新米提督が艦娘に着任しました――雨開の艦艇、これより提督の指揮に入ります―― 作:低蓮
騒ぐ少女(暫定)をなんとかなだめた後、時雨は改めてその少女をまじまじと見つめてみた。
身長は時雨とどっこいどっこいで、あり大抵に言えば子供体型だ。
見た限り胸の生育は時雨より僅かに、と言った具合か。
まるで艦娘と同じような
その少女は今、くりっとした
なんと声をかければ良いのかわからなかったが、取り敢えずこのままこうしていても仕方がないと、話しかけてみることにした。
「えっと、
「おい馬鹿やめろ、こんな成りだけど俺は男だ。男なんだ……」
「あぁ……ごめんよ」
少女は――
先ほど、背負っている長刀で深海棲艦の砲弾を
『……わっつ? え、誰この可愛い子。わーすげーなーかわいいなー……うん、これ俺だよね。俺だよねええぇ?! ハァ?! 転生したかと思ったら今度は性別反転かよ! わっけわかんねぇよ!』
『ちょ、落ち着いて……』
『落ち着けるかぁ! ほんとなんなんだよ、夢なら覚めてくれよ! くっそ、俺が何をした……俺が何をしたってんだよおおぉ!!』
さんざん涙目で叫んだ後、海面をゴロゴロと転げまわった。
その様子に激しく困惑しながらも、なんとか落ち着かせようと言葉を尽くして、漸く落ち着かせることが出来た。
その過程で、少女が霈だと知って時雨が唖然としたりもしたのだが、今ではなんとかその様子になれたようだ。
「あぁ、太陽がキラキラと反射して綺麗だなぁ……風も気持ちよくて、このままどこかに運ばれていきそうだなぁ……」
「霈、ここじゃないどこかへトリップしないで。ちゃんと自我を保つんだ」
「はぁ、空はこんなに青いのに……」
「霈、足元に空はないよ。大丈夫かい?」
「あぁ、太陽がキラキラと……」
「ループしていないかい?!」
なれていなかった、思いっきり振り回されていた。
ぶつぶつと呟く霈を案じてか、時雨がなんとか会話を試みようとしているのだが、ただのツッコミにしかなっていない。
そんな呆然としている霈の周りを、ふわふわと舞う影が一つ。
その影はぽふんと霈の頭に乗っかると、どこかたどたどしい声で言った。
「ひさめさんひさめさん、そろそろぜんせのことはふっきるです。しあわせになれないです」
「うるせぇよ……てかお前なんなんだよ……」
「ようせいさんです」
「自分でさんつけるか普通……?」
困惑しながらも、漸くその目に生気を戻した霈にほっとするとともに、時雨は心のなかで妖精に感謝をした。
まぁ、妖精にそんないとは一切なく、ただの天然なのだろうが。
「妖精さんはね、僕達の艤装に宿って操作をしてくれたり、修理をしてくれたり、他には工廠で開発をしてくれたりと、とにかく働き者なんだ」
「えっへん。ようせいさんははたらきものなんです」
「あ、そう……で、その妖精さんが俺の頭になんの用だ?」
「わたしはひさめさんの、せんぞくようせいさんなんです」
えっへん、と頭の上で胸を張る妖精を霈は非情にも鬱陶しげに振り払う。
ぴゃー、と墜落していった妖精は、海面ギリギリで静止すると腰に手を当ててぷんすかと怒り始めた。
「なにするんですか、ひさめさん!」
「人様の頭の上でふんぞり返るんじゃねぇ。で、俺専属ってどういうことだ? お前らは艤装とやらに宿るんじゃないのか?」
「なにをかくそう、ひさめさんはしぐれさんのへいそうなのです!」
「……は?」
「へいそうなのです!」
「いや、聞こえてるから」
拳を握りしめて力説する妖精を呆れた目で見つめながら、言われた言葉を理解しようと頭を働かせる。
――へいそう、恐らく兵装だろうが、つまり俺が時雨の武器になったということか。
そう考えて、霈はげんなりした。
せめて転生させるなら、艦娘に憑依させろよ、と。
霈がため息を付いている横で、時雨が気になったことを妖精に質問していた。
「気になったんだけど、最初霈は姿が見えずに、声だけだったよね。それは何故なんだい?」
「ひさめさんはしぐれさんのへいそうですので、ふだんはしゅうのうされているのです」
「つまり、今は兵装を展開している状態ということかな?」
「そのとおりです! てんかい、しゅうのうはひさめさんのいしでじゆうじざいです」
「僕の方からは、収納や展開をすることは出来ないのかい?」
「もちろん、しぐれさんのほうからはたらきかけることもできるです。ですが、ひさめさんがきょひしたらそちらのほうがゆうせんされるです」
「実質、霈の自由意思というわけだね」
「です」
時雨はなるほど、と納得した。
原理は分からないが、どうやら霈は時雨の兵装という扱いになってしまっているらしい。
なので、収納状態の時は先程までのように声だけ聞こえ、展開状態が今のように艦娘のような姿を取るのだろう。
元は男のはずなのに、何で展開したらあんなにかわいい姿に、と内心嫉妬する時雨だったが、そこでふと疑問に思って再度質問を投げかけた。
「ところで、さっきまで霈の声は男性のようだったけど、今は可愛い声だよね。なぜなんだい?」
「わからんとです」
「へ?」
「わからんとです。しいてあげるなら、たましいがおとこのままだから、です」
「へ、へぇ……」
なんとも要領を得ない回答だった。
まぁ、妖精にしてはかなり頭の良い部類に入るだろうが。
妖精は基本的に子供のようで、深く考えずに発言するので何を言っているかわからないことが多い。
その点、まともに話せているこの妖精の優秀さは、押して図るべしである。
「ま、大体理解はした。納得はこれっぽっちもしてないが、理解はした」
