戦女神×魔導巧殻 ~転生せし黄昏の魔神~   作:Hermes_0724

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第三十二話:バーニエの黒豹

酒場での一騒動があった翌朝、リタが血相を変えてオレの部屋に飛び込んできた。

 

『ディアンッ!アンタなんてことを・・・って、ハダカ?』

 

レイナは既に服を着ていたが、オレはまだ下穿きの状態だ。オレは特に顔色を変えることなく、服を着始めた。リタは顔を手で覆いながら、なぜか目を隠さずに話しはじめた。

 

『どうした?何かあったのか?』

『何かあったのかじゃないよッ!アンタ、昨日酒場で領主直属の人を斬ったんだって?』

『あぁ、向こうから先に手を出してきたんだ。お前の名前は出していないぞ?』

『そんなこと言っているんじゃない!早く逃げないと・・・』

『オレを捕えるって?そりゃ、無理だろ・・・』

『アンタ、判ってないよ。この街には、凄腕の警備隊長がいるんだよっ!』

 

その時、通り沿いから声が響いた。女の声だった。

 

『宿改めであるっ!』

 

リタは頭を抱えた。

 

 

 

 

鎧を付け、槍を持った兵士十名が宿を囲む。バーニエ警備隊長のグラティナ・ワッケンバインは、宿に向かって大声で告げた。

 

『宿改めであるっ!この宿に昨夜、傷害事件を起こした者がいると聞いた。大人しく出てくれば、手荒な真似はしないっ!』

 

一気に告げたワッケンバインは心の中でため息をついた。領主直属の奴らには、本当に腹が立つ。大方、自分たちが先に仕掛けて、痛い思いをしたんだろう。腕を切り落とされたと聞いた時は、さすがにやり過ぎだと思ったが、いい気味だと思っている民衆も多いはずだ。だが、領主直々に捕縛命令が出ている。役目は果たさなければならない。

 

(捕まえて、適当に尋問して釈放するか・・・)

 

そう思っていたら、中から人が出てきた。背中に剣を背負った黒髪の男と、腰に剣を下げた金髪の美しい女であった。

 

 

 

 

宿から出たディアンとレイナは、槍を持った兵士たちに囲まれた。馬に乗った褐色の女が、ディアンたちを見下ろしている。ディアンはその貌に思わず見惚れた。警備隊長と聞いていたからゴツイ奴だと思っていたら、レイナに勝るとも劣らぬ美しい女だったのである。

 

(褐色の肌に銀色の髪・・・胸もレイナとほぼ同じか・・・耳の形から見て、ダークエルフか?いや、そのハーフか・・・)

 

他の兵士たちは鎧を着けているが、ワッケンバインはむしろ、自分の胸を誇示するかのように、胸元を晒していた。ワッケンバインはディアンの視線を感じ、眼を鋭くした。「男の視線はいつも同じだ」と思ったのだ。

 

『昨夜、警備隊の者を斬ったのはお前か!』

『あぁ、腕を一本貰った。先に手を出してきたのは向こうだがな・・・』

『そのような話は、取り調べの際にしてもらおう。大人しく縛につけっ!』

 

ワッケンバインはディアンに向かって、馬用の鞭を向けた。男の視線に虫唾が走ったのか、機嫌が悪くなっている。

 

(コッテリ絞ってやるっ!)

 

だがディアンは、ワッケンバインに向けて平然と言い放った。

 

『断る。先に手を出したのは向こうだ。警告したにもかかわらず、オレに殴りかかろうとした』

『・・・腕一本を切り落とした。やり過ぎだとは思わないか!』

『思わんな。むしろ優しいくらいだ。下半身を斬って女にしてやれば良かったと思っている・・・』

 

(何なのだ?この男は・・・)

 

ワッケンバインは歯ぎしりした。「バーニエの黒豹」と呼ばれ、男たち皆から怖れられる自分を前に、この男は先ほどから平然とし、自分の胸元ばかりを見ている。捕縛される心配など無いとでも思っているのか・・・

