サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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最終回です。


 世紀末スクールアイドル伝説~さらばサウザー! さらばμ's! そして輝きの物語へ!~ 

 数日後。

 秋葉原の歩行者天国に数えきれないほどのスクールアイドルが集結した。全国津々浦々から集結したお調子者軍団である。

「あー、テステス、マイクテスト」

 そのスクールアイドルたちに、代表して穂乃果が拡声器で語り掛ける。

『どうも、μ'sの高坂穂乃果です! 今回は全国から来ていただき、ありがとうございます! どう見ても『スクール』じゃない面々もちらほら見えるけど、気にしません! お互い様だし!』

 群衆には『南斗五車星』や『Z』『見上げてGOLAN』のような世紀末連中も混じっており、非常に目立つ。しかし、スクールアイドルに違いはないため、快く歓迎するのだ。

『このライブは、大会と違ってスクールアイドルみんなで作るライブです! 自分たちの手でステージを作り、たくさんの人に呼びかけます。大変な準備になると思いますが、頑張っていきましょう! 何か質問ある人!』

 穂乃果がそう言うと群衆は一斉に「はいはいはい!」と手を上げた。とりあえず近くにいた者に「どうぞ!」と質問を言わせる。

「あの、いきなり下世話な話なんですけど、運営費用的な物ってどうなるんでしょうか? 交通費でもわりとカツカツなのであまり出せないんですけど……」

 喜び勇んで参加している面々ではあるが、だからと言ってお金が沸いて出るような環境にいるものはほとんどいない。現実的な問題であった。

 それに対してツバサが「心配無用よ」と回答してくれた。

『ラブライブ運営の人たちを脅……説得して、お金を出してもらうことになったわ。全員分の宿泊代もね。さすが、儲けてるわね』

 群衆から歓声と拍手が沸き上がる。

『流石はツバサさんですね! ハイ次の人!』

「南斗五車星、風のヒューイ!」

『自己紹介は良いんで用件をどうぞ!』

「我々は『スクールアイドル』としてこの行事に協力する。だが、そこで偉そうにしているサウザーはなんだ!」

 ヒューイが指し示す方ではサウザーが集まった群衆を見下すようにふんぞり返っていた。それがどうも世紀末組的に気に食わないらしい。

『いやぁ、すみません。サウザーちゃんってこういう子なんで。サウザーちゃん、ちゃんとしてよ!』

 穂乃果はそう言うが、サウザーはえらそうな姿勢を崩すことなく、そればかりか拡声器を散り出して、

『フフフ、何を勘違いしている下郎。貴様らはここに来たこの瞬間、南斗DE5MENの軍門に降ったことになるのが分からんようだなぁ?』

「なんだと!?」

 世紀末組が色めき立つ。

『ああっ、なんかめんどくさいことに!』

「穂乃果、話を進めてください!」

 キリがないので世紀末組は無視することにした。説得しなくても、同じスクールアイドルならきっとわかってくれるだろう。たぶん。おそらく。

 

 

 会場設営は恐ろしいほどのスピードで進んだ。何しろ、数えきれないほどのスクールアイドルに加え、世紀末組の率いる軍団もそれに加わっているからだ。

「スクールアイドルの手で作り上げるライブなのにそれはアリなのか?」

という疑問を全員が抱いた。しかし、それを言うなら音ノ木坂やUTXの生徒が参加するのもどうなのだという話になってくるため、早々に誰も話さなくなった。

 とにかく、高校生の域を超えた驚異の人海戦術によって会場設営が快調なため、小銭を稼ぐ余裕も出来てくる。

 ライブと言えば祭、祭と言えば屋台。 

 そう言った理屈で、幾人かが屋台を出店した。

「お米スムージーだぁ~!」

 ナウいヤングに受けそうな店舗を構えて、『Z』はシャレオツな飲み物を通りがかりの女子高生に販売する。ただし、彼らのスムージーの原料は購入したものではなくて、村々から奪ったモノである。

