトの言葉を聞いた瞬間、その内容を思い出して思わず「あぁっ!」と声を上げ──同時に、俺の声と重なるように、異口同音に稲葉さんも声を上げていた。

 視線を向けると「話を聞いた時から何か引っかかっていたんだよね」と苦笑を浮かべる稲葉さん。

 あの説明文に書かれていた内容は、この世界には大気中に漂う空間魔力(マナ)と、個々人が持つ体内魔力(オド)の二種類の魔力があること。

 スキルはどちらの魔力でも発動出来るが、常人では体内魔力量が少ないため、体内魔力のみで発動しようとするとすぐに魔力が枯渇すること。

 そのため通常は、体内魔力を呼び水にして空間魔力に干渉し、空間魔力を消費してスキルを使用するものであること……と言うものだ。

 それらは重要な情報だからしっかり覚えているけれど、そこに付随する小さなエピソードに関しては記憶の外だった。

 

「覚えててくれてありがとう、助かった」

 

 礼を述べると、はにかんで照れつつ「どういたしまして」と返してくるフェイト。

 それから、稲葉さんとフェイト、俺達の話を聞いて「それだったら私も覚えてます」と言ってきたハルナと共に、その内容を整理していった。

 それと、先に稲葉さんから聞いた情報を統合して考えると、恐らく確定だろうと思われる情報としては、以下のようになる。

 

 『第四層』の正式な名前は『静寂の砂漠』。特徴として、空間魔力(マナ)が存在しないか極端に薄い。そのため、無策で挑めばすぐに体内魔力(オド)が枯渇してスキルが使えなくなる。

 『腐竜ザーランド』は非常に強力な結界のような防御能力を有している。加えてその身体から『腐竜の眷属』を産み出すことが出来るうえ、こちらの攻撃により飛び散った肉片からも産まれるため、結界を抜いて攻撃を当てても、下手をすれば敵が増えるだけになる恐れがある。

 『腐竜の眷属』は、再び『腐竜ザーランド』に融合する。恐らくだが、それによりダメージを回復するのではないか。

 『腐竜の眷属』は、地上を徘徊する陸上型の他、空を飛ぶ空中型も存在した。どちらにも遠距離攻撃は確認されていない。

 『腐竜ザーランド』の攻撃方法に、恐らく強酸と思われる吐息(ブレス)攻撃があった。

 

「とりあえず……“体内魔力の枯渇”が“空間魔力が無いから”、と言うのが解ったのは大きいな」

「何か対策が?」

「一応ね。効率は悪いんだけど」

 

 稲葉さんが言うには、どうやら魔力を事前に蓄積しておき、必要に応じてそこから引き出す『蓄魔石(マナ・クリスタル)』というアイテムがあるらしい。

 入手手段は別に特別なことはなく、普通に『ショップ』で買えるのだとか。

 

「まぁ、今までは魔力が枯渇する可能性なんて考えなかったから、特に重要視はされてなかったんだけどね。それに一つ、問題もあるし」

「問題、ですか?」

「ああ。さっき『効率が悪い』って言っただろ。蓄魔石に魔力を充填するのに、大量の魔結石が必要なんだよ」

 

 そう言った稲葉さんは「そうだな」と少し考えた後、「長月君は、『核の水晶(コア・クリスタル)』を作ったことはあるかい?」と問いかけてきた。

 

「はい、ありますよ」

「あれをもっと効率悪くしたもの、と考えてくれ」

 

 そう言われても一瞬ピンと来なかったけれど、そう言えば一度、魔結石で『核の水晶』を作ろうとしたら、下級を作るのにも結構な量を使ったなと思い出し──同時に、一つの可能性も思い付いた。

 

「稲葉さん、『第四層』の攻略に蓄魔石を大量に用意する必要が有るんだったら……もしかしたら、手伝えるかもしれません」

 

 俺の言葉に、「どういうことだい?」と問いかけてくる稲葉さん。

 試してないから絶対とは言えないけれど、『核の水晶』と同じシステムなら多分大丈夫だろう。

 

「……稲葉さん、『ディバイドエナジー』って、知ってます?」

 

 

……

 

 

 稲葉さん達との話を終えて『マイルーム』に戻ってきたところで一息……と行く前に、出入り口の横にある端末から、『ショップ』で蓄魔石を一つ購入。これから、実際に上手く行くかどうか試すのである。

 稲葉さん達との話が思ったよりも長引いてしまったため、今回の召喚では迷宮に出ずに、このまま準備に使うことにしたのだ。

 バリアジャケットとユニゾンを解除してソファーに座るフェイト達に飲み物を淹れてから、実際に蓄魔石にディバイドエナジーで魔力を注入してみる。

 蓄魔石の大きさは、縦四センチ、幅二センチ程度の楕円形。無色透明な水晶の様な色合いの石だ。片手で握り込むことも出来るので、咄嗟に使うのにも適した大きさだろうか。

 

「さて、上手く行くかな?」

 