 

『縛につかないとなれば、手荒なことをすることになる。命は惜しくないのか!』

 

すると、目の前の男の気配が変わった・・・

 

 

 

 

オレは目の前のオンナを値踏みしていた。レイナと同じく、豊かな胸を持っている。顔もイイ。秀麗な顔立ちと鋭い目つきが逆にソソル。後ろから貫いて、この顔を悦楽で歪ませてみたいと思った。オレの視線に気づいたのか、オンナの声が鋭くなっている。こちらとしては正当防衛のつもりなのだが、そんなことは関係ないらしい。多少、腹が立ってきた。

 

『縛につかないとなれば、手荒なことをすることになる。命は惜しくないのか!』

 

そう言われたオレは、抑えていた殺気を解放した・・・

 

 

 

 

ディアンの気配が変わった。魔神の気配ではないが、そこには明らかな殺気があった。レイナは思わず止めるべきか迷った。ディアンの身を案じたのではない。ただ、ここで斬り合いをしたら、リタに迷惑が掛かる。

 

『・・・ディアン・・・』

 

レイナの小声に、ディアンは少し頷いた。ディアンもレイナの不安は理解している。任務不履行は、ディアンの望むところではなかった。

 

『命は惜しくないのか・・・それはオレの台詞だ。お前たち・・・その程度の人数で、オレを捕えられるとでも思っているのか?』

 

一変した男の気配に、ワッケンバインは思わず唾を飲んだ。兵士たちもジリジリと後退する。この殺気を受けても槍を構えたままなのは、ワッケンバインの調練の賜物であった。普通なら逃げ出している。

 

(これは・・・読み誤ったか・・・)

 

ワッケンバインが撤退を命じようとしたときに、様子見をしている民衆の中から声が掛かった。

 

『何をしておるのだ?早く捕えぬか・・・』

 

領主のムスカが、昨日の男たちを連れてそこにいた。

 

 

 

 

 

『グラティナよ・・・そなた何をしておるのだ。早くその男を捕まえぬか・・・』

 

脂ぎった中年の男、ムスカ・バーニエが、ワッケンバインの横に馬を進める。ワッケンバインは一礼して、後ろに下がった。

 

『領主様、コイツですっ!コイツが昨日、俺たちを斬りつけた奴ですっ!』

『何を言っているっ!貴様らが先に手を出したのではないかっ!』

 

レイナが睨み付けながら叫んだ。レイナの姿を見たムスカが、顎をさする。ディアンを見下ろしながら言う。

 

『その方、この者たちが私の直属警備隊であることを知りながら、斬りつけたそうだな?まして腕を切り落とすとは・・・そなたの腕だけで、済むと思うなよ?ほれ・・・早く捕えぬか・・・』

 

ムスカの指示で、兵士たちが槍を構える。ディアンはため息をついた。その様子を諦めと誤解したのか、ムスカが笑いながら言葉を続けた。

 

『両腕、両足を切り落として放り出してやろう・・・じゃが・・・そのオンナを差し出せば、許してやっても良いぞ?』

『・・・・・・』

 

グラティナが後ろで、舌打ちしたそうな顔をする。ディアンは表情を変えずに、ムスカに話し掛けた。

 

『バーニエ領主、ムスカ・バーニエ殿とお見受けする。オレの名はディアン・ケヒト・・・あなたにお尋ねしたいことがある』

『ほぉ、何だ?諦めてオンナを差し出すか?』

『バーニエ殿は、「領主」とはどのような存在だと思っておられるのか?』

 

その様子を見て、ワッケンバインは思った。

 

(この男、いまどういう状況か解っているのか?こんな時に問答など・・・)

 

ムスカが連れてきた兵を合わせ、既に三十名以上の兵士に囲まれている。だが目の前の男は顔色一つ変えずに、ムスカと向かい合っている。その豪胆さに、ワッケンバインの中でディアンの評価が変わり始めていた。

 

