サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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11話 聖帝と迫りくる影 の巻

 +前回のラブライブ!+

 やっほ、のんたんやで。

 そういえば、生徒会室に新しい仲間が増えたんや。等身大ケンシロウフィギュアが色々あって生徒会に回ってきたんやって。エリチは最初、電気を落として薄暗い生徒会室にうっすら輝きながら立っているケンシロウフィギュアにえらくおどろいとったけど、二日もすれば慣れて、今ではすっかり生徒会の一員。

 でも、入り口は暖簾だし、中に入るとケンシロウフィギュアが鎮座してるし、もう何の部屋か分からなくなりつつあるね。

 ――東條希

 

 

 サウザーたちμ'sは晴れてアイドル研究部に入部し、同時、部長の矢澤ニコもμ'sの一員となった。

 これで、μ'sメンバーは合計八人である。

 そんなμ'sに、取材がやって来た。

 といっても、生徒会の部活動紹介ビデオの取材だが。

 

 

 ――今日はよろしくお願いします。

 μ's一同「よろしくおねがいします」

 ――今人気のスクールアイドルですが、この学校にもついに、と話題になっています。このことについてどう思いますか?

 穂乃果 「嬉しいと同時に緊張しますね。だって、この学校の名前を背負うわけですから」

  海未 「穂乃果にもそういう意識あったんですね。ホッとしました」

 穂乃果 「海未ちゃんひどーい!」

 ことり 「二人とも、インタビュー中だよ……」

 ――とても仲が良いですね。スクールアイドルの活動は、三人で始めたのですか?

 穂乃果 「あ、いえ、私と、サウザーちゃんが提案したんです。始めは海未ちゃん凄く嫌がってて」

 サウザー「今では一番ノリノリだがな(笑)」

 海未  「ちょ、勝手言わないでください!」

 サウザー「弓道場で練習していたではないか。ほら、ラブアロー? って?」

 穂乃果 「(笑)」

 海未  「サウザー!(怒)」

 ――どうどう。四人で始めたアイドル活動ですが、今では倍の所帯になっていますね。

 サウザー「俺の帝王としてのカリスマあればこそ、これだけ集まったというわけだ」

 ことり 「実際、サウザーちゃんが勧誘して集めたようなもんだよね」

 マキ  「あれを勧誘と言うならね」

 花陽  「誘われたとき、関わっちゃいけない危ない先輩だと思いました……」

 凛   「でもだいたい間違ってなかったよね。危ない人しかいないって言うか」

 海未  「私も含まれてるんですか(汗)」

 ――一番新しくメンバーに加わったという矢澤ニコさんは、以前からスクールアイドルの活動をしていたと伺っておりますが。

 ニコ  「うん! ニコ、一人で活動するの、とーっても、寂しかったの! でもー。新しい仲間が出来て、とってもうれしい、ニコっ!」

 凛   「(笑)」

 マキ  「(笑)」

 ニコ  「なによ」

 花陽  「アイドルの道は、厳しいということです!」 

 サウザー「フン。その程度、このおれにも出来るぞ」

 穂乃果 「やらなくていいからね?」

   

 

 

