戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第十一話:フノーロの街

フノーロの街は、地上と地下とで構成されている。田畑や家畜業などは地上で行われているが、闇夜の眷属の多くは、その名にふさわしく地下に住んでいるようだ。地下は迷宮のように入り組んでいて、その規模は未だにわかっていない。地下都市の中心部は住民が集まる広場のようになっていて、プルノーもそこで店を開いた。

 

『この迷宮は、我らが眷属の大魔術師、カッサレが造ったと言われてまさぁ。こんな巨大な代物、一体全体どうやって造ったのか、見当もつきませんが、とにかく、カッサレは俺たちの誇りなんでさぁ』

 

街の一角にある古物店に入ったオレは、店主に迷宮についての質問をした。カッサレとはおそらく、先のフェミリンス戦争を引き起こした大魔術師、ブレアード・カッサレのことだろう。彼の魔術師は、女神フェミリンスを捉えるために、地下に巨大な迷宮「ブレアード迷宮」を構築したが、この迷宮はそのための試験だったに違いない。店内には、闇夜の眷属らしく見たことのない道具や素材が並んでいる。この街では未だ、物々交換が中心でレンストの通貨はあまり歓迎されない。オレは龍人族から貰った宝石を交換材料にしようと考えていた。店内を見て回るうちに、店の一角に雑多に積み上げられた書籍を見つけた。

 

『あぁ、それは特売品でさぁ。お安くしておきますぜぇ』

 

店主は揉み手をしながらオレに話しかけてきた。この時代、書籍は極めて貴重だが、それは読める人間にとってであり、文字を知らない者にとっては書籍など何の価値も無い。両耳が尖った、半獣半人の店主は、どうやら文字を読めないらしく、本の価値がわからないようだ。

 

『・・・これは・・・』

 

オレは一冊の書籍を手に取った。暗号化されているようで、他の者には読めないだろうが、オレには読める。転生するにあたって、大天使サリエルに「全ての文字・言葉を理解、使用することが出来る」という能力を希望したからだ。古代エルフ語から暗号文まで、オレに読めない文字は無い。

 

それは、ブレアード・カッサレの研究記録だった。中を開いてみると、闇魔術や純粋魔術についての研究が詳細に記録されている。第一級の研究資料だ。オレは他の書籍も漁ってみた。殆どが異国の物語や商売の取引記録などだが、古代エルフ語で書かれた博物書を発見した。精密なスケッチと共に、素材の性質や使用方法が書かれている。その他、飛行魔法の研究記録なども見つけた。オレにとっては、望外の発見だった。

 

三冊の書籍と引き換えに、オレは青い宝石を一粒差し出した。店主は目の色を変えて宝石を掴み取ると、他にも何点か、持っていって構わないと上機嫌に応えてた。その言葉に甘え、オレは体力と魔法力を回復させる薬を仕入れた。レイナの修行に使うためだ。

 

仕入れが終わると、オレは地上の宿に戻った。プルノーとの連絡には地下の方が便利だが、オレにとっては少し息苦しいと感じていた。オレ個人で宿を取っている為、プルノーも文句は言わない。宿に荷物を預けると、オレは地下の中心部に向かった。プルノーの店で護衛をするためだ。

 

『それではディアン殿、護衛を宜しくお願いします』

 

街中で店を出すため、護衛は一人で十分であった。およそ二週間の護衛は、持ち回りで行われる。五人がちょうど三回ずつ護衛をする計算だ。護衛役の仕事が無い日は、休日のようなもので、他の護衛たちは思い思いに過ごしている。レイナに声を掛けた男もいたが、剣の修行で忙しいとニベもなく断られていた。オレに対して声を掛けてくる奴はいない。オレ自身、他の男たちとは距離を取っているためだ。プルノーは恐らく、オレとレイナとの関係に気づいているだろう。しかしこうして仕事をする限り、何も言うつもりは無いらしい。

 

 

『・・・魔法の修行は、まずは魔力の存在を認識するところから始まる。今日はそこから始めよう・・・』

 

