戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第十二話:リプリィール山脈

フノーロの街での二週間の商売を終えたプルノー行商隊は、リブリィール山脈麓の街”レミ”を目指して出発をした。この二週間、オレはレイナのカラダに溺れる以外は、読書に明け暮れていたが、レイナ自身は魔力に目覚めたことを実感したようで、それなりに満足をしていた。他の三人の男たちは知らん。おそらく右手で慰めていたんだろう・・・

 

『これから先の道は、魔物のほか、夜盗なども出ると聞いています。護衛の程、どうかよろしくお願いします・・・』

 

プルノーは、レミの街までの予定日数を言わなかった。その点がオレには引っかかったが、魔物の襲撃など予想が出来ないため、予定日数を立てても意味が無いのだろうと考えた。この周辺の魔物や盗賊の情報は、フノーロの街で仕入れてある。大した警戒が必要とは思えないが、雇い主がそう言う以上は、一応の警戒はしておいた。

 

 

レイナは、荷車を挟んで反対側にいるディアンに目を向け、ため息をついた。昨夜のことを思い出したのだ。

 

『これからしばらくは、野営が続くから・・・』

 

彼はそう言うと、明け方近くまで自分を求めてきた。そのせいでほとんど眠れていない。それ以上に悔しいのは、自分がそれを受け入れてしまったことだ。この二週間、彼と肌を重ねるたびに、自分が少しずつ変化してきているのを感じていた。胸や尻は丸みを帯び、鋭かった目つきには柔らかさが生まれていた。何より、彼に抱かれることに悦びを感じていた。唇を重ね、胸を吸われ、激しく貫かれるたびに、喜悦で全身が震えた。昨夜など、彼の腰に脚を回し、自分から積極的に求めていた・・・

 

『耐えられるだろうか・・・』

 

少なく見積もっても二十日以上は野営が続く。自分が怖いのは、その間に、自分の肉体に焔が灯ってしまった場合である。剣を振るだけで鎮められる自信が無かった。

 

 

それは三日目の夜であった。交代で見張りをしていた護衛が、いきなり大声を出した。

 

『魔物だっ!!』

 

魔神であるオレは、本来は睡眠を必要としない。そのためフローノの街を出てからは、寝たふりをして常に警戒をしていた。オレはすぐに剣を取り、テントから飛び出した。ヴェアヴォルフの集団であった。半獣半人だが理性を失った人狼である。レイナや他の護衛たちも起き出し、迎撃態勢を取っている。オレは剣を抜いて集団に向かって駆けだした。

 

『フッ!!・・・』

 

オレは次々とヴェアヴォルフを切りつけた。重傷だが致命傷ではない。殺すのではなく撤退させることが目的であった。他の護衛たちは、積荷やプルノーたちを守っている。レイナがオレを支援しようとしていたが、オレは目で合図を送ってそれを止めた。オレ一人で充分であったこともあるが、守りが手薄になり別方向から襲撃される可能性もあるためだ。

 

『ウォォオォォンッ』

 

ヴェアヴォルフたちが鳴き声を上げて撤退していく。オレはミスリル剣を一振りし、剣についた血と脂を切った。

 

『警戒しろっ!また別方向から来るかもしれない・・・』

 

返り血で顔を紅く染めたオレが指示を出す。護衛たちは言われるまでも無く、周囲に目を光らせていた。プルノーたちはテントに下がっている。寝れるはずもないだろうが、起きていても邪魔なだけだ。明け方まで警戒をしたが、それ以上の襲撃は無かった・・・

 

 

明け方、水を浴びて返り血を洗い流しているオレに、レイナが声を掛けてきた。

 

『アナタが戦っているところ、初めて見たけど・・・凄かった。どうやったら、あんなに速く動けるの?』

『致命傷を与えるつもりは無かったからな。奴らを退けるための動きだ。一体ずつ殺していたら、あんなに速くは動けない・・・』

 

大判の布を受け取りながら、オレは返答した。レイナの視線がオレの胸板から離れないが、あえて無視をした。

 

『・・・どうして、殺さなかったの?』

『必要が無かったからだ。魔物にとっては、オレたちのほうが侵入者なんだ。それに、仮に殺したとして、死体をどうする?人狼を喰う趣味はオレには無いな・・・ なにより、殺さなければ、また奴らは襲ってくる。だがオレがいれば襲ってこない。匂いで学習しているからな。つまり”オレが護衛をする商隊は襲われない”ということになる。解るか?』

『なるほどね・・・プルノーはあなたを指名せざるを得ない。多少値が高くても・・・上手いやり方ね』

 

オレはニヤリと笑うと、新しい服を着た。野営に戻ろうとすると、レイナがついてこない。振り返ると、レイナが股をすり合わせていた。そのしぐさで、オレは察した。

 

『・・・あまり時間が無い。すぐに終わらせよう』

 

オレはレイナの手を取って、森の奥に進んだ。野営が完全に見えなくなったところで、レイナの両手を木の幹に掴ませる。レイナは口に布を咥えた。

 

『フンンッ・・・』

 

後ろから貫いた瞬間、レイナの口からくぐもった声が漏れる。レイナの肉は、既に蕩けきっていた。

 

 

『やあ、ディアン殿・・・昨夜はお疲れ様でした。どこか、お怪我はありませんでしたか?』

 

