外道魔法少女 蓬莱 暁美★マギカ「連続24回」 作:navaho
以前からやってみたかったオリジナル魔法少女。
まどかマギカの世界観を借りての非公式のスピンオフと書くと非常におこがましいですが、何となくですけれど、少しだけワクワクします。
長い間筆が取れなかったのですが、リハビリも兼ねて楽しく書いています。
何だか、頭の狂ったというか、悪キャラを書くのは凄く楽しいです(笑)
全ての感覚がなくなったような浮遊感の中に彼女はいた。例えるなら水の中に居るという感覚に近い。そして、その感覚は心地良く、いつまでもこのまま身を任せていたいという欲求だけが存在し、それ以外の事を望むことはなかった。
時折、波が立つようにかつて生きていたころの記憶が甦ってくる。記憶こそが自分自身である証明であり、自分が蓬莱暁美であることの証明。
”蓬莱暁美”という魔法少女とは、いかなる魔法少女だっただろうか?
彼女を知る時間軸の人間は、そろって罵った”外道”、”魔女”、”インキュベーター側の魔法少女”
だが、彼女は自身にいかなる評価が下ろうとも気にすることはなかった。自身の行いがいかなる物であるかは自分自身がよく理解していたからだ。
浮遊感の中にいた彼女にとある光景が過ぎった。それは、世にも恐ろしく、おぞましい光景だった。
一言で言うのなら、その光景は”地獄”以外のなにものでもなかった。
そこには、世界の足元が崩され、多くの人間達が地の底の巨大な赤く煮えたぎるマグマのような赤い釜の中に善人、悪人を問わずに落ちていく。
落ちて行った人間達には誇りも尊厳の意識もなく、ただ獣のように己の苦しみを叫ぶばかりであり、他者を犠牲にしてでも苦しみから逃れたい一心で釜の淵にたどり着こうとする物の結局は、掴めずに苦しみの悲鳴を上げる。
善人も悪人も全て同じ顔をしていた。その光景は、蓬莱暁美がかつて覗き、自身もまた味わった地獄の光景だった。
浮遊感から開放された蓬莱暁美は、古い神社の本殿の奥で目覚めた。普段は虫すらも泣かぬ静けさを保つこの世界に誰かが訪れたのを感じていた。
第一回「あなたは地獄をみたことがありますか?」
僕は二人の少女の願いにより全てを奪われた……
僕にはある役割があった。それはこの宇宙を延命し、助けるという事。宇宙に住まう全ての生き物の為に身を捧げる。これ以上に名誉なことはなかった。
その為には、様々な物を犠牲にしなければならなかった。優先すべき宇宙の優れた文明とそこに住まう知的生命体達の為に、僕らは感情を消し、機械のように振舞うことを憶えた。
過程で感情には爆発的なエネルギーがあることを知った。感情があった頃には気づきもしなかったが、感情を消すことによりそれに気づけたのは何という皮肉だろうか?
だが、それは僕らインキュベーターが達したある結論に至る事になった。それは、願いを叶える為には大切なモノを犠牲にしなくてはならない……
それこそ命を掛けるほどの価値ある願いならば尚更だ。なにものも犠牲にせず、代償を払わずに何かを成すことが叶えられるだろうか?
