戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第三十話:リタの店

プレイアの街に到着して三日目になった。昨日までは土着神「水の巫女」との対談でそれなりに刺激的であったが、三日目になると暇を持て余すようになる。レイナと終日過ごすのも悪くないが、部屋の中に居続けても鬱屈するだけなので、リタの物件探しに付き合うことにした。

 

『うーん・・・悩むねぇ~ 城門近くにするか、大通り沿いにするか、それとも中央広場にするか・・・』

 

リタはブツブツと呟きながら、物件を見て回る。後代のプレイアの街は、南北両川を堀として防衛機構を高めつつ、中央広場を中心に放射状に街が広がる大都市になるが、この時点では都市計画そのものが不十分であり、どの場所に出店をしても一長一短がある。

 

『ねぇリタ、やっぱり神殿近くの大通りが良いのではないかしら?人通りも多いし・・・』

『確かにいいんだけどねぇ~ ただ賃料が高いし・・・』

 

二人は物件を見回りながら、キャッキャとはしゃいでいる。女同士で買い物でもしているかのようだ。オレは黙って、街の様子を見ていた。プレイアの街は大きくなる。将来はこの大陸でも、最大規模の大都市になるだろう。この土地を切り開いたという男は、これほど豊かな土地になると想像していたのだろうか。ヒトの力というものは、時として神をも超えてしまうものだ・・・

 

『ディアン?あなたはどう思う?』

『そうだな・・・オレなら・・・』

 

オレは北門から中央広場に入る通りの角地を示した。神殿からは離れていて、賃料はそれほど高くない。

 

『えっ?どうして?この周辺は住居は少ないし、神殿からも離れているけど・・・』

『最も人が集まり、発展するであろう場所だからだ・・・』

 

プレイアは南北を流れる大河に挟まれ、行商人は河を渡る「渡し舟」を利用している。既に発展しているレンストからは、多くの行商人が、南の河を渡って来る。一方、北側の河には、東西に伸びる大街道が走っているものの、穀倉地帯であるバーニエの街から行商が来る程度で、それほど行商人の行き来は無い。

 

『今は渡し舟だが、近い将来間違いなく、この川に橋が掛けられる。現在、中原は国家形成期だ。あと三十年もすれば、東西にそれなりの大きさを持つ国家が出来るだろう。そうすればこの大街道は、大勢の行商人が通るようになる・・・』

 

何十両もの荷車と大勢の人々が行き交う、東西の大街道・・・街道と街を繋ぐ大きな橋・・・北門から街の中央広場を通り、南門に抜ける大通りが走る・・・南門からレンストなどの南部の都市に一直線に繋がる・・・

 

リタもレイナも、その光景を想像したようだ。

 

『この中央広場は、アヴァタール地方における、商取引の中心地になるだろう。大通りの角地は、将来は垂涎の物件になる。今のうちに抑えておいた方が良い・・・』

『・・・ニッシッシッシッシッ!!』

 

リタが口を抑えながら、いきなり笑い出した。すぐに神殿の行政府に向かう。どうやら決めたようだ・・・

 

 

 

『ぷはぁっ!いやぁ、自分の店を出すって思うと、酒も旨いねぇ~』

 

リタは上機嫌で黒麦酒を呷っている。どうやら相当な上戸のようだ。レイナもワインなどは飲めるが、それほど酒好きというわけではない。オレは付き合い程度に杯を傾けながら、リタに聞いた。

 

『ところで、何の商いをするんだ?』

 

リタの杯がピタッと止まる。

 

『い、いやぁ~まぁ~・・・ボチボチと・・・』

『・・・つまり決めていないんだな?』

『うっ・・・いや、私は行商人ですからね!そりゃ、食料や酒、あとは素材なんかを扱いたいと思っていますが・・・』

『・・・もう、すでにあるな・・・』

『ぐぬぬぬっ・・・』

 

