戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~ 作:Hermes_0724
第一話:転生
突然のことだが、オレは死んだ・・・らしい。
大学時代に会社を興し、これからカネ儲けだ!と息巻いていた時に、いきなり死んだ。理由?知らん。夜寝てたらいきなり死んだ。つまり突然死ってやつだ。
ガキの頃から、とにかく女好きだったオレは、オンナの生態をとにかく研究した。といっても、本やドラマを通じてだが・・・
「顔が良くて、カネ持ち」
これが彼女たちを惹きつける要素らしい。灯りに群がる蛾のように、オンナたちはそうした条件のオトコに群がってくる。勿論、そうでは無い女もいるようだが、その数は限りなく少ない。まあ、どんな生物にも「突然変異」はあるからな・・・
だからオレは、カネ持ちになることを目標とした。オンナを最も惹きつけるものがそれだからだ。
「人に使われている限り、カネ持ちにはなれない」
そう考えたオレは、大学時代に起業をした。スマホのゲーム・アプリを開発する会社だ。最初は鳴かず飛ばずだったが、3年目にそこそこのヒット作を出すことが出来た。
それで得たカネで人を雇い、開発力を高めた結果、5年目には大ヒットと呼べるアプリを出すことができ、大手の仲間入りをした。
カネが入ってくれば、当然、当初の目的を達成するために使う。連日のように夜に繰り出して遊び歩いたのが祟ったのか、オレは突然死を迎えたわけだ。
漆黒の闇の中で意識を取り戻したオレは、最初は夢かと思った。しかし妙に意識がハッキリしている。六本木のキャバクラからお持ち帰りしたオンナと寝ていたはずだが、ベッドに横たわっている感じではない。まるで宙に浮いているような感覚だ。
恐怖心が湧き上がってきたときに、目の前にいきなり、ソイツが現れた。背中に翼を生やし、月明かりのような青白い光を放っている。顔は・・・まぁ厨二くらいの可愛らしい女の子だ。あぁ、やっぱりこれは夢だな、とオレは思った。
『御晩でやんス。私、死を司る大天使サリエルと申しまス』
『・・・サリエル?』
『ハイハイ、創造主の御前に出ることを許された12の大天使(アークエンジェル)の一人でス』
『つまり、まぁ、偉いヤツってことだな。それにしては砕けた口調だな』
厨二・・・ではなく大天使サリエルは、目の前でクルッと回転すると、申し訳なさそうな表情で、オレに話しかけた。
『え~ 本来は、ワタシ自身がこうして出てくることは無いんでやんスが、今回はちょっと事情がありまして…』
まぁそうだろう。死を司るといっても、地球だけでも毎日膨大な”死”がある。いちいち大天使が出ていたら交通渋滞を起こすに違いない。それにしても・・・オレは死んだのか?オレの疑問に気づいたのが、サリエルは明るい口調で言った。
『ハイ、あなたは確かに、死んだでやんス。コロッと♪』
『・・・そう言われても、別に交通事故にあったわけでも、誰かに刺されたわけでもないが・・・』
『ん~ 実は~ それが問題でやんシて…』
サリエルの話によると、どうやら手違いでオレは死んだらしい。百万年に一度あるかないか、という確率だそうだ。オレは怒る気にもなれなかった。どうせ夢だ。
『神ってのは完璧なんじゃないのか?なんだソレ?シックス・シグマみたいな確率だな…』
『え~・・・何と言われても…申し訳ないとしか言えないでやんス(汗)』
大天使の申し訳なさそうな表情で、オレの自尊心は満たされた。もう十分だ。
『なかなか楽しい夢だったよ。さて、そろそろ目覚めようか。オンナを抱きたいんでね』
オレは夢から覚めようと意識を集中させた。しかし、何の変化も無い。オイオイ・・・サリエルは首を傾げながら、こちらを興味深そうに見ている。
『えっ…と、あの、さっき言ったように、あなたは死んだでやんス。これは夢じゃないでやんス』
『・・・冗談だよな?これは夢なんだろ?』
『夢じゃないでやんス。こちらの手違いで、あなたは確かに、死んだでやんス』
『・・・おい・・・ふざけるなっ!!』
『ひっ・・・』
オレはようやく、事情を理解した。この理不尽な死に対して、怒りをぶつけた。サリエルはビックリしたように、両手で頭を抱えた。オレはひとしきり、サリエルに向けて文句をぶつけたが、やがて怒りも収まり、冷静になってきた。
『はぁ…死んだのか。それも手違いで・・・で、オレはどうなるんだ?』
『あ、ハイッ!そこで、アッシの出番なんでやんス!』
サリエルはホッとした表情を浮かべると、説明を始めた。
『え~ 今回はこちら側の手違いですので、貴方様には選択肢が与えられるでやんス。一つ目、このまま死を受け入れて、魂の安らかなる平穏を・・・』
『話にならんな!』
『さ、最後まで聴くでやんス!二つ目の選択肢は、速やかに命の転生をすることでやんス。
これまでの記憶などは全て無くなりますが、人間として再び、生まれ変わることがでk…』