だからこそ、僕は太陽系の第三惑星で様々な少女達と出会い、目的の為に彼女らから代償を貰った。だけど、人間というものは恐ろしく強欲に出来ていて、
厄介なことにその”欲”は、人間の価値観で言うなら”善”にも”悪”にもなるという事だった。
”善”の願いでもそれは、奪われた僕にとっては、彼女は間違いなく倒すべき存在であり、排除しなければならないのだ。
希望を願った彼女は、どういうわけか僕らのシステムの一部 契約する少女達にとっては都合の良い部分だけを僕に残し、彼女らに都合の悪い部分だけを僕にとって不都合で効率の悪い物に変えてしまった。
気がついた時には、そういう事になっていたので疑問に対して解決策を検討してもその応えに至らなかった。そこだけ意図的に抜かれたようなモノをいつも感じていた。
その疑問に応えてくれたのは一人の魔法少女だった。ソウルジェムが濁ると同時に消えてしまう魔法少女の真相は、一人の少女が”全ての魔法少女が目指した希望を絶望で終わらせない”という事を願った為に宇宙は改変させられたという事。
彼女は穏やかに話してくれたが、その話を聞いた途端、感情がないはずの僕の心に途方もない程の激しい何かが沸々と湧き出した。
僕からシステムを奪い、宇宙のルールを改変するという暴挙に及んだ存在が居たという事だった。いや、存在する証拠はないが、間違いなくその存在は居る……
例え話をするならば、ある仕事をしている営業が大きな契約を取り、その見返りとして大きな報酬を得るはずだったが、その大部分を知らぬ間に奪われ、さらにはそれにすら疑問を思わないようにさせられたこと。
僕は、自分のシステムを取り戻したかった。今でも宇宙は確実に枯渇していて遠い未来滅びてしまう。彼女達にとっては希望だろうが、僕にとっては盗人猛々しいと言わんばかりの暴挙を犯した存在でしかない。
ならば、その存在 暁美ほむらが語る”鹿目 まどか”から今度は僕が奪い返してみせる。君を支配してね……
その為には、友好的に接してくれた暁美 ほむらを犠牲にしても構わなかった。故に彼女の魂で実験すらしたのだ……だけど、これがいけなかったのか…
”悪”に相当する願いかどうかは、僕には分からない。だけど、彼女によって残っていたものすら奪われてしまった……
それは、ある少女によって残酷な物語が希望の物語へと変えられた”時間軸”。
そして、またある少女によって書き換えられた”時間軸”でもあるその時間軸から一匹の小さな影が飛び出した。この時間軸は、この一匹の小さな影 インキュベーターが二人の少女によって”全てを奪われた時間軸”だった。
インキュベーターは、瀕死の小動物のように毛並みに艶はなくボロボロで足並みも覚束なかった。
「冗談じゃないよ……希望?愛?君たちは結局、僕から全てを奪ったうえにルール違反を犯しただけじゃないか」
インキュベーターは憎憎しげに自身が飛び出した時間軸を振り返っていた。想像したとおり、この時間軸は他の時間軸から切り離され独立していた。
「やっぱり、僕達の宇宙だけが切り離されている。これが鹿目まどかと暁美ほむらが行った改変による結果か……」
飛び出したインキュベーターは、自身の周りに浮かぶ泡状に存在する宇宙を横目に自身が行かなければならない時間軸の座標を確認する。
「このまま観察するのも悪くはないかもしれないけど、この状態は長くはない……急いでいかなくちゃ……」
そして、インキュベーターは眼下にあるブラックホールを思わせる一つの淀みを見つけた。それこそがインキュベーターが目指す隔離された”結界”であった……
その”結界”こそ、ある時間軸の魔法少女達の希望である”円環の理”に導かれることを拒絶した魔法少女達が眠る”墓所”だった。
そこに侵入したインキュベーターは異様な静けさに包まれた森にたどり着いた……
結界の中はかつて見た”暁美ほむらの結界”と違い、奇怪なイメージを現したものではなく、日本の山奥の森であった。イメージではなく、この森は結界の主の記憶に深く焼きついている光景なのだ。
「……ここがあの”蓬莱暁美”の世界。いや、魂なんだ……凄い他にも何人もの魔法少女達の気配を感じる。そうか…彼女の仲間もここに来ているんだ」
数人どころではない、何十人もの魔法少女の気配を感じるのだ。これなら、仮に”円環の理”に導かれた魔法少女達と戦争になっても十分に渡り合える。
それもそのはずだ彼女は、魔法少女達によって組織された 秘密結社”メビウスの目”の総帥だったのだ。インキュベーターはまるで希望を見出したように森の奥へと走り出した。
関わってきたほとんどの魔法少女達は、インキュベーターの真実を知った時、反旗を翻したか、道を違えてしまった。
だが、この蓬莱暁美だけは真実を知っても自分達に協力してくれたのだ。かつての時間軸では互いに良い関係であった。お互いに敵対する勢力を倒し、目的の為に邁進してきた。
それを”正義”という言葉を履き違えた少女とそれを巧みに操っていた少年により瓦解してしまった。もし、自分の時間軸に彼女が居ればもっとマシな世界になっていたと思う。
彼女は自分達インキュベーターに対して、一定の理解を持っており、魔法に関してと感情エネルギーの新たなる分野への協力も惜しまなかった。
他の時間軸では、遮断結界よりも戦闘的で”円環の理”、”悪魔”に対しても有効な武器すらも作り出していた。
あの二人からシステムを取り戻すために別の時間軸からヒントを得るために調査を行ったとき、偶然”蓬莱暁美”の存在を知ったのだ。
ここがどういう場所か分からないが…彼女は間違いなくこの森の奥に居る。居ても立っても居られないとはこのような気持ちを言うのだろうか?
