戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第三十一話:バーニエの街

メルキア国建国当初、アヴァタール地方東域は無数の集落、豪族に分かれ、それぞれに小規模な勢力を形成していた。戦争、婚姻による合併、後継争いでの分裂を繰り返し、その戦乱は、実に五百年に渡って続いた。この地から戦争が消えるのは、ルドルフ・フィズ=メルキアーナから三十九代後の皇帝、ヴァイスハイト・フィズ=メルキアーナの登場を待たなければならない。

メルキア国始祖のルドルフは、湖に面した中規模豪族の跡取りとして誕生した。豪放な父親と優しい母親のもと、特に不自由なく幼年期を過ごした。野山を駆け回り、湖で泳ぎ、いたずらをして周囲を驚かせる腕白であったと言われている。ルドルフがいつ頃に、建国の志を持ったのかは明確な資料がないが、彼が十八歳の時に、後に正妻となる恋人「ヴェローチェ」に対して送った手紙の中に、当時の彼の一端が書かれている。

 

「・・・先日、ドワーフの職人が我が家に来ました。遥か北に住んでいたのですが、戦争によって住処を追われたそうです。我が家で数日過ごし、南へと旅立っていかれました。独りで旅立つその後ろ姿を見ながら思いました。何故、住み慣れた土地を一方的に追われなければならないのでしょう。「人は争うものだ」と簡単には言いますが、その争いによって多くの者たちが苦しむことになります。争いの無い世を創るには、どうしたら良いのでしょうか。私の心は、あなたと共にあります。ですが私の夢は、何に向けるべきなのでしょうか・・・」

 

 

 

宰相ベルジニオ・プラダは、当主ルドルフの自室にて、メルキア国の将来について話をしていた。およそ国家とは、統治者独りで運営できるものではない。統治者は、国家の理想と方針を示し、行政府にて中長期の具体的目標が立てられ、それに基づいて各省庁が実現の計画を立案するものである。つまり、統治者の理想と方針が、国家の命運を左右するといっても過言ではない。統治者が「我が身の幸福のみ」を考えれば国は傾き、「より多くの幸福」を考えれば国は栄えるものである。そしてルドルフは、明らかに後者であった。

 

『我が君、国の将来を考えますと、やはり穀倉地帯を抑えることは必須です。南方集落の制圧が終わり次第、西方の穀倉地帯に、軍を向けるべきと考えます・・・』

『つまり、バーニエを抑えるべき、ということか・・・』

 

ルドルフとプラダは、机上の地図を見ながら話し合いをした。

 

『バーニエは人口も多く、その西には内海に続くバルマ大街道があり、交通の要衝です。この地を抑えれば、西と北に自由を持つことが出来、我が君の理想にも大きく近づくと思われます』

『だが、先の戦にて民衆も疲弊している。南方集落は戦をせずに制圧できようが、バーニエを獲るとなると、大きな戦になりはしまいか?』

『バーニエの領主は暗愚だと聞いています。出来ることなら、戦ではなく調略で、バーニエを取り込むことが出来ないかと考えています・・・』

 

ルドルフとプラダの話し合いはその後もしばらく続き、幾つかの方針が決められた。一服中に、ルドルフは話題を変えた。

 

『そういえば、リザベルは息災か?』

『お陰様で体調も良く、三月後には出産の予定です』

『そなたが、ドワーフの娘を妻に持つと聞いたときは、驚いたぞ』

『この年で幼女のような妻を持ち、周りからも随分と冷やかされました』

『気にするな。妬いているだけだ。クレーマーにも、嫁を世話してやらねばならんな・・・』

 

ルドルフとプラダは、笑いながら僚友の話をした。

 

 

 

 

 

プレイアの街を出発したリタ行商隊は、東西に延びる大街道を通り、アヴァタール地方東域の入り口「バーニエの街」を目指していた。大街道であることから、盗賊などの危険は低く、護衛たちも気楽な気分で馬に揺られている。ディアンは北側の山々を見ていた。

 

