幻獣王が行く!!   作:トリィケンスケ

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亀更新タグがこんなに早く活躍するとは(´;Д;`)
先の展開を考えてました。
執筆途中に先の展開がコロコロ変わるのは、ご愛嬌。

それでは、どうぞ!



三河の異変

「へー、トーリが告白ねー」

 彼―――咲森(さきもり) (ゆう)は三河で借りた家に、久しぶりに再会した友人を招待した。

 そこで友人である麒鳳(きほう)智良(ちい)から、葵 トーリの言葉を聞いた。

 彼にとって葵 トーリの名は昔の記憶を呼び起こさせるものだった。

 

 彼は元々は武蔵に居た。

 麒鳳や智良と会い、友人となったのも武蔵での事だ。

 彼にとって武蔵とは、忘れ去りたい過去の場所であり、しかし共に歩みたいと思う場所である。

 

「“後悔通りの主”の内一人は歩き出した、もう一人はどうするつもりだ?」

 麒鳳は真っ直ぐに咲森を見つめ、腕を組んだまま声を発した。

 智良は相変わらず画面に向かっているものの、時折視線を咲森に向ける。

 二人の視線を受けた咲森は、数秒後に肩をすくめた。

 

「どうするもこうするも、踏ん切りがつかねぇんだよ」

 低く響くような声、そこには苛立ちと不満が隠れていた。

 その言葉を聞いた二人は静かに頷いた。

 

「まあ、急かす気はない、ゆっくりでいいさ」

「そうそう!トーリにちょっと先越されただけだし」

 この話は終わり、とでも言うように言葉を紡いだ二人は、話題を変えた。

 三人は友人、それも親友と呼んでいい程に仲がいい。

 それが久しぶりに会ったとなれば、話題は面白いように出てくる。

 その中で不可解な話があった。

 

「避難指示?」

「ああ、聖連が大罪武装(ロイズモイ・オプロ)を催促にくる日があるだろ?その時までに荷物をまとめて、三河の十数キロ圏内から出て行けとさ」

「三河の中心部には人がいないのに、さらに十数キロ圏内からも出て行け?」

「ああ、聖連が自治を認めてるから怪異の危険が薄い場所には人が住んでるんだけどな」

 それはおかしい、と二人は唸る。

 仮に聖連と戦闘を行うにしてもそこまで徹底した人払いをする必要などない。

 “三河に住む人に聖連の非難が集まらないようにする”という可能性もあるが、聖連がそんなことをするのか?という疑問が残る。

 しかも他の国の者にバレないようにしているらしく、謎は深まるばかりであった

 しかし三河の人は避難を始めており、聖連が来る日も近い。

 何を考えても無駄なことか、と思考を中止する。

 

「俺の荷物は清武田に送った、明日の朝辺りにここを出ようと思う」

「ふーん」

 麒鳳は適当に相槌を打つと同時に咲森には見えないように智良にアイコンタクトを飛ばす。

 それを受け取った智良は肩を少し上げた後、また画面に戻る。

 咲森はそのことに気がつかず、また話題を変えた。

 

 

 

 

 次の朝日が昇り、咲森の家に泊まった二人は、咲森が目覚める前に彼を拉致した(・・・・・・)

 麒鳳は智良と咲森を担ぎながら森を疾駆し、当然の如く関所破りをする。

 元々不法侵入なので、関所に行けば御縄(おなわ)だ。

 もちろん国境警備隊が追跡してくるが、麒鳳の“駆け燕”の速度に追いつくことができない。

 そのまま距離を離し、国境警備隊が諦めて帰った瞬間、麒鳳は空を駆け上った。

 数秒で雲のある高度まで駆け上がると、冷たい空気が三人に襲いかかる。

 

 そこでその寒さに意識を覚醒させられたのか、咲森が目覚めた。

 彼が目を開けると、遥か先にある大地と手を伸ばせば触れる事のできる雲。

 もちろん空を走っているので当たり前なのだが、「目覚めたら空でした」などと言うことは創作の世界にしかなく、しかも有翼人種ではない咲森にとって空というのは身近なものではない。

 そのため彼の本能や混乱した思考回路は、最も原始的な危機回避手段に至った。

 

「エエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」

 奇怪な声を上げる咲森。

 担いでいた麒鳳や咲森と同じように担がれていた智良は、その奇怪な声を直接聞いてしまった。

 奇怪なだけではなく声量もあるその声は、その二人の思考を同調させるには十分だった。

 

「うるせぇ!!」

「ウルサイ!!」

 思考が同調した二人は、同時に同じ意味を持つ言葉を発した。

 その言葉を聞いて少し呆けた咲森であったが、すぐに思考を再開した。

 そして全てを把握した咲森は、同じように担がれている事で顔が近づいていた智良に顔を向けた。

 

「もしかして俺、拉致られてる?」

 古今東西あらゆる創作物によくある仕草である、“壊れたブリキ人形のように鈍く首を回す”という動作で顔を向けていた咲森は、嫌な汗をかきながら智良に尋ねる。

 

「うん、武蔵に連れて行くからね!」

 悪びれないどころかどこか楽しそうに話す智良。

 三河に行く時は己で飛んでいた智良だが、今は画面に食らいつくように向かっている。

 昔から何かに熱中するとこうなるのは咲森も知っていたため、知りたいことを教えてくれただけでもよかった、と考えて、次は麒鳳に問いかけようと上半身を少し上げる。

 

なして(なんで)?」

 そう聞くと麒鳳は顔をこちらに向けずに、少し息を漏らした。

 そして咲森を担いでいる右肩を少し上げた。

 

「どうせ引っ越すんなら武蔵に来い」

 咲森は「理不尽だー!」と叫ぶが、麒鳳が止まる訳など無かった。

 