「あ、良かった霈。もうダメかと思っていたよ」
「ひさめさん、わりきれたんですね」
「もうなんつーか、諦めたっつーか……どうでも良くなってきた」
「自棄になったんだね……」
「やけですね」
「うっせ」
漸く全てを諦めたらしい霈が、ため息をつきつつ会話に加わる。
さらさらな髪をガシガシと乱暴に掻きながら、霈は時雨へと質問を投げかけた。
「で、この後どうするんだ? 艦娘なら補給とかしないといけないんだろ?」
「そうだね……取り敢えず、鎮守府に帰ってみるよ」
「ふーん……ま、それが妥当だよな。俺は賛成だ。で、鎮守府はどこにあるんだ?」
「ええとね……妖精さん、いるかい?」
時雨がそう呼びかけると、いつの間にか霈の頭の上に乗っかっていた妖精とは若干異なる容姿をした妖精が、どこからともなく現れて時雨に敬礼した。
「よばれてとびでてなんとやらです! しぐれさん、おひさしぶりですー」
「うん、妖精さんも元気そうで何よりだよ。早速だけど、鎮守府の方向はわかるかい?」
「たぶんあっちですー」
なんともいい加減な感じで一方を指すが、今は信じるしか無い。
そもそも現在地がわからないので、取り敢えず進むしか無いのだ。
「燃料はどれくらい残ってるかわかるかい?」
「げんざいひゃくぱーせんと。おーるぐりーん、ぱーふぇくとですー」
「そっか、ありがとう」
どうやら、沈む直前に底をついていた燃料は、今は満タンになっているようだった。
なんとも都合のいいことだったが、良い分には不都合はないので放っておく。
「それじゃ、行こう」
「あいよ……なぁ、俺は燃料とかそういう概念はあるのか?」
「ひさめさんはへいそうというあつかいですので、そういうのはないです」
「なるほど、便利だな」
割りと皆ご都合主義だった。
時雨の呼び出した妖精が指し示した方向に向けて進むことにした一行は、です、ですーという妖精の賑やかな声とともに巡航速度で出発したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
夕日が水平線を赤く染め上げているのを、夕立は今日も変わらずピットに座り込みながら眺めていた。
時雨が、時雨を含む遠征部隊が消息を絶ってから早一ヶ月、急遽探索隊が派遣されたが、見つけるには至らなかった。
いや、見つかるには見つかったのだが。
「――夕立、今日も此処にいたのか」
突然、夕立に声がかけられる。
しかし、夕立はそちらを見もしないで返答した。
もとより、此処で夕立に話しかける人物は一人しかいない。
「時雨は絶対に帰ってくるっぽい。だから、此処で帰りを待ってるの」
「彼女たちが消息を絶って、もう一ヶ月は経つ。仮に時雨が生きていたとしても……」
「絶対に、帰ってくるっぽい」
振り返った夕立は、その
提督はやれやれと頭を掻きながら、夕立の隣に腰を下ろした。
腰を下ろすときにどっこいしょという掛け声が聞こえたのは、多忙故か年齢故か。
自分のジジ臭さに苦笑しながら、提督は夕立に話しかけた。
「私も、彼女たちがどこかで生きていてくれればいいと、何度も思ったさ」
「…………」
「けれど、捜索しに行った第一艦隊が見つけてきたのは、天龍の艤装だけだった……この意味はわかるね」
「でも、それが時雨が沈んだ証明にはならないっぽい」
「そうだな……だが、天龍には旗艦を任せてあった」
「それは……」
「旗艦を失って一ヶ月間も生き延びられるとは……到底思えない。付近の鎮守府でも、目撃情報はなかったしな」
「――ッ」
「とは言え、だ」
そこまで厳しい表情をしていた提督は、すこし表情を崩して夕立の頭をポンポンと撫でる。
それに、少しくすぐったそうにしながらも大人しくなでられる夕立。
「私だって、本音を言えばまた彼女らの元気な姿を見たいさ。彼女らが何に出会って、どうなったのかも全くわからない。そのことが、たまらなく悔しい……」
「提督、さん……」
「私が至らないばかりに、私の事前確認が不十分だったばかりに彼女たちを不幸な目に合わせてしまった……」
「それは……提督さんだけが悪いんじゃ、無いっぽい……」
「そうかな? どうであれ、命令を下したのは私だ」
さて、と話を切り上げた提督は、腰を上げる際にまたどっこいしょと漏らし、夕立を苦笑させた。
立ち上がった提督は、夕立にも立つよう促す。
渋る夕立に、提督は笑いかけながら言った。
「そんな顰めっ面で寒い中待っていたら、顔が凍ってしまうよ。さ、今日はもう中にはいって、また明日一緒に帰りをまとう」
「うぅ~……わかったっぽい……」
名残惜しそうに夕日が沈むのを見届けた夕立は、提督に続いて鎮守府の中に入っていった。
この時、まだ夕立は知らない。
再開の時が、割りと直ぐ側まで迫っていることに――
霈、武器になるの巻(
若干タイトル詐欺になってしまいましたが、ちゃんと見せ場を作るにはこうするしかありませんでした。許してください。
霈の今の詳しい状態につきまして、魂だけが時雨の中に入り、それが外に出るときに「武装」という形をなします。ですので、兵装に憑依しているわけではありませんのであしからず。
さて、妖精さんが加わるとどこかほんわかとした雰囲気になるなぁと思いつつ書いていました。やっぱり天然っぽい存在って癒やし。
次回は時雨が鎮守府に帰ってくるお話になると思います。近日中に上げると思いますので、それまでお待ち下さい。
ここまでのご閲覧、ありがとうございました
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