飛鳥と悟りの物語   作:桂木ヤユ

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今回は二部構成となっております、
お楽しみ頂ければ幸いです。


~笑顔の理由と忌避できぬ問題~

 運転席にプロデュサー、後部座席にさとりと美玲と僕が座っている。事務所のみんなはこのみ先輩が運転する車で後ろから追走している。僕はメロディを覚える為にもカバーする曲を聴いていた。ぼんやりと窓の外を眺める。

 

 今日は他のプロダクションとの合同握手会だ。総選挙前ということでテレビ局も取材に来るらしい。僕にとって初めてのメディアへの出演になる。一応母さんにも伝えた。良い所を見せないと…。珍しく僕は少し緊張しているのかもしれない。

 

「それにしても握手会か…。」

「どうかしたんですか?」

 

 僕はイヤホンを外す。途端に静けさが広がる。僕たちの言葉以外には道を走る車の音だけが聞こえる。

 

「いや握手会って僕たちならすればファンがいるっていう実感が湧き、モチベーションに繋がるっていうメリットがあるけれど、ファンの人たちにとってのメリットなんてあるのかなって。」

 

 自分の手を見つめ、考える。意味があるのだろうか?一人の持ち時間に掛けることができる言葉なんて一言二言だろう。それじゃあ想いを伝えることなんてできやしない。ファンの人たちは何の目的で来るのだろうか。有名人と会えて嬉しいから?いや、僕たちはまだまだ卵だ。知名度があるとは思えない。

 

「プロデュサーなら何か分かるかい?」

 

 プロデュサーは少し考えるように顎に手を当てた。

 

「それは実際に会場に行ってみれば分かるかもしれませんよ。」

「またそうやってはぐらかす。」

 

 プロデューサーはいつものように笑うと何も言わずに運転を続けた。

 

「うーん。人の気持ちを考えるって難しいな。」

「そうですね…。私も苦手です。」

「さとりは得意だと思ってたよ。」

 

 考えてないことでも言い当てられるし。

 

「それはあくまでも経験に基づいた予測に過ぎません。人の気持ちなんて分かりませんよ。妖怪の気持ちもね…。」

 

 もしかするとさとりの場合は、僕とは逆パターンかもしれない。人と接しすぎて人の気持ちが分からなくてしまった妖怪と、人を避けた結果人の気持ちが分からなくなった人間。

 

「そうかもしれません。」

 

さとりは足元を見つめながら呟いた。

 

「あの…これから握手会っていうのに話が暗くないか…?もっとこう頑張って行こう!みたいなさ。」

 

 美玲が大きな声でそう言った。

 

「それもそうだね。主役の僕がこんな有り様じゃ、せっかく来てくれたファンに失礼だ。明るく行こう。」

 

 僕は少し笑顔を浮かべる。作り笑いだったけれど、暗い顔でみんなを心配させるよりはいい。

 

「そうですよ。とりあえずやってみましょう。ダメだったらそのときに考えたらいいんです。何事も失敗しないと始まらないですし。」

「ちょっと楽観的過ぎる気もするけどウチもそう思う。今日は一二三の代表だろ?一二三ここにありって堂々としてればいいと思うぞッ。」

「そうだね。」

 

 僕は瞳を閉じると、再び窓の外の方を向く。

 

「あまり気張りすぎるのも良くないですけどその心意気ですよ。」

 

 プロデューサーはそう呟いた。それから三十分ほど車に揺られるとと握手会の会場に着いた。

 

 

 

 

 会場の大型電気屋の前には既に列ができていた。僕と変わらないような少女からプロデューサー位の大人まで様々な人がいる。

 

「こんなに早く並んでるのか。まだ2時間もあるのに。」

「それだけ楽しみにしてるってことですよ。じゃあ荷物持って行きましょう。私たちは裏口から入ることになっているので付いてきて下さい。」

「うん。」

 

 プロデューサーに案内され裏口に向かう首からプラカードを下げた人が立っていた。

 

「本日はよろしくお願いします。」

 

「よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします。」

 

 笑顔でかけられた言葉に、僕はお辞儀で返す。

 

「事務所名をお願いできますか?」

「一二三プロです。私はプロデューサーの峰岸透です。この子がアイドルの二宮飛鳥で二人は付き添いの友達です。」

「確認しました。」

 

 スタッフの人は紙に何かを記入する。

 

「ではこちらの名札を首から下げて貰えますか?6階の方に簡素ですが衣装室と待合室を設けています。お時間まで少々お待ち下さい。」

 

 僕たちはエレベーターに乗った。

 

「それにしてもさっきの人ずっと笑顔だったね。」

「それがどうかしたの?」

「ああやって笑顔でいるとこっちまで明るくなるというか…。悪くない気分だなって。」

「そうですね。良い空気は繋がりますから。」

 

