戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
≪危ういところであったわ・・・≫
そう言いながら、青髪の魔神が突然姿を現した。レイナは尻餅をついて震えあがった。目の前の魔神の存在感に押しつぶされそうであった。一目見ただけで、レイナにも確信が持てた。地を這う地虫と天空を飛ぶ大鷲とでは、その存在が全く違う。自分と目の前の魔神とでは、それほどまでに隔絶した違いがあった。
(ディアンは・・・こんな奴らを相手に戦っていたのか・・・)
レイナは全身を震わせながらも、何とか剣を抜こうとした。しかし、カチャカチャと音をさせるだけで抜くことが出来ない。目の前の魔神は、そんなレイナに一瞥を向けた。
≪ほう・・・我の姿を見ながらも、未だ闘志を失っておらぬ・・・羽虫にしては、上等だの?≫
魔神がレイナに近づく。レイナの足がブルブルと震えた。
≪そなた・・・先ほどまで我らの会話を盗み聞きしておったの?我が気づかぬと思うておったか?≫
『ひっ・・・ひぃっ・・・』
レイナが目を閉じて顔を背けた。魔神はため息をつくと遠方を見ながら呟いた。
≪これは・・・余計なお世話かもしれぬがの?あのディアンという魔神・・・あれはニンゲンだの・・・≫
『・・・えっ・・・』
魔神の言葉を聞いて、レイナの震えが止まった。魔神はまるで独り言のように、話を続けた。
≪彼の者は、自分は”人と魔物の狭間に生きし黄昏の魔神”と言うておったの・・・恐らく、ニンゲンの魂を持ちながら、魔神として生まれたのであろう・・・実に興味深い・・・≫
レイナが魔神を見つめる。なぜだ、何故この魔神は、私に対してそのようなことを告げるのだ?
≪いずれにせよ、彼の者の魔力は尽きておる・・・誰かが助けなければ、遠からず息絶えよう・・・もっとも、我は助けるつもりなど、毛頭無いがの・・・≫
魔神はそう言うと、レイナの前から飛び去って行った。禍々しい気配が消え去る。尾根の西側に日が沈み、辺り一帯は暗くなり始めている。レイナは独り、座ったままであったが、意を決したように立ち上がった。
『・・・助けなければ・・・』
レイナは、先ほどまで人外の闘いが行われていた場所に足を向けた。
荒涼とした戦場跡で、オレは独り倒れていた。魔神ハイシェラとの闘いで全ての魔力を使い切ったオレは、指一本動かす力も残されていなかった。魔力とは、魂の活動が生み出す力であり、魔神の肉体は、魔力を循環させることで維持される。つまり魔力とは、魔神にとっていわば血液のようなもので、それが尽きれば肉体は死んでいくしかない。薄れゆく意識の中で、オレはハイシェラの声を聴いた。どうやら死んでいなかったらしい・・・
≪少し、世話を焼かせてもらった・・・運が良ければ、生き延びるやも知れぬの?その時は、我を訪ねて来るがいい。約束通り、我を抱かせてやろうぞ・・・≫
オレの意識は完全に途絶えた・・・
ディアンを背負ったまま、レイナは山を一歩ずつ降りた。既に日が沈みかかっている。
『頑張れっ!もう少しだ・・・』
ディアンの身体は、自分が思っていた以上に重かった。何より、ディアンの身体に触れているだけで、力を吸いとられていくような感覚を持った。レイナは歯を食いしばりながら、麓の街を目指した。日が完全に沈み、魔物の気配が当たりに漂い始める。レイナは急ごうとしたが、力が入らない。ここまでか・・・そう思った時、複数の灯りが見えた。プルノー行商隊の護衛たちである。街からも何人か、助っ人が出ているようだ。レイナは笑いながら、声を上げて知らせた。
最初は点のような光であった。やがてそれが大きくなり、そしてぼやけたような景色となる。それもやがて輪郭を帯び、しっかりとした光景が目に映る。意識を失ったオレは、どこかの部屋の天井を眺めていた。死んだはずであった。大天使サリエルが迎えに来ると思っていたのだが、この世界では違うようだ。やはり、三神戦争の結果なのだろうか・・・
ぼんやりとそんなことを考えていたオレは、ようやく覚醒した。生き残ったのだ。柔らかい感触が、身体に当たるのを感じる。全裸のレイナが、カラダをオレに密着させて寝ている。なぜレイナが寝ているのかは解らないが、とにかく彼女に救われたのは事実だ。気怠く腕を持ち上げ、頭を撫でると、レイナが目を覚ました。
