サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
+前回のラブライブ!+
西木野マキよ。
ジョインジョインマキィヴェヴェヴェヴェザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーヴェェッペシペシヴェェッペシペシハァーンヴェェッハァーンテンショーヒャクレツヴェェッイミワカンナイヴェェッヴェェッヴェェッフゥハァヴェェッナニソレイミワカンナヴェェッイイカゲンハァーテンショウヒャクレツケンヴェェッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O. オコトワリシマス
バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーン
FATAL K.O. トラナイデ! ウィーンマキィ (パーフェクト)
※
十字陵から降りた四人はそのまま荷物をまとめると校門へと向かった。既におおよその部活も活動を終えており、薄暗い校門から出ていく人影はまばらである。
「さて、曲の目途も立ったことだし、あとは歌詞だね!」
そんな校門で、穂乃果は三人に嬉しそうに言った。それに対して海未が驚いた様子で、
「穂乃果ったら、あの子のこと諦めて無いんですか?」
「当然! それにサウザーちゃんは絶対負けないって言ってるし、いざという時は大丈夫だよ!」
答えるようにサウザーは「フハハハハ―ッ」と笑う。そんな二人を見て、ことりは恐る恐る訊く。
「穂乃果ちゃんもしかして西木野さんのこと拉致るつもり?」
「…………」
「何で黙るの」
しかし、拉致るにせよなんにせよ、曲を作ってもらうにはまずは歌詞である。
四人は歌詞を練り上げるべく、校門から出るやそのままサウザーの居城へと向かった。
サウザーの居城は学校から二十分歩いたところにある大きな建物で、屋根の上にはいつも南斗の十字を象った旗がはためいている。
「相変わらずデカいねー」
門をくぐりながら穂乃果がほえー、と溜息を吐く。彼女はここに来るたびにこれを言っていた。
玄関ではサウザーのお世話役であるブルが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。ご学友の方もごいっしょでしたか」
「うむ」
「おじゃまします!」
「どうぞいらっしゃいまして。リゾ! おしぼりをお持ちしろ!」
「はっ!」
サウザーの城は『城』と言うだけあってお客さんへ熱いもてなしをしてくれる。
穂乃果たちは「こんなに良くしてくれるのだから、今度何かお土産でも持ってこないとなぁ」などと思っているのだが、実際のところこのおもてなしは、サウザーの相手をしている三人への聖帝軍からの労いと感謝の気持ちという面が強い。
無論サウザーはそんな事情を知らない。
サウザーの城は非常に広いが彼が使う部屋は玉座のある無駄に広い食堂とふかふかベッドのある寝室ぐらいなものである。それは来客があった時も同じで、穂乃果たちはいつも無駄に広い食堂に案内されている。
この日も四人は広い食堂のデカい食卓に着き、さながら会議の如く話し始める。
「作曲ほど技術はいらないといっても、作詞もどうしたらいいか分かりませんね」
海未の言う通り、作詞は単に文章を書けばいいというわけではない。いかに簡潔に、詩的に、リズムよく伝えたいメッセージをまとめ上げるかが重要である。好き勝手言葉を羅列すればいいというわけではないのだ。
「いっそその西木野とかいう下郎に歌詞も任せてもいいんじゃないか?」
「だめだよサウザーちゃん、何でもかんでも人任せは」
ことりが窘めるように言う。
そんな中、穂乃果にはどうも妙案があるらしく、ひとり不敵に笑っていた。
「穂乃果ちゃん、どうしたの?」