インキュベーターは走った。森の奥へと……
「さぁ、僕は君に言うよ!!!君にもう一度命をあげる!!!!だから、僕と一緒に女神と悪魔を一緒に支配しようよ!!!!」
自分の事を理解しながら協力し、さらには強大な組織すら持っていた彼女を味方につければこれほど心強い物はなかった。
森の奥に走り出したインキュベーターは気がつかなかったが、森の至る所に墓石が存在している。和風、洋風、さらには限られた地域でしか見られない特殊な装飾を施された物も存在している。
森の奥に古ぼけた鳥居と神社の本殿、その隣には少し大きめの泉が存在しており、結界の中は深夜 丑三つ時であり辺りは異様な静けさに包まれ風さえなく、泉の水面は波すら立てなかった。
その社の中に一人の少女が眠っていた深く閉じられていた瞼が開けられたと同時に結界全体に風が吹き荒れる。泉の水面は激しく波立ち、泉の底で眠っていた数人の少女達の影が起き出したのだった……
”ダレダ?”
”ワタシタチノネムリヲジャマスルノハ?”
”コンドハダレダ?メガミ?アクマ?ドチラデモカマワナイ。ワタシタチノネムリヲサマタゲルノナラ”
”コノチヲドソクデフミコマセルナ!!!”
本殿の中で眠っていた少女の名は 蓬莱暁美……
「………誰かしら?私達の墓所を荒らしにきたのは……」
死に装束を纏った暁美は、水面から出ようとする影を手で制した。
「大丈夫よ……円環の理ではないし、悪魔でもないわ。あの子達にはしっかりと断りを入れておいたから……だから、あなた達は安心して眠っていなさい。いつものようにここは私に任せて……」
影達は、暁美の言葉に納得したように泉の底へと戻っていった。だが、聞耳をそれぞれ立てており、自分たちの墓にやってきたのが誰なのか気になっているようだった……
「ふふふふふふふ。死人を自分の役に立てようなんて考えるのは、アイツだけね。そうでしょ……インキュベーター?それともキュウベえと呼んだ方がよい?」
鳥居に辿りついき、息を切らせた小動物 インキュベーターに対し蓬莱暁美は笑みを浮かべた……
「暁美……君が蓬莱暁美なんだね!!!!」
喜色の声を上げるインキュベーターに対し、蓬莱暁美はかつて、生前自分と交流を持ったインキュベーター カヲルを重ねた。
「そうよ、どうしたの?こんな夜中に態々ここまで来て?」
ゆっくりとインキュベーターに歩み寄り、優しく労るように彼女はインキュベーターを抱きしめるのだった………
「聞いてくれるかい?僕は、君にもう一度命を与えに着たんだ!!!」
インキュベーターは、自身の経緯を蓬莱暁美にこれでも言わんばかりに語った。ある時間軸で様々な平行世界の因果を持ち、神にすらなれる破格の才能を持った少女に契約を持ちかけた物の
自分の斜め上を行く願いにより、魔法少女システムが自分達インキュベーターにとって効率の悪いものとなり、それを取り戻そうとしてそんな彼女と深いかかわりのあった少女を実験台にして”円環の理”を呼び寄せることに成功し
観測ができたものの、その円環の理から実験体が一部の力を引き離し、”悪魔”となり自分は、ほとんどの力を奪われ、”絶望”に叩き落されてしまったことを……
魔法少女は、あの世界では何故か生まれず、自分も何もできず、魔法少女達に”悪魔”を倒そうと呼びかけても誰も相手にせず、誰にも認識されず、誰からも、誰からも自分自身が見られなくなってしまったのだ。
あの巴マミですら、自分を見てくれず、むしろ胡散臭そうにこちらを見るのだ。”悪魔”を敵対視する”美樹さやか”にも呼びかけたが、全くもって相手にされなかった。
おそらくは自分の事が知れ渡っており、どうにもできなくなってしまったことに絶望したが、打開策を探るうちに自分の事を知りながら協力してくれた蓬莱暁美を知り、ここまで訪ねてきたのだ。
「……それで、アナタはここに来たの?」
「そうだよ!!!一緒に女神と悪魔を支配して、僕を助けてよ!!!」
いつもの営業スマイルで蓬莱暁美にお願いをするものの、蓬莱暁美は薄く笑みを浮かべ
「それで、私と一緒に女神と悪魔を支配して、その後はどうするの?」
「後は君のしたいようにすればいいさ。何なら、君を魔法少女達を支配する女王にだってしてあげるよ!!」
