サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
+前回のラブライブ!+
スマホ(タブレット)デビューを果たし、トキにもメールと言う名の怪文書を送りつけた世紀末覇者ラオウは自分が21世紀の波に乗っていることに満足していた。
しかし、力加減が分からない彼は早々に画面を割ってしまう。
とりあえず、修理に赴くことにしたラオウ。こういった類のものは専門店に任すに限ると思い、彼は電気街秋葉原へ進軍する。
ところがここでトラブル発生。店が歩行者天国の中にあるため黒王号が入れないのだ。
仕方ないので徒歩で向かうことにしたラオウ。
彼は無事、タブレットを修理に出すことが出来るのであろうか!?
※
ライブは大成功であった。
おかげで入学希望の予備調査では音ノ木坂学院の希望者が急増、定員割れを回避した。このままいけば廃校は回避されるだろう。世紀末な中学生が入学してくる可能性もあるが、それはまた別問題である。
さて、アンケートの結果もさることながら、μ's改めμ's´に嬉しい特典があった。
部室が広くなったのである。
「これで雨の日もそれなりの事ができるよー!」
穂乃果は広々とした部屋でくるくる回った。
拡張されたスペースはもとよりアイドル研究部部室と扉でつながっていた部屋で、物置と化していたところを綺麗にし、アイドル研究部のものとしたのである。
「いやぁー、うれしいなぁー。うふふ……ふふふ……フハハハハー!」
「穂乃果、サウザーみたいな笑い方しないでください」
「それに、喜んでばかりいられないわよ」
高笑いする穂乃果にそう釘を刺したのは新メンバーの生徒会長、絢瀬絵里である。
「今回の件はあくまでも『保留』。気を抜いたら、また廃校が加速するわよ」
彼女の言う通りである。今回のアンケートはあくまでも調査に過ぎず、本願書が定員割れしたら結局は廃校が決定するのである。
絵里からしてみれば至極当たり前のことである。しかし、そんな当たり前のことに海未は感動した。
「嬉しいです! こんなまともな人が入ってくれて……!」
「海未先輩、それは酷いですよー」
「ていうか自分はまともだと思ってるあたりめでたいにゃ」
花陽と凛の抗議もどこ吹く風、真面目な海未は同じく真面目な生徒会長の加入を心から喜んでいた。自分と同じまともな判断力を持った人だと思っているのだ。もっとも、潜在的なポンコツ具合は似た者同士であるが。
「フハハ。今日も練習と洒落込もうではないか?」
聖帝サウザーもゴキゲンである。彼の言葉に一同はおー、と賛成した。
が、ここで。
「ごめんなさい、今日は用事があるから先に帰るね」
「む!?」
ことりが荷物をまとめてそそくさと早退していった。
最近、ことりは部活を切り上げることが多い。家の用事か何かであろうか。ちょっと気になりはしたが、あまり深く訊くのも申し訳ないから一同は気にしないことにした。サウザーは最初から気にしていなかった。
※
一通り練習をして、小休憩である。
小休憩中は各自水分を摂ったりして過ごす。スクールアイドルサイトの順位確認もこの時にやっていた。
「すごい、順位また上がってます!」
花陽が興奮気味に報告した。どうやら絵里と希の加入は効果てきめんだったらしく、特に絵里は新規に女性ファンをも獲得していた。
「会長ってば、スタイルも良くて背も高くて脚も長いし、美人だし、しっかり者だし……流石は三年生!」
「や、やめてよ!」
穂乃果の言葉に絵里は顔を赤くする。これに対して背が低くてちんちくりんな三年生は「ふん!」とそっぽを向いた。ついでにサウザーも対抗意識を燃やす。
「背が高くてスタイルも良くて帝王の風格を備えたおれこそトップアイドルに相応しいのではないか?」
「サウザーちゃんの中のアイドルの定義って何なのさ」