 さっきの車でも僕は同じように作り笑顔を浮かべた。でもそれはひどく後ろ向きなものだった。そもそも笑顔は自然にできるもの、それが一番で虚構の表情は虚しいだけ。そう思っていたけれど。どうやらそうではないらしい。

 

「なるほどね。勉強になったよ。今日は来てくれるファンの人たちも笑顔にできるような、そんな場にしないとね。」

 

 僕の頬は自然と緩んだ。

 

「そうですね。」

「そうだなッ!ウチも応援してるからな。」

「ああ。僕らしい僕を、二宮飛鳥を見せてやるさ。」

 

 エレベーターの扉が開くとこのみ先輩が立っていた。

 

「おっ飛鳥ちゃん良い顔してるわね。その調子で今日は頑張ってね。」

「うん任せてよ。」

 

 

 

 

 

 いよいよ握手会開始の時間だ。会場の中には僕たちアイドル五人が並んで座っている。左から順に五十嵐響子、大槻唯、中野有香、僕、相葉夕美だ。

 

 始まる前に軽く挨拶をして感じた印象は、五十嵐さんは僕より一つ年上で、お姉さんといった感じだ。

 

 大槻さんは今風の女の子といった感じでテンションが高く、僕とは別の世界に住んでるように感じた。

 

 中野有香さんは空手をやっているらしく元気一杯といった感じで圧倒された。

 

 相葉さんはほがらで「今日はみんなでファンの人たちを笑顔にできるように頑張りましょう~。」とまるで僕らが同じユニットで彼女がリーダーであるかのように感じた。アットホームな雰囲気ってことか。

 

 みんなそれぞれ個性を持っている。僕も埋もれてしまわないように頑張らないと。僕は気を引き締める。大きく深呼吸をしたところでスタッフの人の声が響く。

 

「長らくお待たせいたしました。プロダクション合同握手会開始です!!」

 

 ファンの人たちから拍手が上がる。

 

「ではアイドルのみなさんに一言ずつ挨拶をお願いしましじょう。」

 

 スタッフの人がマイクを五十嵐さんに手渡した。

 

「五十嵐響子です。得意なことは家事全般です。今日はよろしくお願いします。」

 

 再び拍手が上がり、マイクが隣の大槻さんに渡る。

 

「どもども、こんちわ~。大槻唯でーっす。今日わー来てくれたみんなをハッピーにしたいって思うからよろしくちゃーん。」

 

 ず、ずいぶん何というか変わった挨拶だと思ったけど、ファンの人たちからは拍手や声援が飛んでいる。

 

「中野有香です!押忍!今日はよろしくお願いします。」

 

 会場から「押忍!」と野太い声が聞こえたのでそちらを向くと空手道着を身に纏った集団がいた。中野さんは挨拶が終わると小声で

 

「師匠たちなんで来てるの…。」

 

 と呟いて僕にマイクを手渡す。

 

 自分の心臓がドクドクドクと一定のリズムを刻んでいる。

 

「ボクは飛鳥。二宮飛鳥。ボクはキミのことを知らないけど、キミはボクを知っているのかい?あぁ、キミは今こう思っただろう。こいつは痛いヤツだってね。でも思春期の14歳なんてそんなもんだよ。今日はよろしく頼むよ。」

 

 あらかじめ決めていた台詞を言い終えると会場から拍手と「飛鳥ちゃーん。」というこのみ先輩と百合子、美玲、桃子の声が聞こえた。声援は嬉しいけれどそれよりも恥ずかしさの方が強かった。桃子とかあの顔は絶対分かって言ってたでしょ。

 

 張り裂けそうなほど脈打つ心臓の音を感じながら、マイクを隣の相葉さんに渡す。

 

「相葉夕美です。好きなものはお花です。今日はみなさん楽しんでいってくださいね。」

 

 一際大きい拍手が起こる。いよいよだね。

 

「では握手会開演です。みなさん前の人は押さずにゆくっり進んでください。」

 

 列が動き始め僕の所に最初のファンの子が来た。

 

「貴方が二宮飛鳥ちゃんですか。ふむふむ、私はありさって言います。これからの活躍も期待してます!!」

「ああ、ありがとう。これからもよろしくね。」

「こちらこそです!」

 

 ありさと名乗った少女はと敬礼すると去っていった。なんだか自然と顔が綻ぶ。自分の存在が人に認められるというのは存外に悪くないものだな。

 

 それから握手会終了までの三時間。思ってたよりもずっと楽しく終えることができた。

 

「これもみんなのおかげかな。」

 

 僕はファンの人たちがいなくなってすっかり静かになってしまった会場でポツリと呟いた。

 

 

 

 

 時間は少し巻き戻り握手会の中頃である。会場の端で事務所のみんなと飛鳥を応援していたさとりに声をかける人がいた。

 

「あっさとりちゃんじゃん。奇遇だね!」

 

