戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第九話:ルーノース村での初夜

レイナと死合をしたその夜、オレは自分の為に用意をしていた”鉄の胸当て”をレイナのテントに放り込んでおいた。レンストの街で買ったものだが、装着するとなると意外に面倒なことや、なによりその重さが鬱陶しかった。魔神であるオレに鎧など必要だろうかと思い直し、少し厚手のコートや衣類の方にカネを掛けたのである。

死合で鎧を失ったレイナは、鉄の胸当てをして現れた。鎧が変わっていることは当然、周囲の男たちも気づいていたが、レイナが「南方に行けば暑くなる」と嘘の理由を話したため、それで納得をしたようだ。実際、レンストの街よりも気温は高くなるらしい。オレと目を合わせたレイナは何かを言いたげだったが、オレは黙って頷いた。

 

『さ、昨夜は、その・・・世話になった・・・』

 

ルーノースに向かう道で、レイナがオレに馬を寄せ、小声で礼を言ってきた。鉄の胸当てのことを言っているのだ。

 

『気にするな。お前のカラダは、男どもにとっては目の毒だ。オレも含めてな・・・』

『そ、そうか?私は、別に普通の身体だと思っているのだがな・・・』

 

どうやらレイナは、オレの言葉を真に受けたらしい。オレは笑いながら言葉を付け加えた。

 

『そういう意味じゃない。オスを刺激するって意味だ。押し倒したくなるぞ?』

『なっ・・・』

 

レイナは顔を朱くして、カラダを隠すように腕を組んだ。こういう反応は実に可愛らしい。

 

レンストの街を出てから四日目で、プルノー行商隊はルーノースの村に着いた。ルーノースは闇夜の眷属の勢力圏ではあるが、アヴァタール地方に最も近い村でもあることから、治安も安定し、物資も豊からしい。プルノーがこの街に寄った理由は、商売というよりは情報の仕入れや依頼されていた手紙を渡すといった理由らしい。オレのいた科学文明世界では、手紙などは郵便制度があったし、なにより電話が存在していたが、ディル=リフィーナの世界ではそうした制度も技術も無い。何より、活版印刷技術も無いため書籍そのものが貴重で、文字を読めない者もかなりの割合でいる。

 

『それでは皆さん、出発は明日になります。その前に、お約束通り報酬をお渡しします』

 

プルノーは、レンストで使われている通貨を用意していた。護衛役の仕事は、斡旋所と折半が相場だ。護衛役は往路と復路で、それぞれ自分の報酬を受け取る。誰が幾らの報酬であったか分からないように、同じ大きさの袋を渡された。この辺の気遣いは当然だろう。報酬を受け取ったオレは、宿に部屋を取った。プルノーが用意をした部屋は相部屋なのだ。「一番良い部屋を用意して欲しい」と店主に相談すると、角の広い部屋を用意してくれた。宿泊代は通常の2倍だが、オレは一目で気に入った。部屋に荷物を入れると、オレはその足で、情報の仕入れに出かけた。

 

『フローノは、最近見つかった迷宮を利用している街なんですよ。もちろん地上にも街はあるんですが、地下で暮らしている人も大勢いますね』

 

酒場の店主から、次の目的地であるフローノについての話を聞いた。護衛役の仕事とは、道中の警護だけではない。各街で情報を収集し、次の街までの道程の危険を事前に予想したり、万一の場合に備えて、脇道や獣道を調べておくことも仕事である。他にも、客との揉め事から雇い主を守ることも仕事に含まれる。オレは仕入れた情報を紙に書き留めた。ドルカに伝えるためである。

 

宿に戻ると、ちょうどレイラと鉢合わせた。レイナはオレを見ると顔を朱くして、そっぽを向きながら呟くように言った。

 

『あ、後で、お前の部屋に行く・・・』

 

オレは頷くと、角部屋で待っていることを伝えた。レイナは頷くと、急ぐように自分の部屋に入った。部屋に戻ったオレは、濡らした布で身体全体を拭いた。本当は風呂に入りたいところだが、この世界では風呂は贅沢品らしい。服を着替えたオレは、仕入れた情報を整理したり、剣の手入れなどをしたりして時間を過ごした。月が天頂に差し掛かったころ、扉がノックされた。

 

『お、遅くなった・・・スマン・・・』

 

顔を真っ赤にしたレイナが立っていた。恐らく何度も迷いながら、意を決してノックをしてきたのだろう。誰かに見られていないかを確認した後、オレは黙ってレイナを部屋に入れた。ベッドに腰かけたレイナは、気の毒な程に緊張している。早く抱いてしまった方が良いと判断したオレは、すぐにレイナを押し倒そうとした。

 

『待てッ・・・待ってくれ・・・その・・・』

『ん?どうした?やっぱり約束は守れないか?』

『そ、そうではない。約束は守る。ただ・・・は、初めてなんだ。男に抱かれるのは・・・だから・・・』

 

レイナは今にも泣きそうな顔をしている。この顔を快感で染め上げると考えると、オレの獣欲は燃え上がった。

 

『安心しろ・・・オレは初めてじゃない』

 

レイナを押し倒したオレは、唇を奪った。呆けた表情のレイナが、呟く。

 

『せめて、明かりを消してくれないか?』

『お前は景勝地に行くのに、目を閉じて行くのか?』

 

オレはそう言ったが、ランプの光度を下げてやった。薄明りの中、レイナの服に手を掛けた。

 

 

目を覚ましたレイナは、窓から差し込む朝日の角度から、時間を測った。二刻ほど眠ったようだ。男の腕を枕代わりにしている。自分を抱いた男は、何事も無かったようにスヤスヤと寝息を立てている。レイナは男の胸板に顔を寄せ、目を閉じた。これまでも言い寄ってくる男は何人もいたが、一切相手にしてこなかった。強くなるためには男は不要と断じ、女であることを捨てたはずであった。だが昨夜は、自分が女であることを思い知らされた。貫かれた瞬間は痛みが走ったが、その後は未知の快感で、身体が震えた。自分を貪る男の頸に腕を回し、快感に酔いしれてしまった。

 

男との初夜を思い出しているうちに、再び焔が灯りそうになり、レイナは慌てて起きた。

 

『・・・ぅッ・・・』

 

男が放った精が太腿をつたってくる。レイナは水桶で布を濡らすと、全身を拭いた。冷たい水が、灯りかけた焔を鎮めていくような気がした。

 

 

『おいっ!起きろっ!時間だっ』

 

オレは頭を叩かれて、目を覚ました。レイナがオレを睨んでいる。既に服を着ている。

 

『やぁ、レイナ・・・まだ足りないのか?』

『何を寝呆けているっ!もうすぐ出発だっ!早く支度をしろっ!!』

 

起き上がったオレは洗面をするために水桶へと向かう。無論、全裸だ。レイナは壁の方に顔を背けている。

 

『別に見ても構わんぞ?今さら隠し合う仲でもないだろ?』

『うるさいっ!黙って支度をしろっ!さもないと、その粗末なモノを切り落とすぞ!』

 

レイナに促されるように、オレは顔を洗い服を着た。昨夜のうちに支度は整えていたので、袋を背負って部屋を出た。幸い、他の連中は既に外に出ているらしい。レイナは微妙に距離を空けながら、オレの後ろからついてきた。

 

『皆さん、おはようございます。今度はフローノの街に行きたいと思います。フローノでは二週間ほど、店を開く予定です。それでは出発しましょう』

 

オレたちは、ルーノースからほぼ真南にある新興の街”フローノ”を目指した。


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