耳に聞こえの良い言葉を続けるインキュベーターは気がつかなかった、その細首に手が掛けられたことに……
「お前は、私をとても都合の良い何かとしかみていないようね。まぁ、お前達 インキュベーターがそういうものとは理解しているけれど、世界が違うとこんなにも腹立たしいのね」
細首に掛けられた手に強い力が込められた。一般の少女の手なら何とかできたかもしれないが、蓬莱暁美は魔法少女である故にその力は恐ろしく強い物だった。
「っ!?!!な、なぜだい!!!?!君は、僕達を理解してくれるのに!!!!どうして、こんな仕打ちを!!!!!」
これでは自分を絶望に落としてくれた”悪魔”と同じではないかと……
「貴方達のことはそれなりに良く理解しているわ。だけど、貴方は私の事を理解していない……」
「”円環の理”と今まで、戦争をしなかった理由をお前は考えなかったの?それに彼女らは、私たちの事をそれなりに分かっていた。もちろん、悪魔もね……」
「っ!?!!っ!?!!」
首を絞められ、何もいえなくなったインキュベーターに対し蓬莱暁美は……
「私達はあの時、生きる為にあの道を進んだ。それを終えたのなら、後はここで眠るだけ。終わったことを再び繰り返すことをしない。ただ、それだけのこと……」
「アナタは、ここ、死者の眠る墓を荒らしに来ただけ……眠りを邪魔された死者がすることはただ一つよ」
インキュベーターの赤い瞳に耳元まで裂ける様に笑う蓬莱暁美の姿があった。あの”悪魔”以上に”悪魔”らしい笑い方だった。
「お前のような無粋な者に対して、死という呪いを与えてあげるわ……うふふふふふふふふふふふふ」
影が見えないはずなのに蓬莱暁美の足元に人ではない異形の影があった……
「っ!?!こんなのって…な……」
「インキュベーター、あなたは見たことがあるかしら?私は覗いたことがあるのよ……地獄を……」
鈍い音と共にインキュベーターはそのまま息絶えてしまった。
息絶えたインキュベーターからいくつかの発光体が浮かび上がる。これこそが、インキュベーターが自分に与えるつもりだった”命の光”だった……
「うふふふふふふ」
堕ちたインキュベーターに目を向けることなく蓬莱暁美は、”命の光”を携えて来た道を引き返していった。
その先に揺り篭で眠るインキュベーターに良く似た小さな生き物”ユウ”が居たことをインキュベーターが知る事はない……
「うふふふふふふふふふふふふ。インキュベーターからのお願いか……そういえば、私達の居た時間軸のインキュベーターからもあったわね……似たようなお願いが……」
それを思い返すと愉快に思えてきた。そして……此処には居ない、今も生きているかもしれないあの”人形のような少年”との出会いと……
姉と自分を慕ってくれた美樹さやか 上条恭介 二人に聞かせたヴァイオリンの音色は今でも弾くことは叶うだろうか?ヴァイオリンの事を思い出すのも久方ぶりなのだ……
自身の破滅と最後も……こうなってしまえば、愉快でしかなかった…本当に愉快で愉快で仕方がない……
”因果応報”これほど愉快で真理を得た言葉を蓬莱暁美は知らない………
そして様々な感情を晒し、自分自身の思いのままに生きてきたことに彼女は後悔などなかった………
数年前の見滝原……
見滝原市の都市の中心の一等地に聳え立つ高層ビルの最上階に彼女らは居た。最上階の巨大なホールには裏表の区別が付かない灰色と赤と黒が斑に彩られた輪の中心に小さな円を描いている様はまるで”目”を思わせる。
裏表のない目 "メビウスの目”である…広大なホールに十数人の少女達がそれぞれの衣装を纏い、二つの列に別れ互いに向かい合っていた。
そんな彼女らを見据える四人と、高い位置の壇上にこの魔法少女らを統べる蓬莱暁美が立っていた。彼女特有の魔法である灰色の翼を羽ばたかせ
「それでは、始めて……」
彼女の声に応えるように列を組んだ魔法少女の一人が
「はっ、まず流通経済関係ですが、先月までの実行部隊による工作による株価の操作では、予定通り利益を上げています。さらに武器の購入も予定通り行います」
