サウザー!~School Idol Project~   作:乾操
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13話 聖帝・ストライク・バック の巻

 +前回のラブライブ!+
 20XX年、国立音ノ木坂学院は廃校の危機に瀕していた。
 資金は枯れ、入学希望者は減り、理事会の老人の髪も死滅したように思われた。
 しかし、生徒たちは諦めてはいなかった。
 二年生の高坂穂乃果、園田海未、南ことり、そして聖帝サウザーの四人はそれぞれの思惑から、話題のスクールアイドルとなって学校の宣伝をすることを思い立つ。
 四人の始めたスクールアイドル、『μ's』は様々な困難に見舞われつつも勢力を拡大し、今や八人の所帯となってスクールアイドル界にも名が知られるようになっていた。
 だが、そんなμ'sの前に、音ノ木坂学院生徒会長である絢瀬絵里(とてもかしこい)が立ちはだかる。





 期末テストをどうにか乗り越えたμ'sは晴れてラブライブへのエントリーが叶った。が、あくまでこれはスタート地点に立っただけに過ぎない。
「順位を上げないことには出場は出来ないわよ。いくら急上昇しても、それっきりだってこともあるんだから」
 部室でニコが言う。これは全くその通りで、ラブライブへの出場条件は上位二十位内に入ることとなっている。急上昇に胡坐をかいていては、今が絶頂期、というなさけないことにもなりかねない。
「いっそう頑張らなきゃね!」
「フハハハハ!」
 さらなる高みを目指すべく、一層はりきるμ's。
 しかし、海未だけが素直にそこで声を上げられなかった。
 
……
 期末考査の二日前、海未は希がバイトしている神社を訪ねた。
「あら、よく来たね」
 巫女装束に身を包む彼女はまるで海未が来ることを予想していたかのような調子でそう言った。
 海未はそんな希に前に絵里と話したこと、言われたことについて説明した。
「正直ムッとしました。でも、あそこまで言うのには何か理由と思うのです……副会長は何かご存知では?」
 まだまだ成長途中のμ'sのみならず、その他のスクールアイドル、果てはその頂点に君臨するA-RISEまでも『素人』と呼んだ……その裏側には、何かがあると海未は睨んだのだ。
 そして、どうやらそれは当たっていたらしく、希はその問いが来ることを知っていたのか、ポケットからプレイヤーを取り出して海未に見てみるよう言った。
 プレイヤーに入れられた映像を見た時、海未は言葉を失った。
 ……画面に写っていたのは舞台の上で楽し気にバレエを舞う小さな女の子。白いチュチュに身を包み、伸び伸びと動き回るその姿は美しいの一言である。
「これ、会長ですか?」
「そう、小さい頃の。ロシアでは結構知られたらしいよ」
 絵里がスクールアイドルを素人と断じた理由がこれでわかった。
 海未は絵里のバレエを見て感動を覚えた。
 μ'sは、見る人にこのような感動を与えられるだろうか?
……