「ふっふっふ、実は作詞担当の目途は立ってるんだよねー!」
彼女はガタンと立ち上がるや否や勢いよく人差し指を海未へと向けた。
「海未ちゃん!」
「はい!?」
「海未ちゃんってさ、中学の時、ポエムとか書いてたよね?」
「なっ………!?」
瞬間、海未の顔が湯でタコのように紅潮した。顔全体で「恥ずかしい!」と叫んでいるようである。
「そういえば、書いてたよね、海未ちゃん」
ことりも思い出した様子である。サウザーも、
「それは適任だな。フハハハハ―ッ!」
とご機嫌麗しい。
しかし、対する海未は真っ赤になりながら口をパクパクするだけで、お世辞にも乗り気には見えない。当然である。中学時代のポエムなぞ、彼女にとっては忘れたいほど恥ずかしい思い出である。もしもこれ以上掘り返すようなら穂乃果たちを殺して自分んも死ぬというほどの思い出なのだ。
「いやですよ!」
「えー、なんでー?」
穂乃果が悪意なき瞳で海未を見つめる。
「うっ……」
やがて、その瞳に海未は耐えられなくなり、
「嫌なものは嫌です!」
と叫び立ち上がるとこの場から逃走しようとした。
が、そんな彼女の前をサウザーが高速反復横跳びで遮る。
「フハハハハハハハ!」
「ぬっく……帰す気サラサラありませんね!?」
「海未ちゃんお願い、海未ちゃんしかいないの!」
ことりはサウザーの隙を窺う海未を説得する。
「私がしたいのは山々なんだけど、衣装作りで精いっぱいで……」
「穂乃果がいるでしょう!?」
とはいうものの、彼女は穂乃果に作詞というか文章的な才能が壊滅的なことは知っている。任せようものなら『パンを喰らう歌』などを作りかねない。
「でも……私はいやです! お断りします!」
「フフ……作詞しないと反逆罪で死刑だぞ?」
「突然力と恐怖で人を支配しようとしないでください! 何にせよ、作詞するくらいなら腹を切ります」
海未の拒絶ぶりに穂乃果は「どれだけ嫌なんだ……」と若干引いていた。だが、海未がどれだけ拒絶しようとも、彼女は作詞をしてしまうだろう。なぜなら……。
「海未ちゃん……」
「うっ!?」
そう、穂乃果とサウザーの方には南ことりがいるのだ。
「……お願ぁいっ!」
ことりが放った『
だが、心はまだ完全に屈していないようで、
「そ……それでも……いやなものは……」
と声を絞り出していた。
そんな彼女に追い打ちをかけるが如くことりは席を立って駆け寄り、嘆願波を連発した。
「お願い! 海未ちゃんお願い! ………お願ぁいっ! 海未ちゃぁん!」
「ぬうぅーーーーーーし!」
「待って待って、これ以上やると海未ちゃんおかしくなっちゃうって」
穂乃果の制止が入り、ようやく海未は解放された。床の上で痙攣する彼女をことりは優しく抱きかかえる。
「うう……ことり……」
「海未ちゃん……どうしても、ダメ?」
ことりが恐る恐る訊く。それに対し、死にかけの海未は困ったような笑みを浮かべて、
「もう……ことりったら、ズルいですよ……」
彼女は、恥ずかしいと同時に怖かったのだ。
自分なんかが歌詞を書いたら、変なのになってしまうのではないか……いや、まだそれだけならいい。自分が恥をかいて済むだけなのだから。
でも、書いてしまった以上、穂乃果とことりにそれを歌わせることになってしまうのだ。そうなれば、二人は人前で大きな恥をかくことになってしまう。大切な人にそんな思い、させたくなかったのだ。
「私は、口では偉そうなことを言ってますけど……本当は自信がないんです。みんなに、迷惑を掛けるかもと、不安なのです……」
そういうと自嘲気味に笑った。
だが、そんな声を吹き飛ばすように穂乃果が叫ぶ。
「そんなことないよっ!」
死にかけ海未の傍へ穂乃果も駆け寄った。
「海未ちゃんならきっといい歌詞が書けるよ! 誰にでも自慢できる、どこでだって披露できる、素敵な歌詞が……! 私達に書けないものを、海未ちゃんは切っと書ける!」
「穂乃果……」
