戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
ブレニア内海は東西に長い内海である。東の港街エリュアから、西の港町ミルフェまで、高速の帆船でも一週間から十日は掛かる。千年前、七魔神戦争によって形成されたこの巨大な内海は、アヴァタール地方のみならず惑星全体の環境に影響を与えた。季節風が変化し、降るべきところに雨が降らず、本来降らないところに雨が降るようになる。多くの種族たちが、その気候変動の影響を受けた。神々の戦争とは正に、星全体を巻き込むものだったのである。
しかし、その大戦争から千年の平穏が過ぎれば、新しい環境に適応した生き物たちが、それぞれの生を謳歌するようになる。特に、ヒトの力は逞しい。寿命が短い代りに繁殖力と好奇心が強く、何より不屈の精神力を持っている。未踏の土地を冒険する者、未開の土地を切り開く者・・・千年の時を経て、ヒトはラウルバーシュ大陸全域に進出していた。
レンストの街を出て三日目、リタ行商隊はブレニア内海南東の沿岸部にある「塩業村ドゥラハの村」に到着をした。村人の多くが塩業に携わっている。塩は通常、仲買人が各村と交渉して塩を買い集め、行商人は仲買人から買う。これは塩業の性質からだ。塩業は天候に左右される産業である。一方、行商人は安定した仕入れを希望する。そこで仲買人が塩を集め、常に一定量を確保するようになった。一括購入をする仲買人は、個別で交渉をする必要が無いという利点を塩業者にも与える。塩業者、行商人の双方に利益をもたらすのが仲買人の存在だ。
今回、リタはあえて、仲買人を飛ばして塩業者から直接仕入れようとしていた。この数日間は天候に恵まれ、塩が大量に生産をされている。一行商人が希望する量程度なら、確保できると踏んでいたのである。その予想は的中した。
『ニッシッシッ!思った通り、塩が大量に余っているそうです。通常仕入れ値の八掛け、いや七掛けはいけるかもしれません。クヒヒッ!』
口元に手を当てて笑う様子は、悪徳業者にさえ見える。黙っていればそれなりに可愛らしいことと、邪気が無いところが救いだ。個々の塩業者と指を折りながら価格交渉をするリタをおいて、オレは海岸線からブレニア内海を眺めた。
『こうして観ると、やっぱり広い海ね・・・』
レイナがオレの横に立つ。海風に吹かれ、金色の髪が靡く。オレは再び海を見つめ、思索の中に入る。この海を生み出した、千年前の七魔神戦争を考える。七魔神戦争は、七柱の古神を封印するために現神がこの地に降り立った、神々の戦いである。
オレは思う。その時の神々の視界の中に、その下で生きる数多の生き物たちは、入っていたのだろうか?こんな内海を生み出すような戦争である。多くの生き物が死んだはずだ。その後の気候変動によって、絶滅した種もあるかもしれない。曲がりなりにも「神」でありながら、彼らはそのことを思い遣っていたのだろうか?現神は、いまも神骨の大陸で暮らしている。彼らは責任を感じないのだろうか?全ては古神が悪く、自分たちに責任は無いとでも思っているのだろうか?我々は神だ、だから許されると思っているのなら、傲慢極まりない・・・
レイナがオレを見つめる。いつの間にか、考えが口に出ていたらしい。
『すまない。もの想いに耽っていた・・・』
『ううん・・・ そんなことを考える人って、たぶんあなただけよ?現神の教えの中で暮らす人間は、そんなことは考えない。でも面白いわ。あなたはやっぱり、人間なのね。本当に魔神なら、戦いの犠牲になる生き物のことなんて、考えもしないだろうから・・・』
オレは笑って話題を変えた。
『そういえば、この街にも浴場があるらしいぞ。個室もあるだろうから、明日、行ってみるか?』
レイナは嬉しそうに頷いた。
『交渉は今日中に終わらせてしまいますが、荷車に積むには、甕に入れて油紙で蓋をする必要がありますので、出発は明後日になります。宿を確保しましたので、そちらにお泊り下さい』
リタに希望していた通り、オレは一人部屋を貰った。ムサい男たちと相部屋など我慢できない。部屋に入ったオレは早速、八か所の角に印を描いた布を張る。ブレアード・カッサレの研究書の中に見つけた「歪魔の結界」という術式だ。歪魔の結界は、立方体八か所の隅に術式を貼ることにより、異空間の結界を構成することが出来る。といっても、魔物の侵入を防ぐというような代物ではない。私的空間の保護の為の術式だ。結界を作動させれば、外部からは内部の様子を見ることも、音を聞くことも出来ない。この術式を発見したのは、レミの街からレンストの街に戻る途中だ。
テントに貼れば、外を気にすることなくレイナを抱くことが出来る・・・
そう考えたのだが、この術式には欠点があった。中の音が外に漏れることがない代わりに、外の様子を知ることも出来ない。つまりレイナを抱いている時に魔物に襲われたとしても、オレたちは気づくことが出来ないという欠点だ。ブレアードはそのことについて、こう書いている。
・・・これは良い利点だ。外の雑音を気にせずに、研究に没頭できる・・・
あぁ、そうだろうよ・・・
前回の行商では、女性は私一人だったので宿は常に一人部屋だった。だが今回は、リタと相部屋である。一人部屋だと思っていた私に、リタは当たり前のように言った。
『一人部屋を二つ取るより、相部屋のほうが安いから・・・』
私はため息を何とか堪えた。彼は一人部屋だ。きっと結界を張って、私を待っている。結界によって、私は隣部屋を気にすることなく、好きなだけ声を上げることが出来るようになった。そのためか、自分でも驚くくらいに、奔放になった。彼と一緒に声を上げ、愉悦を求め合う。でもリタと相部屋であれば、そんなことは出来なくなる。彼の部屋に行くから、とは言えない・・・
『ニヒヒッ これは思った以上に利益が出そうですよぉ~』
彼女は上機嫌で算盤を弾いている。彼との愉悦は明日までお預けだ。でも彼に伝えなくて大丈夫だろうか、待ってはいないだろうか・・・
多分待っている、大抵は読書か剣と話しをしている、彼は魔神だから寝なくても大丈夫・・・
うん、このまま寝よう。そう考えると、私の気持ちはスッキリした。服を脱ぎ、布で身体を拭う。リタの視線に気づいた。自分の胸元と私を交互に見ている。不機嫌そうな表情だ。
『ぐぬぬぬっ・・・ 現神は不公平です。私にはこの程度で、他人にはあんな破廉恥な身体を与えるなんて・・・』
私は首を傾げた。
結局、彼は一晩中起きていたらしい。飛行魔法の研究書を読んでいたから気にしていないと言っているが、本当は私を抱きたかったに違いない。幾度も肌を重ねることで、彼の思っていることが何となく解るようになった。この街では仕入れだけだから、今日は完全な休日だ。浴場の個室を取り、レンストの通貨を支払う。それなりの値段だが、ほとんどお金は使っていないので、手持ちはある程度ある。何より、彼との一時のためなら、惜しくはない。
結界を張った個室は、どんなに声を上げても安心だ。外から覗かれる心配もない。夕暮れまでずっと、この中で二人きり・・・ まずは口と胸で彼を悦ばせてあげよう。その後は、私が悦ばせてもらう番だ。浴槽に腰かける彼の前に、私は跪いた・・・