みなさんバレンタインはどう過ごす予定でしょうか?自分は仕事です。はい。今回はバレンタイ回のつもりが次回になりそうです。
今日は二月十二日。さとりが僕の部屋に来てから一か月が経とうとしていた。
お金を用意するとは言っていたけれどまさか百万円も持ってくるとは思わなかったよ。
まあそのことだけでなく色々とさとりには驚かされることも多くてね。事務所のみんなにとってもそうであるみたいで良い新しい風になっているようだ。
実際、事務所の雰囲気も少し良くなっているように思う。一番の変化は桃子かな。年相応によく笑うようになって微笑ましいよ。悪戯というか、ちょっかいをかけてくるのも増えて正直めんどうではあるけれど、まあ僕の方が大人ではあるからね。軽く付き合ってやっているさ。
そういう意味ではある意味元凶ともいえるさとりもみんなと馴染んだようで楽しそうにやっているよ。僕自身もそれなりに楽しい生活をやってる。なかなかデビューするまではいかないけれどコツコツとトレーニングをしたり、小さなイベントに参加したり。
ちりも積もれば山となる。いつかきっとテレビに出るような有名なアイドルになってみせるさ。それまで楽しみにしてくれ母さん。元気でね。
PS.少し先になるけれど春休みになったら一度そっちに帰るよ。
二月ともいえどもまだまだ肌寒いな。
「吐く息が白いのは単に体内の気温と空気中の温度差の違いによるものって今日習ったのだけれど、そんなただの自然現象ですら情景を表現するピースになるっていうのは素晴らしいね。」
僕は行きつけの本屋によって立ち読みをしていた。
「すいませんこれもらえるかな。」
「おうおう飛鳥ちゃん今日は学校帰りかい?」
「そうさ。それにしてもやっぱりここの品揃えはいいね。季節に合わせた特設コーナーを作るなんて本のことが分かっていないと、できないよ。」
「そう言ってくれるのは飛鳥ちゃんだけだよ。いやまあ何人か言ってくれる人はいるけど。」
「最後の台詞がなければ決まっていたのにね。」
「いやーワシ思ったことすぐに言葉に出してしまうもんだからのう。この前もだるまのような女のひとがなんか『神様のいうことが正しい』みたいな名前のだるまが表紙の漫画を買いに来たもんだから、やっぱり人間そのままの自分を愛すことが大事じゃな。お前さんはいい趣味をしているって言ったら怒って帰ってしまってのう。」
僕はため息を吐いた。
「いやそれはどう捉えても悪意があるようにしか受け取られないよ。そのままの君が一番素敵みたいなことを言おうとしたのかもしれないけどただの皮肉になってるし。あと多分その漫画のタイトル神様のいうとおりね。」
「そんもんかのう。」
「そんなもんさ。セカイはフィクションである方が幸せなこともあるさ。」
「いやー飛鳥ちゃんの話は勉強になるのう。ほれあめちゃん。」
店主は僕に飴を差し出して言った。やれやれ絶対話半分にしか聞いてないな。
「もうそんな歳でもないんだけどな。好意は受け取っておくよ。」
「飛鳥ちゃんまだ十三、四くらいじゃろ?いやーわしがそれくらいのときは…。」
「すまない今日はこれからちょっと予定があってね。」
「おうそうかい?それじゃあ、またのう飛鳥ちゃん。」
「またねおじいちゃん。」
ポケットに飴玉を入れながら扉の外に出た。空はどんよりと曇っている。そして僕の吐く息は白い。
「さてと。今は三時か。少し急がないと帰りが遅くなってしまうな。」
僕は駅へと歩き出した。
「うーん。新しいネックレスが欲しいところだけれどこれは少し高いね。」
千九百円と書かれた値札が付いたネックレスを見て呟く。他の店からすると安くはあるのだけどここでお金を使ってしまうと服に使うお金が少なくなってしまう。となると…。
「店員さん。」
「どうかなさいましたか。」
と笑顔で店員が近づいてくる。
「このネックレスいいデザインだね。」
「ありがとうございます。」
「だから僕はこれが欲しいと思っているんだけれど少々お金の持ち合わせがなくてね。少し負けてくれないか?」
「そー、うですね。少々お待ちください。」
店員さんはレジに立っている女性に聞きに行ったようで少しすると帰ってきた。
「こちら消費税の八パーセント値引きさせていただいて端数の四十八円を引いた千七百円でしたら可能なんですけれど…。」
「じゃあそれでお願いできるかな。すまないねお手数をかけて。」
「いえいえではお会計はこちらでお願いします。」
これでプラス二百四十八円。塵も積もれば山となる…かな。僕は会計を済ませると店を出た。それからいつもの店に行こうとしたとき、一人の少女が隣の店のショーケースをのぞき込んでいるのが目に入った。
背丈はさとりくらいで獣耳のついたフードを被っている。そして何より僕の目を引いたのはその少女の左目。少女は眼帯を付けていたのだ。
「キミ、ちょっといいかな。」
僕が声を掛けると驚いたように飛び上がって後ろに下がる。
「なんだッ!…別にただ見ていただけだぞッ!見るのは無料だろッ!」
フシャーといった効果音が付きそうに明らかにこちらを警戒した態度だ。フードの獣耳も相まってまるで猫のようだと思った。