プルノーが明るい表情でオレに声を掛けてきた。レイナは顔を洗って上気を沈めたはずだが、おそらくプルノーは気づいたのだろう。

 

『自分でも気づかぬうちに、手傷を追っていたようです。大した傷ではないのですが、レイナ殿に手当をしてもらっていました。遅くなり、申し訳ありません・・・』

『そうでしたか。いや、軽いお怪我で良かった。ディアン殿にはこれからも活躍して頂かなくては・・・』

 

プルノーはオレに対してというよりは、他の護衛たちに対して言っているようであった。そしてオレの傍に来ると小声で囁いた。

 

『・・・森へは誰も行っていません。ただ今後、野営ではご自重ください・・・』

『・・・かたじけない・・・』

 

オレは小声で礼を述べた。

 

フノーロの街を出て六日目である。レイナが話しかけてきた。

 

『ディアン殿・・・我々は、レミの街を目指しているはずだが・・・』

『あぁ、そのはずだが?』

 

レイナは、オレと二人きりの時とは、口調を変えている。彼女なりの分別なのだろう。レイナはその口調のまま、気づいた疑問を口にした。

 

『レミの街は、リプリィール山脈の反対側にある。街にいく為には、南に大きく迂回をするのが通常だ。だが、日の位置を見てみろ。我々は真東に進んでいる・・・』

 

レイナの指摘で、オレも気づいた。このまま東に進めば、リプリィール山脈西側にぶつかる。

 

『・・・まさか、山越えをするつもりなのか?』

 

リプリィール山脈は竜族の縄張りであり、山に入る者は必ず警告を受け、それを無視すれば竜族の戦士によって殺される。フローノの街の人間に聞いても、山に入る者は地元の狩人程度で、竜族の縄張りを侵さないように慎重に進むそうだ。一行商隊がリプリィール山脈に入るなど、無謀というものであった。

 

その日の夜、プルノーはオレたち護衛に対して、リプリィール山脈越えを目指していると伝えてきた。レイナを含め、四人の護衛たちはこぞって反対をした。単身で超えるならともかく、荷車を引いた状態で山越えをするなど無謀極まりない。さらに、リプリィール山脈は竜族の縄張りであり、それを侵せば全員が殺される。仮に、縄張りを上手く迂回したとしても、その迂回路には強力な魔物の存在が予想された。

 

『フローノの街で得た情報によれば、竜族の縄張りを侵すことなく、かつ荷車でも通れる道が確かにあるそうです。詳細な場所も教えてもらいました。こうして五人もの護衛をお願いしたのは、この山越えの為でもあるのです。山越えが成功すれば、レミの街との距離は格段に短くなる。それはつまり、利益に直結するわけです・・・』

 

他の四人が反対をする中、オレは一人、納得をしていた。これまでの行程を考えると、五人の護衛が必要だとは思えなかった。せいぜい三人いれば足りるはずだ。利に聡い商人が、そんな計算を間違えるはずが無い。ドルカから教えてもらった道情報でも、リプリィール山脈を越える道は無かった。つまり新情報であり、ドルカ斡旋所の利益、ひいてはオレの利益にも繋がる・・・

 

『ディアン殿は、いかがお考えですか?先ほどから黙っていらっしゃいますが・・・』

 

プルノーはオレに話を振ってきた。先日の魔物撃退によって、オレの腕が証明され、護衛たちの中でも一定の発言力があると思ったからだろう。

 

『一つ聞きたい。その山越えの道については、確かな情報なのだろうか?』

『確かな情報です。何度もその道を通っているという地元の狩人数人から聞いた話です』

『なるほど・・・であるなら、雇い主が行くと言う以上、オレたちはそれに従うまでだ』

『ディアンッ!!』

 

レイナが信じられないという表情で、オレに顔を向けた。オレはレイナを含め、他の護衛たちに対して言った。

 

『反対する理由が無い。これまで知られていない道だからといって、誰も通らなければ、今後もレミの街まで遠回りをすることになる』

『だが、魔物はどうする?リプリィール山脈の魔物の情報は、我々にはない!』

『それを撃退するのが、護衛の仕事だろ?それに、情報にない魔物なんて、これまでも出てきただろう・・・』

 

四人の護衛たちはうなだれた。オレの話は理屈としては正しいが、護衛たちの直感というものがある。実際、オレ自身も嫌な予感を感じていた。

 

『流石はディアン殿・・・勇敢なだけではなく、モノの道理というものを良くご理解されている』

 

プルノーがオレを褒め称える。コイツ・・・このためにオレとレイナを黙認していたのか・・・ そう考えると、少し腹も立った。

 

『リプリィール山脈に行こう。ただ、他の護衛たちの為にも、頼みがある。麓にはおそらく、狩人たちが生活をしているはずだ。その道を知る狩人を雇って、道案内をさせてくれ』

『無論です。最初からそうするつもりでした』

『それともう一つ。山越えは出来るだけ短時間で終わらせてしまったほうが良い。そのため、昼夜兼行で進んでもらいたい』

 

プルノーは顎をさすって暫く考えていたが、頷いた。

 

『三日だ』

 

オレはレイナたちにそう告げた。

 

『三日で、リプリィール山脈を超える』

 

 


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