「現在、我々メビウスの目は、この国の通貨の六分の一を動かすに至っております」
「さらにアジアにおける市場の拡大も順調です」
「次に人事関係ですが、新たに我々に加わった魔法少女 5名。固有魔法によりそれぞれの部署に配属となります。資料は皆さんの端末に送っていますので確認を……」
「それに加えて、新たに勢力を拡大するため現在、アスナロ市に魔女プラントの着工に入りますが、魔女の輸送に関しては……」
「OK、OK。そこはアタシ達がやるから、安心しろ」
最高幹部の一人である 杏 櫻は手を上げて自らが名乗り出る。
「な、櫻様の手を煩わせるなど……」
戸惑う幹部 魔法少女に対し杏櫻は気さくな態度である。
「ここは、総帥である私が承認するわ。アスナロ市はかなり大きな町。こちらの事を知っているとなると何かしらの行動に出てくるかもしれない。だから、杏 櫻には輸送の護衛と襲撃に対する備えをお願いするわ」
「はっ!!!」
「良いねボス♪そうこなくちゃ♪」
「フフフフフフ、 杏 櫻。あまりやり過ぎないようにね」
こちらを悪の魔法少女の団体と声高に叫んでいる集団が居るが、自分達は別にそれでもかまわないというのが本音であり、何を言われようとも行動を改めるつもりはない。
「あぁ、先輩らしく後輩は可愛がってやるぜ。んで、運ぶ魔女はちゃんと育ってるのか?」
「はっ、現在、魔女のプラントに必要な”魔女”の育成は順調であり我々”メビウスの目”所属の魔法少女へのグリーフシードの供給もほぼ安定しています」
「先日、グリーフシード供給施設に数人の魔法少女が襲撃を掛けてきましたが、こちらは 沙耶 三城 様によりすべて迎撃、および捕縛した彼女達は魔女プラントへ出荷させました」
「ったくよ、労働もしないで泥棒しやがって……まったく、どういう躾を受けたんだ?」
「魔法少女というものはそういうものよ。本来なら個人主義であり、我々”メビウスの目”のように組織に所属することは本来ならありえない」
赤毛の落ち着いたフレームなしの眼鏡を掛けた高校生ほどの少女が手元の端末を操作し、魔女プラント行きになった少女達への処理に承認と操作を行う。彼女こそ先ほど話題に上がった 沙耶 三城である。
「続いて軍事関係ですが、新たに加わった構成員達の研修は予定通り行います」
「新たな宿舎も近日通り手配いたします」
幹部達の持つ端末には、つい最近入手した物件の情報が提示される。新しく建設されたばかりのマンションであり、立地条件は良く普通に購入したならば、それなりの収入が必要なモノである。
「遮断結界の応用による新たな”無効化フィールド”の開発は予定通りであります。つきましては、総帥”無効化フィールド”の性能を試したいのですが……」
「そう。アレはかなり大規模なモノになりますから、一人二人の魔法少女を倒したところで力の証明にはならないわ」
”無効化フィールド”とは、如何なるものかは分からないが、単に魔法少女を一人二人消したところでは笑い話も良いところと評価されることから、大量の魔法少女を消すことが可能のようである。
「ていうかな。ここの建物も基本的には遮断結界で覆っているから、アタシ達ぐらいしか出入りできないんだよな」
「そうよ。ここはインキュベーターも立ち入りを禁じているわ。互いに協力し合うのもそうだけど、その為には互いの不干渉も取り決めなくてはならないわ」
蓬莱暁美は、インキュベーターが本当の意味で協力をしているとは思っては居なかった。隙あらば、抜け道を探そうとこの建物に侵入を試みようとしていることは知っているのだから。
当然のことながらこの会議の内容を知ることはない。時折、探りを入れているが、それに応えることはなかった。
「魔法少女を増やし、エネルギーを得るのは我々も承知していますが、正直、信用が置けませんね」
幹部 魔法少女の言葉に他の面々も頷く。此処にいるメンバーはインキュベーターの真実を知っているのだ。
「それがインキュベーターという生き物よ。奴らはすべて数字で物事を見ているから、たとえこちらがどんなに協力しようとも親しくしようとも0.0000000001㌫、有利なところがあればそちらに向かって、こっちには見向きもしなくなる」
