戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第十話:レイナの過去

ルーノースの村からフノーロの街までは、三日の道程を予定してた。今のところ、夜盗や魔物に襲撃されることもなく、気楽な旅となっていた。オレは少々、拍子抜けをしたが、他の連中の話によると、この辺は人通りも多く、魔物に襲われることは滅多に無いそうだ。むしろフノーロを出た後が危険らしい。

 

レイナは、オレとの一夜など無かったかのように振る舞っている。まあ死合の約束で一夜を共にしたのであって、半ば強引に抱いたようなものだから、その後にどうなるというものでもない。オンナは大好きだが、しつこく付きまとうのはオレの趣味ではないから、レイナに合わせて、何事も無かったようにオレも振る舞った。

 

 

馬上で心気の統一を図っていたレイナは、自分の身体の変化に気づいていた。これまで澱のように溜まっていた何かが、綺麗に消えている。今までよりも楽に、気を統一することが出来た。男を知ったからだろうか・・・ これまでも、得体の知れない衝動のようなものに駆られることがあったが、その都度、剣を振って汗を流すことで抑えてきた。だが、衝動に襲われた翌日は、何かが気の統一を妨げていた。その正体が、”男を求める欲情”だということを今では認めるしかなかった。ディアンの方に目を向ける。自分を抱いたことで気安く声を掛けて来ようものなら、殴りつけるつもりでいたが、ディアンはレイナを避けるように、他の護衛たちと話をしている。

 

(私には、魅力が無かったのだろうか・・・)

 

ふと、そんなことを考えてしまう。しかし、あれだけ夢中になって自分を求めたのだ。私に気を遣っているのではないか?いや、あの男はそんな性格だろうか・・・ 男女関係の機微に疎いレイナは、馬上でグルグルと思考を巡らせた。

 

 

ルーノースの村を出て二日目の夜、オレは野営から少し離れた森の中にいた。中腰になり、両腕を前に上げ、何かを掴むように手を構える。魔法珠を持っていると想像しながら、両手から魔力を送り込む。魔法訓練の基礎だ。これを極めれば、純粋魔術を操ることが出来るようになる。風が吹き、木の葉が両手の間に落ちてくる。少し光を発し、木の葉は一瞬で、粉々になった。木の枝が折れる音がしたので、オレは構えを解いて音のしたほうに顔を向けた。レイナが立っていた。

 

『スマンッ、鍛錬の邪魔をしてしまった・・・』

『いや、ちょうど切り上げようと思っていたところだ』

 

レイナが布を持って歩み寄ってきた。受け取ると額に浮き出た汗を拭いた。ある程度の純粋魔術なら使えるが、天体衝突級の破壊力を持つ”極大純粋魔術”までは使えない。まして、オレが目指している「神を滅ぼす一撃」は、遥か彼方であった。

 

『何の鍛錬をしていたのだ?』

 

オレは木の葉を摘みあげて、レイナに見せた。首を傾げたレイナの前で、木の葉は炎に包まれ一瞬で灰になった。

 

『お主、魔法が使えるのかっ!』

『使えないと言った覚えはないが・・・』

 

この時代、まだ魔法体系は一般的な知識では無かった。魔法を学ぶためには、魔術師に弟子入りをし、長い年月をかけて魔法を修得していくしかなかった。魔術学校などが出来るのは、国家形成期以降の話である。まして、剣術と魔術の両方を操ることが出来る人間など、限りなく皆無と言えた。まぁ、オレは魔神だから、出来て当然なのだが・・・

 

汗を拭き終えたオレが野営地に戻ろうとすると、レイナが声を掛けてきた。

 

『な、なぁディアン。その・・・頼みがあるんだ・・・』

『ん?カネなら貸さんぞ?』

『違うっ!その・・・私に、剣と魔法を教えてくれないか?』

 

レイナは真剣な表情で、オレに頼み込んできた。オレが見返りに何を要求するかも予想しているはずである。それにも関わらず、オレに指南を求める理由に興味があった。

 