『ほっ・・・領主とは何かだと?決まっておろう、領主とは支配者だ。この土地も、領民も、みな私のものだ』

『なるほど・・・つまり支配者である自分は、領民に対しては何をしても良いと思っているのか?』

『そうだっ!私の命令を聞けない者は、領主に逆らう者、つまり罪人だ!お前も、私に逆らえば罪人だぞ!』

『お前たちも、みなそう思っているのか?』

 

ディアンは自分を取り囲む兵士や、様子を見る民衆に問いかけた。兵士も民衆たちも黙っている。

 

『お前たちはずっとこのまま、この男の言うがまま、されるがままで生きるのか?それを受け入れるのか!』

『黙れっ!何をしておるっ!早くこ奴を捕えろっ!いや、殺せっ!殺してしまえっ!!』

 

兵士たちが槍を構えながらディアンに近づく。だがその表情には戸惑いがあった。ディアンは極小の純粋魔法をムスカの乗る馬に放った。鼻先での爆発に驚いた馬が、棹立ちになる。ムスカは悲鳴を上げて馬から落ちた。だがそれ以上に、ディアンが魔法を使ったことに、兵士たちは驚いた様であった。ディアンが剣を抜いた。

 

『お前たちも思っているはずだ。こんな領主、こんな奴に従っていてよいのかとな。これまでも領主に散々な目に合されてきただろう!お前たち兵士も、オレを取り囲みながら思っているはずだ!こんな仕事は本当はしたくないとな!』

 

民衆たちが騒ぎ出す。しかし兵士たちは忠実であった。ワッケンバインが鍛えぬいた精兵たちである。ディアンは剣を振るった。自分を取り囲む槍の穂先が落ちていく。

 

『・・・退っていろ・・・』

 

ディアンの一睨みに、兵士たちが後ずさる。ムスカへの一本道が開かれた。

 

『お前たちに代わって、オレが状況を変えてやる・・・』

 

一人に向けて、明確な殺気が放たれた。ムスカは尻餅をついて、後ずさった。

 

『ひっ・・・た、助けて・・・おい、お前たち・・・私を助けろっ!』

 

ムスカは直属の護衛たちに命令をしたが、彼らは後ずさると、そのまま民衆の中に逃げていった。ムスカの前にディアンが立つ。ムスカが片手を上げて、ディアンを止めようとする。ディアンは剣を振るって、手首を斬り飛ばした。

 

『ひぎゃぁぁぁっ!!』

『これは、いままで虐げられた民衆たちの痛みだ・・・そしてこれは・・・』

 

ディアンが剣を振り上げ・・・

 

『・・・オレをここまで不快にさせたことの罰だ・・・』

 

振り下した・・・

 

キンッ

 

ムスカの首筋の直前で、ワッケンバインが剣で止めた。ムスカは泡を吹いて気絶した。

 

『・・・先ほどの魔術、槍先を斬り飛ばす剣術、そして皆を黙らせる口先・・・見事な手管だ。だが、私は騙されんぞっ!』

『・・・騙したつもりはないがな・・・』

『・・・フッ!』

 

ワッケンバインがディアンの剣を押し戻し、斬りつけようとする。紙一重でディアンが後ろに飛びのいた。ワッケンバインは口元に笑みを浮かべながら、剣を納めた。

 

『・・・腕を斬り飛ばされたと告発したものは、どこかに消えたようだ。領主の片手を斬り飛ばされたが、殺せと言ったのは領主のほうが先であった。正当な自己防衛であることは私が認めよう。だが、このままでは領主の命に関わる。この場はこれで、おさめてくれ・・・』

 

ワッケンバインがディアンに頭を下げた。ディアンは剣を納めた。ワッケンバインは頷くと、民衆に向かって叫んだ。

 

『バーニエ領主、ムスカ・バーニエは病のため、当分は領主が務まらぬ!街の警備は引き続き私が取るが、どのようにこの街を治めるか、街の有力者たちと話し合いをしてくれっ!』

 

民衆たちの中に、声が上がる。それは次第に大きくなり、やがて街全体に広がった・・・

 

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