「退かなくて、媚びなくて、省みないこと?」
それはさておき、人気が出たといっても、更に順位を上げるのは至難の業だ。
「何か思いきった事しないと、二十位内には入れないわよ?」
マキが髪の毛くるくるしながら言う。
その通りである。上位二十内にいるのはμ'sどころか『チーム名称未定』結成以前から既に大人気だったグループばかりで、ぽっと出の良く分かんないチームが入りこむ余地はない。かと言って、ライブをするだけでは新規ファンは短期間にそう集まらないだろう。
うーむと一同考える。
すると、ここでニコが、
「……その前に、しなきゃならないことがあるんじゃない?」
「えっ?」
ニコに言われて練習を切り上げた一同が向かったのは秋葉原であった。スクールアイドルの聖地にして、学校から一番近い街でもある。
そんな街の往来に、μ's´のメンバーは分厚いコート、サングラス、マスクという怪しいうえに暑苦しい格好で立っていた。
「あの、ニコ先輩、これは……」
海未が汗を拭いながら訊く。
「変装に決まってるでしょ?」
「はぁ……?」
ニコ曰く、これこそアイドルに生きるものの道であるという。
「有名人なら有名人らしく、街に紛れる身だしなみってものがあるのよ」
「でも、これ逆に目立ってませんか?」
穂乃果が指摘する。季節はもう夏になったと言ってよい。にもかかわらず白昼炎天下でコートを着こんでいるのは目立ってしようがない。
「それに、サウザーちゃんに変装無意味っぽいですよ。存在感バリバリだし、向こうでさっきから通りすがりのレジスタンスの人がチラチラこっち見てるもん。ほとんどバレてるもん」
サウザー自身この変装の無意味さを理解しているようで、
「おれは聖帝! 逃げも隠れもしないのだァー!」
とコートとサングラスを脱ぎすてた。
「ああ、やはり聖帝サウザー!」
「討ち取るのだァー!」
変装を脱ぎすてたことで疑惑が確信に変わった反聖帝レジスタンスは一斉にサウザーに襲いかかる。
「お命頂戴!」
「フハハハハ! 来るがいい下郎!」
かくして、秋葉原の真ん中で聖帝VSレジスタンスの戦いが始まった。しかし、他のメンバー的にはどうでも良い事(花陽は少し見ていきたいと言っていたが)であるから、暑いコートをしまって最近オープンしたというスクールアイドルショップへ向かった。
スクールアイドルショップは未だ秋葉原に数件存在するのみであるが、ラブライブが開催されるということもあり、品ぞろえはかなり良かった。日本全国の有名なスクールアイドルのグッズが所狭しと売られている様は部室以上に圧巻であった。
「おぉぉぉー! すごいです! 天国はあったんです!」
花陽は興奮しながら店内を物色し始める。
「まったく、スクールアイドルな上近所なのに知らないってどうなのよ?」
「いやぁ、灯台下暗し、です!」
「にしても凄い品揃えだねー」
穂乃果たちも感心して見回した。見たところ、人気のあるグループには専用のコーナーが設けてあるらしい。
と、ここでレジスタンスを蹴散らしたサウザーも合流した。
「遅いですよ……って、なんで死にかけてるんですか」
海未がそう話しかけるサウザーは息も切れ切れで歩くのもつらそうな様子であった。
「ぬぐっ……ターバンのガキめ……」
「ああ、彼ですか。目的が分からない限り手の打ちようないですしね。そんなことより見てくださいよこれ、凄いですよ」
サウザーにミジンコ程の心配を寄せないメンバーであるが、それはそれで信頼の顕れかもしれないし、全然そんなとはないのかもしれない。
そんな中、凛が何かを見つけた。
「穂乃果先輩見て見て、この子カワイイ」
「どりどり……あホントだ。凛ちゃんこういう子好きなんだね」
「うん! なんかかよちんに似てるし?」