『・・・気づいたか?』
『あぁ・・・救われた・・・有難う・・・』
『・・・その様子なら、もう大丈夫そうだな・・・』
レイナは起き上がるとオレの上に跨った。白い豊かな胸に目を奪われる。少し痩せたようだ。浮かんだ笑みが消えると、いきなりオレの頬を叩いた。
『・・・いきなりだな・・・』
『これは、魔神だということを私に隠していた罰だっ!そしてこれは・・・』
レイナが片手を上げる。瞳には涙が浮かんでいた。
『私を・・・こんなに心配させたことへの罰だっ!』
二発目はそれほど強くなかった。レイナが、オレの胸の上に顔を伏せて泣いている。オレは泣き止むのを黙って待つしかなかった。
その夜、オレはレイナに自分の正体を明かした。異世界で死に、大天使サリエルによって転生をしたこと、自らの意志で魔神になったことなどを明かした。レイナは黙って聞いてくれた。全てを語り終わった後、レイナは魔神ハイシェラのことを話してくれた。
『・・・人間の魂を持った魔神か・・・』
『あの魔神はそう言っていたわ。あなたは人間だって・・・』
レイナの金髪を撫でながら、オレは大天使サリエルの言葉を思い返していた。
(一つ目、このまま死を受け入れて、魂の安らかなる平穏を・・・)
(現在の記憶や自我を持ったまま、転生をする。ただし、この世界ではなく、並行世界での転生となるでやんス)
(・・・え?良いでやんスか?ヒトとして生きることも出来るでやんスよ?)
『・・・そういうことか・・・』
オレは納得した。大天使サリエルは、”転生”とは何かについて説明をしなかった。オレは未だに”魂”というものについて理解しきれていなかったが、おそらくは生命の”本質”のようなものなのだろう。転生とは”魂(=生命の本質)が変化することなく、新しい肉体に宿ること”なのだろう。そう考えれば、オレの魔力が尽きたことも説明できる。現神の最高位の十倍の魔力を持っているはずなのに、魔神二人を相手にしただけで、魔力が尽きた。魔力とは魂の活動によって生まれる。人間の魂を持っているオレは、人間並みの魔力しか生み出すことが出来ないのだ。現神の十倍の魔力を”蓄えられる”魔神の肉体は、”魂を入れる箱”にしか過ぎないということだろう。
『・・・サリエルの奴め、一番肝心なことを説明しなかったな・・・』
独り言を言うオレをレイナは不思議そうに見つめた。レイナの視線に気づいたオレは、話題を変えた。
『・・・ところで、さっきから思っていたんだが・・・どうして裸で寝ているんだ?』
『えっ・・・いやっ・・・これは・・・』
レイナは、顔を朱くしながら説明をした。レイナの話では、オレを運んでいる時に力を吸いとられる感覚があったそうだ。
『あ、あなたは魔神だから・・・きっと私の知らない力の回復方法があるんじゃないかって・・・そう思って、協力しようとしただけで・・・』
魔力を回復させる方法には、魂の活動による自然回復の他に、外部からの吸収という方法がある。魔力を回復させる物品(アイテム)は幾つかあるが、たとえば”鋭気の水”などは自然回復の促進、”魔力石”などは石からの直接吸収という方法だ。それ以外にも、魔物を狩ることによる精気の吸収や、オンナを抱くことによる回復方法などもある。魔神であるオレは、無意識のうちに外部吸収を行っていたのだろう。
オレがそう説明すると、レイナは顔を朱くしたまま聞いてきた。
『つ、つまり・・・私を抱くと、あなたの魔力は回復するってこと?もしそうなら・・・』
『いや、オレには性魔術の知識は無い。回復しないことは無いだろうが、こうしていてくれるだけでも、だいぶ楽になった・・・』
『そ、そう・・・なら、いい・・・』
実際、魔力が急速に回復してきているのを感じる。肉体の活動が戻れば、精神活動が戻り、魂の活動が回復する。「魂魄」という言葉があるが「魂と肉体(魄)」は不可分の存在なのだ。オレの場合は、本来の魂に合わせて肉体(魄)が形成されたので、上手く適合している。だが、不可分であるはずの両者が分かれてしまったらどうなるのだろうか・・・ 例えば、人間でありながら、自分の魂に合わない神の肉体を乗っ取ったりしてしまった場合は・・・
考え事をしているオレを見ながら、レイナは少しだけ残念そうな表情を浮かべた。