『あの山の向こう側は、ルーンエルフ族が住む森「トライスメイル」です。独自の薬などを作っているそうなので、店を出したら、仕入れのツテを作りたいと思います』

『エルフは滅多に森から出てこず、人間と接触をしない排他的な種族と聞く。仕入など可能なのか?』

『初めから無理だと思っていたら、仕入れなんて出来ません!商人は、たとえ細い路でも、少しずつ太くしていくものなのです!』

 

リタ・ラギールが開いた店「ラギールの店」は、後にアヴァタール地方の各地に支店を構えるようになる。やがて「ラギール商会」として、アヴァタール地方から西方地域にかけて、商神セーナルの中央交易区を担う大商会となるのだが、この時はまだ、商才溢れる若い娘の夢でしかなかった。ディアンはリタの様子を眩しそうに見つめた。

 

 

 

 

バーニエの街は、人口八万二千人の大都市である。大街道沿いの開けた土地にある街で、穀倉地として、また東西の交易拠点として古来から栄えた街である。しかし、ムスカ・バーニエが現在の領主になって以降、その繁栄に陰りが見え始めた・・・

 

『こう言ってはなんですが、現在の領主は正直、あまり褒められたものではありません・・・』

『ほう?リタが他人を悪く言うとは、珍しいな・・・』

『強欲で女好き、自分のことしか考えない領主です。バーニエでも通貨を発行しているのですが、領主が勝手に発行して使ってしまうので、街ではプレイアやインヴィディアの通貨のほうが喜ばれます。出来れば立ち寄りたくないのですが、この街では黒麦酒が安く仕入れられるので、今後を考えると、ここで何泊かしなければなりません・・・』

『・・・まぁ、ある意味では、人間らしい領主ではあるな・・・』

 

日が沈みかける頃、リタ行商隊はバーニエの門をくぐった。

 

 

 

 

リタ行商隊は、酒場に併設された宿に宿泊をした。次の街はいよいよ、メルキアの首都インヴィディアである。レイナの表情も緊張している。オレはレイナを誘い、一階の酒場に向かった。酒場は宿泊者の他、近隣の住民や街を警護する兵士なども利用している。いつものことだが、レイナを伴うと必ず男たちが、嫉妬の視線を送ってくる。剣を背負っているオレが傍にいるため、これまではレイナに粉を掛ける奴などいなかったが・・・

 

『何故、私がお前たちの酌をせねばならんのだ?』

『いいじゃねぇか、ちょっと付き合えよ・・・』

 

手洗いから戻ると、レイナが複数の男に囲まれている。どうやら問題発生のようだ。オレはレイナの傍に寄った。

 

『何かあったのか?』

『えぇ、この人たちが・・・』

『なんだ?テメェは・・・』

 

男たちがオレを凄む。こういうのを「身の程知らず」と言うのだろう。オレは思わず失笑した。

 

『彼女はオレの連れだ。粉を掛けるなら、別の女にするんだな・・・』

『ふざけんなっ!』

『テメェ・・・俺達がムスカ様の直属警護隊だって知ってて言ってんのか・・・』

『知らんな・・・先ほどこの街に着いたばかりだ』

『なら引っ込んでろっ!』

 

男がオレの胸をどついた。レイナの顔色が変わる。店の中が静まり返り、周りの客も固唾を飲んでいる。オレは目を細めた。

 

『・・・先に手を出したのはお前だぞ・・・痛い目を見たくなかったら、さっさと帰れ・・・』

『うるせぇっ!!』

 

男がオレに殴りかかってきた。右手だ。オレは瞬間に抜剣した。男が気づいた時には・・・

 

男の右腕は、根元から消えていた。

 

『・・・ぁ・・・――ッ――――』

 

オレは他の男たちに剣を向けた。

 

『死にたくなかったら、そこで泣いている奴を連れて、さっさと出ていけ・・・』

 

顔を青くして、泣き叫ぶ男を連れて出ていった。

 

『迷惑を掛けた。他の客たちの支払いは、オレに回しておいてくれ・・・』

 

剣を納めたオレは店主に告げ、レイナを連れて部屋へと戻った。

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