「コメが尽きたぜぇーっ!?」

「あそこのジジィから奪えぇ~!」

「ヒャハー!」

 偶然通りかかったミスミのじいさんは哀れ『Z』の餌食となってしまう。

「やめてくれぃ! わしはこの種もみを……この種もみを村に届けなければならないのじゃ! この種もみが実れば、毎年米が獲れるんじゃ! 今日よりも明日なんじゃ!」

「ますますその種もみをスムージーにしたくなってきたぜぇ~!」

「後生じゃ、見逃してくれぇ!」

 ミスミの必死の願いも届かず、Zは種もみをスムージーにしてしまった。

「あぁ~! 明日が……!」

「見てニコちゃん! 種もみのお爺さんが危ない!」

「あ、うん。そうね、なんであんなのがここで展開されてるのかしら……」

「Zをぶっ潰しに行こう! さぁ、ニコちゃん!」

「あぁっ、花陽! もう、しょうがないわね~!」

「過激だにゃー」

 

 

 些細なトラブルはあったものの、陽が傾き始めたころには全ての作業は完了し、明日の本番を控えるのみとなった。

『皆さんのおかげで会場は完成しました! 後は明日の本番を残すのみです!』

 穂乃果の言葉にスクールアイドルたちは期待の歓声を上げた。一日中動き回ってクタクタのはずなのに、不思議なことに体中に未だあり余るエネルギーを感じられた。

「前日に準備など、最初はどうかと思いましたけど何とかなるものですね。おや? こんなところ赤くペイントする予定ありましたっけ?」

「たぶんそれ明日にはもう少し黒っぽい色合いになってるよ」

「それより、穂乃果ちゃん……」

 ことりがそう静かに声を掛ける。

 皆まで言わずとも分かる。 

 μ'sの事である。

「……あのっ!」

 穂乃果は拡声器を使うことなく群衆に呼びかけた。夕暮れの秋葉原にその声は不思議なほどに良く響いた。

「私達は……私達μ'sは……」

 全ての視線が一斉に穂乃果へ向けられる。期待と不安、疑問の入り混じった視線。それに彼女は力強く答えた。

「このライブを以って、活動を終了することにしました――」

 しんとした沈黙が街を包む。人々にとって、穂乃果の口から発せられた言葉はあまりにも衝撃的なものだったのだ。 

 耳にした人々が頭の中で穂乃果の発言を理解すると、口々に、

「嘘……」

「解散……?」

「これからなのに……」

等々の声が聞こえてきた。

 穂乃果は、μ'sがこれほどまでみんなに惜しまれる存在であることを、この時初めて真実に心から理解した。

「色々な人が、μ'sはスクールアイドルの発展に必要だと言ってくれました。それはとても嬉しいことです。でも、私はそんなことは無いと思います。スクールアイドルがここまで大きくなったのは、ここに集まってくれた皆さんがいたからだと思うんです。μ'sがそんなスクールアイドルの一つであった事を、誇らしく思います」 

 嗚咽が聞こえる。

 喜びとも違う、不思議な感覚が彼女の鼻をつんとさせた。

 そんな感極まる穂乃果を押しのけて、拡声器を手にしたサウザーが高らかに笑い出した。

「フハハハハ! なんかμ'sは解散するそうだけど、5MENは~……」

 無意味に溜める。

「解散しません! フフッ……フハッハハハ!」

 突然の宣言に群衆はポカンとしてしまったが、耳にした人々が頭の中で穂乃果の発言を理解すると、口々に、

「そう……」

「解散しないんだ……」

「割とどうでもいい……」

等々の声が聞こえてきた。

「サウザーちゃん……」

「見ろ高坂穂乃果。5MEN存続の感動に下郎どもが打ち震えておるわ」

「……まぁ、サウザーちゃんが楽しいならいいよ。良かったね」

「うん! フフフ……そう言うわけだから、明日の血肉沸き躍るライブに備えてさっさと帰って寝るのだな!」

 結局、この日はサウザーが締めて解散となった。

 

 