オレとレイナは、お互いに仕事が無い日を合わせて、剣と魔法の修行をしていた。フノーロ近郊の森の中に、少し開けた場所を見つけ、そこを修行の場所にした。剣士に往々にして見受けられるのが、目に見える物理的な力に囚われていることだ。精神活動が生み出す魔力を使いこなすには、そうした思い込みを捨てる必要がある。オレはレイナに、純粋魔法の基礎訓練から始めた。

 

『・・・魔力とは、いわば精神の力だ。両手で冷たい水の珠を持っていると想像してみろ・・・』

『・・・掌が、冷たくなっていく・・・』

『・・・次は、熱い炎を持っていると想像するんだ・・・』

『・・・今度は、熱くなってきた・・・』

『実際には何も持っていないのに、お前はそのように感じている。これは錯覚ではない。お前の精神活動によって、お前の掌に魔力が集中し、水と火の魔素に働きかけている。これが魔法の基礎だ。今は意識を集中しなければ出来ないだろうが、やがて呼吸をするように、当たり前に魔素を操ることが出来るようになる・・・』

 

元々、素質があったのかレイナの飲み込みは早かった。魔法の修行を始めたその日のうちに、魔力の存在を認識することが出来たようだ。次の日も、互いに仕事が無いため、その夜はオレの部屋で、レイナは過ごした。

 

 

『・・・明日は、剣術の修行をするのか?どうして、剣と魔法を同時にやらないんだ?』

 

オレの胸の上で、レイナが上気した顔を上げて聞いてきた。最初は固かった果実は、次第に甘美な反応を示すようになってきている。オレは絹のような金髪を撫でながら応えた。

 

『剣と魔法では、力の源泉が違う。剣は腕や足の力だが、魔法は精神の力だ。最初のうちは、分けて修行したほうがいい。それに、毎日同じ修行したら、かえって疲弊してしまうものだ。休む時は休んだほうが良い・・・』

『・・・私を抱くのは、休まないのか?』

 

オレはその問に応えるように、レイナとの体位を変えた。レイナは声を上げながら、豊かな胸を吸うオレの頭を抱きかかえた。

 

 

レイナが店の護衛をする日は修業が出来ないため、オレは購入したブレアードの研究書を読み耽った。大魔術師ブレアード・カッサレは、神の力を欲した身の程知らずと思っていたが、この研究書を読むうちに、彼に対するオレの認識は改まっていった。

 

・・・闇夜の眷属は、ただ信仰する神が異なるというだけで、忌避されている。この状況は、誰が創ったのだろうか?現神はなぜ、自分が正しいと言い切れるのだろうか・・・

 

研究書の端に書かれたブレアードの言葉は、オレ自身も疑問に思うことだ。自分に危害を加えたわけでもなく、考え方が異なるというだけで、一方的に弾圧をする。現神のその姿勢は、オレの中では”悪”としか映らなかった。ブレアードもそう考え、考え抜いた挙句、現状を打破するために力を欲したのだろう。読み耽るうちに、ページを捲るオレ手が止まった。純粋魔術について書かれている箇所だ。

 

・・・先日召還した悪魔によると、純粋魔術の最上位は烈輝陣ではなく、さらに上級の威力を持つ魔術があるらしい。”アウエラの裁き””エル=アウエラ”という魔術だそうだ・・・

 

オレは自分が求めていた知識を見つけ、細かく読み耽った。研究書のため、ところどころに走り書きなどがある。それらも丁寧に解析した。

 

・・・純粋魔術の系統ということから、”アウエラの裁き”とは、魔法力の爆発であることは間違いないだろう。しかしどれほど魔力を増幅させても、烈輝陣程度にしかならない・・・

・・・どうやら私の仮説が間違っていたようだ。”アウエラの裁き”に重要なことは、魔力の量ではなく、魔力の圧縮にあるようだ。増幅ではなく、集密にこそ鍵があるのだ・・・

 

オレは早速、宿を抜け出し森へと向かった。「魔力の圧縮」という言葉を実感するためだった・・・

 

 

その夜、輝く閃光と共に、大爆発が森で起きた。翌朝、街の住人が森を探索したところ、森一面が鍋底のように抉れているのを見つけた。それからしばらくの間は、星が落ちてきた、神の怒りだ、といった話が真しやかに語られたのであった。

 


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