「―—みちゃん、海未ちゃーん!」
「あっ!? はい!?」
 思考の海に沈んでいたところを、穂乃果に引き上げられた。
「大丈夫?」
「えぇ、何でもありません。ちょっと考えごとしていただけです」
「そっか……まぁ、悩みは練習して吹き飛ばそう!」
 赤点を回避していつになく上機嫌な穂乃果は腕を突きあげて叫ぶ。
「よかろう! 聖帝サウザーの神髄、とくと見せてくれるわ」
 赤点のくせにいつも通り上機嫌なサウザーも同意して笑う。
 その勢いのまま、μ's一同は練習場所の屋上へと駆けだした。
 ところで、部室から屋上までの道中には理事長室がある。重い扉に閉ざされ、よっぽどのことがない限り生徒も用がないことからほとんどだれも見向きもしない部屋である。μ'sも同様で、この日はいつものように理事長室も前を駆け抜けようとした。が、その時。
「説明してください!」
 その理事長室から、最近聞き慣れた人の声が聞こえてきた。
「今のは……」
「生徒会長……?」
 見ると扉がわずかに空いている。一同はその隙間に、聞き耳を立てた。
 室内にいるのは絵里と理事長の二人らしい。
「……ごめんなさい、でも、これは決定事項なのよ」
 迫る絵里に対して、理事長が諭すように話す。
「音ノ木坂学院は、条件が満たなかった場合、来年度からの生徒募集をやめ―—廃校とします」
 理事長の言葉に、室外のμ'sは息を呑んだ。
 廃校……廃校が決まった? これからだというこの時に? 
「その話、本当なんですか!?」
「穂乃果!」
 海未の制止も聞く耳持たず、穂乃果は思わず理事長室に飛び込んだ。
「あなた達!」
 絵里が声を上げる。が、やはり効果は無く、穂乃果はそのまま理事長に迫った。
「廃校が決まったって、本当なんですか……!?」
「んふう!」
 サウザーもショックが大きかったのか血を吐いて座りこむ。
「ぐふ……鳳凰の……聖帝の夢は……潰えたか……」
「サウザー先輩が死にそうにゃ!」
「まぁ、静かになっていいんじゃない? 別に」
 突然乱入してきたμ'sに驚きながらも、理事長は事情を説明してくれた。
「少し誤解があるようね。絢瀬さんと話していたのは、『今度のオープンハイスクールにおけるアンケートで、入学希望者が定員割れした場合』廃校になるということですよ」
「あれ、そうなんですか?」
 理事長の言葉に穂乃果はほっと胸をなでおろす。
 が、だからといって全然安心できる状況ではない。
 μ'sはラブライブを通して廃校阻止キャンペーンをしていくつもりであった。それが、現実は早くも廃校の是非を問い始めているのだ。
 そのことをことりと海未に言われ慌てる穂乃果の前に、絵里が割りこんだ。
「今回のオープンハイスクールのイベントは、我々生徒会で企画します。よろしいですね?」
「止めてもダメでしょうね……。いいでしょう、お任せします」
「ありがとうございます。失礼します」
 絵里は理事長に礼をすると踵を返し、死にかけているサウザーを一瞥すると理事長室を後にしていった。

 オープンハイスクールには近くの中学生のみならず、学区外の中学校からもお客がやってくるだろう。
 一見すれば廃校をかけた重大な窮地だが、言い換えればこの学校をアピールする最大のチャンスでもある。
「ピンチをチャンスに! オープンハイスクールでライブやろう! ライブ!」
 屋上で穂乃果が提案したことに。一同はおおむね同意した。廃校撤回を目的に活動する以上、ここ一番の舞台である。しかし、問題があった。
「生徒会長はどうするのよ。許可要るんでしょ? 生徒会の……」
 マキの指摘する通りである。
 ライブをするとなると場所を押さえる必要がある。そして、それには今回のイベントを取り仕切る生徒会の認可が必要になるのだ。
「許可、下りるの?」
「下りるのではない。下させるのだ。フハハハハ」
「言っておきますけど、サウザーの強硬路線は生徒会のμ's評を悪くしてますよ?」
「!?」
 心外だと言う顔をする。
「そういえば海未ちゃん、最近悩んでる風だったけど、何かあったの? さっきも考え事してたし」
 生徒会の話で、ふとことりが海未に訊ねた。
「……そのことなんですけどね」
 海未は、もとより話さねばならぬと思っていたこともあり、一連の事をメンバーに話すことにした。