『アホらしい。却下だ!自我が無いのでは、死んだのと同じだ!』
『で、では三つ目の選択肢・・・現在の記憶や自我を持ったまま、転生をする。ただし、この世界ではなく、並行世界での転生となるでやんス』
『・・・興味深いな…詳しく聞かせてもらおうか』
サリエルの話によると、創造主は幾つもの並行世界を設計し、互いに影響を与え合うようにしているらしい。そのルールは”我思う、故に我在り”、つまり人間が想像する世界が、新たな世界を生み出し、その世界が更に別の並行世界を生み出していく・・・という仕組みだそうだ。何とも壮大な話である。
『なるほど、要するに、量子力学か…』
『主は人間に対してのみ、その力を与えたでやんス。”可能性の結晶””運命を切り開く力”とアッシらは呼んでいるでやんス♪』
『いいだろう。三つ目の選択肢で進めよう。どの世界に転生するのか、選ぶことは出来るのか?』
『この中から選ぶでやんスッ♪』
目の前にタイトルが並ぶ。何か電子的だが、サリエルが気を利かせて、人間に合わせたのだろう。オレも知っている世界もある。グリム童話のような御伽噺の世界などだ。その中で、あるタイトルに目が留まった。
『ディル=リフィーナ…』
『この世界は、ちょっと面白いでやんス。可能性の結晶を持つ人間が、ついには並行世界への扉を開き、二つの並行世界が一つに併さってしまった世界でやんス。その結果、科学と魔法とが混在する世界になってしまったでやんス。ヒトの可能性は驚きでやんス』
『もう少し、詳しく話してくれ…』
サリエルの話によると、どうやら「ファンタジー・ゲーム」の世界らしい。人間の他、エルフやドワーフ、天使や悪魔、魔神なんかもいるそうだ。どこから取り出したのか、画像付きで解説をしてくれた。科学文明世界で生きてきたオレにとって、楽しめそうな世界に見えた。そして・・・
巨乳のエルフは、どんな”味”がするのか…
そう思うだけで、オレは少し、興奮した。
『よしっ!このディル=リフィーナに転生しよう』
『転生にあたっては、アッシに出来る範囲で、希望を聞くでやんスよ♪さすがに”不死”などは無理でやんスが、性別や年齢、種族、あとは才能や資質、転生する時代なども希望を聞くことが出来るでやんス♪』
方向が決まったため、サリエルは上機嫌になったようだ。こちらとしても、有り難い。
『では、その言葉に甘えて、幾つか希望を出す。出来ない場合は、ハッキリそう言ってもらって構わない』
『ハイハイ♪』
『一つ目は、魔神として転生したい。ヒトの寿命はせいぜい百年だが、魔神なら半永久的に生きられるんだろ?』
『フムフム、魔神・・・と・・・え?良いでやんスか?ヒトとして生きることも出来るでやんスよ?』
『希望は魔神だ。で、二つ目はその能力について・・・』
『うぅっ!”可能性の結晶”の力を知らないのは、ヒトだけでやんス…』
『聴いてるのか?能力は、このディル=リフィーナ世界の主神・・・アークなんたらの百倍くらいは欲しいな…』
『無理でやんス。アッシの力を超えているでやんス。せいぜい十倍くらいが限界でやんス』
『・・・DBの神龍みたいだな(笑)わかった。十倍で構わない。ただ、保有スキルは、全魔法および全剣技を身につけられるようにしてくれ』
『全魔法、全剣技を・・・身につけられるように?』
『ああ、最初から持っている必要は無い。オレが自分で努力して身につける』
『はぁ…変わった趣味でやんスねぇ~ひょっとして、Mでやんスか?』
『・・・新しい生を愉しみたいだけだ。で、三つ目は外見だが・・・』
こうして、オレはサリエルに希望を述べていった。外見も頭脳も厨二くらいにしか見えないサリエルには、事細かく注文をし、確認をしておく必要がある。かなりの長時間となったが、サリエルは忍耐強く、注文を聴いてくれた。それに対しては素直に感謝をした。
『さて、これが最後だ。転生する時代と場所だ』
『重要なことでやんス』
『サリエルの話によると、この世界はまだ「集落社会」だそうだな。これから国家が誕生してくるだろうから、その辺の時代にしておいてくれ。それで場所は・・・いきなり街中で転生したら周りも驚くだろうから、人目のつかないところ・・・このラウルバーシュ大陸の森林地帯、ディジェネール地方とやらにしてもらおうか・・・』
『了解したでやんス♪以上、すべてそろったでやんスか?』
『最後に聞いておきたい。もう、サリエルと会うことは無いのか?』
『・・・貴方が死んだときに、会うかもしれないでやんス。それまで精一杯、命を燃やすでやんスよ!』
『最初は怒ったが、今ではお前に会えて良かったと思っているよ。ありがとう』
サリエルは少し微笑んで、両腕を天に掲げた。
『さぁ!新たな世界への転生でやんス!ディル=リフィーナへ!!』
サリエルを中心に、強い光が広がる。オレは輝く光に包まれ、思わず目を閉じた。