「いや別にキミを咎めるつもりで声を掛けた訳じゃないよ。少しキミに興味があってね。どうだろう少し近くの喫茶店でお茶でもしないかい?」
僕はスターバックスを指差して言った。
「興味ってどういうことだッ!それに知らない人には付いてってはいけないって言われてるし…。」
「僕は二宮飛鳥。アイドルをやってるだけの凡庸な十四歳さ。キミは?」
「ウチは早坂美玲。ウチも十四だ…。ってアイドルなのかッ!?」
「ああまだまだカッコカリって感じだけどね。さあこれで知らない人ではなくなった。どうだい?」
美玲は少しもじもじしながら答えた。
「まあお茶くらいならいいかな…。でもあんまりお金はないぞ…?」
「それくらいなら奢るよ。誘ったのは僕だしね。」
じゃあ行こうかと言い、僕たちはスタバへと向かった。
「こんにちは。メニューはお決まりでしょうか。」
「僕は抹茶クリームフラペチーノwithチョコレートソースを。美玲はどうする?」
「えっと…。あんまり来たことないから分からないから同じの…。」
美玲は周囲からの視線もあってかしどろもどろになって答えた。
「じゃあ彼女にも同じものを。」
「かしこまりました。」
すぐに注文したものができ僕たちは席に着いた。時間帯が時間帯なので、店内は込み合っており端の方の席しかなかったが、逆に好都合だ。僕は一口啜ると話しかける。
「一つ質問なのだけれど美玲のその眼帯はファッションなのかい?」
彼女は少しビクッてなった。
「そうだぞッ!いいだろ、個人の自由だろッ!」
「いや僕もそう思うよ。自分を表現するには見た目が一番分かりやすい。僕だってほらこのエクステをつけているだろう?学校では注意はされるのだけれど、これはセカイへのささやかな抵抗として外すわけにはいかないのでね。できるだけ付けるようにしてるのさ。流石に体育の時は外すけれどね。」
僕はエクステを撫でながら言った。
「そうか…。ウチは好きだからしているんだけど周りはあまりそうは思わないみたいで、そんな風に言う人はいなかったな…。飛鳥は珍しい奴だなッ!」
美玲は赤面した顔を誤魔化すかのように強い口調で言った。
「パーソナリティと可愛さを両立するなんてなかなかできることじゃない。僕は好きだね。それに可愛さなんてものは十人十色さ。人によって価値観は違うのだから当たり前の話だけどね。それにその恰好を褒めてくれる人は他にもいるだろう?」
「そうだな…パパとママは可愛いって言ってくれるし…。他にも言ってくれる友達もちょっとだけどいるな。」
「だったら恥ずかしがる必要はないさ。」
僕はフラペチーノを啜る。甘い方がやはり美味しいな。前はブラックで頼んで失敗してしまったし。美玲も慌てたように啜った。
「これを飲み終わったら少し買い物に行かないか?僕も欲しいものがあってね。確か行きつけの店の一つに美玲が着ているような服もあったよ。」
「ほんとかッ!分かった早く行こうッ!」
美玲は一気にを飲み干す。
「そんなに焦らなくてもお店は逃げたりしないよ。でもそうだな時間も時間だし確かに少し急いだ方が良さそうだ。」
僕も急いで飲み干し、二人で店を出た。
それから僕たちは僕が普段行く店や美玲が行っているという店に行ったりした。美玲がアイドルのことについて聞いてきたり、僕が周りとは違うことで生じることについて話したりと買い物が終わるころにはすっかり意気投合した。
それと美玲とは好きな服の趣味が合うこともあって想定したものより少し買い過ぎてしまった感はある。そしてお互いに連絡先を交換して駅で別れようとしたときの話である。
「僕は茨木の方だけど美玲はどっちの方だい?」
「奇遇だなッ!ウチも茨木のほうだぞッ!」
「それは驚いた。もしかして西中?」
「いや南中の方だッ!」
「だったら結構近いね。良かったら僕の家に遊びにおいでよ。歓迎するよ。」
「ウチもウチに来てもいいぞッ!」
「そうさせてもらうよ。」
タラララーン♪
電車が参ります。黄色の点字ブロックの内側にお下がりください。電車が参ります。
「っと続きは電車に乗ってからにした方が良さそうだね。丁度快速が来ている。」
「そうだなッ!」
僕たちは急いで改札を出て電車に乗り込んだ。それから途中まで一緒に帰りまた会う約束をして家に帰った。話が弾み、道中会話が途切れることはなかった。
「ごめん、少し遅くなってしまったよ。」
「大丈夫ですよ。丁度カレーができたところです。それにしてもたくさん買いましたね。」
扉を開けるとエプロン姿のさとりがカレーを味見しているところだった。
「少し話の合う友達が出来てね。ちょっと買い過ぎてしまったのさ。ああこれさとりに頼まれていた服。」
「ありがとうございます。どうやら楽しかったようですね。ぜひ晩御飯を食べながら聞かせて下さい。」
「ああもちろんさ。あっチョコ買ってない。まあ明日でいいか。」
このあと美玲ちゃんが家に帰ってお母さんお父さんに「あのな!今日友達が出来たんだ!」って話してると思うと微笑まし過ぎて死ねます。
というわけ美玲ちゃんが友達になりました。飛鳥蘭子はよく見ますがこれからは飛鳥美玲の時代と信じてます。
今回もお楽しみ頂けたら幸いです。感想もお待ちしてますので気軽にどうぞ~。