「ねぇ、本当にこんなのでいいの?」

 インタビューの途中で、マキが疑問を呈した。

 場所は学校の放送室にある簡易スタジオ。人数分の椅子がひな壇状に並べられ、インタビュアーの希と対談する形式で撮影していた。

「まぁ、生徒会のビデオであると同時に、μ'sの宣伝ビデオでもあるし、構へんのとちゃう?」

 ハンディカムを手にする希が応える。

 今回の撮影は生徒会の……というより希の個人的善意からμ'sのPV撮影も兼ねていた。それで、単なる部紹介でなくこのようなインタビュー形式になっているのだが……。

「言われてみれば、中々ひどいねぇ」

 穂乃果がしみじみ言う。

「言われなくとも酷いわよ。グダグダのトークが延々続くPVって何よ。こんなの公開したら、μ'sが変人の集団だと思われるじゃない」

 あながち間違いではない。

 それにしても、マキの発言に穂乃果たちは別次元な感動を見せていた。

「マキちゃんがμ'sの心配を……!」

「あっ! ちがっ……んもぅ!」

 穂乃果にほっぺをツンツンされて照れるマキ。微笑ましい光景だが、すぐそばでサウザーが笑っているせいで世紀末的な絵面にしかならないのが残念無念だ。  

 気を取り直して、希が提案する。

「それなら、各自一人一人の紹介ビデオ作るとかどうやろ?」

 言いながら彼女はマキにカメラを向け、ズームボタンを押した。

「ちょっと、勝手にトラナイデ!」

 ――彼女の名前は西木野マキ。木偶(デク)を使った新秘孔の究明が趣味な孤高の15歳……。

「勝手に変なナレーションツケナイデ!」

 ――えっ? 違うん? ほぉー……。

 希にからかわれてプンスコするマキが実に微笑ましい。

 

 

 三日後、なんとかPVは完成した。

 内容は、μ'sメンバーの生態と活動内容について。生徒会向けでもあるから真面目な内容であるが、編集段階でμ'sが(というよりそのメンバーの一人が)度々起こした故意過失様々な破壊活動の様子はまるまるカットされた。

「PVっていうか、ただの部活紹介ね。一応歌も入ってるけど」

 携帯端末に保存された映像を見ながらニコが言う。それに海未は、

「事実そうです。でも、良いんじゃないでしょうか。μ'sが真面目なグループだと思ってもらえるでしょうし?」

「まぁ、映像だけ観ればそうね」

「情報はこうやって歪められるんだねぇ」

「世の中知らない方が良い事もあるのよ穂乃果ちゃん。ちゅんちゅん」

 製作されたPVは簡単な紹介と共にスクールアイドルの専門サイトにアップしてある。

 この専門サイトは国内最大級のもので、一番人気のA-RISEから新進気鋭のZ(ジード)まで様々なスクールアイドルが登録され、ランキング形式で紹介されている。

 驚いたことに、μ'sの名前も調べたらその中にあった。ファーストライブの映像と共に誰かが登録したらしく、かなりのコメントが付いていた。が、そのコメントの九割が例の聖帝軍が付けたであろうことは想像に易い。

「それにしても、スクールアイドルってたくさんいるんだねー」

 穂乃果が言う。

 彼女は元々アイドルにはそれほど興味はなく、知識もほとんどと言ってなかった。いざこの世界に足を踏みこんで、そのあまりの広大さに驚いたのだ。

「こんなに多いんだから、大会とかないのかな、部長?」

 凛が訊く。

「噂でなら聞いたことあるけど。ホントにあったら、きっとすごい大会になるわねぇ……」

「フン、どれほどのスクールアイドルが居ようとも、我が鳳凰拳の前にひれ伏すのみよ……」

 サウザーの言葉に一同が「はいはい」と適当に相槌を打つ。

 と、そんな時、部のパソコンで情報収集をしていた花陽が悲鳴を上げた。驚いたマキが飲み物を噴きだしニコの顔面にかける。

「どうしたの!?」

 一同が何事かと駆け寄る。花陽はワナワナとしばらく画面を見やり、興奮した声で、

「ラブライブです!」

「ラブライブ?」

「そうです!」

 そう言って立ち上がる彼女の目は爛々と輝いていた。

「ラブライブが開催されるんです!」

 

 

 ラブライブとは!

 日本全国津々浦々のスクールアイドル、その上位グループがスクールアイドルの頂点を目指して覇を競い合う、青春をかけた熱き戦いである!

 

 

「これはアイドル史に残る大事件ですよ!」

「噂は本当だったのね……!」

 花陽に続きニコも興奮気味に呟く。

 そして、興奮……というかテンションが上がりまくりな男も一人。

「フハハハハーッ! ついに我ら南斗μ's軍がスクールアイドルに覇を唱える時が来たというわけだな!?」

 勝手に南斗の軍にされたμ'sだが、サウザーの言葉には賛同できる部分があった。

 一つ、μ'sの目的は音ノ木坂学院の廃校阻止である。しかし、μ'sは一つのユニットである以前にアイドル研究部という部活動でもある。部活動である以上、何らかの大会に出なければ示しがつかない。

 二つ、ラブライブで名を上げれば学校の宣伝にもなり、廃校阻止に大いに近づくであろう。

 三つ、これは全く個人的な思いであるのだが……。

 ――スクールアイドルとして名乗りを上げたからには、頂点に挑んでみたい!