「もし私が歌詞なんか書いたら、ロクなのできないよ。『お饅頭音頭』とか『パンを喰らう歌』とか……もし海未ちゃんが引き受けてくれなかったら、歌詞を書くのは私とサウザーちゃんになるんだよ!?」
「……!?」
「海未ちゃんいいの!? 私とサウザーちゃんなんてロクなの作れないよ!? サウザーちゃんなんかが作ろう日にはオトノキの廃校が加速するよ!?」
「穂乃果ちゃんの言う通りだよ! サウザーちゃんに世紀末ソング作られるより、海未ちゃんの素敵な詩が良いよ!」
「穂乃果……ことり……」
ことりの腕の中、呆然としていた海未。だが、二人からの言葉を受け、海未の瞳にはいつもの力強い光が舞い戻ってきていた。
彼女は一つ笑うと、ことりの腕を離れ、一人でしっかりと立ち上がった。
「分かりました。作詞、引き受けさせていただきます」
そう言う彼女の顔に、もう拒絶や恥じらいの色はなかった。
そんな三人を傍から見ていたサウザー。
「なんだろう」
彼は自分の胸をそっと抑えながら独り言ちる。
「この辺が……ズキズキする?」
※
一度やる気になると海未の作業速度は非常に速くなる。頼まれていた歌詞も、翌々日には完成してみせた。
「海未ちゃんすごーい」
「ざっとこんなもんですよ」
穂乃果に言われて誇らしげに胸を張る。
歌詞が出来たとなると、後はメロディだけである。放課後になると、四人は歌詞を携えさっそく音楽室へと向かった。
音楽室にはピアノの軽やかな旋律が流れていた。演奏しているのは、もちろん西木野マキである。
しかし、彼女の指は以前ほど美しく動かない。
「……スクールアイドル、か……」
彼女は悩んでいた。
……あの四人の提案、乗ってみても良かったのではないだろうか?
確かに、彼女はアイドルというものを見下している節があった。チャラチャラして、ヘラヘラ愛想を撒きながら適当に歌い踊るだけのオチャラケな人だ、と。
しかし、自分の作曲した歌が唄われる、というのは大きな魅力だったし、何より、彼女は見てしまったのだ……あの四人が、校庭の十字陵に登ってトレーニングしているところを。
その姿に、マキは魅力を感じてしまったのだ。
それでも彼女は素直になれなかった。
「バカみたい……」
「……ハハハ……」
「アイドルなんて……」
「フハ……ハハハ……」
「そんな連中の音楽なんて……ん?」
マキは遠くから聞こえる奇妙な声に気付いた。何やら笑い声のようである。
そして、その笑い声は……
「こっちに、近づいてくる?」
彼女がそう呟いた、次の瞬間。
「扉ドーン!」
「ヴェエッ!?」
音楽室の扉が景気よく蹴り破られ、吹き飛ばされた扉はそのまま音楽室の窓を突き破って外へ飛んでいってしまった。あまりに突然の事態にマキは慌てふためく。
「な、なによ……!?」
「フハハハハ―ッ!」
その音楽室に似つかわしくない喧しい笑い声にマキは聞き覚えがあった。
蹴破られた入り口に聳える偉丈夫……聖帝サウザーは宣う。
「西木野マキよ! 我々のために作曲するのだ!」
「お断り……」
「お断りしたら反逆罪で死刑だぞ? んん?」
「くっ……」
何に対する反逆罪なのかは知れないが、出入り口を塞ぐようにフハハシュビドゥバと反復移動を繰り返すサウザーを見る限り、とにかくマキを外に出す気はないようだ。
「フフフ……貴様には作曲する以外の道は残されていないのだ!」
サウザーは楽しそうに高笑いする。毎日が楽しそうな人だとマキは逆に感心した。だが、感心したからといって付き合う道理はない。彼女は手早く荷物をまとめると肩から下げた。
「……帰ります」
「おっと帰さんぞ? フハハ」
「…………」
マキはサウザーのウザさに少しムッとした表情を見せると、荷物を床に置き、緩やかに手を上げる。だが、サウザーは不敵に笑いながら反復移動をやめない。
「フハハ。一つ警告しておこう。 俺の身体に北斗神拳は効かぬ!」