「フフフ……下郎の分際でデカい口を利くようになったな、絢瀬とやらも」
「下郎でも何でも、踊りが素晴らしいのは事実です。数多のスクールアイドルを素人と呼ぶだけのことはあります」
 絵里の知られざる過去に一同はうーむと悩んだ。
 彼女にμ'sを認めてもらうには、最低でも彼女の求めるラインに到達しなければならない。見ている人に感動を与えるような、そんなパフォーマンスが出来るレベルに。
「……無理でしょ」
 ニコが言う。
「確かに無理です。いまのままでは上手な素人で終わりです。心は動きません」
 ならば、どうすればいいか。
 答えは簡単である。
「生徒会長に先生やってもらうわけだね」
「穂乃果の言う通りです」
「えぇ!?」
 これには一同さすがに驚いた。逆転の発想も大概の意見である。
 反対意見は出た。
「私は反対よ。潰されかねないわ」
と、マキ。
「そうね。三年生はニコだけで十分」
と、ニコ。
 中でも一番反対したのはサウザーであった。
「おれが先生として認めるのは師オウガイのみ! 下郎の小娘なぞ、この帝王の師となるには器が小さすぎるわ!」
「サウザーちゃんだけ反対の論点が違うね。ていうか、いつも学校の先生の授業受けてんじゃん」
「フフフ、あのような者どもの説教を、このおれが聴いているとでも思っているのか?」
「いや聴きなよ」
「穂乃果も偉そうなこと言えないでしょうが」
 海未の言葉に穂乃果は苦笑いする。サウザーはそれに構わず「ハァっ!」と給水塔の上に飛び上がった。
「帝王は下郎に媚びぬのだ! フハハハハーッ!」
「じゃぁさ」
 穂乃果は偉そうに拒否するサウザーに、さらにとんでもない提案をした。
「先生じゃ無くて、身内にしちゃおう」
「穂乃果、それって……」
「うん。絵里先輩を、μ'sの一員にしちゃおう。それならサウザーちゃんも文句ないでしょ」
「ちょちょちょまち!」
 穂乃果の突拍子もない提案にニコが意見した。
「ニコたちの話聴いてた!? なんで先生より身近な存在に進化させてんのよ!」
「だってサウザーちゃんが先生にするのやだって言うし?」
「そういう問題じゃねーでしょうが!」
「おれは構わんぞ? フハハハハ」
 サウザーは給水塔の上から飛び降りると、ひときわ大きく笑い出した。
「生徒会長を我が配下に加えれば、この学校は南斗鳳凰拳の支配下といっても過言ではあるまい」
「どう考えても過言だにゃ」
「言っても無駄だよ凛ちゃん」
「フワハハハハー! そうと決まれば久々のスカウトだ! おれさまのネゴシエイト力とスカウト力が再び発揮される時が来たというわけだ」
 言うやサウザーは扉を破壊して階下へと降りていった。それを慌てて他のメンバーが追う。
 久々の巨大台風が、生徒会室に迫りつつあった。



 そのころ生徒会室はオープンハイスクールについての会議が終わり、他の執行部員が帰宅した後であった。
「良い案、出なかったわね」
 お茶を飲みながら絵里は嘆息する。
「そう? 結構良かったと思うけどなぁ……ほら、会計の子が言ってたやつとか」
 『会計の子が言ってたやつ』というのはμ'sのライブを開催するというものである。
 既にμ'sの名は校内に知れ渡り、陰ながらファンクラブめいた物も生まれ始めていた。今や、μ'sはちょっとしたブームとなっているのだ。
 しかし、その提案に対する絵里の答えは、
『認められないわぁ』
であった。
「あの程度のグループに廃校如何を委ねるなんて、言語道断よ」
「じゃぁ、どないするの?」
「いつも通りするだけよ。学校の良さをアピールするスピーチをして、校内案内をする……あとは、追々考えるとして、基本はそれよ」
 絵里の言葉に、希は「ふーん……」と意味あり気に答える。
「……何か言いたそうね」
「いやね、なんか、エリチ全然楽しそうやないなぁって」
「なっ……」
 希の言葉に絵里は色めく。
「廃校がかかっているのに、楽しいかどうかなんて……!」
「でも、今のエリチは単に生徒会長としての義務でやってるような気がしてならんのよ。エリチは本当は何をしたいん?」
「希! あなたは! ……うん!?」
 と、ここで絵里が急にブルッと身体を震わせた。
「どないしたん?」
「……悪寒が」
「風邪?」
「違うわね……これは、嵐の予感よ……」
 絵里はそう言って入り口に向かって身構える。それに答えるように、遠くから嫌と言うほど聴き慣れた笑い声が迫ってきた。
「……ハハ……ハハ…フハハ…フハハハハハハハー!」
 そして、高笑いが絶頂に達した瞬間、入り口に掛けられた暖簾を撒き上げながらサウザーが生徒会室に入ってきた。
「お邪魔しまーすっ! フハハ!」
 サウザーは言うや近くにあった椅子にドカッと腰を掛け、脚を組んでリラックスモードに突入した。
「よく生徒会室に来られたわね。何の用?」
「フフ、バカの癖に急くでないわ。バカの癖に」
 そう言って彼は首をぐるりと巡らし、室内を見回した。
「それにしても、校内自治を司る生徒会執行部の根城がこれほどみすぼらしいとは、改めて驚かざるを得んな! 入り口なぞ安っぽい暖簾だし?」
「誰のせいだと思ってんのよ」
「……不景気?」
「お前じゃ!」
「それにしても走ってきたから喉が渇いてますけど?」
「くっ、相も変らぬ傍若無人ぶりね! 希、象殺せる毒持ってきなさい!」
「んなもん無いって」
 ここで、μ'sの他のメンバーが生徒会室に到着する。全力で走ってきたからか、何人かは息が切れている。
「サウザーちゃん、速いって……!」
「フハハ。貴様らが遅いだけのことよ」
「今度はなに?」
 追いついたμ'sメンバーが見たのは明らかに不機嫌な絵里のご尊顔であった。そうであるから、さっそくサウザーが何かやらかしてくれたなと理解した。
 代表して、穂乃果が発言する。
「生徒会長、実はお願いがあって」
「は?」
(怒ってるゥー……)
 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。絵里の参加はμ'sがより発展するため必要なのだ。
「会長は、昔バレエをやっていたと聞きました」 
「……なんでそれを……希ね?」
 絵里がジロリと希を見やる。それに希はわざとらしく視線をずらし、口笛を一つ吹いた。
「海未ちゃんは会長の踊りを見て、すっごく感動したと言っていました。今のμ'sに足りないものがそれであるとも分かりました」
「要点言いなさい」
 ぴしゃりと絵里は言う。それに答えるべく、穂乃果は歩み出でて、絵里の目を見つめた。
「踊りを教えてください。そして……」
「そして?」
「μ'sの、新メンバーになってください」
 その言葉に絵里は息を呑んだ。いくらなんでも予想外の要求であったからだ。
 が、ここは生徒会長、動揺をすぐさま顔から掻き消すと、深く溜息をついて、「高坂さん」と語りかけた。
「あなた達の向上心は素晴らしいけど、突拍子もないことはさすがに理解しかねるわ」
「でも……」
「でもじゃないの。いいこと? あなた達のやってることは、混乱に乗じて世界征服しようとする悪の組織と同じなのよ」
 妙に分かりにくい例えである。
「あなたたちはオープンハイスクールで何かしようとしてるみたいだけど、はっきり言っておせっかいよ。ここは生徒会に任せて、あなた達はラブライブだかなんだかに向けて精進しなさい」
「会長!」
「話は終わり。さっさと出ていきなさい!」