 振り向くと背丈が私と同じくらいの少女がいた。

 

「あなたは…。」

 

 見覚えのない少女の心を読む。

 

「(少し話したいことがあっての。いまちょっといいかの?)」

 

 私を知っているのね。

 

「ああ愛梨ちゃん。こんなところで会うなんて珍しいですね。」

「うん。今日はパパと来たの。あっそういえば明日の宿題ってなんだっけ。」

「かばんの中に連絡帳が入ってるからちょっとついてきてもらえる?」

「うん!」

 

 私はプロデューサーに目配せする。

 

「少し控室に行ってます。すぐ戻ってくるので。」

「分かりました。後でジュースでも持っていきましょうか?」

「そんな気を使うような間柄でもないので大丈夫ですよ。じゃあ愛梨ちゃん。こっちです。」

「うん!」

 

 私は少女を連れて控室の一室へと入った。

 

「気を使わせてすまんのう。」

 

 途端に少女はふぉっふぉっふぉっと笑い、あぐらをかく。

 

「で何の用なの?二ツ岩のマミゾウさん。」

「いやはやまた見破られたか。さとり妖怪とは相性が悪いのう。」

 

 ポンと一瞬煙が包むと目の前の少女が大きな尻尾を生やした化け狸に変わっていた。

 

「またってどういうことなの?あなたまさか…。」

「そうじゃ。お主の妹に会ってな。」

「どこで会ったの!?」

「まあそんな慌てんでもちゃんと話すから落ち着け。」

 

 私は座り直すと大狸の話に耳を傾ける。

 

「今から二,三週間前に長野の方でなお主の妹のこいしが人を殺そうとしとったから、わしがとめたんじゃ。理由ある殺生なら止めはせんかったがどうやら、ただの衝動的なもののようじゃったからな。」

「それは…ご迷惑をおかけしました。」

「なにわしが好きでやったことじゃ。礼なんかいらん。それでじゃ。本題に入らせてもらうが…お主は妹をどうするつもりじゃ?」

「それはもちろんこいしを見つけ出して姉として私が面倒をみます。」

「なるほど。面倒をみるか。それはつまり二人で人気のない場所で暮らすということか。

それともお前さんの今の居場所に妹を連れてくるということか?」

「それは…。」

 

 私は言葉につまるとマミゾウの瞳が鋭く私を捉える。

 

「今のご時世、妖怪にとっては大変生きにくい世の中じゃ。少し調べさせてもらったがお前さんはよくやっとる。妖怪としての存在を保ちながら人間と一緒におるやつなんぞわしを含めても数える位しか知らん。大変な苦労じゃっただろう。」

「それはまあ確かに色々ありましたけど。」

「でもなあ。それはお前さんの度量あっての偉業じゃ。あの娘、こいしには無理じゃよ?」

 

 私は押し黙ってしまう。

 

「厳しいことを言うが別にお主をいじめに来た訳じゃない。が、いずれ向き合わなければならん問題ということは分かっておるよな?」

 

 それは分かってはいるけれど意識的に考えようとしなかったことだ。誰へと向けるわけでもない後ろめたさを感じつつ答える。

 

「はい。」

「うむ。分かってるならええんじゃ。今すぐ結論を出す必要はないが、先延ばしにして解決する問題でもないからのう。」

「そうですね。被害者は増える一方みたいですし。」

「人間的じゃのう。わしは好きじゃがな。っとそろそろお暇しようかな。もう三十時分も経ってしまっとるし。」

 

 私は少し困惑する。

 

「貴方はその話をするためにわざわざ大阪に?」

「ん?そうじゃが?」

「ずいぶんとお優しいんですね。」

「なにただのお節介ってやつよ。生き辛い世の中だからこそ連携が大事じゃしな。ほれこれがわしの『めーるあどれす』と『でんわばんごうじゃ』。」

 

 渡された名刺には二ツ岩マミ子と名前が書かれていて。裏には住所などが書かれていた。

 

「えらく近代的ですね。」

「ふぉっふぉっふぉっ。時代には逆らわず乗っていくのが今風よ。それじゃあの、さとりよ。元気での。応援しとるぞ。」

「わざわざありがとうございました。」

 

 二ツ岩マミゾウは片手を上げると少女の姿に戻り部屋を出て行った。

 

「こいしね…。私はどうすればいいのかしら。いっそ殺してしまった方があの子のためになるのかもしれないけれど。」

 

 でもきっとそれに私が耐えられるとは思わない。酷く利己的な自分の考えが少し嫌になる。

 

 

「みんなが幸せに暮らすなんておとぎ話の結末が現実だったらよかったのに…。」




 少し期間が空いてしまい申し訳ございません。基本的に周一ペースで投稿していきたいと考えています。


 また感想等ございましたらご気軽にお願いいたします。一言でも狂喜乱舞するので(笑)
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