 サウザーの言葉を受け、そのような思いが各人の胸にふつふつと沸き上がってきた。 

「ちょっと、面白そうだね」

 穂乃果が息を呑むように言う。

「しかし、その……ラブライブですか? 何かしら出場条件があるのではないですか?」

 海未が言うことは正しかった。

 全国に数多と存在するスクールアイドル、その中でも上位二十組のみが出場を許されるのだ。

「前見た順位じゃ無理ね」

 ニコの顔を拭きながらマキは嘆息した。しかし、それに対し花陽は、

「それがあながち不可能でもなさそうですよ……! 見てください……!」

 言われるままパソコンの画面を覗きこむ。

「あ!」

「順位が上がってる!?」

 なんと、μ'sの順位がグンと伸びていたのである。

 断っておくが、この順位の上昇に聖帝軍のモヒカンたちは関わっていない。純粋に、μ'sの実力の賜である。

「人気急上昇グループにピックアップされてるにゃ!」

「フハハハハーっ!」

 これにはサウザーもご満悦である。と、ここで、「あ」とマキが何かを思い出したような声を上げた。

「どったの?」

「いや、人気と言えば、そういえば一昨日……」

 

 

 

~回想~

 

 その日、マキは用事があって部活を休み、早めに学校を出ることにしていた。

 荷物をまとめ、いつものように校門を出ようとする。と、そこで。

「あ、あの!」

 声を掛けられ、振り返るとそこには二人の女の子がもじもじと立っていた。セーラー服を着ていることから、近所の中学生だと解る。

 女の子は鞄からデジカメを取り出すと、勇気を振り絞るように、

「写真、良いですか……!?」

「ヴェェ!?」

 突然のことに戸惑うマキ。しかし、年下二人の純真な目に見つめられ、結局訳の分からないままマキはカメラのフレームに女の子と共に収まった。

 

~回想終わり~

 

 

 

「それは、『出待ち』ですね!」

「出待ち?」

「わたし、されたことない……」

 ニコがやや悔しそうに言う。その中学生二人はマキのファンということだ。

「アイドルというのは残酷な格差社会でもありますから、そういうこともあるのです……!」

「へ、へぇー……」

「あ、マキちゃん赤くなったにゃー」

「う、うるさい! 岩山両斬波するわよ!」

「死ぬにゃ!」

 手刀を構えて凛を追いかけ回すマキ。それを他所に、サウザーも顎に手を当て「ふむ」と何かを考えていた。

「おや、どうかしましたか?」

「いや、どうやら俺もその『出待ち』とやらをされていたようだ」

「に゛ごっ!?」

 衝撃的な告白にニコが悲鳴を上げる。花陽は「ほんとですか!?」と瞳を輝かせていた。

「フハハハハーっ! 聖帝ともなれば、人気は下郎と天地ほどの差があるわ!」

「詳しく聞かせてくださいっ!」

 

 

 

~回想~

 

 その日、サウザーは聖帝バイクの迎えが無いため徒歩で居城に帰宅することにしていた。

 荷物をまとめ、いつものように校門を出ようとする。と、そこで。

「おい!」

 声を掛けられ、振り返るとそこには二人の男がわなわなと立っていた。武器を携えていることから、近所のレジスタンスだと解る。

 男は懐から銃を取り出すと、勇気を振り絞るように、

「お命、良いですか……!?」

「む!?」

 下郎の攻撃など微塵も怖くないサウザー。しかし、レジスタンス二人の殺意剥きだしな目に見つめられ、結局いつものようにサウザーはレジスタンスの男たちを蹴散らした。

 

~回想終わり~

 

 

 