「おのれサウザァー!」
 部室に戻ると、海未が全身から闘気を噴きだして暴走しそうになった。そんな彼女を久々の嘆願波で骨抜けにしながらことりは、
「でも、たぶんサウザーちゃんが騒がなくても会長はダメって言ってたんじゃないかな?」
「いきなり言われちゃ拒否るわよそりゃ」
 ニコも同意する。
 直情的なところがある穂乃果であるから、彼女のやり方では理性の塊な会長の心を動かすには足りないのかもしれない。
「でも、もうちょっとな気がするんだよね。ニコ先輩の時もそうだったけど……」
「穂乃果ちゃんの言う通りや」
「うおっ!?」
 穂乃果が首を捻っていると希が床板をはがして這い出てきた
「いい加減まともに登場しなさいよアンタ」
「まぁニコッチそう言わずに……」
 希は床板を元の位置に戻しながら、
「毎度のことやけど、穂乃果ちゃんの言う通りやで。エリチは自分のやりたいことで廃校に立ち向かうμ'sが羨ましいんやな。自分も加わりたい、加わればもっと良いものに出来る。そういう自信と実力があるんよ」
「なら……」
「でもね、エリチは不器用だから」
 音ノ木坂は不器用な人多すぎである。
「やりたいことと責任感のはざまでユラユラしとるんよ。本当はμ'sに加わりたいけど、生徒会長としての責任感がそれを邪魔するんやね」
 生徒会長だから……というのは絵里にとって全ての事を否定するに十分すぎる理由であった。サウザーが何かと「聖帝だから」と言うのと同じかもしれない。
 絵里の複雑な心境を察し黙る一同。
 しかし、そのなかで一人それを馬鹿らしいと一笑に付す男がいた。サウザーである。
「フハハハハ! 下郎らしい葛藤よ!」
 サウザーはパイプ椅子にふんぞり返り笑い続ける。
「下らぬ責任感とやらがしゃしゃり出てくるなら、それが出れない状況に追い込めばよいではないか」
「だから、そういうのが生徒会長に嫌がられるんでしょーが」
「省みぬ! フワハハハハ」
 サウザーの回答にイラッとするマキ。だが、そのような事どこ吹く風、
「まぁ見ているがいい。この聖帝サウザーの華麗な作戦の前に、絢瀬絵里は膝を屈することとなろう!」


続く
 



次回絵里編まさかの三話目。
あまりにもくだらない結末に憤怒不可避。