「―――んじゃ」
ジャージ姿の女性が後ろに跳躍した。
後ろには下へと降りる階段がある。
それは階段を飛び降りるのと同義であり、ジャージ姿の女性は下に着地する。
そのまま向かうのは“奥多摩右舷中央道り”であろう事がルートから予測される。
「めんど・・・」
・・・五回も授業サボれるのか。
彼が思い出すのは先程の会話だ。
昔からの謎伝統で武蔵を縦断しながら追いかけっこをする事になった。
自分達が居る武蔵アリアダスト教導院がある中央後艦“奥多摩”から、オリオトライ先生が殴り込みを仕掛けに行くという右舷一番艦“品川”まで、まさに武蔵を縦断していくわけだ。
・・・その間にオリオトライ先生―――リアルアマゾネスに攻撃当てればいいのか。
他の生徒は気合十分といった様子で飛ぶように走っていった。
二人ほど本当に飛んでいたが。
「どうすんの?追いかける?」
しかし智良は答えが分かるような気がした。
・・・どうせ、めんどくせぇ、とか言って何もしないんだろうなぁ。
「いや、追いかけはしない、歩いていこうぜ」
やっぱり、と智良は心の中で頷いた。
オリオトライ先生は遅れてきてはいけないと言っていたが、歩くな、とは言っていない。
しかしそれじゃあ面白くないなぁ、と智良は思う。
自分の良き友人であり、武蔵の最高個人戦力である彼には、是非ともオリオトライ先生とのデットチェイスを繰り広げて欲しい。
そして自分は茶でも飲んでそれを見ていたい。
ふむ、と智良は思考を開始する。
先程からそれなりに時間が経った、もうオリオトライ先生は全行程の5分の4を過ぎているし、生徒も打つ手が無くなってきているし、ていうかもう無理じゃね?という感じだし。
だんだんネガティブになりつつある思考を一度打ち切る。
そして良案を生み出すために、高速思考を開始する。
・・・よし、これなら行ける。
「麒鳳、オリオトライ先生に追いつける?」
「あ?余裕だ余裕、俺を誰だと思っている」
「とりあえず大グレン団じゃないね」
話が脱線しかける、いかん!と思考と話を戻す。
それはいいとして、と前置きを作り、麒鳳に指を突きつける。
「じゃあ見せてよ、親友」
麒鳳は眉を少し動かし、困った顔をして。
頷いた、頷いてかがんだ。
「はぁ、行ってくらぁ」
「いてらー」
屈んだ状態から一気に力を込める。
その力を軸線に叩き込み、爆発的な加速が麒鳳を持ち上げ、空を飛ばせる。
飛び出した後の大地は込めた力を主張するように破壊されていた。
うわ、と智良が思わず声を零す。
「術式展開“駆け燕”」
跳躍で空に躍り出た麒鳳は己の足に
そして“走った”のだ。
それが当たり前だと言うかの様に、そこが地面だというかの様に。
さらに加速していく、向かうは“品川”に差し掛かっているリアルアマゾネスの所。
そして――――――
「追いつきましたよ、先生」
にこやかな顔をしながら併走する。
展開した“駆け燕”は流体を足場にする事ができ、さらに己の加速を純粋に
力を入れた分だけ確実に加速する術式、彼の脚力で常識外の速度を誇る。
ちなみに曲がったとしても速度は失われない。
一見すると反則じみているのだが、ちゃんと弱点はある。
まず止まるのが難しいという事、さらにバランスを崩したりすれば制御できなくなり吹っ飛ぶ事。
止まるのが難しいのは問題ないんだけどなぁ、というのは麒鳳の言葉である。
「あれま、追いつかれちゃった」
オリオトライはそう言うと同時に剣を放つ。
ちゃんと殺気付きだ、本気で殺しに掛かっているのではないかと思ってしまう程だ。
「うお、怖ぇ」
麒鳳は剣先に足を掛け、オリオトライの剣の上を駆ける。
そしてその勢いでオリオトライの顔面に蹴りを繰り出す。
「乙女の顔を狙うとわね」
後ろで追走する生徒全員がシンクロした。
全員が口を揃えて言葉を口にしたのだ。
乙女!?―――と。
「おい、お前ら」
言葉を放ちながらもオリオトライは体全体を後ろに倒し、顔を足の軌道上から外した。
麒鳳とオリオトライはすれ違い、一時的に距離が離れた。
体制を崩した事により失速したオリオトライに襲いかかるように、麒鳳は加速しながら方向転換をして接近する。
オリオトライは剣で麒鳳を牽制すると同時に体制を整える。
麒鳳は後転で距離を離し、もう一度加速体制に入る。
「いざ」
「尋常に」
「「勝負!」」
二人がほぼ同時に加速する。
数瞬の後、二人の距離はゼロになる。
まず動いたのは麒鳳であった。
オリオトライの剣を封じるため、半身になって手を伸ばしてオリオトライの腕を掴みにかかる。
しかしオリオトライはその腕に対し攻撃を行う。
無理やりとも言える軌道で行われた攻撃は、その標的を断ち切ることができなかった。
麒鳳が腕を引いて剣を避けたのだ。
しかしそれはオリオトライの目論見であった。
距離が近すぎる為にもう一度手を出すことはできない、さらにぶつかろうとすれば手元に剣がある自分は攻撃が可能だ。
そうなれば足場を作るなりして、離れるだろう。
そうしてまた仕切り直す。
それが最善の策であると判断したのだ。
「先生」
突然に麒鳳が声を発した。
もう少しで二人が接触する位置だ。
オリオトライは、ん?、と言葉を返しつつ剣を構える。
そして離れる気配がない麒鳳に対して剣を振る。
「俺を舐めすぎだ」
剣が振られた瞬間に麒鳳は手をオリオトライに向けた。
オリオトライは、無駄ね、と心の中で呟いた。
彼は防ぐつもりだろうと判断した。
だから無駄だと心の中で呟いたのだ。
この剣なら防ぐために使われる術式程度なら切れる、と。
もし切れずとも相手の体制を崩すことならできる、と。
「舐めるな」
オリオトライは驚愕の表情で麒鳳を見た。
なぜなら彼の手の中には剣があったからだ。
「な、本当に常識外ね」
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