「それも『出待ち』ですね……!」

「ほぉう……」

「アイドル関係ねぇし!」

 ニコが声を上げる。

「世紀末というのは残酷な弱肉強食の社会でもありますから、そういうこともあるのです……!」

「残酷のベクトルが違う気がするのだけど……」

 呆れた様子でマキは髪をくるくると弄る。

 何にせよ、人気が上昇しているのは間違いないのである。

 そして、上昇するとともに、コメント欄には厳し目の激励も書きこまれるようになっていた。

「あっ、このコメント、凄く細かく指摘してる」

 ことりが指さしたコメントはμ'sに対する指摘であった。

「人気が出ると、目の肥えた人の目にも留まりますから。でも、これはそれだけ期待されているという証拠なのです!」

 コメントのユーザーネームは『UD』となっている。

「ダンスにまだ華麗さ、洗練された力強さが足りない。一人だけ力強さが浮いてる……痛いところ突いてきますね、この……ウダ? という人は」

「それより、エントリーするの? しないの?」

 ニコが言う。

 現在ランキングが二十位圏外であるにせよ、出場する意思があるのならエントリーしなければならない。そして、エントリーするには学校の許可が必要である。

「参加したいけど……生徒会に許可取りに行かなきゃなんだよね……」

 穂乃果はため息をついた。

 生徒会長はμ'sを目の敵にしている……少なくとも彼女たちはそう思っている。一応アドバイスしてくれたりもしたが、警戒心を抱きまくっているのは火を見るより明らかであった。

「学校の許可ァ? 認められないわァ」

 順当な手続きを踏んでいけば、賢い生徒会長にこう却下されてしまうだろう。

 と、ここでマキが、

「いっそ理事長に直訴したら?」

「でも、校則には生徒会を通すよう銘記されていますよ?」

「理事長に直訴してはいけないとは書かれてないわ」

「すごい屁理屈だ……」

 強引な理論にさすがの凛も慄く。

 しかし、この際屁理屈だって上等だ。理事長だって廃校は阻止したいはずである。

「よし、ではこれより理事長室に奇襲をかけるぞ!」

 サウザーは高らかに宣言し、一同は部室を後にした。

 

 

 

 

 先手を打たれた。

 青竹の先に直訴状を挟み、いざ突撃という段になって、理事長室の中から生徒会長with副会長が姿を現したのだ。

「何ですかあなた達」

「あの、理事長にお話が……」

「各部から理事長への要望は生徒会を通す決まりなのは、知っているでしょうね?」

 絵里の賢さ溢れる物言いの前に一同は屁理屈をこねる余裕すら無くした。しかし、部屋の奥から理事長が、

「私は構いませんよ?」

と声を投げかけてくれた。

 

 

 理事長室に通されたのは生徒会とμ's初期メンバーである穂乃果、ことり、海未、サウザーの四人であった。最後の一人のせいで室温が二度ばかり上昇した。

「それで、話というのは?」

 理事長が問う。これに穂乃果たちはラブライブの開催とそれへのエントリーについて話した。そして、この大会が全国中継されること、つまり、大会に出場できればそれだけで学校の宣伝になるということ……廃校阻止の助けになること……。

 四人の話(話していたのは実質穂乃果、ことり、海未の三人であるが)を理事長はふんふんと聴いてくれた。

「なるほど、分かる話ね」

「……! では!」

「私は反対です!」

 と、ここで絵里が四人と会長の間に割りこむ。

「全国中継されるということは、学校の名を知らしめることになるでしょう。でも、私には今の彼女たちが全国に広めるのが良い風聞になるという確証が持てません!」

「う……」

 生徒会長の厳しい言葉に穂乃果はかすかな呻き声を上げる。しかし理事長は、

「悪い風聞を広めるという確証もないわ。いいんじゃないかしら、エントリーするくらいは……」

「理事長は、学校のために学校生活を疎かにするのは筋違いであるとおっしゃいました! 彼女たちは……」

「彼女たちは部活動として大会に参加する意思を見せています。部活動が大会に出場するのは、学校生活と言う面で何らおかしくはないでしょう。廃校阻止の意思があろうと、そこは関与すべきところではないわ」

「た、確かにそうですが……」

 理事長が乗り気なのはμ'sにとって喜ばしいことである。穂乃果たちは思わず顔を綻ばせ、サウザーはいつもの如く破顔した。

 だがしかし、理事長も無条件にμ'sの要望を受け入れるわけではない。

「ただ、生徒会長の言う事も至極もっともです」

「……?」

 理事長の出した条件は、至極簡単なものであった。

「当校の理念は文武両道です。今度の期末考査でいずれかの教科で赤点を取った者が一人でも出た場合、資格なしとして、ラブライブへのエントリーは認めません。いいですね?」

 至極簡単なものであったが……一部の者にとって、それはあまりにも厳しい言葉であった。

 

 

続く

 

 




ジードの発音はZARDと同じです。

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