 翌日。

 唯一心配されていた天気も快晴で、春の日差しが気持ちのいい日であった。

 絶好のライブ日和である。

「おはよう!」

 かつてないほどの速度でベッドから飛びだし、これまたかつてないほどの速度で朝の支度を終えた穂乃果は家の前へやってきた海未とことりに元気よく挨拶した。

「今日は寝坊しませんでしたね」

「当然!」

「ついにこの日だねぇ」

 ことりがしみじみと言う。

 当日になって急に悲しくなったりしないだろうかと心配したものの、いらぬ心配だった。彼女たちの心は空同様に雲一つない。晴れ渡っている。

「よーし、じゃあ行こう!」

 

 昨日のしんみりはどこへやら、μ'sも、A-RISEも、そして当然5MENも、その他のスクールアイドルたちも、皆ワイワイと賑やかに最後の支度をしている。

 ことりのデザインした衣装はA-RISEのコネにより短時間で大量に用意することが出来た。

「男には聖帝軍謹製のタンクトップを進呈してあげちゃう所存」

「むう、サウザーよ、折角なんだからもう少しましな衣装は用意できなかったのか」

「ほう……シュウ様はもしかしてこのタンクトップが嫌になったのか?」

「嫌になったも何も好きになったことなぞないが?」

「フハハハハーっ!」

 

 昼前には参加者全員の準備が整い、ステージである秋葉原の路上に集結した。

 そこには未来のスクールアイドルである雪穂や亜里沙、μ'sやA-RISEを支えてくれた人々、聖帝軍の兵士たちも含まれる。

 数多のスクールアイドルと、彼女たち&彼たちがこれから披露する世紀のライブを一目見ようと駆け付けた数多の観客によって秋葉原は熱気……心地よい、心躍る熱気に包まれていた。

 そんな群衆が今、一つの光――死兆星ではない――となって輝かんとしている。

 始まりの音頭を取るのは穂乃果であった。

「よし、いこう! スクールアイドル、ミュージック――」

「スタートッ! フハハハハ!」

「あぁっ、私の台詞! てか音楽始まったしくそっ!」

 明るく愉快な前奏が流れ出すと、キャストもゲストも一斉に顔を笑顔にして、リズムを刻み始めた。サウザーに台詞を奪われた穂乃果も瞬く間に満面の笑顔を浮かべた。さすがである。

 音楽は秋葉原に朗々と響き渡り、満ち、それに乗った歌声は驚くほどの調和して響いた。スクールアイドルたちの踊りも、これといった打ち合わせをしていないにもかかわらず不思議と一体感を感じるものであった。

 

「このような中でも俺が最も強く、そして美しい!」

「ユダ、自画自賛していないで歌に集中しろ!」

 このような時でもギスギスと楽しく話すのが世紀末勢である。

「フンッ、シンこそ踊りのテンポが悪いのではないか?」

「なっ、貴様……んは!?」

 ユダに突っかかっていたシンだったが、突如として悲鳴を上げ、腰を抜かしビターン! と座りこんでしまった。

「ど、どうしたのだシン!?」

 シュウが心配げに声を掛ける。しかし、シンは答えることなく、ただ一点を見つめるだけであった。

 その視線の先にあるもの。

 

「こんなにすごいライブは初めてだぜ! なぁケン!」

「……みかん!」

「表現が独特過ぎて分からないぜケン!」

「きっと感動してるのよ!」

「……みかん!」

「みかん好きアピールは時代を先取りしすぎてるぜ!」

 

「け、ケンシロウ……」

「む? あぁ、どうやら我々のライブを観に来てくれたようだな」

「ケン……」

 観客の中に――ケンが――。

 ――――いた。

 

「なんか後ろで恋の波動を感じるんだけど」

「穂乃果、歌に集中してください」

「わかってるよ! かーなえるのは―――ん?」

 楽しいライブであったが、歌声は遠方から迫りくる『気』を一同が感じ取ったためかだんだん弱くなっていった。

 迫りくる『気』……そう、ついに奴が来たのだ。

「来たわね……カイオウ」

 ツバサが息を呑む。

 重く響く蹄の音とともに、どす黒い魔闘気を噴出させながらカイオウが近づいてくる。 

 巨大な『影』のようにも見える魔闘気は、道路沿いの観客たちを飲むこんでいく。魔闘気に呑まれた観客たちは耐性のあるもの以外全員が次々に気絶していった。アレに耐えられるのは、スクールアイドルかそれに準ずる存在の者だけであろう。

