戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第二十九話:繋ぎ留める者

神と魔神の戦い・・・

 

その不安が私の心の中に広がる。彼は剣を持って行かなかった。神が相手となれば、かつて会った「はぐれ魔神」の比ではないだろう。まして場所は神殿、相手の勢力内だ。彼は自ら、虎口に飛び込んでいったのではないか・・・

グルグルと不安に悩まされ、彼の帰りを待ちきれなくなった私は、居ても立っても居られずに立ち上がった。

 

彼を助けに行かなければ・・・

 

私は腰に自分の剣を指し、彼の愛剣を背負った・・・

 

 

 

 

ヒトにもう一度、ルネサンスを起こす・・・

 

オレは水の巫女にそう告げた。これまでの旅から、現神とそこで生きる人々の様子は見えた。この世界の人々は、何の疑いも無く現神を信仰している。彼らがそれで幸福なら、それでも良い。だが実際は、多くの不幸を生んでいるのだ。

 

現神は、自分を信仰する者のみを幸福にしようとしている。単なる選民思想ではないか・・・

 

『・・・あなたはいつ、その考えを抱いたのですか?』

 

水の巫女がオレに尋ねてきた。旅で会ったスティンルーラ族たちの言葉を思い出す。「闇夜の眷属」と烙印を押され、光の中で生きられなくなった人々を思い出す。現神の在り方そのものに疑問を持ち、それを変えようとして魔人となったブレアード・カッサレの想いを考える・・・

僅かな期間の旅の中でも、そうした不幸を見てきた。オレは水の巫女にそのことを伝えた。ヒトは皆、誰しも自由に想いを馳せることが出来るべきなのだと・・・

 

『・・・気づいていますか?あなたは今、ブレアード・カッサレと、同じ途を歩もうとしています。彼はどうなりましたか?』

『オレは魔神だ。最初から神の肉体と力を持っている。ブレアードとは違う・・・』

『いいえ、あなたも気づいているはずです。確かに、彼らは光から追われた存在かも知れません。でもその状況を改めるのは、他ならぬ、彼ら自身の手によってでなければならないでしょう。あなたは以前、スティンルーラ族の女性に言ったではありませんか。「現状が嫌なら戦え・・・」 それはヒト全体に言えることではありませんか?』

『・・・・・・』

『あなたは魔神です。ブレアード・カッサレよりも上手くいくかもしれません。ひょっとしたら成功するかもしれません。でも仮に、それでヒトが神から自由になったとして、「誰かの手によって与えられた自由」など、ヒトの為になるのでしょうか?』

『・・・ではこのままで良いと、あなたは言うのか?』

『・・・いいえ、ヒトは神の家畜ではありません。ヒトが己の道を歩む土壌は必要でしょう。ですが、急進的な変革は、必ず大きな歪みを生み出します。あなたがやろうとしていることは、改革でも進歩でもありません。破壊的な革命です・・・』

 

オレと水の巫女を視線を合わせた。龍人族の長老の言葉を思い出す。

 

(・・・物事は決して善悪で区別できるものではなく、灰色の濃淡によって分けられる。ドワーフにはドワーフの生き方、エルフにはエルフの生き方がある。何人にも、それを侵す権利は無い・・・)

 

『・・・ヒトにはヒト、神には神の生き方があるか・・・』

 

オレがそう呟いた時、バタンッという音が響いた。音のほうを見ると・・・

 

神官を剣で脅しているレイナの姿が見えた。

 

 

 

 

リタが止めるのを押し切り、私は馬に飛び乗った。急ぎ神殿に向かう。驚いている神官に剣を突きつける。

 

『ディアン・ケヒトはどこだ?』

 

両手を挙げている神官に案内をさせる。昨日の中庭ではない。もっと奥にいるようだ。私は脅して、神官の足を急がせる。扉が開かれた。光が私の眼を眩ませる。大きな泉の中央に、彼と神が立っていた・・・

 

 

 

 

レイナがオレの胸の中で震えている。どうやら余りに不安で神殿まで駆けつけてきたようだ。

 

『話をするだけだと言ったじゃないか・・・』

『でも・・・でも、あなたは・・・』

 

魔人であるオレが神と会う。それだけで不安を引き起こす。言われてみればその通りだ。実際、オレ自身もその覚悟はしていたのだから。だからオレは彼女を責めることはしない。事情を知る者にとっては、不安に駆られて当たり前なのだ・・・

 

 

 

 

私は目の前にいる金髪の美しい女性を見ていた。最初は殺気だっていたが、いまは魔神の胸の中で、安心した表情を浮かべている。そして、それは魔神にも言えた。

 

(彼は、こんな表情を浮かべるのか・・・)

 

胸の中にいる彼女の頭を撫でる魔神の表情は、「最愛の恋人に向ける顔」そのものに見えた。短い時の中で、精一杯に命を咲かせる人間が見せる、素晴らしい貌。魔神であるこの男が、その貌を見せている。彼は気づいているだろうか。彼女の存在によって、どれほど救われているかということを・・・