蓬莱暁美はインキュベーター側の魔法少女ということで通っているが、彼女自身長い付き合いと経験でインキュベーターがどういう存在か良く分かっていた。
今、妹分が見ているあの空想の魔法少女のように献身的に助けてくれる存在ではないのだインキュベーターは……故に一匹、感情に目覚めた個体”カヲル”は存分に利用…もとい協力してもらっている。
遮断結界等は、”カヲル”経由で”メビウスの目”はそのノウハウを得る事ができた。
「あれと付き合うときは少なくともプライベートのことを話しては駄目よ。話をして、自分の利益になると踏んだら土足で踏み込んでくるのがインキュベーターだから」
”メビウスの目”幹部一同はそれぞれ、インキュベーターに思うところがあるのか一斉に頷いた。
「それとですが、此処のところ魔女結界にて明らかにおかしい一般人が居ることが多くなっています」
報告に対し、杏 櫻 が
「あぁん?まさか、魔法少女を助けたいって言う馬鹿が出しゃばってきたのか?」
「身の程をしらない愚か者……人間の正義感という物は自己満足以外になにものでもないわ」
続いて 三城 沙耶が腕を組み、鼻を鳴らす。
「こっちに関わりたいんなら、代償は命で問題はないよな」
獰猛な笑みを浮かべ杏 櫻は青龍刀を思わせる武器を魔法で取り出し、ちらつかせる。そんな彼女に対し、報告会議にまったくもって興味を示さず化粧を今の今までしていた 麻須美 巴が
「キャハハハハハ。そうよね、殺されても文句はないわよね。それで、やっぱり魔女プラント行き?それとも……」
”魔女プラント”よりも恐ろしいモノが存在するらしい。
「利用できるのでありましたら、ワタクシは話し合いでこちら側に就けるのが良いと思いますわ。インキュベーターと対立して自滅していく様を見るのは……」
恐ろしいことをなんでもないように言う二人に対し、先の三人とは控えめな印象を受ける 日登美 雫が声を上げる。
先の二人 杏 櫻、麻須美 巴の二人がタカ派であるならば、日登美 雫はハト派の穏健の立場にあり、できる限り魔法少女同士は争わずに平和的に解決できるのならば、そうすべきと主張を常々行っている。
ちなみに 三城 沙耶は中立派としており、どちらにも肩入れすることはない。
「日登美さんよ~~。おめぇ、滅茶苦茶、甘ちゃんだな。魔法少女ってのはみんな自分勝手な輩だ。それを話し合いってのは、少し無理があるぜ」
「それは……」
「櫻、話し合いというのはお互いに同じ土俵に立たなければ成立しないわ。もっとも相手が力を持っているのなら、尚更でそれ相応の武力がなければ話し合いなどできない」
「ボ、ボス。アタシは、日登美にちっと甘いんじゃないかって」
「暁美さん。ワタクシが甘いのは事実ですわ。ですから……」
二人に対し、蓬莱暁美は笑い
「うふふふふふふふ。貴方達一人でそれを気負う必要はないわ。このメビウスの目は魔法少女を支援するための組織。故に様々な物を背負う場でもあるわ。だからこそ、貴方達は思う存分、貴方達のしたいようにしなさい」
彼女は、彼女達のやり方を否定するつもりはない。そもそも、彼女達は自分に必要なモノの為に願い、魔法少女になったのだ。それを否定して、誰かの都合の良い駒に仕立てるのは三流のやり方であり、
一流とは、駒の個性を最大限に理解し、利用できなければならないのだ。
「それはそうと、先ほどのおかしな一般人とは何かしら?」
「はっ、いつものような一般人ではなく、科学者のような者達でした。それに妙な機器も持ち歩いていて……」
「それは、どういうこと?」
沙耶 三城が問う。いつもと違う様子に対し疑問が浮かんだのだ。
「はっ、魔女と魔法少女を探していたようで、接触する前にかたはつけましたので、こちらの事は気づかれていません。ですが、念のため監視をさせています。無論、魔法少女ではなく、我々の息の掛かった人間の協力者にさせています」
その報告に対し蓬莱暁美は先日、インキュベーターからの依頼の件を持ち出すことを決めた。
「そう……やはり、インキュベーターからの依頼の件を早急に進めなくてはなりませんね」
「インキュベーターからですか?先日のワルプルギスの夜の調査の件でしょうか?」
