戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第八話:剣士レイナ

レンストの街から南東には”闇の眷属”が住む混沌とした地域が広がる。闇の眷属といっても、人間に危害を加えるような存在ではない。闇の現神を信仰し、アークリオンをはじめとする光の現神から迫害をされた人間族・亜人族・魔族の総称である。そのため種族としては混沌としているが、秩序と調和は保たれている。

 

行商人プルノーは、ニース地方出身者で、闇の眷属たちとも距離が近い。東西南北の行商人が行き交うレンストだが、ニース地方に行く行商は少なく、プルノーの取り扱う商品は高値で取引をされていた。

 

『今回は、ルーノースの他、最近出来たというフローノの街を通って、リブリィール山脈麓の街、レミまで行きたいと考えています。レンストまで往復で4ヶ月を見込んでいます。皆さん、宜しくお願いします』

 

プルノーは雇った護衛たちに挨拶をした。オレを含めて5人の護衛である。珍しいことに、女の護衛役もいた。ドルカ斡旋所からは、オレ一人の参加で、他の4人は別の斡旋所から呼ばれたらしい。ドルカ斡旋所は優秀な護衛を派遣するが、その分、値段が高い。必然的に雇われた護衛の手取りも増えるわけで、ドルカの下で働きたいという希望者は多いそうだ。大抵の場合、他斡旋所で何回か護衛の仕事をこなし、信用を蓄積してからドルカに雇われる。オレのように最初からドルカに雇われる人間は珍しく、他の護衛役からの妬みもあるかもしれない。もっとも、オレはそんなことは気にしないが・・・

 

レンストの街を離れて三日目の夜、護衛として雇われていた女がオレに声を掛けてきた。金髪碧眼の美人だが、胸の大きさは鎧に隠されてわからない。一見すると、護衛というよりはどこかの騎士に見える。”凛とした”という表情だろうか?美人だが気が強そうだ。

 

『確か、ディアン・ケヒトという名であったな?お主、護衛役の経験もないのに、ドルカに雇われたと聞いたが・・・』

『ああ・・・』

 

オレは獣欲を抑えながら応じた。話し方も騎士のようだと思った。

 

『どのような伝手を使ったのだ?ドルカは未経験者は雇わないと聞いていた。そのドルカが、未経験者を一目で雇ったと噂が立っている。相当な手練れだというが、それ程に強いのか?』

『さぁな、身を護れる程度、と応えておくよ・・・』

 

オレは肩をすくて応えた。実際、はぐれ魔神などと戦ったら、勝てる自信はない。基礎能力があっても、剣や魔法の技術は並みなのだ。

 

『フンッ ならば試してやろう・・・』

 

女はいきなり、剣を抜き放った。

 

『オイオイ・・・オレたちは同じ旅をする仲間だろう?死合なんてしたくねぇよ』

『勘違いするな。これはただの訓練だ。いつ襲われても良いように、護衛役はこうして戦いの感覚を磨いておくものだ』

『その割には、殺気を感じるが気のせいか?』

 

オレは苦笑しながら立ち上がると、剣ではなく木刀を手に取った。野営から少し離れた場所に向かう。数歩離れた距離で、オレとレイナは向き合った。

 

『えっ・・・と・・・お前の名前、何だったっけ?』

『・・・無礼なヤツめ。私の名はレイナ・グルップだ。それより、貴様、まさか木刀で相手をする気ではあるまいな?』

『ん?素手の方が良かったか?怖いなら素手で相手してやるぞ?』

 

レイナは怒りに顔を赤くした。オレの思った通り、こうした侮辱には慣れていないのだろう。

 

『貴様・・・許さんっ!』

 

レイナは剣を構えるとオレに斬りかかってきた。オレは足元の石を蹴り上げた。拳大の石がレイナの顔を襲う。思わず目を閉じて顔を背けたレイナは、自分が決定的な隙をつくったことに気づいた。木刀が、レイナの頸元に充てられていた。

 

『・・・勝負ありだな?』

『卑怯な・・・』

『ヒキョウ?魔物が騎士道精神を持って正々堂々と襲ってくれるとでも思っているのか?』

 

