戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第十五話:ハイシェラとの闘い

≪黄昏の魔神とな・・・なるほど、確かに汝からは面白い気配を感じるだの・・・≫

 

魔神ハイシェラは、オレの周囲を歩き回りながら、値踏みするようにオレを観察する。

 

≪・・・発しておる気配は確かに魔神じゃ。膂力も魔力も魔神のものだの・・・じゃが、汝からは何故か、魔神特有の禍々しさを感じぬ・・・それどころか、むしろニンゲンのような雰囲気を感じてならぬ・・・はて、面妖だの?≫

 

ハイシェラはオレを観察した感想を述べていった。さすがに二千年以上を生きる魔神である。その知性も観察眼も大したものだ。ハイシェラは足を止めて、オレに顔を向けた。

 

≪そこで、我は想う・・・汝は元々はニンゲンであったのではないか?ヒトの分際でいかに魔神の肉体を得たのか、大いに興味があるところじゃが・・・≫

 

オレは動揺を隠すために歯を食いしばった。目の前にいる魔神は、間違いなく、いまのオレより強い。下手に刺激をしたら、本当に死にかねない。ハイシェラはオレに目を向けて沈黙をしたが、やがて顔を背けた。

 

≪・・・まぁ、それは良い・・・それよりもじゃ・・・≫

 

ハイシェラの表情が一変した。その表情はまるで、牡を求めて発情する雌猫のような表情であった。貌は上気し、瞳は欲情の色を浮かべ、口元から涎が垂れている。

 

≪ここに、三柱もの魔神が集まりながら、何をこのように井戸端会議をしておるのじゃ?先ほどからこの躰が疼いて止まぬっ!早う始めようではないかぁ・・・破壊と、殺戮の饗宴をっ!≫

 

”いや、そもそも話し始めたのはオマエだろ”と口にするほど、オレは命知らずではなかった。その代わりにアスタロトがため息交じりに断りを入れた。

 

≪悪いガ、我は汝には付き合えヌ・・・先ほドまでの至福の祭リで、我は満足してオるからノ・・・≫

≪相変わらず、付き合いの悪いヤツだの・・・ディアンよ?汝は我に付きおうてくれような?剣を失ったようじゃが、まだ魔力は尽きておらぬようじゃしの?≫

 

オレの頬から汗が滴る。ここで断れば、ハイシェラがどのように反応をするか解らない。気晴らしに麓のレミの街を破壊することも十分に考え得るのだ。

 

『いいぜ、ただし条件がある。オレが勝っても負けても、次に会った時はお前を抱かせろ。オレが満足するまでな・・・』

≪ほう、我を抱きたいか・・・我もつくづく、罪な躰を持ったものよ・・・≫

≪変わっタ魔神とは思っていたガ、その趣味はさすガに我の理解を超えル・・・≫

 

ハイシェラが笑いながら、アスタロトに裏拳を繰り出したが、アスタロトは既に異界へと消えかかっていた。空を切った裏拳の衝撃は、そのまま遠方の山に巨大な穴を穿った。

 

≪ハイシェラ、ディアン・・・いずれ会おうゾ・・・≫

≪フンッ、また千年後かも知れぬの?≫

『・・・・・・』

 

アスタロトが消え去り、荒野にはオレとハイシェラのみが残された・・・

 

 

レイナは頭が混乱していた。自分を抱いたディアンが魔神で、その魔神が他の魔神と会話をし、あろうことか抱きたいなどと言っている・・・

レイナはその場を離れようとしたが、足が震えて動けなかった。声の届く範囲に、人域をはるかに超えた存在が2つもあるのだ。

 

 

≪さて、では始めようぞッ≫

 

ハイシェラは宙に浮かんだ。オレは唖然とした。オレが求めていた飛行魔法が目の前で行われているのである。だがそのようなことを知らないハイシェラは、呆けたオレにいきなり痛撃を加えてきた。

 

≪何を呆けておるっ!ホラホラホラホラァッ!!≫

 

純粋魔術レイ=ルーンである。人間業ではない速度で、ハイシェラは破壊の魔球を放ち続けた。オレは右へ左へと動き、直撃を避ける。

 

『チッ・・・調子に乗るなぁっ!!』

 

オレは練り上げた火焔魔術をハイシェラに放った。”メルカーナの轟炎”である。ハイシェラは笑みを浮かべてそれを迎え撃つ。

 

≪アウエラの裁き≫

 

純粋魔術の爆発によって、メルカーナの轟炎を打ち消した。やはり戦闘能力も魔術もオレを遥かに超えている。ましてアスタロトと一戦をした後に、こんな化け物を相手にするのは無理であった。ハイシェラはため息をつきながら、地に降りてきた。

 

≪フム、さすがに疲れておるようだの?我の求める一時は得られそうにない・・・仕方がない、せめて我が糧となるが良い・・・≫

 

ハイシェラが純粋魔術を打ち出そうとしていた。オレの魔力も底を尽きかけている。まだ未完成だが仕方がない。オレは最後の賭けに出た。

 

≪消えるが良い。エル=アウエラッ!≫

 

巨大純粋魔術がオレに向けられて放たれる。オレは持てる全ての魔力を込めて、術式を形成した。

 

『極大純粋魔術・ルン=アウエラッ!!』

≪何ッ!!≫

 

巨大な純粋魔術同士が衝突をする。まだ未完成の為、発動速度は遅いが、破壊力はエル=アウエラを凌ぐ純粋魔術の最上位である。ハイシェラの放ったエル=アウエラは、一気に押し戻された。

 

≪お・・・オォォォォォ・・・≫

 

ルン=アウエラに押される形で、ハイシェラの姿は消え去った。オレの放った魔術はそのまま遥か遠方を通過し、宇宙空間まで届いた。

 

『カハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・』

 

オレは膝をついてそのまま倒れた。僅かな魔力も残されていない。顔を横に向けたオレの視界に、レイナの姿が映った。オレは持てる力を振り絞って手を差し伸べたが、レイナは後ずさりをすると首を横に振って、そのまま逃げだしていった。オレは力尽き、意識を失っていった。

 

 

『・・・どうして・・・』

 

レイナは走りながら呟いた。双瞳からは涙が溢れている。

 

『どうして、言ってくれなかったのだっ!!』

 

レイナは悲しかった。ディアンが魔神であったことも衝撃であったが、彼がその事実を自分に打ち明けてくれなかったことが、悲しかったのだ。自分は、あの男にとって何なのだ?ただ、肉欲を処理するためだけの存在なのか。自分の手を取り、魔法を教えてくれた時のあの笑顔、剣の打ち込みが鋭くなったことを褒めてくれたあの微笑み、夜毎、肌を重ね、私の耳元で囁いたあの言葉は何だったのだ!全ては嘘だったというのか!

 

怒りと悲しみで闇雲に駆けるレイナの前に、闇の異空間が出現した。

 

≪危ういところであったわ・・・≫

『ひぃっ・・・』

 

目の前に出現した魔神ハイシェラに恐怖し、レイナは尻餅をついた。

 


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