「そちらではないわ。結界にいたおかしな一般人に対してよ……どうやら、私達魔法少女に並々ならぬ憧れを持った変わり者が居るそうよ」
蓬莱暁美は先日、尋ねてきたインキュベーターからの依頼を思い返した。
『暁美。君に、いや君達”メビウスの目”に依頼をお願いしたい』
二人が居るのは、”メビウスの目”が所有するとあるビジネスビルの一室である。ここは、彼女の友人であり同志である魔法少女関係者が個展を開いていたのだが、今は展示時間が終了し、他の人間は誰もいなかった。
『何かしら?まさか現在調査中のワルプルギスの夜に関するもの?』
『いや、そっちではないよ。ある団体を君達で壊滅させて欲しい』
ある団体という言葉に蓬莱暁美は眉を寄せた。言うまでもなく、インキュベーターがこのような依頼をするのは珍しかったからだ。
魔法少女を生み出す存在であるインキュベーターにとって、全ての魔法少女は平等に見ており、余程の事がないかぎりは直接、間接的に手を出すことはないからだ。
『僕が過去に契約した魔法少女の関係者なんだけど、素質がなくって特に相手にはしなかったんだけどね。最近、僕としても看過できないことを行っているんだよ』
『まさかと思うけれど、貴方が妙なことをした事への尻拭いかしら?』
以前も似たような件で相談をされたが、今回は少しだけ毛色が違っていた。
『君に嘘やあいまいなことを言ってもしようがないからね。僕らの技術を真似て人工的に魔法少女を生み出そうとしているのさ、彼女は……』
『まさか?私の知る限り、今の人類がそこまでのモノを持てるとは到底思えないのだけれど』
一部、そういう技術に特化した団体も存在しているのだが、それらは関わり合いを持つことは命を代償にしなければならない。
インキュベーターもまた現地勢力の中には、インキュベーターを敵対視する団体が居ることを知っているため、同じく関わりを持ちたくないのだ。
『それは、そうさ。だけど、かなりの無茶をして魔法少女を生み出そうとしている。その過程で生まれたのが人類製の魔法少女”チルドレン”』
”チルドレン”という言葉に蓬莱暁美は目を細めた。聞き覚えのある言葉だったのだ。そう、妹分である ”さやか”を今、悩ませ、苦しめているあの団体の中にある記号……
『ニルヴァーナ機関ね。キュウベえ、まさかと思うけれど、今世間を悩ませているあのカルト組織に間違いないわね』
『そうだよ。やはり君は話が早い』
そう、蓬莱暁美はこの件を受けるつもりだった。今、見滝原周辺を騒がしているカルト組織 ニルヴァーナ機関に対し、蓬莱暁美は誰にも打ち明けていない胸のうちにどす黒く、それで居て淀んだ感情を抱いていた。
ニルヴァーナの掲げるのは”人類の進化と補完”。これは、今の人間達は発展途上でありその為には”人間の進化”の調和が必要であると説いている。
現在の人類が愚かな争いを続けているのは、発展途上であるため互いが互いが理解できないことが原因であり、その為には互いに分かり合うために掛けた部分を補完しなければならないというものである。
だが、この組織が単なるサークルのようなモノであれば特に世間は騒がしくなかったのだが、製薬会社がスポンサーとなりさらには、形而生物学を専攻する研究所までもが連ねており、歳の若い少年少女達が多く
彼女らは”チルドレン”と呼称されている。様々な場所から少年少女達を募集し、親元から強引に引き離していることが問題となっているのだ。
さらには、カルト組織特有のマインドコントロールされた信者達による過激な活動。そして自分達が進んだ人類であるという狂った”選民思想”など、さらには、警察組織の一部が協力的であるため、
世間では、この国で良からぬ事が起きているのではという怯えが心ある人達を不安にさせていた。そして、彼女の妹分であるさやかもまた……
”お姉ちゃん!!!!嫌だよ!!!!あんなお父さんのところに帰りたくないよ!!!!!怖い女の人の顔なんて見たくないよ!!!!!!!!”
自分に縋りつき、今は少し強引であるが自宅に匿っている。
さらには……
”全てはこの国の為なのだ!!!!お前のその体質が必要なのだ!!!!”
