戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第十八話:魔神剣

この数日、オレは毎日のようにリプリィール山脈に分け入っている。鍛冶屋から依頼をされた素材を手に入れるためだ。

 

『・・・この石を探してくれ。なかなか手に入らないんだ・・・』

 

ところどころが白く輝く灰色の石だ。”金剛石”と呼ばれるものらしい。山肌の表面ではまず見つからないらしいので、オレは貫通力のある魔術を使って山を穿ち、採石をした。最初はなかなか目当ての石を持ち帰ることが出来ず、鍛冶屋が腹を立てていたが、四日目に目当ての石が眠る鉱床を見つけた。オレはひたすら、そこから石を運んだ。

 

『まったく・・・休むのかと思っていたら、いきなり穴掘りなんかして・・・私の修行はどうするの?』

 

レイナは文句を言っていたが、理解はしてくれているようだ。オレが石を集めている間、襲ってくる魔物をレイナが撃退してくれる。オレを真似たのか、致命傷を与えずに撃退するやり方をしているが、殺意を持って襲ってくる相手を殺さずに退けるのは、殺す以上に難しいものだ。殺してしまった魔物は、皮や牙などの素材を回収し、残りは炎で炭にする。素材は、街の酒屋で酒と交換し、その酒を持って鍛冶屋に行く。そんな生活が十日近く続いた。

 

 

 

『・・・その昔、剣と使い手は一体のものだった。使い手が剣を選ぶように、剣も使い手を選んだ。特に、名剣と呼ばれる一振りは、使い手が少なく、なかなか売れないモノだった・・・』

 

まるで水のように酒を飲みながら、男はドワーフ族や鍛冶について語る。酒が入ると饒舌になるというのは本当らしい。もっとも飲む量も速さも並みでは無いため、用意した酒はすぐになくなってしまうが・・・

 

『・・・ドワーフ族は各地にいるが、大抵は山中や山の麓で生活をしている。北の方に行けば、かなりまとまった数で村をつくっているらしい・・・』

『機会があれば、一度、訪ねてみたいと思います』

 

男は頷くと仕事に戻っていった。用意した二つの甕は、綺麗に空になっていた。

 

 

 

この数日間は、剣の修行に集中している。襲ってくる魔物を撃退するには剣のほうが良い。だがそれ以上の理由として、”ツキノモノ”がきたからだ。彼が言うには、ツキノモノが来ると、精神活動が変化をする。魔力が安定しない間は、剣の修行に集中した方が良いそうだ。フローノの街でもそうだったが、あれだけ精を受けながら、子が出来ることは無かった。ホッとしながらも、不思議にも思った。悩んだ挙句、彼に相談をしたら、彼は笑いながら言った。

 

『オレは魔神に転生をするときに、子が出来ないようにしてもらったのだ・・・』

 

なぜそんなことをしたのかと問うと、彼は言った。

 

『魔人は半永久的に生きる。子に、先立たれたくはないだろう?』

 

胸の奥が痛む。そう、彼は魔神、私は人間・・・ 彼は悠久の時を生き続け、私は老い、そして死ぬ・・・

 

 

 

依頼をしてから二十二日後、剣が仕上がった。レイナは護衛の役目があるため、オレは独りで、鍛冶屋を訪れた。オレの目の前に、鞘に納められた一振りが置かれる。想像以上に大きかった。中剣と大剣の間ぐらいの大きさだ。柄には白黒二色の糸が交互に巻き付けられている。

 

『・・・金剛石とリエン石を使った。より高温を得るために、焔は全て神木枝を燃やして創った。石が硬いため、通常より倍の焼入れが必要だった。柄の部分には、白黒の魔術糸を使っている。相反する二つの属性を融合させる縫い方をした。ドワーフ族に伝わる業だ。どれほど激しく振っても、糸が切れることは無いだろう・・・ 鞘は、竜族の木を彫りあげ、雅地龍の血液に浸して乾燥させることを三度繰り返した。仕上げに、雅地龍の皮革を巻き付けてある・・・』

 

痩せて一回り小さくなった男が饒舌に語る。どうやら興奮しているようだ。柄を掴み、鞘から抜く。フィィィンという心地よい音が聞こえる。刀身は白銀に輝いている。剣格(柄と刀身の間)の部分には、黒い珠が埋め込まれている。