レイナが剣を下すと、オレも木刀を納めた。オレが立ち去ろうとすると、小声でレイナが呟いた。

 

『待て、もう一勝負しろ・・・』

『ん?』

『もう一度、勝負をしろ。剣同士の勝負をすれば、私が敗けるはずが無いっ!』

 

オレはレイナに一瞥を向けるとため息をついた。

 

『はぁ・・・面倒くさいな・・・やったところで、オレに利益があるとは思えんが・・・』

『お前が勝ったら、何でも言うことを聞いてやる!』

『やめておけ。出来もしない約束はするな』

『返す返すも無礼な奴め、私は約束は守るっ!』

『・・・そうか。なら、オレが勝ったらお前を抱かせろ』

『・・・え?・・・』

 

キョトンとした表情の後に、顔を朱で染める。良い反応だ。男に抱かれた経験が無いのだろう。気の強い女を組み敷いてモノにするのは、男の優悦というものだ。

 

『オレが勝ったら、次の街で一晩中、お前を抱きたい。気は強いが、お前はイイ女だからな・・・』

『げ・・・下品なヤツめっ・・・いいだろう。お前が勝ったら、私を一晩、好きなようにするがいい。ただし、私が勝ったら・・・』

『そんな可能性は皆無だが、その時はオレの頸を刎ねるなり、好きなようにしろ』

 

オレはミスリル剣を抜いた。顔を朱くしていたレイナも、剣を抜くと冷静になったようだ。激高していた先ほどとは違い、闘気が充実している。オレはミスリル剣を構えた。単純に殺すのであれば簡単だが、傷つけないように敗北感を与えなければならない。オレはレイナが斬りかかって来るのを待った。

 

『・・・いざっ!』

 

レイナが剣を構えて突進してくる。直進して相手を斬じる実の剣だ。互いの間合いに入った瞬間、オレは動いた。互いの体と剣が交錯する。オレの頬をレイナの剣がかすめた。立っていた場所を入れ替えるかたちで、再び向き合う。左頬から一筋の血が流れる。レイナは口元に笑みを浮かべた。

 

『フンッ 流石にやるな。頸を落とそうとしたが、上手く躱された』

『・・・気づかなかったのか?』

 

オレがそう言うと、レイナが身に付けていた鎧がバラバラに外れた。鎧ズレが起きないよう、肩当てや胸当てをした服が露わになる。オレの予想以上に、レイナは豊かな胸を持っていた。レイナは歯ぎしりをしたが、まだ闘気は収まっていない。

 

『ここで降参すれば、これ以上恥ずかしい思いをしないで済むぞ?次はその服を切り裂く・・・』

『ぬかせっ!今度こそ、お前を叩き斬ってやるっ!』

 

レイナが構えを変えた。先ほどより更に闘気が充実している。どうやら奥義を出すようだ。闘気が剣まで伝わっていく。

 

『必殺・剛破虎爪斬ッ!』

 

大地をも切り裂く勢いで、レイナが剣を振り下ろしてくる。技の速度も力も大したものであった。まさに実の一撃と言えた。だが、オレも簡単に切られてやるわけにはいかない。

 

『闘技・虎口一閃・・・』

 

レイナの一撃を交わしつつ、オレは目にも留まらぬ速度で複数の斬撃を放った。肌を傷つけないようにギリギリで剣を止める。レイナが剣を振り終えた時は、既に服は切り裂かれ、半裸の状態となっていた。

 

『・・・ッ・・・』

 

レイナの肩が震えている。オレに手加減をされていたことを理解し、屈辱で震えているのだ。

 

『・・・いい一撃だった。だが、お前の腕ではオレには勝てん・・・』

 

剣を納めたオレは、羽織っていたコートをレイナに掛けてやった。レイナは黙ってコートで身を隠した。テントに戻るまで、レイナは無言であったが、女用テントに潜る前に、俯きながらつぶやいた。

 

『・・・私の敗けだ・・・』

 

オレは黙って、レイナからコートを返してもらった。

 


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