”君の夫 夏一郎君は立派にお国の為に戦った。誇りに思いたまえ”
もうどれ程前かは、数えるのも億劫になってしまったがあの時のこの国は随分とまあ綺麗ごとの元、様々な物を奪ってきた。そして、自分達に奪われたモノを返すこともなかった。
『うふふふふふふふふふふ。みんな、奪い奪って奪われて、最後に残るのはより多くのモノを奪った物だけ……』
自分たちもまた奪う側に存在している。故に歩みなど止めてやるものか、これからも歩むために”ニルヴァーナ機関”から全てを奪ってやろう……
『じゃあ、契約成立だね』
『ええ、構わないわ。それにしてもあの女 ”錨 ユラ”の言う分かり合えた新たな人類というモノ…あの女は見たことがあるのかしら?』
『君がかつて見たというアレかい?』
以前、キュウベえ、インキュベーターに話した蓬莱暁美の信じる真実の一つ……
……私は、かつて地獄を覗いた事がある。そこには全ての人たちが善人、悪人を問わずに業火に焼かれ、獣のように狂った悲鳴を上げていた……
人の性は、獣。獣は人の姿であり真実。どんなに綺麗ごとを述べたところで、人は獣でしかありえない……
『人は心の境界線さえなければ、分かり合える』
『うふふふふふふふ。獣が互いに理解できるわけがない。互いに食い荒らすだけ……』
その後、会議を終えた蓬莱暁美はある少年と出会う。その少年に彼女が見たものは………
『うふふふふふふふふ。痛みも喜びも感じない人形のように純粋な子……』
その少年は複数の別の少年達に人気のない所に連れられていかれたが、蓬莱暁美は気づかれないように後に付けていった………
用語集
”メビウスの目”
蓬莱暁美が組織した魔法少女支援組織。総帥である 蓬莱暁美 16人幹部と4人の最高幹部によって運営されている。
傘下の魔法少女は数十人規模であり魔法少女に対し様々な援助を行っており、衣食住はもちろんのことながら、グリーフシードの供給、熟練魔法少女による研修と内容は充実している。
さらには、武器を生み出せない力の弱い魔法少女に対しても武器を供給してくれます。
だが、行っていることの大半がかなりブラックな為、”メビウスの目”は良識ある魔法少女達からは”悪い団体”として見られている。
事実、他の魔法少女からは評判の悪い、もしくは素行の悪い者達が多数在籍している。一番の理由はインキュベーターと協力関係にあるところであったりする。
在籍 魔法少女
総帥 蓬莱暁美
最高幹部① 杏 櫻
最高幹部② 麻須美 巴
最高幹部③ 日登美 雫
最高幹部④ 沙耶 三城
下位 幹部 16名程
魔女プラント
蓬莱暁美が考案したグリーフシードを安定して供給するために作り出した魔女養殖場。
その方法は、極限までに穢れきった呪いと瘴気が渦巻くプールに捕らえた魔法少女のソウルジェムを入れ、強制的に魔女にさせ、その後遮断結界で閉じ込め、
生け贄として攫った人間等を餌にすることで安定してグリーフシードを得るという”外道”なシステムである。
捕らえた魔法少女の身体は処分か、他の魔女の餌にすることで、彼女曰く無駄のないサイクルで回っている。
”ニルヴァーナ機関”
この時間軸における科学系カルト集団。単語とかみるとモチーフは、某新世紀に出てくる特務機関です。
やっていることは、信者及び関係者からの強引な金集め、さらには14歳の思春期の少女達を様々な方法で強引に集めていて、さらには親元から子供たちを引き離しており、大きな社会問題になっていました。
何となくそれに似た名前を探していたらこれに命名したという具合にしています。キュウベえでさえ嫌うというどうしようもない集団です。
人類製 魔法少女 ”チルドレン”に関しては、後々語っていきたいと思います。
あとがきという名の言い訳
キュウベえ視点から女神まどかと悪魔ほむらはどういう存在なのかということで描いてみました。
キュウベえからすれば、どんなに願いが尊い物でも奪われたことには変わりないので、彼らにとってまどかもほむらも両方とも倒すべき存在として認識されています。
そして都合よく彼女 蓬莱暁美を利用しようとしたら、相手に自分の持ってきたものを奪われ、利用されたという有様です。
ちなみに蓬莱暁美は生前は色々とやらかしましたが、それなりに能力があり、女神まどかにも能力を買われましたが、
死んだら今を生きている人間に干渉をしないという方針と現在進行形で干渉しているまどかの方針には従えないという理由で断っています。
また、彼女独特の死生観と”円環の理”が合わなかったため協力もしないし、従う義理もないという事でこちらは何もしないということによる不可侵条約を結んだという具合です。
仮にまどかが力で訴えても徹底抗戦をするつもりでした(汗)
悪魔ほむらの場合は、危険と考えて確認の為に蓬莱暁美に出会いましたが、こちらから余計な事をしなければ”何事もない”ということを知り、軽くお供え物をして帰りました(笑)
キュウベえは、蓬莱暁美のそういうところを理解していなかったため、死者として眠りについていたところを身勝手な理由で蘇らせようとした為、消されました。
ちなみにですが、秘密結社 メビウスの目の設定は私の趣味です(笑)
単独な悪もそうですが、こういう悪の組織の栄枯盛衰って凄くよいと思いますので。
ちなみに16人の幹部は既に何人かは設定を考えていますが、ほとんどモブ扱いです(爆)