 余り急に流れ込みすぎないように気を付けつつ、一定の速度で手の中の蓄魔石へと魔力を譲渡していく。

 ……と、しばらくして「これ以上入らない」と言う感覚を覚えた。入れても溢れるというか、先が詰まっていると言うか。

 無理に入れて暴発しても嫌なので、魔法の行使を止めて、握っていた手の中の蓄魔石を確認する。

 

「わぁ、綺麗やね」

「ほんとだ。葉月の色だね」

 

 蓄魔石を見たはやてが感嘆の声を上げた。

 そしてフェイトが言うように、無色透明だった蓄魔石は、淡く藤色に輝いている。

 

「葉月さんの色?」

「うん、魔力光のこと。人によって違うんだよ。わたしならピンク色で、フェイトちゃんは金。はやてちゃんは確か……白? 銀色? だったよね」

 

 はやての疑問になのはが魔力光の説明で答えているのを耳に挟みつつ、ふと疑問に思う。

 

「……これって、俺以外の人も使えるのかね?」

 

 普通とは違う、魔結石を使わずに直接注ぎ込む方法を取った……だけなら『核の水晶』で行った前例があるのでそこまで気にはならないのだけど、その結果出来上がったものが、俺の魔力光と同じ色になっている……となると、若干の不安は有る。

 

「……まぁ、実際に試してもらえば良いか」

 

 その結果、駄目なら魔結石で頑張るしかない。

 こればかりは俺自身や、技術体系の違うフェイト達で試すわけにもいかないので、とりあえず稲葉さんに「蓄魔石が一応出来たので、明日にでも実際に使えるか試して欲しい」とメッセージを送信。

 ちなみに、返事は割とすぐに、「了解。時間と場所は後ほど」と返ってきた。

 さて、蓄魔石の件は一旦終えて、次だ。

 

「じゃあ、『大侵攻』前に保留してた、なのはに創ってもらった『核の水晶』を使って合成してみるか」

 

 そう声を掛けると、なのはが若干不安そうに「……変な風にならないと良いんだけど」と漏らした。

 正直なところ、『大侵攻』前に止めておいたのは飽くまで念のためであって、まず問題なく成功するだろうと思っている。

 

「フェイトの魔力が籠もった武器に、なのはの魔力を合成するんだ。間違いなく大丈夫だよ」

 

 そう言いながら端末の前に移動し、『アイテムボックス』から『合成』の準備を行っていく。

 後ろでは「これから何するんや?」と疑問を浮かべるはやてに、フェイトが「葉月の武器をパワーアップするんだよ」と前置きしつつ説明してくれていた。

 さて、どうなりますかね……と、実行。

 左手にある『アイテムボックス』の上に現れた合成用魔法陣。その上に『ライトニング・エッジ』が浮かび、周囲をなのはが創ってくれた『核の水晶・烈光』が取り囲んでいく。

 そして魔法陣は強く発光し──

 

 

---

 

名前:ディバイン・ブレイド

カテゴリ:武器/剣/片手/ユニーク

入手方法:合成・特殊

「勇気の翼を得た雷神の剣。されどその力は未だ満ちず。願うは闇の意志。さすれば其は、運命をも切り開く刃となる」

 

---

 

 

 説明文(ソレ)を見た時、初めに覚えたのは、違和感とまでは行かない、小さな据わりの悪さだった。

 「どう?」と訊いてくるフェイト達に結果を話し──「どうしたの?」とフェイトに問われた。恐らく、顔に出ていたのだろう。

 

「いや、この説明文が──」

 

 言いかけて、気付いた。『ライトニング・エッジ(まえ)』の時は「そう言うものだ」と思い込んでいたから気にも留めていなかったけれど……なぜこの剣は、更に先が有る(・・・・・・)ことを前提にされている?

 ……相変わらず確証は無いけれど、この剣の元になった『ライトニング・エッジ』は俺にとっての『デバイス』のようなものになっていた。それは恐らく、核となったものがフェイトの魔力だからで……だから剣は、“光の心”──なのはの魔力を欲しがった。そう考えることもできる。……じゃあ、“闇の意思”は? ここまで思い至れば、それが“何”を示しているのかは容易に想像できる。けれど──『ライトニング・エッジ』を作ったとき、フェイトははやてのことを知らなかった(・・・・・・・・・・・・・)のに?

 大元となった『クリムゾン・エッジ』がそのように設計されていた……かもしれない。

 もともとこの世界には『ライトニング・エッジ』や『ディバイン・ブレイド』と言う武器があって、ライトニング・エッジからディバイン・ブレイドへと進化を遂げるものであった……かもしれない。

 けれど……これにも、そしてライトニング・エッジの説明にも、はっきりと、“ユニーク”と書かれていたのだ。

 ……そう、“ユニーク”。そのままの意味で考えるならば、“俺”が“クリムゾン・エッジ”に“核の水晶・轟雷”を合成したから、ライトニング・エッジが出来た。そしてそれに“核の水晶・烈光”を合成したから、この剣が出来たと考えるのが自然じゃないか。

 それらを考えると、“俺の知識”を元にこの説明文は記載され、この武器は創られたと考えるのが、正解に近いのではないかと思えるのだ。

 そして、そうであるならば──

 