「?」
「俺の身体は神に与えられし身体だ。俺の身体に流れるのは帝王の血! 故に、何者にも止められぬのだ! そうであるから、諦めてこの歌詞にあった曲を作れ」
彼は反復移動しながら懐より海未の記した歌詞を取り出してマキに手渡した。彼女は半ばひったくるように(相手が高速反復移動しているのだから仕方ないと言えば仕方ない)受け取り、サッと目を通した。
「フハハ……完成を待ち望んでいるぞ。さらばだ!」
言うやサウザーは一目散にさきほど割れた窓へと突き進み、そのまま空へと羽ばたいた。
「………イミワカンナイ………」
嵐の去った音楽室で、マキは一人そう呟くのだった。
音楽室から飛び出したは良いものの、着地の瞬間ターバンのガキに襲われ死に体になってしまったサウザーは、ラマーズ法で痛みをこらえていたところをちょうど通りかかった穂乃果たちに助けられた。
「サウザーちゃん大丈夫?」
「ぬっふ! あのガキ、以前刺したところと寸分たがわぬところを……!」
「そんなことよりサウザー、ちゃんと歌詞は渡せたのですか?」
海未に訊かれたサウザーは、不敵に(でもちょっと辛そうに)笑いながらユラリと立ち上がった。
「この聖帝に不可能は無い。無論、快諾であったわ」
「さすがだね」
ことりが嬉しそうに言う。これには穂乃果もホッとした様子で、
「いや~、サウザーちゃんの事だから南斗と北斗の因縁深めてきただけかと思ったけど、案外大丈夫なもんだね」
「穂乃果ちゃんったら、さすがにサウザーちゃんもそこまで馬鹿じゃないよ」
「そうですよ穂乃果。いくらいつもパッパラパーでアッタタターなサウザーでもそこまでじゃないですよ」
「フハハハハ―ッ!」
四人は仲良く声を上げて笑う。
ひとしきり笑い終わったところで、海未が「さあ!」と声を上げた。
「今日もトレーニングしていきますよ!」
「おー!」
「フハハハハ」
※
三日後。
「聖帝様のご登校だぁ~!」
サウザーはいつものように豪奢なバイク(通称・聖帝バイク)の玉座に座りながら世紀末的な登校をしていた。彼の行く手は先遣隊が確保してくれているので、実にスムーズに登校できる。
そんな彼の前に、「サウザーちゃん!」と突如として穂乃果が現れた。
「なんだテメェはぁ! 消毒されてぇかぁ~!」
突然のことに先遣隊が反応する。しかし、それをサウザーはおさえ、
「まぁ待て。どうしたのだ高坂穂乃果、えらく慌てている様子だが?」
「そ、それがね!」
言うと穂乃果は鞄をごそごそ漁り、一枚のCDを取り出して掲げて見せた。ケースには、「チーム『名称未定』へ」と走り書きがされている。
「朝起きたら家に届いてたの。マキちゃんが作ってくれたんだって!」
「なんだと?」
それを聞くや、サウザーはスクと立ち上がり、快活な笑い声を上げた。
「フハハハハ―ッ! ついに北斗は南斗に屈したのだ」
「いや、別にそういうんじゃないと思うけど」
CDにはメモ書きが同封されていたらしく、穂乃果が言うに、そこには「歌詞が良かったので今回だけ特別に作ることにした」と書かれていたらしい。決してサウザーの勧誘のおかげではないとマキは言うのだ。だが、聖帝サウザーにそんな道理が通用するはずもなく、
「そのようなもの、下郎の戯言に過ぎん。『ホザケ→ゲロゥ』でしかないわ!」
「いやいや」
穂乃果は苦笑しながら言う。しかし彼は聞く耳を持たない。彼は根から人の話を真面目に聞くような性格ではないのだ。なにしろ聖帝なのだから。
「征け、音ノ木坂へ! 南斗の威光を知らしめるのだ!」
サウザーの指示の下、聖帝バイクは大きな唸り声を上げ、穂乃果そっちのけの全速力で音ノ木坂学院へと猛進していった。
だが、存外に乗り心地の悪いバイクであるから、サウザーは校門前で胃の中を吐き戻す羽目となった。
つづく
師走なのと挿絵に地味ながら手間がかかることから更新は遅めになると思いますが、許してください。