凛が手にしているのはどこかのグループのメンバー写真がプリントされた缶バッジであった。なるほど、見れば見るほど花陽に似ている。目元とか、輪郭とか……というか……。
「これ花陽じゃないですか!?」
「えぇ!? うわっ、ホントだにゃー!」
缶バッジの少女は紛れもなく小泉花陽その人であった。
なんで花陽の商品が? と疑問に思う四人。しかし、その間もなく店の奥から「ぴやぁぁぁぁぁああ!」という花陽の悲鳴が聞こえてきた。何事かとメンバー全員が終結する。
「かよちんどうしたの!?」
「ここ、これ見て……!」
花陽の指さす場所、そこに目を向けた一同は思わず声を上げて驚いた。
なんと、μ's´の特設コーナーが作られていたのである。
「こ、これ私達だよっ!? 私達が売られてるよ!?」
「人身売買みたいに言わないでください!」
「ニコのグッズは!? ニコのグッズは無いの!?」
棚には様々な商品が並べられていた。団扇にシャツ、バッジにブロマイド、可動関節のサウザーフィギュア……。これらを見たメンバーはそれぞれ大騒ぎである。
「ていうか、肖像権とかガン無視なんやね。売り上げってどこに行ってるんだろ」
「それ、私も気になった。生徒会の資料にもなかったわよね、これ」
生徒会の希と絵里はそう言うが、アイドル部の部長はあまり気にしていないようであった。
「何言ってんのよ。ただで宣伝してくれてるようなもんよ? 私達にもうれしいことじゃないのよ」
「ニコは何か聞いてないの? グッズ化の話とか。こういうのってまず部長に行くと思うのだけど」
「いや、聞いてないわよ。なに? こういうのって人気が出たら勝手に作られるんじゃないの?」
「んなわけないやん。……ウチとエリチが加わってまだ少ししか経ってないのにもうグッズがあるって、おかしない?」
「こういう契約って学校とか生徒会も通すから自然時間かかるし……これヤバいんじゃないかしら」
「何よ、怖いこと言わないでよ二人とも……」
ちょっと深刻気味に話し合う三年生。
「……ていうか」
ここで、マキが声を上げた。
「何か話が持ちかけられて、勝手に契約結びそうな輩が一人いると思うのだけれど」
「え? ……あ」
三年生組も気が付いた。
そう、実はμ's´関連グッズの販売契約は学校に持ちかけられていたのである。しかし、本来ならば部、学校、生徒会を通すはずのこの契約は、その間に無理やり入りこんだ一人の男の手に依って驚くほどのスピードで成立したのだ。
「サウザー、あなたこれ……」
「フフフ……おれの手にかかればグッズ化なぞ容易いことよ」
「また勝手なことを……」
絵里がハァと目元を押さえる。なるほど、通りで他のメンバーは写真のみなのにサウザーだけ立体化しているわけだ。
「アンタねぇ、そういうことは部長であるニコに通しなさいよ! ……でも、今回はよくやったと言えるわ!」
グッズとなって流通すれば興味を持つ人もそれだけ増える。つまり、新規ファンの獲得につながるのである。
「フハハ―!」
高笑いするサウザー。聖帝の暴走も(いつも暴走しているが)たまには役に立つこともあるのである。
そんなやり取りを他所に、二年生以下の面々は自分たちがあしらわれたグッズに照れと嬉しさを感じながら物色していた。と、そんな時、穂乃果は飾ってある写真の中に気になるものを見つけた。
「これって……」
それは、彼女の幼馴染、南ことり……と思われる少女の写真であった。その写真の中のことりはメイド服を着ていて、楽し気に笑っている。写真の下部には『ミナリンスキー』と東欧風な名前のサインが添えられていた。
「ねー海未ちゃん、これ見て」
「ん? ……おや、ことりではないですか。似あってますねぇ、メイド服」
「そうだけど、これってなんなんだろ」
「さぁ……」
と、その時である。
「すみません! ここに私の写真があるって聞いて……」