 

『・・・その黒い珠は”魔神の神珠”を加工したものだ。あらゆる属性を剣に与える。本来、剣には属性があるが、その剣は、お前の魔力を受けて自在に属性を変えることが出来る。相手に応じて、その珠に魔力を注入しろ・・・』

 

大抵の魔物には、弱点となる属性がある。物理的攻撃を受けつけない霊体であっても、神聖属性の攻撃であれば効くのだ。この剣であれば、どんな魔物でも切ることが出来るだろう。”真に万能”の剣と言えた。

 

『素晴らしい出来です。早速、試しても宜しいでしょうか?』

『・・・その前に、剣に名を与えてやってくれ。それでその剣は、お前のモノになる・・・』

 

暫く考え、オレは剣の名を決めた。

 

『クラウ・ソラス・・・ 魔神剣クラウ・ソラスと名付けたいと思います』

 

オレは鍛冶屋の前で、背中に負ったクラウ・ソラスを抜き、天を見上げた。空は今にも振り出しそうな濃灰の雲で覆われている。扉の前では男が腕を組んでオレを見ている。オレは剣に魔力を込めた。暗黒属性の魔力である。その美しさを変えることなく、剣は暗黒の気配を放った。

 

『オォォォッ!!』

 

飛び上がったオレは、天空に向けて斬撃を放った。暗黒の剣撃が昇竜のように駆け上り、分厚い雲を真っ二つに断ち割る。剣撃は更に上り、おそらくは宇宙まで届いただろう。凄まじい破壊力であった。この剣であれば、神をも一撃で屠れるに違いない。

 

『・・・・・・』

 

男が眉を上げて天を眺める。オレは魔神剣を背に収めた。その姿を見た男が、満足そうに頷く。

 

『・・・その剣はお前のモノだ。オレはしばらく、剣を鍛つつもりは無い・・・』

 

店内に姿を消した男に向けて、オレは頭を下げた。いつの間にか、雨が降り始めていた。

 

 

 

今夜も、彼は剣に語りかけている。自分が転生をしたこと、龍人族の村での修行、魔神との邂逅、そして私との日々・・・ 隠すことなく全てを剣に語っている。光の反射の為だろうか?時折、剣が光る。彼は剣に語り、そして剣に尋ねる。お前はどう使われたい?オレにどんな力を求める?剣が応えるはずもないのに、彼は嬉々として剣と会話をしている。私の知らなかった彼の一面だ・・・

 

 

 

ディアンが手に入れた剣は、誰が見ても名剣、あるいは魔剣と思わせる存在感を放っていた。

 

「使い手を選ぶ」

 

それは、レイナも一目見て理解できた。ディアンは誰にも触れさせるつもりは無いようだが、レイナも触れたいとは思わなかった。美しい剣だが、およそ人に扱える剣とは思えない。神々しいわけでも禍々しいわけでもない。しいて言うなら”畏ろしい”という存在感だろうか。見ただけで触れてはならない存在だと、相手を畏怖させる力を放っていた。

 

 

 

夜、目を覚ました私は、気怠さの中で身を起こした。男の寝顔を見る。この旅が始まる前までは、女であることを捨てていた。まして男に抱かれるなど、あり得ないことだと思っていた。だが、この男に出会って私は変わってしまった。貫かれるたびに、私の躰はこの男に染められていった。いまでは、積極的に抱かれている。それで良いと私自身が思ってしまっている。

あと数日で、レミの街を離れ、アヴァタール地方に戻る。レンストの街に戻ったら、この男との関係はどうなるのだろう?これまでの男の言動を考えても、旅の間だけの使い捨てにするような男ではない。レンストの街でも、男は私を求めてくるだろう。そして私は、喜んで躰を開くだろう。背を護る頼もしい相棒として、激しく求めあう恋人として、共に生きられるならどれだけ幸福だろうか・・・

 

しかしこの男は魔神なのだ。生きる時が違い過ぎる。いつか私たちは離れ離れになる日が来る。

 

『・・・どうして、あなたは魔神なの・・・』

 

男の寝顔を見ながら、私はすすり泣いた。

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