「ぶはあぁ~!」

 一々息を吐くだけでうるさい。伊達に第一の羅将ではない。

「フフ……よく来たなカイオウとやら。わざわざこの国まで来るとは……さては5MENの大ファンだな?」

「ちょっとサウザーちゃん、無意味に挑発しないで?」

「カイオウ、わざわざ海を渡ってここに来た理由は何?」 

 ツバサがカイオウを問いただす。

「知れたことを……この世から剝空琉愛弗(スクールアイドル)を滅殺するためよ!」

「あなたにスクールアイドルを滅ぼすことは不可能よ!」

「たわけたことを~っ!」

 カイオウの鎧の隙間から吹き出した魔闘気は蛇のようにうねり、スクールアイドルを何人か吹き飛ばした。

 その光景にざわめきが起こる。が、それをサウザーは一笑に伏した。

「その『魔闘気』とやらが幾ら便利でも、この聖帝に通じはせぬわ!」

「コイツ、修羅の国でコテンパンにされたこと忘れてそうね」

 絵里が呟く。

「貴様らなぞ、俺の『羅威舞』で粉微塵にしてくれようぞ!」

 言うやカイオウは「ぬはぁ~」とポーズを取り始めた。

 カイオウとのライブバトル……修羅の国での苦い記憶がよみがえる。

 魔闘気を使った究極のゼロGパフォーマンス……圧倒的な力の前にμ'sと5MENは屈するのみであった。

 だが、今度はμ'sと5MENだけではない。数えきれないほどの仲間たちが共に戦ってくれる。サウザーは仲間だと思ってなぞいないが。

「ミュージック……スタート!」

 穂乃果が声を上げた。 

 スピーカーから音楽が流れ出す。 

 この日のため……カイオウの魔の手からスクールアイドルを守り抜く為の必殺の歌。

 悪には正義、闇には光……太陽の歌、『SUNNY DAY SONG』だ。

 テーレテッテーレテッテッテー↑

 テーレテッテーレテッテッテー↑

「ぬぅ~」

 明るい曲調に明るい歌詞。それはカイオウの神経を大いに逆なでした。

「ふざけた曲を! しかし、魔闘気の前では無力!」

 カイオウは掌を構え、膨大な魔闘気をスクールアイドルたちに向けて放つ。

南無(フーム)!」

 次の瞬間、スクールアイドル達は無重力の状態へと陥った! 暗琉天破である!

 本来は有効範囲の狭いはずの暗琉天破が数百人もの人々を飲みこむほどの規模になっているのは、ひとえにカイオウがスクールアイドルへ抱く憎しみの力(ゆえ)である。

 カイオウが何故スクールアイドルをこれほど憎むのか――その答えは読者の皆様の想像にお任せしよう。

 それはそれとして、暗琉天破に飲み込まれたが最期、そこから繋がる暗琉霏破を受けることによって全員が吹き飛ばされてしまうだろう。

 暗琉天破からの暗琉霏破はカイオウの必勝コンボであった。

 が、しかし。

「なっ!?」

 なんと、暗琉天破を受けたスクールアイドル達は自らの身体をグルグルと回転させ始めたのだ。

 腹の中心部分よりやや上を軸として回転することで、足元へ遠心力を発生させ重力を発生させているのだ!

「さにでいそん! さにでいそん!」

 歌いながら高速回転する数百のスクールアイドル達!