聞き覚えのある声が店の表から聞こえた。
「あの写真はマズいんです! お願いですから今すぐ外してください!」
「ことりちゃん?」
「ちゅん!?」
見ると、表のことりは写真と同じメイド服を着ていた。穂乃果たちから見て背を向けているから顔は見えないが、頭のトサカは紛れもなくことりの物であろう。
「ことり、何やってるんですか?」
海未も訊く。騒ぎを聞きつけて他のメンバーも集まってきた。
……が、ことりはあくまでしらを切った。彼女は足元の箱からガチャガチャの空カプセルを拾い上げると、それを両目に当てて、
「Kotori!? What!? Who is it!?」
「うおっ、外人さんだにゃ! ニコ先輩、通訳通訳!」
「え!? えーと……オーウ! ヘローヘロー! リメンバーパールハーバー?」
「ニコ先輩の英語想像以上にひどいわね」
「ことりちゃん、だよね?」
「チガイマース!」
穂乃果は尋ねるがことりは頑なに認めようとしない。エセ外国人を演じながら、ことりは徐々に穂乃果たちから距離を取り始めた。そして、
「さらばっ!」
裾を持ち上げて脱兎の如く逃げだした。
「あっ、逃げた!」
「なんで逃げるんですか!?」
逃げられると追いたくなるものである。穂乃果と海未、そして便乗のサウザーはことりに事情を尋ねるべくその後を追い始めた。
「フハハー! この聖帝サウザーから逃げられるか!」
「サウザーちゃん頼もしい!」
一介の女子高生が南斗鳳凰拳伝承者に追いかけられて逃げ切れるはずがない。ことりの捕縛も時間の問題かと思われた。
が。
「ぬふ!? さっきガキに刺されたところが!?」
傷口が開いてサウザーは悶絶、その身体をアスファルトに叩きつけるように転がり、全力で走る穂乃果と海未の視界からあっという間に消え去った。
「絶妙なタイミングで役に立たない! 海未ちゃーん、何か手はないのー!?」
追いかけながら穂乃果は海未に助けを求める。
「じつはこんなこともあろうかと必殺技の練習をしていたのです」
「おお! 物騒だね!」
「ふふ、今までことりの嘆願波を喰らうばかりでしたが、いつまでもやられっぱなしではありません」
海未の必殺技、それはウミウミ分を矢状にして相手に発射する技、その名も『ラブアロー・シュート』である。これを受けたものはあっという間に骨抜きにされ、しばらく立つことすらままならなくなる。
彼女は走りながら腕を弓道の時のように構えた。
「いきます! 必殺『ラブアロー☆シュート』!」
海未の放った矢状のウミウミ分はまっすぐ正確にことりの背中へ突き進んだ。弓道ではかなりの腕前を誇る彼女であるから当然である。
が、ここで彼女の不幸であったのはその矢の進路上にタブレットの修理に訪れていた通りすがりの世紀末覇者拳王がビルの角から現れたことであった。
「ぬ!?」
彼は高速で飛んでくる矢状の気を感知した。そして、その矢を二指真空把で受け止め(理屈は不明)、流れるように元来た方へ投げ返した。
投げ返された矢は海未を見事に貫いた。
「ぬっふぅぅぅーん!」
「うわぁー! 海未ちゃーん!」
自らの技で骨抜きにされた海未はもんどりうって地面に倒れた。さすがに海未まで倒れては追いかけることもままならない。穂乃果は足を止めて倒れた海未を抱き上げた。
「海未ちゃんしっかり!」
「あふん……我ながら凄い技です……ですが、まさか通行人に跳ね返されるとは、この園田海未の目を持ってしても読めなかった!」
「意外と元気そうだね」
しばらくすると、二人の元に絆創膏を貼ることで復活したサウザーが合流した。だが、既にことりの姿はなく、完全に見失ってしまったようであった。
「ことりちゃん、なんで逃げるの……?」
恍惚の表情を浮かべる海未を介抱しながら、穂乃果は口の中でそう呟いた。
ちなみに、その後すぐことりは希に捕獲された。
つづく。