 そうこうしているうちに彼らは降下態勢に移行し、周囲の大気を押し退けつつ下降している武蔵に接近していく。

 三河の国境を一度越えた後にもう一度空から侵入し、誰にも気がつかれないように武蔵に戻ってきたのである。

 もちろん武蔵が三河に降りる時に入ればいいと思うかもしれないが、聖連の監視が厳しい為に、見つかれば少々大変なことになってしまうので、それは避けたかった。

 聖連の武神は大気が荒れる降下時には、武蔵から少し離れた場所から監視する。

 それは荒れた風が天然の防壁になるからである

 しかし“駆け燕”を使っている麒鳳にとって、そんな風如きは微風(そよかぜ)にもならない。

 最後に風よけの障壁を突破し、武蔵に侵入する。

 

「到着、だな」

「とうちゃーーく!」

 武蔵の装甲甲板(地面)に着地すると同時に麒鳳は担いでいた二人を下ろす。

 とりあえず立ち上がり、周りを見渡していた咲森が呟いた。

 

「変わって・・・・・・ないなぁ」

 降り立ったのは中央後艦“奥多摩”の高台である。

 武蔵の先頭は霧にかかったように見にくい。

 しかしその全体像を見るのに大して苦労するものではなかった。

 

「おい、さっさと教導院に行くぞ」

「ええ!?」

「休学扱いだったから、今日からでも出れるよ!」

 麒鳳は嫌がる咲森の首根っこを右手で抑えて引きずる。

 ドナドナが流れてきそうな光景だなぁ、と智良は後ろで考えている。

 そのまま三人は教導院に近づき、校庭に入った。

 すると智良がなにか遠くのものを見るように、身を乗り出して手で目に光が来ないようにした。

 

「なんか集まってる?」

 あそこあそこ!と、階段を指差す智良。

 んあ?と、麒鳳が目を凝らしてその場所を凝視しようとした瞬間。

 

「全く駄目ですわよこの馬鹿あーー!!」

あんだって(なんだって)?」

 次の瞬間に欄干(らんかん)の基部らしき物体と共に人型の何かが飛んできた。

 麒鳳は脊髄反射でそれに向かい手頃なものを投擲(とうてき)した。

 いつもなら刀とか木の棒だとか、とりあえずそこらにある物を投げるのだが、そんなものが都合よくそこらにあるわけがなく、右手に握っていたものを思いっきり投げてしまった(・・・・・・・)

 もちろんそれは人間であり、普通なら投げるといっても飛距離が出ないものだが、麒鳳の圧倒的な膂力は常識の範疇にとらわれず、すごい速度でその人間は飛んでいった。

 

「うええええええええええええええええ!??」

「あ゛」

 気がついた時にはもう遅く、その人型は飛来してきた物体と激突した。

 次の瞬間、欄干の基部は二つの物体に挟まれ、破砕する(・・・・・・)

 さらにその数秒後には地面にそれらが落下した。

 

「本当に昔っから馬鹿ですわね!・・・ってあれ?」

「キヤァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 何か怒った後に焦るという器用な声が聞こえてきたが、その声は校庭の悲鳴にかき消された。

 欄干の基部と人型が飛んできた所に居た人達がこちらに走ってくる。

 

「だ、大丈夫ですの!?お相手の方!」

「ネイト、お相手ってなんだ、お相手って」

「あら、天夜(あまや)?何しているのかしら?」

「というかトーリ殿、生きているでござるか?」

「術式があるから、大丈夫であろう」

「それより土煙がひどいね」

「ネシンバラ君、番屋のおやっさんをどうにかする手段をまず考えようよー」

 周りを取り囲む3年梅組の生徒達にとっては割とよくあることなのでスルーしているが、周りの一般生徒にとっては大事件である。

 そのため悲鳴を上げたのであるが、それを聞きつけた番屋が問題だ。

 番屋のオヤジは頭が固く、説教が長いという性能(スペック)を持っている。

 しかし、奴の弱点を握っている麒鳳にとっては、そこまで驚異でもない。

 

「おらぁ!まーたお前らか!」

「オヤジさん、まーこっちで話しましょうよ」

 現れると同時に校庭の隅に引き込む。

 話すことたったの一分。

 その後満足げに帰るオヤジの手には、来た時にはなかった酒があったという。

 

「よっし」

 やり終えた顔をした麒鳳は騒動の場所に戻った。

 それと同時にまだ舞っていた土煙の中から自分に向けて手が伸びた。

 そしてその手が麒鳳の肩を掴んだと同時に咲森が土煙の中から現れた。

 

「死んじゃうだろうが!なんで投げるんだよ!!」

「反省はしている」

「してなかったらぶん殴るところだぞゴルァ!!」

 麒鳳の両肩を持ち、それを激しく前後に振る。

 その光景に3年梅組の面々は一瞬思考が停止したが、よく訓練されている為すぐに復活した。

 そして麒鳳に掴みかかっているのが、咲森だとわかった瞬間。

 全員が土煙の中のトーリを見た。

 

「・・・由?」

「・・・久しぶりだな、トーリ」

 “後悔通りの主”である二人が数年ぶりに再会した瞬間だった。

 咲森は麒鳳の肩から手を離してトーリの方を向き、葵は咲森に歩み寄った。

 そして周囲が息を飲んで二人に注目する。

 次の瞬間――――

 

「トーリ、お前コクるんだって?上手くいくのかよ?」

「はん!お前よりモテるんだよ俺は!キャーキャー言われてんだよ!」

 二人は笑顔で話し始めた。

 周りもその話に乗っかり、ワイワイと話し始める。

 

 

 

 その日“咲森 由”の名が3年梅組の出席簿に書き足された。




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