「これが暗琉天破破りの奥義、『末っ子ローリング』よ!」

「『末っ子ローリング』だと!?」

 ツバサの言葉に呻き声を上げる。

「さにでいそん!」

 回転するスクールアイドルから放たれた気がカイオウを襲う。数の暴力とでもいうべき気の波に、さすがのカイオウも吹っ飛ばされた。

「ぬはぁ!」

 スクールアイドル達は暗琉天破から解放され、地に足をつけることが出来た。

「穂乃果ちゃんやったにゃー!」

「うぬぬほ……穂乃果ちゃんの力だと言うのか……!?」

「違います。これは私たち全員の……スクールアイドルそのものの力です!」

「スクールアイドルそのものの力だと!?」

「そして貴様にトドメを刺すのはこの将星の力だ! とあっ!」

 歌い踊るスクールアイドルの群れの中からサウザーが南斗特有の跳躍で飛びだす。そして、風船でデコレーションされたゲートの頂点に着地すると両手を広げ、鳳凰が如き姿勢を取った。

「本当はお前なんか大したことないけど、特別にこの技をくれてやろう! ダブルピース!」

 先ほどまでの青天から一変、空には厚い雲がかかり、雷鳴がとどろき始めた。

 南斗鳳凰拳奥義 天翔十字鳳!

「ほざけ! わはぁ~!」

「とうっ!」

 カイオウは魔闘気を放つ。だが、サウザーは跳躍によってそれを躱す。そして、そのまま宙で身体を翻すとカイオウの懐に飛び込み、そして身に纏う鎧を引き裂いた!

「ばわはぁ~っ!」

「フハハハハ! 北斗琉拳恐れるに……フハハ!」

 しかし、カイオウは重い鎧を着ている。そしてその鎧は単なる防御用ではない。溢れる魔闘気を無理やり抑え込むための拘束具なのだ。

 鎧が外れた瞬間、秋葉原に魔闘気が一気に解放される!。

 が、である!

「ラストスパート、いくよっ!」

 曲はいよいよラストへ近づき盛り上がりは最大になっていた。

 説明しよう。

 スクールアイドルはパフォーマンス中、わずかながらに『闘気』のようなものを発している。その気は曲が盛り上がるにつれてだんだん強くなっていく。

 普通にパフォーマンスしているだけでも気が発生する。

 ともなれば、このような状況で最大の盛り上がりを見せた時、スクールアイドル一人当たりの闘気は絶大なものとなる。

 それが、実に数百人分!

「ばっ、馬鹿な!?」

 カイオウの魔闘気を押さえ込むことも出来るのだ!

「こっちはサウザーちゃんの相手しててカイオウさんみたいなめんどくさいタイプには馴れてるんだよ!」

「むはぁ、なんだと!」

「スクールアイドルの力、受けてみてください」

 海未はラブアロー☆シュートの構えを取った。

 彼女の構える闘気の矢……修羅の国で弾かれたものとは比べ物にならない、ここにいるスクールアイドル全員分の闘気が集束されているのだ!

「ラブアロー☆シュート!」

 放たれた闘気の矢は太陽が乗り移ったかのようなまばゆい光をばらまきながら直進する。そして。

「ぐほぉあああああああああああ!」

 カイオウに命中した。

 爆発的な闘気の矢を受けたカイオウは魔闘気と共に派手に吹き飛ばされ、近くのビルに突っ込んでしまった。そして、瓦礫の山に飲み込まれ――動かなくなった。

 打って変わって静寂が秋葉原を包む。

 それを破るのは、サウザーの高らかな声であった。

「――敵は全て、下郎!」

 大歓声が、街中に飽和した。

 

 

 

 

 

 

 スクールアイドル達の前に倒されたカイオウはおっつけやって来たヒョウに回収され、修羅の国へと帰っていった。結局なんでスクールアイドル滅亡にお熱だったのかは分からなかったが、そんなことどうでもよかった。

 この歴史的なライブは全国に放送され、大反響を受けた。

 スクールアイドルと言う存在が、またひとつ、大きな羽ばたきを見せたのだ。

 その中心にあったμ'sは、それと同時に解散し、ラブライブの舞台から消えた。 

 彼女たちが望む望まない関係なく、その存在はスクールアイドルやラブライブにかかわる人々の間で長く語り継がれることだろう。

 μ'sは、伝説となった。

 その伝説は、新しい世代の物語へと続いていく。

 そして、5MEN……サウザーは――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョニーのバーと言えば、音ノ木坂学院の近くにあるバーで、オトノキ生や世紀末野郎でいつも賑やかな店だ。酒と言ってメチルアルコールを提供するときもあるが、人気の店である。

