大体の流れは決まっているのでゆるゆりといくつもりです
これはあったかもしれない世界の物語。
僕は今はアイドルをやっている。きっかけは些細なことだったけれど、Pがなかなか話の分かる奴だったおかげで楽しくやっている。
新しい世界というものにヒトは怯えてしまう生き物だけれど、だからこそ挑んでしまいたくなる。ヒトの性というものは全くどうして興味深い。
というわけでそこそこ楽しくやっているよ。また手紙するよ、お母さん。
「こんなところか。」
いつものように手紙を出しプロダクションに向かう。
ここのところレッスン続きで退屈といえば退屈な日々。だけど努力なくして成功はない。地道にやっていくのが一番というのは世間の一般論。
どうやら一般論であるがゆえに正しいということらしい。だが、正しいこととしたいことというのはまた別問題だということを説明する為の説得材料はなかなか見つからない。
「っと」
ドンと誰かにぶつかった。
「おっとすまない。少し考え事をしていてね。」
相手は頭までフードを被っていた少女だった。年齢は僕と同じくらいか年下か。
「…あなた私が分かるのですか?」
「ん?」
奇妙なことを言う。その言い方はまるで自分が幽霊であるかのようだ。
「…幽霊ではないですけれど似たようなものですね」
「それはどういう意味だい?」
「…そうですね。これから少し時間はありますか?」
「時間?」
左手の時計を見ると時計の針は一四時前頃だった。レッスンまで二時間少しか。
「ああ構わないよ。正直君に興味が湧いてきた。」
全く出会いというものはどこであるか分からないものだ。だからこそこの世は面白い。
「そうですか。では…そうですね。少し行くと八坂神社があるでしょう?そこでお話するのはどうですか?」
「構わないよ。…そういえば名前を聞いていなかったね。僕は二宮飛鳥。今はアイドルをやっている。君は?」
「…古明地さとり。まあしがない妖怪ですよ。」
妖怪?…変わった冗談を言うな。そんなことを思いながら僕たちは神社へ歩み出した。どうやらまた新しい風がふいてきたようだ。勿論乗るしかない。
八坂神社は日本各地に分社がある有名な神社だ。ここもその一つではあるが寂れてしまっていて、参拝客はあまり来ていない。
つまり忘れられてしまった神社というわけだ。
「それで?話ってなんだい?」
「まずこれを見て頂いた方が話が早いと思うので」
少女は深く被っていたフードを脱いだ。
「っ!?」
僕が驚いてしまったのは無理もないだろう。なにせフードの中の少女の身体から触手のようなものが生えていて胸の辺りには不気味に蠢く眼球があったのだから。
「それは一体!?というかキミは本当に…」
「ええ言ったでしょう?。私は古明地さとり。正真正銘の妖怪ですよ。」
「冗談…じゃないみたいだね、どうやら。」
「これがアクセサリーだとしたらずいぶん精巧なものですね。」
彼女は眼球を撫でながら言った。
「それで?僕を取って食おうって言うのかい?」
僕の心の中は恐怖が支配していた。ヒトならざる者というものに憧れというものを抱いてもいたが今はそんなことを考える余裕はなかった。ただただ恐怖を抱くことしかできない。
「…いえ。そんなつもりはありませんよ。貴方にはむしろ感謝している位ですから。そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。」
彼女は目線を下に移して言った。どうやら情けないことに膝が震えてしまっているらしい。
「感謝?僕がしたことと言えば君にぶつかったこと位のはずだけど。」
「感謝と言ったのは貴方が私を認識してくれたことに対してです。」
「とすると普通の人では認識できないという訳かい?」
「そうですね。」
少し調子を取り戻し話す。
「キミは世界から忘れられつつある…と。」
「理解が早くて助かります。」
「なるほど。僕がキミにとって貴重な人間ということは分かった。けれど僕は何をすればいいんだい?」
「まあ順を追って話しましょう。まず私たち妖怪が何故存在しているのか…」
横目で左腕の時計を見ると時刻は3時30分を回っている。
「話を遮ってしまって悪いのだけれど、その話は長くなりそうかい?」
「ええ、まあそうですね。」
「その話は興味深いのだけれど生憎僕はこれからレッスンに行かなくてはならなくてね。」
「レッスン…アイドルのですか?」
「そうさ。サボると先輩が煩いからね。」
「…そのレッスンに私も付いていっても構わないでしょうか?」
うーん。僕としてはどっちでもいいのだけれどPがなんて言うかな。いやPが何も言わなければいいのか。となると…。
「そうだ。じゃあさとりは僕の従姉妹ということにして、レッスンに見学しに来たという設定はどうだろう?」
「…いいですね。それでいきましょう。」
「けれど他の人にキミの姿は分かるのかい?さっきのキミの話だと見える人は限られているんだろう?」
「それは大丈夫です。飛鳥さんが…。」
「飛鳥でいいよ。」
「では飛鳥。貴方が私を紹介してくれれば伝わります。私が存在してるという事実は辛うじて保たれているので。」
「そのあたりの認識?がよく分からないな。」
「では歩きながら話しましょうか。」
僕たちは歩き出した。先の分からない未来へ。未来なんてものはいつだって不確かだ。だからこれもまた、いつもの日常ともいえるのかな。
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