『お前は十分に強いだろ。それ以上、強くなったら嫁の貰い手がいなくなるぞ?』

『よ、余計なお世話だっ!私は・・・もっと強くならなければならないんだ!』

『・・・前から気になっていたのだが、なぜそこまで強さを求める。お前の過去に、何があったんだ?』

 

レイナは言い渋っていたが、理由を話さなければ教えないとオレが言うと、レイナは話し始めた。オレはレイナの横に腰かけ、話しを聴いた。

 

『私は、中原東方部の出身なんだ・・・あそこは、小さな部族が集まって、国が出来始めている。それに伴って、争いが絶えない状態だ』

『群雄割拠って奴だな。独立している部落を吸収するために、血を流すこともあると聞いたことがある・・・』

『そうだ。そして私の父は、そうした中立部落の長だった。父は元々は戦士で、剣では右に出る者がいない程に強かった。その父から剣を学ぶために、大勢の若者が弟子入りをしていた』

『なるほど、さしずめ”剣士養成の村”ってわけだな』

 

レイナは頷くと、話しを続けた。

 

『父は言った。剣は、身を護る為にあるのであって、侵略するためにあるのではない。”護身の剣”が父の思想だった。だが、父の下で学ぶ者が多くなり、それを警戒する奴らが現れた』

『・・・人間は、他人も自分と同じだと考えるものだ。侵略者からすれば、お前の父は”剣士を集める危険な輩”に見えたんだろうな・・・』

『・・・突然だった。大勢の兵士が村を襲ってきた。父は、母と私を護る為に、先頭に立って戦おうとした。だが、奴らは斬り込んでは来なかった。村を包囲し、大量の火矢を打ち込んできた。父も、父が可愛がっていた大勢の弟子も、火矢で焼き殺された。母は私を連れて、何とか逃げることに成功した。だが、こんな時代に女手一つで子供を育てるのは難しい。母は、身を売ってまで私を育ててくれた・・・』

 

レイナは肩を震わせた。目を指でこすると、話を続けた。

 

『私は誓った。父を殺した侵略者に、必ず報いを与えてやる。そのためには、もっと強く、誰よりも強くならなければならないんだ』

『・・・仇の名は判っているのか?』

 

レイナは頷いた。

 

『父を勢力に取り込もうとしていた連中だ。長の名は、ルドルフ・フィズ=メルキアーナ・・・』

 

オレたちは暫く黙って腰かけていた。オレはため息をつくと、レイナに告げた。

 

『解った。剣と魔法を教えてやる。ただし、条件が二つある・・・』

『有り難いっ!で、なんだ?条件とは?』

 

レイナの顔に笑顔が浮かんだ。オレは立ち上がって、レイナを見下ろしながら条件を言った。

 

『一つ、復讐なんて忘れろ。少なくとも、忘れる道を考えてみろ。お前は若く、強く、美しい。一度しかない生を復讐で使うつもりか?そんな暗い道を歩くのではなく、日の当たる明るい道を歩いたらどうだ?』

『忘れろだと?私の話を聴いていなかったのか?絶対に忘れるものかっ!奴を殺すことが、私の生きる理由だっ!』

『・・・まぁ、おいおい、だな・・・で、二つ目の条件だが・・・』

 

あまり深く突っ込むと、レイナが機嫌を悪くするだろう。オレにとっては、二つ目の条件の方が重要だった。

 

『剣と魔法を教えてやる代わりに、お前を抱かせろ。毎晩な・・・』

『・・・や、やはりそう来たか・・・しかも、よりによって毎晩・・・』

『まあ、野営では見張りの交代などもあるから控えるが、その分、フローノの街では毎晩、朝までお前を抱きたい』

 

レイナにとっては、この条件の方が厳しかったのかもしれない。先ほどの怒りは完全に消え、レイナの表情には羞恥が浮かんでいた。

 

『くっ・・・男というのはどうしてこう・・・わ、解った。そのかわり、手抜きは許さんぞ!剣と魔法、しっかり教えてもらうからなっ!』

『任せろ。教える以上、半端はしない・・・』

 

オレはレイナに手を差し出した。白い指先が、オレの手を握り返した。

 


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