 そんな店のカウンター席で海未とことりは並んで座っていた。

 かつて九人で来た時、彼女たちの前にあった飲み物はジュースやお茶であったが、今はアルコール入りの飲み物が置かれている。

「ここに来るのも久しぶりですね」

「前は穂乃果ちゃんも一緒だったよね」

 穂乃果は今日本にいない。

 それどころか正確にはどこにいるのかも分からない。携帯電話は持ち歩いているはずだが、インターネットに繋がらない場所にすらいることがあるらしく、中々会話できない。

 そんな彼女が少なくとも生きて元気にやっていることを知らせるのが高坂家と海未の元へ届けられる手紙であった。海未への手紙は日本を発つ前日、心配性の海未が口酸っぱく書くように言っていたもので、定期的に送られてくる。

 定期的に送られてくる手紙を、海未の家でことりと二人で読んだものだ。

「ことりはこれを読むのは久々ですね」

 ことりは二年ほど仕事で日本を離れていて、一昨日帰国したばかりなのだ。

 二年会っていなかっただけの幼馴染が海未には大変大人びて見えた。

「うん。ちゃんと元気してるの?」

「はい。相変わらずです」

 海未は手紙を広げた。

 

 拝啓、園田海未様。

 これが着くころには日本は春かな? 今いる場所はずっと冬だから季節感が狂いそうだよ。

 いろんな国を回ってきたけど、今いるサヴァっていう国は今の王様の跡継ぎ三人が喧嘩してたんだけど、私が歌って、ケンシロウさんが物理的に説得したら仲直りしてくれてよかったよ。

 今度はブランカという国に行きます。『羊の民の国』というくらい穏やかな国らしいから、楽しみ。

 日本に帰った時は連絡するから、一緒にご飯でも食べようね。他のみんなも誘って! できるだけそっちの都合に合わせるようにはするから。

 また会える日を楽しみに待ってます。ことりちゃんにもよろしく伝えてね。

 高坂穂乃果

 

 手紙には数枚の風景写真と彼女自身を写した写真が添えられていた。旅に同行しているリュウという子が撮ったのだろう。短く髷を結っていた髪はすっかり伸び、より大人っぽい顔立ちへと成長していた。それでも、元来の悪戯っぽい瞳は変わらぬ輝きを持っている。

「ほんと、相変わらずだねぇ」

「ですね。まぁ、まるで変ってしまうよりずっといいですけど」

「そうだね。変わらないと言えば、サウザーちゃんも相変わらずなの?」

「あぁ、サウザーですか。近所で例の悪趣味バイクを乗り回しているのをよく見かけたんですけど、最近は見ませんね。シュウ様の話では、しばらく遠出をしているとか」

「旅行かな?」

「第二聖帝十字陵を造るとかなんとからしいです。なんでしょうね、聖帝十字陵って」

「さぁ……。どこにいるのかなぁ? 知ってどうするわけでもないけど」

「ああ、それならシュウ様から聞いてます。確か――」

 飲み物で口を潤しながら、海未はやや思考して続ける。

「――静岡だったような」

 

 

 

 

 

 

 

 

「第二聖帝十字陵は海が見える場所がよろしいとのことでしたので、ここなどよろしいかと」

「フフフ、大した田舎だ。この分だとあり余る土地で第十聖帝十字陵まで造れそうだな」

 眼前に広がる青い太平洋は関東で見るそれとは違った輝きを持っていた。

 音ノ木坂学院の十字陵が使えなくなって数年経つ。いい加減お師さんをおさめる新しい十字陵が欲しいところであった。

 ずっと山暮らしであったろうから海の見えるところに……サウザーなりのお師さんへ対する心配りである。

「しかし聖帝様、このような田舎では労働力の確保に難儀致すのでは」

「フン、案ずることは無い。見ろ!」

 サウザーは遠く見える岬のほうを指さした。

 岬のてっぺんにはなにやら学校らしきものが見える。

「中々の規模! 労働力はあそこのガキを使えばよいわ!」

「しかし、アレは確か高校、それも女子校だったような気が」

「なに、女子校だと? ではスクールアイドルがいるのか?」

「いえ、そこまでは存じませぬ」

 ブルの言葉を受けてサウザーは突如「フハハハハ!」と笑い声を上げた。

「面白い! 田舎の芋娘どもにシティボーイなアイドルの力を見せつけてやるわ! ゆくぞブル!」

「おぉ、聖帝様、お待ちください!」

 

