放浪者ロロ異界見聞録 Self-interpretation 作:Boukun0214
この世界を訪れて、もう何日も過ぎた。
初めの頃は今日は何日目だろうと数えていたが、もうそれは止めてしまった。
おそらく、故郷の世界では、私は行方不明にでもされていて、このまま帰れなければきっと、忘れ去られてしまうだろう。
「はぁ・・・。」
「どうした?溜め息なんかついて。」
そんなこんなと考えていると、暗い気分になってしまった。そんな私に、同行者が語りかけてくる。
「まあ、今日は仕事をするからよ。元気がないのは構わねぇが、俺のそばから離れるなよ。」
仕事、とは、なんのことだろう?
しかしながら、今の私はそれを訊くような元気は持ち合わせていなかった。
「うん。わかったよ。」
私が承諾の意思を見せたとき、遠くから咆哮が聞こえた。あれは、竜の咆哮だろうか。
「な、なに!?」
「おいおい、もう始まっちまったのか!」
始まる?何が?
そんなことを考えているうちに、人の、いや、竜人の波と、恐竜の波が打ち寄せてきた。
「え?え?」
「離れんなよ。」
同行者がぼそりと私に忠告したあと、竜人の波へと突っ込んでいった。
「オラアアア!!!!!」
「ちょっ、うわっ!」
私がもたついていると、恐竜の波が私を飲み込む。
あっという間に、周囲は恐竜ばかりになってしまった。いや。よく見ると、恐竜でないものも混じっている。二足歩行をしている猪とトリケラトプスが混ざったようなスピリットや、同行者のように私たち人に近いスピリットも何人かいる。
全員が武装をし、竜人の集団へと走っていく。
そこでようやく理解した。彼らは、戦士だ。
前に同行者から聞いた戦争なのだ。
「前進!行けぇぇぇ!!」
「魔導師は後ろに下がれ!丈夫なやつは前に出ろ!」
周囲から様々な声が聞こえる。それだけで頭がどうにかしてしまいそうだ。
「は、早く、フールの所に・・・っ」
恐竜たちに揉みくちゃにされながら、私は前へと出る。そこは、前線という前線。ちょうど二つの波がぶつかったところだった。
まさしく地獄絵図だった。
竜人や知能をある程度持つようなスピリットは武器を扱っている。しかし、恐竜たちにはそんなものはなく、持ち前の牙や角で闘うしかない。
つまりは、個々の兵力に差があるのだ。
最前線で竜人の軍へと突っ込んだ恐竜たちの悲鳴が聞こえる。
その恐竜たちは竜人たちの最初の生け贄となったわけだ。
だが恐竜たちは道連れに、同じだけ竜人の命を奪った。
当然と言えば、当然だろう。竜人と恐竜とでは、体格が違いすぎる。圧倒的な武力を持とうが、根本的なところで差が出てしまっていたのだ。
一見すると、恐竜たちには部が悪いと思われたが、それは違ったのだ。恐竜の悲鳴しか聞こえなかったのは、竜人は悲鳴を上げるまでもなく、息の根を止められているからだった。
「フール!」
不意に、彼のことが心配になった。ここまで既に死者が出ているのだから、彼は無事なのだろうか?
探すのは然程難しくはなかった。彼の大きな鎌は目立つ。彼は、特徴的な形の大鎌を振り回し、竜人を蹴散らしていた。彼の鎌の使い方は、基本的に鈍器として刃の無い外側と棒の部分で殴り付け、間合いに飛び込んできた敵を内側の刃で切り裂く。
そんな戦い方をしている彼が、こちらに気がついたようだ。
『フレイムダンス!』
突然、彼はこちらへ向けて鎌を振り、呪文を唱えた。
「え?うわっ!」
生み出された躍り狂う炎は私の後ろで剣を振りかざす竜人を包み、焼き殺した。
「ロロ!大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう。フール。」
同行者がこちらへと走ってきた。いや。どちらかというと、跳ねてきたの方が正しいかもしれない。何人もの竜人を踏み台に。
「フール、これって・・・」
「戦場でよそ見してると、死ぬぞ。お前は弱い。まずは生きることだけを考えろ。
魔法は無限じゃない。ということは、何かしらの代償が必要になるということだ。前に使ったとき、恐ろしいほどの疲労が私を襲った。つまりはそういうことなのだろう。
「うん。」
「その返事、忘れんなよ。」
そこからは、必死すぎてほとんど覚えていない。
竜人の剣を必死に避けながら同行者の後ろに隠れる。人間、死と隣り合わせのときは異様なほどの運動能力が出るようで、戦いなどしたことの無い私は、奇跡的に無傷だった。
「ーー撤退!撤退だ!!」
気が付いたときには、竜人の軍勢が、撤退していた。恐竜は竜人に勝ったのだ。何体もの恐竜が勝利の雄叫びを上げる。地面がビリビリと痺れるような感じがした。
「ゥオオオオオオオオ!!!」
「ひー、うるせぇ。毎度のことながら、耳がイカれちまうよ。」
同行者は少しおどけたように耳を塞ぐ。どうやら、この雄叫びは恒例行事のようだ。・・・脳が揺れるほどうるさい。とにかくうるさい。
「・・・・」
しかし、少しだけ冷静になったとき、周囲の血生臭さに気が付いた。
「うっ。」
思わず鼻と口を服の袖で覆う。その袖も、随分とボロボロになってしまった。なにせ、こちらの世界に来たときから一度も着替えていない。
靴は・・・?と思い、下を見たのが行けなかった。私の靴は、ぬるりとした肉塊を踏んだ。
「ひっ!」
慌てて足をあげると、転びそうになってしまった。
そういえばと思い、同行者のことをみる。彼の赤い服は、返り血で紅く染まっていた。
あたりまえだ。あれだけ戦った後なのだから。
私は、彼のことをじっと見つめた。
どうして、この男は平然としていられるのだろうと。
私の目には、恐怖や畏怖が混じっていた。
「・・・・」
私が彼を見続けているのに気が付いたのだろう。彼は、こちらを見て、やれやれといったように、こう言った。
「おいおいあんまりこっちを見るなよ。戦の勝者に興味はないね。問題は戦がどれだけ長引くか、だ。」
私は、彼の言っていることをそのときは理解できなかった。
「・・・それって、どういう。。。」
「俺は、ただ、さっさと戦争を終わらせたいだけだ。」
彼は、急に真面目な顔でそんなことを呟いた。
しばらく、血生臭い平原に沈黙が訪れる。
「まあ、そんなこと、勇者様にでも頼まないと無理だろうけどな!アッハッハ!!」
突然に大声を出した同行者に、私はなんて言えばいいのかわからなかった。
どうにもこうにも、情報が多すぎた。