「……葉月? 大丈夫?」

「あ、ああ。ごめん」

 

 覗き込まれるようにフェイトに問われ、いつの間にか考え込んでしまっていた思考が中断される。

 顔を上げれば、なのはとはやて、リインフォースも心配そうな顔でこちらを見ていて……そんなに深刻そうな顔をしていたのだろうか。……していたんだろうな。

 こういう時は、一人で抱え込まないに限る……と言うことで、今し方の考えを、四人にも聞いてもらった。

 

「何て言うかさ、強制されている訳じゃ無い。ただやんわりと誘導されている、と感じる程度のことなんだけど……このままこの剣の“次の段階”を目指していいのかな、と思って」

「……ねぇ葉月。葉月はこの剣に、嫌な感じを受ける?」

 

 フェイトに問われ、実際に取り出して鞘から抜いたディバイン・ブレイドを見やる。

 淡く輝く刃。その色は一見白く見えるけれど、よく見ればほんのりと桜色に色づいているのが解る。そして時折、刃の周囲を金色のスパーク光が取り巻き、弾ける。

 ……綺麗な剣だ。

 手を伸ばし、剣の腹をそっと撫でる。

 不思議なことに、刃を取り巻くスパーク光は、俺の手を焼くことは無く、衝撃も痛みも感じない。

 

「そんなことは無いよ。頼もしくて、優しい。そして強い剣だと思う」

 

 感じたことをそのままに言えば、なのはがクスリと笑って、「もう結論出てるよね」と言った。

 

「葉月さん。私とリィンフォースはまだ何も経験してへんのと一緒やから、何かを言うことは出来ません。せやけど、私達に出来ることがあるなら、何だって協力しますよ?」

 

 ……もう一度剣を見やる。

 なのはの言う通り、結局の所俺の中では結論の出ていることなのだろう。だけどきっと、一度覚えた疑問や不安を払拭したかったのだ。確証なんて、誰も持つことは出来ないのは解っているんだけど。

 ……息を吐く。

 大丈夫だ。……しっかりしないとな。

 

「……ごめん、皆。ありがとう、もう大丈夫。とりあえずやれるところまでやってみようと思う」

 

 そう言うと、揃って頷いてくれる皆。

 と、はやてが直ぐに「あ」と困ったような表情を浮かべた。

 

「まずは『ディバイドエナジー』やったっけ……それの練習せんとな」

「そうですね、我が主。ですが、その魔法でもよろしいですが、シャマルに頼るのも良いかもしれませんよ」

 

 今まで騎士達のカートリッジに魔力を籠めていたのはあの子ですから、とリインフォースが続け、はやては「なるほどなぁ」と頷いて、「そんなわけで、もう少しだけ待ってな?」と笑った。

 

「それにしても、この剣の名前、そのまま訳せば“聖なる刃”だけど……何かこうなると、この“ディバイン”ってディバインバスターのディバインな気がしてきた」

 

 ふと思ったことを口にすると、フェイトとはやては「確かに」と納得顔。一方のなのはは「ええー?」と言いつつしばし何かを考えて。

 

「じゃあ、それなら葉月さんに、わたしがディバインバスターを教えます!」

「え、本気?」

「うん!」

 

 ……どうやら次に俺が練習する『ミッドチルダ魔法』は、ディバインバスターになったようである。

 

 その後は『ショップ』で手に入るアイテムや装備、『合成』で手に入る物などで、次の戦いで役に立ちそうな物が無いかを探した。実は稲葉さんにも、「ショップなんかは小まめにチェックしといた方が良い」とアドバイス……と言うより忠告を受けたのだ。正直なところ、『第一層』の中盤以降……バリアジャケットを身につけられるようになってからは、確かに“この世界”の装備品等に対して疎かになっていたのは否めない。武器は手に入っていたし、防具も前述の通りだからだ。

 けれど、この世界には確かに超常の効力を発揮するアイテムが有って、身をもって体感もしている。同じように、特殊な効果を持つアクセサリだってあるだろう。

 特に次の階層は今までで最も厳しいことが予想される。遅すぎるぐらいだが──しっかり準備をしないとと自省する。

 

 やがてフェイトとなのはの召還時間が終わり、しばらくしてはやて達の召喚時間も終わりを迎えた。

 それとほぼ同時に、稲葉さんからメッセージが届く。

 内容は、『蓄魔石』の試しは、実際に『第四層』で行ってみるということ。実際の環境で、『体内魔力』が減った状態で使ってみるそうだ。無論、入り口のみで深入りはしない。……とは言えそれでも“何か”がある可能性が有るため、準備は確りしておいて欲しいとのこと。加えて、駄目だった場合無駄になってしまうが、もういくつか『蓄魔石』を用意しておいてもらえないかということが記されていた。




・Detonation公開おめでとうございます。やはりなのはさんはなのはさんだった……。あ、一週目色紙はなのはさんでした。
・もっと早く更新しろ、という声が聞こえてくる気がします。ごめんなさい。中身も大した内容じゃなくてごめんなさい。
・大仰なタイトルだけど別に大した意味は無い……というオチ。

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