人が集まる街には、当然、店が出来る。プレイアにも行商人街が出来ており、そこで大抵の必要物資は揃えられる。各地から運んだ雑貨店を開いたとして、どこまで繁盛するかは疑問だ。

 

『はぁ・・・ウリが無いんだよねぇ~ いくら私が「美人で綺麗で可憐な看板娘」だとしても・・・』

『・・・行商人から仕入れれば、結局は価格で負けるしな・・・』

『・・・いま軽く受け流しましたね?ねぇ、レイナ~ あなたがウチで働いてくれたら、きっと繁盛すると思うんだけど?』

『ゴメン、リタ・・・私、客商売は無理・・・』

 

ため息をついたリタは、思い出したようにオレの顔をみた。

 

『そういえば、プルノーさんが言っていたけど、ディアンは商売の才能があるそうね?』

『そうか?まぁ、オレだったらこうする・・・というのは、ないではないが・・・』

『なになに?教えて!成功したらお礼はするよ~』

『・・・礼ねぇ・・・』

 

オレはリタの顔を見て、胸元を見た。まな板よりは多少はマシといったところか・・・

 

『・・・あまり、期待できなそうだな・・・』

『・・・いま、思いっきり失礼なことを考えていたのでは・・・』

『・・・酒の肴程度にはなるか・・・』

 

自分がリタの立場であったらと想定し、オレは案を語った。

 

『オレだったら、両替商をやる』

『両替商?』

 

オレは黒麦酒のツマミとしている豆を三粒取り、机に置いた。

 

『プレイアがここだとすると、南にレンスト、東にはメルキア国の首都インヴィディアがある・・・』

『フムフム・・・』

『この三つの都市は、それぞれに街で使える通貨を発行している。この都市間で交易をしようとすると、それぞれの都市の通貨で、仕入れをしなければならない。だが、それを別の都市に売ったとしても・・・』

『・・・あぁ・・・なるほどねぇ~』

 

この三都市で行商をやろうとすると、三都市それぞれの通貨を持っていなければならない。つまり常に、多額の現金を持っておく必要があり、そんな力を持つ行商人は極めて稀なのが現状だ。大抵の行商人は、その街で売り、売ったカネを全て仕入れに回し、別の街に持っていくことをしている。だがこの方法では、物量によって価格が変動するため、損失を出すことも多いのだ。

 

『レンストやインヴィディアの通貨をこの街の通貨に両替する。その際に、多少の手数料を取る。行商人たちは、利益を見越した適正量を仕入れれば良く、残った通貨は再び、レンスト通貨やインヴィディア通貨に両替すればいい・・・』

 

リタは目を輝かせ始めた。

 

『まぁ実際にはそんなに簡単な話ではない。物価相場によって交換比率を変える必要もある。将来的には、三都市それぞれに支店を出し、相場などを見ながら交換比率を調整すればいい・・・』

 

通貨が誕生したばかりのこの世界では、こうした「金融」という概念が存在しなかった。リタが行商人だからこそ、その概念を理解できたのだろう。リタは盃をおいて、オレの話を書きとめた。

 

『・・・各地に国が出来れば、これまでのように行商人たちを狙った盗賊なども減少するだろう。これからは商いの時代だ。その時代においては、通貨を握った者が勝者だと思う・・・』

 

リタは色々と図を描いている。やはり商才は天才的だ。両替だけではなく、カネの貸し借りを促す商売、銀行まで考えているようだ。一通りオレの話が終わった頃合いに、レイナがリタに質問した。

 

『ねえ、リタ。お店は、何て名前にするの?リタの店?』

『それも難しいんだよねぇ。「リタの店」にすると、下手したら娼館と間違われそうだし・・・まぁ、私の苗字から付けようかね』

 

オレとレイナは首を傾げた。リタの苗字を聞いていなかった。その様子にリタも気づいたようだ。

 

『あれ?言ってなかったっけ?私の苗字・・・』

 

頷くオレたちに、リタは苗字を明かしてくれた。

 

『では、改めて・・・ リタ・ラギールです。ニヒッ』


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