 学校はその日、ちょうど入学式であった。 

 校門には少ない新入生をどうにか引き込もうとする部活による勧誘合戦が繰り広げられていた。

 全員が新入生を引っ張ることに夢中で、不法侵入してきたサウザーとブルの存在に気が付かない。

「フハッ……哀れなり田舎娘! 同じ学校の部活同士で争うとは……愚かフハハハ!」

「南斗聖拳も人の事を言えない気が……むむ、聖帝様、アレをご覧ください」

「む!?」

 ブルが示した方向。そこにはお立ち台の上で喚く少女とチラシを配る少女の姿があった。彼女たちも新入生獲得に必死の様子だ。しかし、サウザーが興味を示したのはその内容である。

「スクールアイドル部でーす! 春から始まる、スクールアイドル部ゥー!」

「よろしくお願いしまーす」

「スクールアイドル始めませんかァーッ!? 今大人気のォー!」

「お願いしまーす! ……はぁ、千歌ちゃーん、新入生全然興味示してくれないよ」

「おっかしいなー」

 かなり苦戦している様子だ。

 そのような光景を見ると、いらぬ節介(別名・邪魔)をしたくなるのが聖帝サウザーという男である。

「行くぞブル! 田舎者にこの聖帝のアイドル力とプロデュース力を見せつけるのだ!」

 サウザーは二人の少女へ向かって歩きだした。

「フハハハー! お困りの下郎!」

「うわっ!? なに!? 曜ちゃんの知り合い!?」

「し、知らないよこんな人! ……あの、どちら様で……?」

 恐る恐る尋ねる少女に、サウザーは高笑いと共に自己紹介した。

「南斗DE5MENリーダー、世紀末ナンバーワンアイドルの……サウザーですっ!」

 

 伝説は終わり、輝きたい下郎と聖帝の紡ぐ新しい物語が、始まろうとしていた。

 

 

サウザー!~School Idol Project~ 完

 

 




 長きにわたりお付き合いいただき、ありがとうございました。怒られそうな内容の小説でありながら多くの下郎に読んでいただき、嬉しく思います。
 『ラブライブ』と『北斗の拳イチゴ味』のクロスオーバーは誰しも一度は考えたことがあると思います。そんな中で少なくともハーメルンでは最初の一人になることが出来たこと、光栄の極みです。これを書き始めた当初はそれほどでもなかったのですが、だんだん5MENがガチアイドルになっていくのは実に奇妙で楽しかったです。イチゴ味がアイドル漫画になることを見抜いた私の先見の明には我ながら惚れ惚れします。まぁ偶然なんですけど。
 さて、最終話のラストはサンシャインへとつながる感じとなりました。
 が、サンシャインはやりません。
 理由は三つあって、
 一つはそもそもサンシャインのアニメが終わっていない事。
 二つは似たような展開の繰り返しになる可能性が高い事。
 三つは単純に疲れたという事。
 主たる理由は最後です。
 これ書いてて楽しかったですけど疲れました。書いててこんなにエネルギーを使う小説は初めてです。妹氏も作者紹介でサウザー漬けの恐ろしさを語っていましたが、文字でも変わりません。書いてて胸やけ起こします。
 ただ、私としてはサンシャイン編普通に読みたいので、誰かに書いてほしいです。マジで。
「イチゴ味とラブライブのクロス、書きたいけど乾のアホがもう書いてるしな~」という人がいるなら気にせず書いてください。マジで。
 とにかく、無事? 完結できておかったです。
 もう更新することは無いので、お気に入り整理の際は外していただいて大丈夫です。
 では最後に、ラブライブ、北斗の拳本編、北斗の拳イチゴ味、各作品考察サイト、各種資料、関わっている全ての方々へお礼の言葉とさせていただきます。
 本当にありがとうございました。

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