 

『レイナ・・・この地に住む神・水の巫女殿だ・・・』

 

彼女は弾かれたように男の胸から顔を上げ、その場で片膝をついた。

 

『これは・・・大変ご無礼を致しました。私めは、アヴァタール地方東域出身の剣士レイナ・グルップと申します。あろうことか神官殿に剣を突きつけてのこの乱入、全ては私の一存で行ったこと。いかなる罰でも、お受け致します』

 

まるで男のような口調で、私に詫びをしてくる。きっと腕も立つのだろう。私は首を振った。

 

『お立ちなさい。いきなり呼び立てたのは私なのです。私の配慮が足りませんでした。周りから見れば、誤解をするに十分だったのでしょう。こちらこそ、お詫びします・・・』

 

 

 

 

レイナを扉の向こう側に下がらせたオレは、再び、水の巫女と向かい合った。

 

『巫女殿、オレの考えは変わらない。ヒトは神から独立して、自らの足で歴史を歩むべきだ。だが、あなたの言うことも正しいのだろう。神からの独立は、ヒトが自らの力で成し遂げるべきであり、ヒト以外の力で成し遂げてはならない、そう言いたいのだろう?』

『あなたは半分はヒト、でも半分は魔神です。最初にした質問、ヒトなのか魔神なのか・・・ どちらの貌で、あなたがこの世界に関わるつもりなのかが、不安でした。私はあなたに、ヒトの貌で生き続けて欲しいと願っています・・・』

 

オレはため息をついた。ヒトだからこそ、自らの願いを求めて精一杯に命を輝かすことが出来る。半分は魔神であるオレは、どのように生きたら良いのだろうか・・・

 

『・・・もう少しだけ、この世界を観てみるよ。そうだな・・・あと五百年かな・・・』

『無限の時間がありながら、何を為せば良いのかが見えない・・・辛いでしょうね・・・』

『・・・それも、オレが自分で選択した結果さ・・・』

 

その会話をもって、水の巫女との会談は終わった。オレは一礼をすると、扉の向こうで待つレイナと合流した。彼女から愛剣を受け取り、背負う。扉が閉まる前に、振り返る。水の巫女はじっと、オレを見続けていた・・・

 

神殿を出たオレは、大きく伸びをした。レイナは神官に何度も詫びを言っている。当然だ、あとで思いっきりお仕置きをしてやる。だがその前に・・・

 

『腹減ったな・・・ 朝食、まだ残ってるか?』

 

彼女は大笑いした。

 

 

 

 

彼が扉の向こう側に消えた後、私は独り、瞑目をした。

 

(危うい・・・)

 

あの魔神には、共に歩む人間がいる。彼が独りきりであったら、とうに魔神になっていたかもしれない。彼女の存在が、黄昏の境界に彼を留めている。彼女こそが、彼をヒトの側に繋ぎ留める者なのだ。だが、そのロープは一本しかない。もし、彼女が死んだら・・・

 

(レイナ・グルップが死んだら、ディアン・ケヒトは最悪の破壊神になるだろう・・・)

 

そのための準備をしておかなければならない。何百年後かには、彼に伍する存在が現れるかもしれない。彼と同じく、ヒトの魂と神の肉体を持つ存在が・・・

破壊神と戦える力、それを受け入れる土壌を創っておく必要がある。私は神官への神託を下した。

 

『・・・国を創りましょう・・・』

 

 

 

 

彼からの「甘美なお仕置き」の後、彼は私を抱きしめてくれた。いつもと少し様子が違う。彼は私の抱きしめて、こう言ってくれた。

 

『レイナ・・・お前がいてくれて、本当に良かった・・・』

 

私の「存在自体」を受け入れてくれる彼の言葉に、私は嬉し泣きをした。彼はきっと、私の想像もできない悩みを抱えている。人間でありながら、魔神として永遠に生き続ける。それはきっと、とても辛いことなのだろう。だから、私が共に歩む。私が少しでも、彼の癒しになるのなら、それだけで私は幸福なのだ・・・

 

 

 

 

後日、神官に神託を下した私に、彼らから意外な問いかけがあった。

 

『・・・国の名前、ですか?・・・』

『はい、巫女様・・・国を創る以上、名前が必要です。プレイアというのは街の名前ですし・・・』

『・・・わかりました。考えておきましょう・・・』

 

これまで名前など、考えたことも無い。私自身にすら名前が無いのだ。水の巫女とは、彼らが呼んでいる名前に過ぎない。私は少し考えた。

 

(そうだ、あの者の名前を貰ってはどうだろうか・・・)

 

四百年前、「運命を切り開く力」を発現して、この大地を生み出した独りの男。彼亡き後、その名も忘れ去られ、いつの間にか私がこの地を創ったことになっている。それもまたヒトの歴史と思い、何も言わずにいたが、私を生み出してくれたのだ。国の名前に彼の名を貰うくらいは良いだろう。たしか、彼の名前は・・・

 

 

「アレックス・レウィニア」

 

 

だったと思う・・・

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